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フルリモート演劇 「それでも笑えれば」 鑑賞レビュー 2020/12/29

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公演タイトル:「それでも笑えれば」
劇団:劇団ノーミーツ
場所:フルリモート
作・演出:小御門優一郎
出演:河邑ミク、めがね、相馬理、上谷圭吾、石山蓮華、オツハタ、藤井咲有里
公演期間:12/26〜12/30
個人評価:★★★★★☆☆☆☆☆


2020年4月の緊急事態宣言発令下で旗揚げされた、稽古から本番まで一度も会わずに全てzoomを使って舞台を行う劇団ノーミーツの第3回長編公演。第1回長編公演の「門外不出モラトリアム」、第2回長編公演の「むこうのくに」も鑑賞しており、今回もその流れで迷わず鑑賞。
今作は前作までとは一味違い、途中で視聴者に今後のストーリー展開を2択で選んでもらい、それに準じて毎公演結末が変わるというフルリモート演劇ならではの作品となっていた。
ストーリーは、女性漫才コンビ「へるめぇす」が2020年、新型コロナウイルスによる自粛要請によって活動の場を失ったが、年末に開催される「漫才グランドチャンプ」優勝を目指して己の葛藤と戦いながらお笑い活動を続けていくヒューマンドラマ。
結論を言ってしまうと、物語の脚本自体は漫才師の苦悩が凄く伝わる感動もので面白かったのだが、選択式のフルリモート演劇という観点では、正直言うと前作の「むこうのくに」ほどのワクワクや興奮はなかったかなという印象。
まず、劇中における選択式の箇所が全画面表示で鑑賞していると表示されないため、終盤まで気づかずに進行していたという点、これは非常に勿体なさを感じてしまって作品にその後集中出来なかった。それと選択肢が提示される時間も10秒と短くあまり余裕が持てないというのも難点、ここは是非とも改善して欲しいポイントだし、新しいことを実践する上でのマイナスポイントにもなってしまうと思う。
そういった意味で、今後のフルリモート演劇、オンライン演劇のあり方について深く考えさせられたという所感。

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【鑑賞動機】

劇団ノーミーツの作品は旗揚げ当初から鑑賞しており、特に前作の「むこうのくに」による映像技術の向上には驚くものがあったので、今作も迷わず鑑賞することに。期待値は前作の評判もあり高め。


【ストーリー・内容】(※ネタバレあり)

今作は視聴者による選択によりストーリーが各公演毎に変わってくるので、私が鑑賞した12/29の20時回のストーリーについて記載する。

女性漫才コンビ「へるめぇす」の小田島マキ(河邑ミク)と日高ルリコ(めがね)は、年末に開催される「漫才グランドチャンプ」を目指して漫才活動に力を注いでいた。出場できるのは今年がラストチャンス、気合が入っていた。
しかし2020年3月24日、新型コロナウイルスの感染拡大により、マネージャーの関根ダイスケ(オツハタ)からお笑い活動や芸能活動の一時停止を告げられる。そして、年末に開催されるはずの「漫才グランドチャンプ」の開催も危ぶまれることになった。
スケジュールも全てキャンセルとなって売れていなかった時代と変わらない状況に陥った「へるめぇす」の二人、ルリコはそんな状態に悲観している一方で、マキは非常に楽観的でテンション高めで過ごしていた。ルリコはそんなマキの心境に理解出来ないでいた。
ルリコには古賀コウヘイ(相馬理)という彼氏がいた。古賀は今までバンド活動をしていたが新型コロナウイルスによる自粛要請により活動を中止、社会人として就職することを決意する。
一方マキは、漫才活動が出来ない状況でも浮かれていて同窓会に参加。そこで彼女はYouTubeチャンネルを開設することを決意する。

関根がマネージャーをしている漫才コンビは複数あり、この活動自粛のタイミングでお笑い芸人を引退して社会人として就職する者もいた。「へるめぇす」と同期のお笑いコンビである「セッシー4C」の矢島ヒロト(上谷圭吾)と相原カオリ(石山蓮華)は、「へるめぇす」と対照的でずっとブレイクすらしていなかった。そんな状態でさらに新型コロナウイルスによる追い打ちがかかっていた。矢島はお笑い芸人仲間との飲み会で暴言を吐いてしまう。
2020年7月、「へるめぇす」はYouTubeチャンネルを開設してオンラインを活かした活動を続けていたがチャンネル登録数は伸び悩んでいた。ルリコはこんな状況が続くならYouTubeチャンネルは辞めたいし、コンビも解散したいと呟いていた。
そこへ関根から吉報が届く。なんと「漫才グランドチャンプ」は無事開催されることが決定したと。「へるめぇす」も「セッシー4C」も年末の漫才グランプリへの出場を決意し、その予選に参戦することになる。
「へるめぇす」の二人は猛特訓で漫才の稽古をする。
マキは地方にある実家で暮らす母親の小田島アケミ(藤井咲有里)と久しぶりにzoomで会話する。おしゃべり好きで笑わせることが好きなアケミだが、マキが活動している「へるめぇす」のことに関しては全然知らないらしい。しかし時々咳き込むアケミの様子を見て、マキは母親の体を心配していた。
一方ルリコは、就職してサラリーマンとして働くコウヘイの変わりっぷりを見ながら、コウヘイがどんどん遠い存在になってしまったことに苦しんでいく。

2020年10月8日、年末の「漫才グランドチャンプ」に向けた予選の結果発表の日。「セッシー4C」は今までメディアにはほとんど取り上げられてこなかったが、矢島と相原の外国人女性を思わせるコスプレに反響がありネットの記事にもなっていた。
予選の結果、「セッシー4C」は予選通過となったが「へるめぇす」は落選してしまった。
マキとルリコは「漫才グランドチャンプ」に出場出来ないことが分かり落胆していた。ルリコはもうここでコンビを解散しようと言う。しかし、マキはコンビを解散せず続けたいと主張する。コンビの解散は暗い状況で解散するもんじゃない。笑って終われる時に解散するものだと。そんなマキの主張によって、「へるめぇす」は解散せず続けることになる。

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マキの母親であるアケミは病気で入院していた。zoomで入院中のアケミと会話するマキ。マキは「漫才グランドチャンプ」に出場出来ないことを渋々報告すると、アケミは全て知っていたことを告げる。前回zoomで「へるめぇす」のことを知らない素振りをしていたが、実は全部嘘でしっかりマキの活動状況をチェックしていた。そして「セッシー4C」が予選通過したことも。アケミは、父親が家を出てしまって一人嘆き悲しんでいる最中、マキがテレビに出演しているお笑い芸人のモノマネをし始めて笑わせようとしてくれた時の話をし、そんなマキが人様を笑わせるようになってだけで誇らしいと言ってくれる。
一方、ルリコはコウヘイと会話していた。ルリコはこれから漫才続けようかどうしようかという迷いと、妊娠3ヶ月の赤ちゃんがいることを告げてそこに関しても迷っていると言った。コウヘイはルリコに婚約指輪を見せてプロポーズする。ルリコは驚き更に悩むがコウヘイのプロポーズを受け入れる。

年末の「漫才グランドチャンプ」には出場出来なかったが、「へるめぇす」はその裏で漫才ネタをやろうと決める。
漫才時に着る紫色のラメの入ったタキシードに着替えた二人は、「へるめぇす」として漫才をする。その時、ルリコがお腹に赤ちゃんを授かったこととコウヘイと結婚することをカミングアウトして、自分は漫才を引退することを伝える。そしてマキも、そのルリコの決意を受け入れて「へるめぇす」をこの場限りで解散することに同意する。そして、「へるめぇす」を解散してもお互い笑ってこれからも過ごそうと約束する。
2020年12月20日、いよいよ「漫才グランドチャンプ」が始まるというタイミングで、関根マネージャーの元のお笑い芸人はみんな番組開始に釘付けになっていたが、マキだけは一人大笑いしていた。

2021年、「セッシー4C」はお笑いコンビとして活動を続けており、マキもルリコもそれぞれ別々の道を歩んでいた。4月8日、偶然マキとルリコはばったり夜の公園で遭遇しお互いをにこやかに見つめ合っていた。ここでストーリー終了。

脚本としては非常に感動できる箇所、心揺さぶられる箇所が多かった気がする。特に、ルリコとコウヘイの二人の会話、マキとアケミの二人の会話は非常に見ていてほっこりした。凄く「火花」を思い出しながら鑑賞していた。売れない芸人の物語、同期であるが故に成功しているコンビの失敗を願ってしまったり、芸人を辞めて社会人として働き始める連中を逃げたと判断したり、凄く人間臭さを感じる点が「火花」そのものだし凄く良かった。
そして年末という時期とも非常に合っていて、M-1グランプリで世間で話題になった直後だし、コロナ禍に振り回された1年だったのでそんな2020年を振り返られるという意味で、テーマ選定は凄く良かったのではないかと思った。

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【世界観・演出】(※ネタバレあり)

とても素晴らしい演出箇所はあった反面、前作の「むこうのくに」の演出と比較したり、視聴者による物語進行の選択式の部分が全画面だと表示されないあたりでマイナス要素も大きかった印象。

まず素晴らしかった演出としては、中盤のマキとルリコが「漫才グランドチャンプ」出場に向けて必死で稽古を行っている曲ありセリフなしの数分間のシーン。あそこはカメラの使い方も非常に上手かったし、音楽も凄く合っていた。そしてなんと言ってもマキとルリコの画面越しで二人が一生懸命練習している姿が非常に絵になって良かった。自宅だから凄くリアリティが伝わってくる。
また、終盤のエンドロール以降の2021年4月8日に、マキとルリコが夜の公園で再会するシーンの演出が素晴らしい。夜なので照明の当て方とか凄く工夫されているのだと思う。あれだけ夜の野外シーンを綺麗に撮影出来る技術って凄いと思った。

エンディング曲の羊文学さんの「砂漠のきみへ」も良かった。このアーティストは初めて知ったが、非常に今作の世界観にも合っていたしあの甘ったるい曲調が、なんとなくお笑い芸人っぽさを表現している気がした。


さらに、オープニングの映像も素晴らしかった。全体的にオレンジ色の背景に対してキャストイメージ画像を黒で表示させる映像は凄くセンスあると思ったし、世界観にも合っていた。

一方で、ちょっとはまらなかったと思う演出は、物語序盤でマキとルリコがオンラインで漫才の稽古をしようと、画面を傾けて二人は立ち上がって練習しようとする箇所の演出。あそこは、慣れないオンラインで練習をすることへの難しさを表現するような演出だったんだと思うが、いまいちハマっていなかった印象。別になくても良かったかなあと。もう少し序盤はストーリーを盛り上げるような演出や見せ方を沢山してほしかった。

そして最も気になったのが、選択の画面が全画面にしてしまうと全く見えなくなってしまうという箇所。前説で全画面での視聴をおすすめしますと言っておきながら、選択式となる箇所は事前に告知されないので、いつその選択式が表示されるのか全く分からなかった。その結果、いくつか選択出来る箇所を見逃してしまった。今回の作品の一番の醍醐味なのにそのような結果になるリスクがあるのは非常に残念。
また選択出来る時間も10秒ほどしか猶予がなかったので、結構慌ただしいと思う。もっとじっくり選ぶ余裕は欲しいと感じた。
このあたりに関してはもっと改善して欲しいと思った。

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【キャスト・キャラクター】(※ネタバレあり)

半分ほど初めて演技を拝見するキャストが出演されていたが、総じて演技力が高かったと思う。今回も特に印象に残ったキャストをピックアップする。

まずは、「へるめぇす」の小田島マキを演じた河邑ミクさん。彼女の演技を拝見するのは初めて、私は知らなかったのだが関西出身のピン芸人でR-1グランプリで2度も決勝進出経験があるらしい。お笑い芸人をやっているという印象はたしかにあったが、そこまでの実力者だとは思っていなかった(失礼)。
彼女の演技はお笑い芸人だけあって、凄くエネルギッシュで笑っている姿を見ているだけでも元気になれる。例えるならピンポイントで恐縮だが、劇団4ドル50セントの堀口紗奈さんと系統は似た女優だと思っている。おそらく素の河邑さんとマキはそこまで乖離はないと思う。
印象に残っているのは、序盤と終盤に出てくる2020年12月20日の大笑いと、母親のアケミとの会話のシーン。アケミとの会話のシーンは本当に最高で、アケミ役の藤井咲有里さんが素晴らしいというのもあるのだが、母親にツッコミを入れる感じがあると思えば、母親の体調を心配したりするシーンがあって睦まじさを感じられるあたりが凄く好きだった。

次に小田島マキの相方の日高ルリコを演じためがねさん。彼女の演技は「むこうのくに」に続き2回目となる。Youtuber出身の彼女は「むこうのくに」で演技を拝見したときはDJといったような感じのはっちゃけた印象だったが、今作では漫才に熱心な真面目な女性を演じている。そして凄く女性らしい演技が前回の演技とのギャップが大きくて惚れてしまった。
特に印象に残るのは、コウヘイとのくだり。コウヘイに優しくされて女の子らしくなる辺りが凄く好き。あのシーンは見ているだけで凄く癒やされるし心動かされる。コウヘイがどんどん遠い存在になっていくときの虚ろな感じとか、迷い迷った状態でさらにプロポーズまでされた時の動揺具合とか、「むこうのくに」の時の印象からは想像出来なかった。
また、マキとの漫才やっている楽しそうな表情も印象的。フルリモート演劇は普段の演劇と違って、しっかりキャストの表情が見える点が凄く良い。

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次は初めて演技を拝見した古賀コウヘイ役の相馬理さん。彼はYoutuberやモデルなど多方面で活躍中。彼のあの優しさがとても温かく感じる。常に彼女のルリコを気遣う紳士さ、男である自分でさえも惚れ込むのだから女性からしたら堪らないんじゃなかろうか。女性ファンが増えそうな役柄である。
また、サラリーマンらしくぴしっと決めるあたりも好き。クライアントと電話しながら社会人として馴染んでいくあたりがしっかり垣間見れて、ルリコにとって遠い存在になっていくことにそれは落ち込むだろうし、そう思わせるような演技をしっかり出来ている相馬さんは素晴らしかったと思った。

そして脇役だが演技がキラリと光ったのが、矢島ヒロトを演じた上谷圭吾さん。彼の演技は第1回長編公演の「門外不出モラトリアム」で拝見している。でも今回の矢島というキャラクターは前回の公演で演じていたキャラクターとまるで違って、「火花」の神谷さん(浪岡一喜さん)に凄く近くて、酒に溺れて説教しちゃうような面倒くさい売れない芸人を演じていた。そこが凄く良かった。
本当に役作りをしっかりされているなという印象で、公演によってあそこまでキャラを変えられるって凄く尊敬する。

最後はこちらも脇役だが、小田島アケミを演じる藤井咲有里さん。彼女の田舎のお母ちゃんらしさが尋常じゃない。あの優しそうで穏やかそうな感じは物凄くキャラクター設定に合っていたと思う。
だから病気で入院してからのくだり、マキとアケミの会話なんて聞いているだけで涙が出てきてしまう。照れくさいから言わないだけで、実はしっかりマキを応援していた。それから父親が家出した時の子供の頃のマキのエピソード、聞いているだけで心がジワって温かくなる。そんな演技が出来るって素晴らしいと思う。

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【舞台の考察】(※ネタバレあり)

ここでは、これからのフルリモート演劇の展望について考察していく。

物語の選択の画面が全画面表示にしてしまうと気づかないという箇所はさておいて、たしかに観客が物語の方向性を決められて結論が変わるという発想は非常に面白いと思った。こういった要素をフルリモート演劇に取り入れた背景として個人的に思っているのは、ただ画面だけを観るという行為になると、ネット配信等で動画を観ている行為となんら変わらないからだと思っている。
今作のチケット料金は3000円と普段の生の舞台からしたら格安ではあるものの、NetflixやAmazon Primeで映画を観るよりは格段に高い料金設定となっている。ただ動画を鑑賞するという形になると価格の安いサブスクに流れていってしまうので差別化が必要である。
そうなった時に出されたアイデアが、今回の選択式というものなんじゃないかと思っている。

この観客が物語の進行を決定できるといういわば観客参加型のフルリモート演劇はたしかに発想として面白いのだが、ここで私は一つ疑問を感じた。果たして、こういったフルリモート演劇に対する特殊要素がサブスクと今作のチケット料金の差分ほどの価値があるのだろうかと。
勿論、最初はみんな面白そうだと思ってある程度の集客は見込めるかもしれない。しかし定着してくるとその目新しさというものも色あせてしまう。そうなった時にこのまま同じようにフルリモート演劇を行うという方針で良いのかという疑問が生じた。
実際に今作を鑑賞しているユーザー数は、前作の「むこうのくに」を鑑賞しているユーザー数よりも下がっている。

私はオンライン演劇もしくはフルリモート演劇は、現状のまま趣向錯誤を凝らしながら作品を作り続けていく形ではビジネスモデルを上手く保てないと思う。
このフルリモート演劇で培った技術を、どこか別の場所で転用していかないと未来はないと思っている。
それかもしくはチケット価格をもっと下げるという選択肢だろうか。
Netflixに代表されるサブスクの存在感は物凄く大きい。フルリモート演劇ないし配信演劇は、そういったサブスクと決定的に違う何かと面白さを持ってしないと淘汰されてしまう未来は容易に想像がついてしまう。
そこをしっかり差別化できるかどうかが、今後のオンライン演劇の鍵となるかもしれない。

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【写真引用元】

劇団ノーミーツ Twitter公式
https://twitter.com/gekidan_nomeets


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