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ミュージカル 「SPY×FAMILY」 観劇レビュー 2023/03/25


写真引用元:ミュージカル「SPY×FAMILY」 公式Twitter


公演タイトル:ミュージカル「SPY×FAMILY」
劇場:帝国劇場
劇団・企画:東宝
原作:遠藤達哉
脚本・作詞・演出:G2
作曲・編曲・音楽監督:かみむら周平
出演:森崎ウィン、佐々木美玲、井澤美遥、岡宮来夢、山口乃々華、木内健人、鈴木壮麻、朝夏まなと他(観劇回のキャストのみ記載)
公演期間:3/8〜3/29(東京)、4/11〜4/16(兵庫)、5/3〜5/21(福岡)
上演時間:約2時間55分(途中休憩20分)
作品キーワード:ミュージカル、2.5次元、スパイ・アクション、ホームドラマ、コメディ
個人満足度:★★★★★★☆☆☆☆


集英社が出版している、2022年に大ヒットした少年ジャンプ+連載の大人気漫画『SPY×FAMILY(スパイファミリー)』が東宝製作によってミュージカル化されるということで観劇。
私自身は、アニメとして第25話までU-NEXTで視聴済み、漫画原作は未読である。
2.5次元の舞台作品をあまり頻繁に観ることがないが、東宝が帝国劇場でアニメをミュージカル化するので、舞台作品としての完成度も非常に高いと考えて観劇することにした。

『SPY×FAMILY』は、ジャンルとしてはスパイアクションとホームドラマがかけ合わさったもの。
物語の舞台は世界各国が水面下で情報を集めていた東西冷戦時代。
東国<オスタニア>と西国<ウェスタリス>は現状は平和な日常が訪れていたが、東国の総裁ドノバン・デズモンドは危険人物と見なされていた。
西国の情報局対東課<WISE>に所属する凄腕のスパイであるコードネーム<黄昏>は、そのドノバン・デズモンドに接触する任務を命じられた。
その任務の名はオペレーション<梟(ストリクス)>、コードネーム<黄昏>はデズモンドが出席するとされる名門校の懇親会に偽装の家族を作って潜入して情報を集めるというミッションだった。
コードネーム<黄昏>は、さっそく精神科医ロイド・フォージャー(森崎ウィン)と名乗って孤児院から自分の子供として仕立てるアーニャ(井澤美遥)を連れてくるが...というもの。

今回のミュージカル化ではアニメ版の1クール目の途中プラスアルファが描かれるが、どこまで進むかはネタバレになるので冒頭では避けるとして、感想として個人的にはアニメ『SPY×FAMILY』の中でお気に入りのシーンを全てミュージカルで上演してくれたことに嬉しく思った。ミュージカルではあるのだけれど、『レ・ミゼラブル』や『ミス・サイゴン』のように楽曲を存分に楽しむミュージカルというよりは、ストーリー理解を重視したミュージカルに感じた。
あまりミュージカルに馴染みのない観客にも楽しんでもらえる配慮かもしれないが、特に前半はロイドたちによってストーリーが説明されるような感じで進んでいくので、内容を全く知らない観客でも楽しむことが出来る作品かなと感じた。
そして、その演出の仕方が今作の場合は効果的に感じていて、なぜならそれは今作は脚本が物凄く面白い作品なので、その魅力をしっかりとミュージカル版でも引き出している点に素晴らしさを感じた。

一方で、王道のミュージカル舞台(『レ・ミゼラブル』や『ミス・サイゴン』など)を知っている観客にとっては物足りなく感じるかもしれない。
良くも悪くも、歌で見せるシーンというのが少なくて、心を大きく揺さぶられて号泣させられるようなシーンはなかったし、楽曲もどれも耳に残るものはなかった印象。
逆にいえばミュージカルが苦手でも観れてしまう作品に仕上がっているのかなと思う。

あとは、アーニャ役を演じる井澤美遥さんの圧倒的な素晴らしさ。
まだ6歳だというのに、帝国劇場という大舞台でかなり重要な役を演じきっている素晴らしさ。
アニメ版だと声優が演じているのでキャラクターとして作られた印象があるが、ミュージカル版では年相応の役者が演じているので、子供らしいあどけなさとアーニャが持つ可愛らしさがミックスされて、アニメでは絶対お目にかかれないアーニャに出会えた気分。

ロイド役を演じる森崎ウィンさんのあの紳士的な感じ、クセがあまりなくて淡々と役をこなしていく器用さと存在感がとても好感が持てて好きだった。
あとは、朝夏まなとさんが演じたシルヴィアの存在感も好きで、朝夏さんは元タカラジェンヌというのもあって、彼女主体のパートもあって見応え十分だった。

『SPY×FAMILY』の原作、アニメ好きにはもちろん、ミュージカルが苦手でも楽しめる方の作品かなと思うのでおすすめしたいし、『SPY×FAMILY』のストーリーを知らなくても十分世界観を楽しめるので、多くの人におすすめしたいミュージカル作品。
こういった2.5次元舞台が増えて、日本の舞台界隈が益々盛り上がっていくことに、一観劇者としては期待したい。

写真引用元:ミュージカル「SPY×FAMILY」 公式Twitter


↓漫画『SPY×FAMILY』



【鑑賞動機】

アニメ版『SPY×FAMILY』を視聴して、スパイ・アクションものとして面白かったというのももちろんあるのだが、ホームドラマとして家族のあり方というのを非常に考えさせられるアニメだったので非常に好みの作品だった。それが東宝製作によってミュージカル化されると聞いたので、東宝が作る2.5次元舞台ってどんなものなのかという点が非常に興味深かったのと、そういったホームドラマものなので舞台との親和性も高いと思って観劇することにした。


【ストーリー・内容】(※ネタバレあり)

ストーリーに関しては、私が観劇して得た記憶なので、抜けや間違い等沢山あると思うがご容赦頂きたい。

世界各国が水面下で情報戦を繰り広げる東西冷戦時代、東国<オスタニア>と西国<ウェスタリス>は現状は戦も起こらず平和が訪れていたが、東国の総裁に就任したバン・デズモンドは西国にとって危険人物だと見なされ、彼に関する情報を集めようと西国の情報局対東課<WISE>は動き出す。
<WISE>に所属するシルヴィア・シャーウッド(朝夏まなと)は、オペレーション<梟(ストリクス)>というミッションの進行管理を務めることになる。オペレーション<梟>とは、ドノバン・デズモンドが出席するとされる名門イーデン校の懇親会に潜入して、デズモンドから秘密情報を聞き出すというミッションである。
シルヴィアは、このオペレーション<梟>の任務を、<WISE>に所属する凄腕のスパイ、コードネーム<黄昏(たそがれ)>に任せる。彼には、偽造の家族を構成してこのデズモンドが出席する懇親会に出席して欲しいと依頼する。コードネーム<黄昏>は、ただちに今付き合っていた女性と別れを申し出て、精神科医ロイド・フォージャー(森崎ウィン)を名乗ってオペレショーン<梟>の任務遂行に動く。

ロイドは、シルヴィアからの依頼に驚く。名門イーデン校に子供を入学させるためには、イーデン校の試験が7日後に迫っているので、あと7日で偽造家族の子供を作らなくてはならなかった。
ロイドは、まず住まいを確保する。住まいを契約する時に子供がいると記載し、大家に突っ込まれるが「これから作る」と返事する。ロイドは顔なじみのタバコ屋を営む情報屋、フランキー・フランクリン(木内健人)と相談しながら、孤児院へ行ってイーデン校入学に相応しい優秀な子供を探すことになる。ロイドは孤児院で見つけたピンク色の髪のアーニャ(井澤美遥)にクロスワードを解かせると、なんと全問正解でこの子であればイーデン校の入学も期待出来ると思い、アーニャを連れて帰る。
フランキーにアーニャのことについて調べてもらうと、どうやらアーニャは両親が誰なのか分かっておらず、分かることとしては直近の1年の動向だけで、2度も引き取り相手が見つかっては戻されを繰り返していた。そして、ロイドの期待には答えずアーニャは、その後はまるで優秀からはさほど遠い珍回答を繰り返してロイドを困らせる。
ロイドとアーニャが二人で外に出た時、ロイドの身元がバレていて敵に襲われてアーニャが誘拐されてしまう。ロイドは変装してなんとかアーニャを救出する。ロイドは、このままだとアーニャを危険な目に遭わせてしまうので孤児院に返そうとしたが、アーニャはロイドのことを「ちち」と呼んで離さなかった。そのため、ロイドもアーニャを孤児院には返さずに一緒に暮らすことにした。
とうとう名門イーデン校の入学筆記試験、そしてなんとアーニャは31点で合格ラインをギリギリで突破することが出来た。次は面接試験、しかし面接試験には父親と母親の二人が必要であり、ロイドは急いでアーニャの母親探しをすることになる。

市役所の休憩室、OLたちが社長の愚痴を呟いていた。そんな愚痴の中に唯一混ざりきれないOLヨル(佐々木美玲)がいた。ヨルは社長のためにお茶を入れようとしていたが、そこに鼻クソを入れちゃえばと他のOLたちはからかう。そして、OLたちは今度彼氏を連れてパーティをやるのだけれどヨルは来るかと誘われる。しかし、ヨルには彼氏はおらず相手にされなくて他のOLたちからは馬鹿にされていた。
ヨルは帰宅すると、弟のユーリ(岡宮来夢)と電話をする。ヨルは電話の話の流れでユーリに自分には彼氏がいると咄嗟の嘘を付いてしまう。驚いたユーリは、それを本当だと捉えて大事にしようとしていた。ヨルは慌ててユーリを安心させるために、そしてパーティに出席するためにも彼氏を作る決意をする。
一方、ロイドは妻になってくれそうなスパイ探しに苦戦していた。アーニャの服を仕立ててもらうために服屋に行くロイド、そこでロイドは同じく服を仕立ててもらうためにやってきたヨルと出会う。ヨルとロイドは一目惚れするが、ヨルはロイドには娘がいると分かったため、妻がいるから好きになってはダメだ、既婚者を好きになるとその妻からひどい仕打ちを受けるからと忘れようとした。
しかし、ヨルはロイドに「綺麗ですね」と話しかけられて、その話の流れでロイドの奥さんは2年前に他界していることを知る(もちろん、ロイドの嘘だが)。そこでロイドとヨルはお互い惹かれ合って、ヨルが今度パーティに出席する予定があって、そこで彼氏を連れて行かないといけないから、ロイドに一緒に来て欲しいと言い、ロイドは快く快諾する。

ヨルは、ロイドが任務で遅れるとのことで一人でパーティへ向かうことになる。他のOLたちからは、ヨルに結局彼氏はいないのではと陰口を叩かれる。ヨルはロイドが現れるのを待つ。
そこへ、遅れたロイドが「ヨルの夫のロイド・フォージャーです」と自己紹介して入ってくる。ヨルは、まだロイドと結婚しているつもりはなかったのでその言葉に驚く。ロイドも先走ってしまったという表情。他のOLたちは、ヨルにこんなイケメンの旦那さんがいたとはと驚く。そしてパーティは解散。
その帰り、敵がロイドとヨルを襲ってくる。そこでロイドはスパイとしての腕を見せると共に、ヨルもスパイとしての実力を発揮する。ロイドとヨルはここで正式に結婚することとなり、ヨルはロイドの妻になる。
ロイドは、自分の身の上をヨルに明かして、アーニャをなんとか名門イーデン校に合格させたく、その面接を控えていると言う。
それから、ロイドは妻のヨルと、娘のアーニャと、面接で落とされることがないように教養を深めることになる。オペラを観に行ったり(アーニャは寝ちゃうが)、美術館へ行ったり。美術館へ行ってもアーニャはゴヤの「裸のマハ」を見てすっぽんぽんとしか言わないし、ヨルは絵画に登場するギロチンを見て興奮する。
ロイドは、近くにいた老婆が泥棒からモノを盗まれそうになっているのを見て、慌ててそれを阻止する。その第一発見者はアーニャだった。その老婆からは、なんて素敵な家族なのかと褒められる。ロイドはその言葉を嬉しく思った。

ヨルの弟であるユーリ・ブライアは、実は東国国家保安局の少尉で、ドノバン・エドモンドに仕えていた。最近は西国が水面下で動きが見えるから注意するように言う。
東国の国家保安庁局に仕える部隊のダンスパフォーマンが行われる。

ここで幕間に入る。

写真引用元:ミュージカル「SPY×FAMILY」 公式Twitter


西国のシルヴィア・シャーウッドを中心に情報局対東課<WISE>たちのダンスパフォーマンスから始まる。
名門イーデン校の面接試験がいよいよ始まる。ヘンリー・ヘンダーソン校長(鈴木壮麻)は、面接でイーデン校にやってくる親子の様子を観察していた。すると、イーデン校にある銅像の前で敬礼をする親子を見つける。それは紛れもなくロイド、ヨル、アーニャのフォージャー一家。その銅像に敬礼する親子はなかなかお目にかかれないので、校長はロイドたちに一目置いた。
次に、ロイドたちは近くのどろんこに男の子がハマって助けを求めている姿を目にする。面接前にどろんこにハマってしまうなんて、男の子の方は当然不合格だろうが、それをロイドは助けようとするのか、もし助けようとしたら今着ている洋服を汚すことになって面接どころではなくなってしまう。ヘンリーは、ロイドがどんな態度を取るのかと興味津々だった。
ロイドは、どろんこで汚れるのを覚悟で男の子を助ける。そして、その後ロイドはスーツを着替える。こんな時のこともあろうかと着替えのスーツを用意していた。今までは青いちょっと田舎からやってきたようなスーツだったが、今はグリーンのおしゃれなスーツに着替えていた。
今度は、イーデン校の校庭を動物たちが走り回る事件が発生した。どうやら柵が壊れて飼育されていた家畜が脱走してしまったらしい。
ロイドたちの目の前に、巨大な牛がやってくる。牛は暴れている。それをヨルはスパイとしての腕によって仕留めてしまう。ヘンリーはその光景を見て驚く。ヨルも急いで殺してはいないと弁明する。

いよいよ、ロイド、ヨル、アーニャは面接試験を受けることになる。面接官は、ヘンリー校長を始め、他に3人の教員がいる。
最初は、アーニャは休日に何をしているかと質問されて、オペラを食べたり(?)美術館へ行ったりすると言う。その後のアーニャの回答にも非常にヒヤヒヤさせられるが、なんとか大問題にはならずに済む。そして、アーニャは両親に点数をつけるとしたら100点満点だと言う。
その後、面接官がしてくる質問に憤りを感じたロイドは、蚊がいたと嘘をついて机を真っ二つに粉砕した。

自宅に帰り、きっと面接試験は落ちてしまっただろうと落ち込むフォージャー家、フランキーはポジティブで試験も終わったことだし、今度アーニャを連れて城へ遊びに行こうと言う。
そして合格発表の日、予想通りアーニャの受験番号は張り出されておらず不合格だったと悟って帰ろうとするロイドたち。しかし、そこにヘンリー校長がやってきて、アーニャが補欠合格のトップであることを告げる。毎年入学辞退の学生は一人はいるものだから、電話がかかってくるのを準備して待っているように言われる。
そして、後日フォージャー家の電話に、アーニャの合格の連絡が届き、アーニャは無事名門イーデン校に入学することになる。

その頃、ヨルの妹であるユーリは、ヨルに彼氏が出来たと以前聞いていたので、その彼氏に会うためにフォージャー家を訪れることにした。
ユーリは、ロイド、ヨル、アーニャのいるフォージャー家にお邪魔する。ロイドはユーリの会話から、ユーリが東国の国家保安局の人間であることを悟る。ロイドが西国のスパイであることをユーリにばれないようにしないとと密かに細心の注意を払う。一方でユーリは、両親がいなかったがためにヨルが働いて稼いでくれたおかげで今の職業にありつけているので、そんなヨルには幸せになってもらいたいと思っている。しかしヨルは人を見る目がないので心配なので、果たしてロイドという男がヨルの夫になりうる男性として適切かを判断したいと思っていた。
ユーリは、既にロイドとヨルが結婚していることを聞いて驚く。どうしてそれを自分に言ってくれなかったのだと。この前の電話では彼氏と言っていたではないかと。そこをヨルは、結婚したということを言い忘れていたことを忘れていたと弁明する。ロイドは、そんな嘘まかり通らないだろと警戒するが、ユーリはあっさり認めてしまう。
ユーリ、ヨルはワインで泥酔する。そして、どうもロイドとヨルは夫婦であるにも関わらず距離感を感じると思い、自分の目の前でキスをして見せろという。ヨルは酔っ払った勢いでロイドにキスをしようと近づく。しかし、その光景にユーリの方が絶えられなくなって、キスを止めさせて二人が仲が良いことは分かったからと言って帰る。ロイドは、ユーリに自分の身元がバレなかったことに安堵する。

シルヴィアの元に、白髮のエージェントであるフィオナ・フロスト(山口乃々華)がやってくる。シルヴィアは、ロイドが最近家族のことに夢中で、しっかり任務を遂行しているか視察して欲しいと頼まれる。
フィオナは早速フォージャー家に尋ねてくる。フィオナとロイドは表向きは、食べ物の話をしているしヨルもそう判断していたが、エージェントの間ではしっかり任務をしているかどうかのやり取りでバチバチだった。フィオナはロイドのことが好きで、自分こそロイドの妻として偽装家族としてありたいようであった。

アーニャはお約束通り、<WISE>から経費を出してもらって、イーデン校の入学祝いということで、城を占拠してごっこ遊びをしていた。しかし、アーニャは敵兵がいないと言うので、敵兵たちも用意することにして盛大にやった。
その結果、ロイドはシルヴィアからとんでもない金額の費用がかかったと怒られてしまった。
キャストが全員登場して、ダンスパフォーマンスと歌を歌って上演は終了する。

主にアニメ版『SPY×FAMILY』の第1クールの前半のエピソードがミュージカル化された感じで、ストーリーが漫画と同じような順序で進んでいる訳ではなく、一部割愛されていたり、順序が変更になっている部分もあった。また、フィオナのシーンは自分はあまり記憶にないなと思いながら観劇していたら、どうやら漫画の第30話の内容、つまり2023年10月からテレビ放送される第2期の内容だったので、漫画には手を出していない自分はどうりで知らない訳だと感じた。
それでも、個人的に好みのエピソードを中心にミュージカル化されていたので、私としては非常に満足で、スパイファミリーをミュージカル化したらこうなるよねという展開だった。特に、今作はスパイアクションという要素だけでなく、ホームドラマとしての家族の温かさみたいな部分もしっかり描かれていて好きだった。ストーリーが進むごとに仮初めの家族が、徐々に家族としてしっかり機能し始めて、アーニャもロイドのことを「ちち」と呼んで離れない存在になっていったり、愛情が芽生えていく過程が違和感なく観られてよかった。
ただ、ストーリーとしてラストで完結する訳ではないので、そこが今後ロングランでもし再演とかしていくことになったら難しい課題だと思う。今回の上演という意味では重要であるけれど、数年後の再演となると難しい気がしていて、特に欧米など世界で上演する機会が仮に出来たとしても、ストーリーとして完結していないミュージカル作品は、上演出来ない気がするのが勿体ないと思った。

写真引用元:ミュージカル「SPY×FAMILY」 公式Twitter


【世界観・演出】(※ネタバレあり)

東西冷戦時代のヨーロッパといったレトロな西洋の建物を模した舞台装置と、ルパンや名探偵コナンに登場しそうな疾走感のあるテンポの音楽によるミュージカルがとても印象的でおしゃれで格好良い舞台美術として仕上がっていた。
舞台装置、映像、衣装、舞台照明、舞台音響、その他演出について見ていく。

まずは舞台装置から。
帝国劇場という大きな劇場の大きなステージに、上手と下手の両端に背の高い巨大なレトロな西洋の建物が立ち並び、その舞台装置たちはシーンによって移動して様々な場面に転換される。建物には階段が付いていて登れるようになっている。
また、面接試験のシーンでは、ステージ中央にロイドたちが敬礼した銅像が登場して、その巨大な佇まいとインパクトが印象に残る。そのシーンでのステージ後方にはイーデン校の校舎と思われる巨大なパネルも登場する。
実際の面接シーンでは、ステージ中央にソファーが登場して、そのソファーが回転しながら面接が行われる手の混んだ演出だった。出演している役者たちは大変そうだと感じた。
フォージャー家の自宅のシーンでは、ステージ後方にキッチンと西洋風の落ち着いた感じのリビングの壁(アニメに登場する感じと似た雰囲気)とそこに家族の写真が掛けられているセットが登場した。かなりアニメに忠実に再現されている印象を受けて、個人的には大満足だった。
終盤のシーンでは、中央に宝塚舞台のような感じで大階段が登場して、城の中を再現していた。『SPY×FAMILY』という2.5次元舞台を見ているはずなのに、どこか宝塚のような西洋古典劇の雰囲気に触れている感じもある。
その他、大道具とまではいかない舞台装置の仕掛けも沢山あった。天井から合格した受験番号が記載される張り紙が吊り下げられたり、序盤と終盤に登場する「SPY×FAMILY」という白く光り輝く看板もインパクトがあった。

次に、映像について。
そこまで多用されているという印象は受けなかったが、多少なりとも映像による演出も見受けられた。まず序盤の、時代設定と背景を説明するあたり、東西冷戦時代とか東国<オスタニア>、西国<ウェスタリス>、<WISE>の説明は文字として映像を使いながらの説明だったので、どこかアニメ的ではあるものの今作の演出の仕方としては適切だったと思う。それと自動車が爆破する映像を流す感じもインパクトがあって印象に残る。
あとは、フィオナが登場する劇終盤で、実際に言葉でフィオナとロイドが言い交わす内容と、秘密裏にやり取りしている内容が映像で文字を使って表現されているのは面白かった。これは映像を使わないと表現できないと感じた。「好き〜♡」が強烈だった。
また、動物が脱走した光景を描写するのにも映像が使われていて、ちょっと面白かった。そこからのステージ上にきぐるみの大きな牛が登場したインパクトが大きかった。

次に衣装について。
衣装は基本的にはアニメ版にかなり忠実な衣装といった感じで、何かが違っているとかはなかった。
個人的には、ロイドのスーツがとても格好良かった。特に面接試験のシーンで、どろんこの男の子を助けて紺色のスーツを汚してしまう(そのスーツも格好良い)のだが、そこから着替えてダークグリーンのスーツに着替えてからの格好良さは最高だった。着替えるという行為が明示的に劇中に登場するからこそ、このシーンでは衣装に特に注目がいく。その時のスーツが『SPY×FAMILY』を代表するグリーンだからこそ、凄く映える感じがあってとても好きだった。
アーニャの衣装、というかコスプレは文句なしに可愛かった。

次に舞台照明について。
舞台照明は、柿喰う客などの小劇場の照明も手掛けている松本デザイン室の松本大介さんが担当されていて、それだけでも小劇場演劇好きとして嬉しく感じた。
サスペンス要素の強いシーンや夜のシーンではダークな紫色の照明、それから個人的に好きだったのは、ロイド、ヨル、アーニャの3人の家族が、老婆が泥棒からモノを盗まれそうになって助けたシーンで、良い家族だと褒められたシーンの照明。非常に日差しが差し込んでいるかのように眩しく明るい照明が、家族の優しさを象徴しているようで好きだった。
あとは、美術館へ行ったときにヨルがギロチンの絵画を見て興奮したシーンで、ギロチンの部分だけ四角く照明が当たっていたのも印象に残った。

次に舞台音響について。
ミュージカルという点では、先述した通り歌にフォーカスした舞台というよりはストーリーをしっかり見せるという点にフォーカスした舞台だったので、あまり歌に関して強く印象に残ったパートはなかった。第一幕の前半はルパンや名探偵コナンといったサスペンス・アクションに流れるような疾走感のあるテンポの楽曲に、歌が合わせられていて、その歌詞によって説明されるかのように物語が進行する。そんな感じなので、歌声によって感動した、涙を誘われたみたいなシーンはなかった。劇中で楽曲が終わって拍手喝采という部分も、全くない訳ではないが少なくて、拍手も普段のミュージカルよりはまばらだった印象。だからこそ、ミュージカルに苦手意識があっても楽しめる舞台なのではないかと思う。
ただ、終盤に関しては皆で歌って踊ってのシーンなので、唯一そこだけはミュージカルらしさがあった。あとは、第一幕の終盤の東国<オスタニア>の国家保安局の部隊のミュージカルシーンや、朝夏まなとさん演じるシルヴィアを中心とした西国<ウェスタリス>のミュージカルシーンは格好良かった。
帝国劇場で上演されるミュージカルらしく、ステージの手前側にはオーケストラがスタンバっていて、奏者たちが終始演奏していて贅沢なミュージカル体験を堪能出来た。
その他は、銃声やガラスが割れる音など効果音が多用されていた印象。

その他演出について。
一番印象に残った演出は、巨大なきぐるみの牛がステージ上に登場して駆け回っていたこと。中に複数人の人間が入っていたと思われる大きさで、その存在感に圧倒された。そして最後は、ヨルがその牛を鎮めたこと。ああいった演出は、普段舞台を見慣れていない人でも十分に楽しめる演出だと思うし、わかりやすいので子供でも楽しめるので良いのではないかと思う。
アニメ版との違いという点でいくと、ユーリの登場シーンはヨルが夜に弟と電話するシーンになるが、アニメだと声だけ登場して後々正体がバレるという展開だが、ミュージカルでは電話のタイミングでユーリが登場していたので受ける印象が違った。
あとは、一瞬だけ夜のモブが登場するシーンがあった。ヨルが二人ステージ上に登場することになるのだが、どうやらもうひとりは依里さんという役者が演じられていたのだそう、瓜二つでびっくりした。
全体的に殺陣が得意である役者が出演している訳ではないので、アクションシーンに迫力はそこまで感じられなかった。というか、演出的に意図的にそこをしっかり見せようとしていない構成だった。

写真引用元:ミュージカル「SPY×FAMILY」 公式Twitter


【キャスト・キャラクター】(※ネタバレあり)

ミュージカル俳優、アイドル、2.5次元俳優など幅広いキャスティングでのミュージカル公演ということで、非常に素晴らしい演技を見させて頂き感謝だった。
ここでは、特に印象に残った役者、キャラクターについて見ていく。

まずは、ロイド・フォージャー役を演じた森崎ウィンさん。今作では鈴木拡樹さんとのWキャストだが、私が観劇した回は森崎さんがロイド役を演じていた。森崎さんの演技を拝見すること自体初めて。
私的には今作で主人公が一番のMVP俳優だった。森崎さんが演じるロイドには、クセというのが全くなくて、紳士的で軽やかな演技をされる方だなと感じた。凄くミュージカル慣れをしているなという印象を感じて、安心して観ることが出来た。
非常に軽やかでクセがないけれども、印象が薄いことは全くなくて、常にその紳士的な演技に釘付けになってしまう。そして、金髪の髪型とグリーンのスーツのなんとも似合うこと。私自身も惚れ惚れする役者だと感じたので、女性ファンの方は大興奮なのではなかろうか。
ロイドというキャラクター的に、様々なミッションを器用にこなすエージェントという役目なので、演技にも何かボロがあってはならないというプレッシャーにもなる役だと思う。そこをしっかりと完璧に熟してくる森崎さんは素晴らしいと感じた。
家族を支えていくんだ、アーニャやヨルが何かボロをだしたら、自分がカバーするんだという覚悟も凄く演技から感じられて、頼もしい役で素敵だった。

次に、アーニャ役を演じた井澤美遥さん。井澤さんは、子役オーディションで合格した4人のキャストの中のうちの一人。
まず6歳という若さで、こんな帝国劇場という大舞台で大役を演じてしまう素晴らしさに脱帽する。アニメ版のアーニャも大変可愛らしかったが、ミュージカルという生身の人間、しかも子供がアーニャを演じるとなると、ますますアーニャというキャラクター自体にリアリティを感じて好きになってしまう。
上手く台詞が言えてない感じもアーニャらしいし、体の動きとかも子供がやると凄く説得力が出てきてますます好きになれる、そんなことを感じた。

次に、ヨル・フォージャー役を演じた、日向坂46の佐々木美玲さん。私自身、日向坂46には疎くて申し訳ないが、今作を観劇して初めてお名前を知った。
ヨルのキャラクターとして、武力を出すと強いが、普段はおっちょこちょいなのもあって、そして物静かでワタワタしている感じのある設定だが、そんな印象にピタリとハマった演技で素晴らしかった。
個人的には、もう少しヨルの見せ場を設けて欲しかったかなと言う印象。印象に残るのは、面接試験に向かう時に牛を退治したシーンくらいで、あとはロイドが目立っていてちょっと存在感が薄かったのが勿体なく感じた。これは役者が悪いのではなく、今作の構成の部分もあると思うが、ヨルが好きな私にとってはそう感じた。

あとは、シルヴィア・シャーウッド役を演じた朝夏まなとさんも素晴らしかった。
朝夏さんは元タカラジェンヌというのもあって、その歌声とオーラがやっぱり強烈で、そういった意味で赤い長い髪のメガネをかけた強烈なシルヴィアははまり役だった。そして、彼女のソロパートもしっかりと用意されていたのも、朝夏さんのパートをしっかり設けたからという側面があるだろう。朝夏さんに合わせた構成になっていると捉えた。

ユーリ役を演じた岡宮来夢さんも、コミカルパートの多くを彼が持っていったので会場が盛り上がってよかった(ここは2.5次元好きにはかなりウケるコメディパートの要素だったので流石だった)のと、フランキー・フランクリン役を演じた木内健人さんも、かなりアニメに忠実で面白く明るいキャラクターだったので、好きになれた。

写真引用元:ミュージカル「SPY×FAMILY」 公式Twitter


【舞台の考察】(※ネタバレあり)

私はそこまでアニメは多く見ない人間だが、『SPY×FAMILY』だけは世間でも大人気だった上、色々な人に勧められたので2クール分の第25話まで見ていた。漫画は読んでいなかったので、フィオナとロイドのシーンはミュージカルで初見となったが、それ以外のシーンは知っているものが多かった上に、結構お気に入りのエピソードが含まれていたので楽しめた。
ここでは、『SPY×FAMILY』の原作の魅力と、ミュージカル化にあたって思ったことをつらつらと書く。

私が思う『SPY×FAMILY』の魅力というのは、今の御時世家族というものが何かと壊れかけている時代でもあって、結婚する人も年々減っているし、家族を作ることが普通のことではなくなっている時代において、今作の脚本は色々と考えさせられるなと思う。
ロイド、ヨル、アーニャで構成される仮初めの家族は、誰も血が繋がっていなくて、むしろオペレーション<梟(ストリクス)>を遂行するために作られた偽家族である。ぶっちゃけ、ロイドは優秀な子供が欲しかったため、別にアーニャである必要もなかった。たまたま孤児院で見つけた子供が、クロスワードを全問正解で解いたからアーニャに決めただけであった。
アーニャが敵に誘拐されてヒヤっとしたときも、ロイドはアーニャを孤児院へ連れ戻そうかと思ったほどだ。そのくらいロイドは当初はアーニャに思い入れがある理由でもなく、ただただオペレーション<梟>を成功させたいがためだった。

しかし、ロイドはアーニャと共に暮らしているうちに、次第にアーニャがなつき始めてロイドのそばを離れなくなる。そしていつしかそこには親子の愛情が芽生える。ヨルも加わって、近くにいた老婆からは良い家族だと称賛されるまでになるのである。
血縁関係があっても愛情のない家族は沢山存在する。しかし、フォージャー一家には血は繋がっていなくても愛情を感じさせてくれる一面が沢山垣間見られる。家族というのは、決して血が繋がっているかが重要なのではなくて、そこに愛情があるかが大事なのではないかを示してくれる。
日本ではなかなか進んでいないが、同性婚や夫婦別姓などという言葉も昨今では見受けられる。男性と女性でないと夫婦と認めない、名字が同じでないと夫婦と認めない、まだまだ今の日本にはそんな認識が存在する。しかし、『SPY×FAMILY』を見れば、家族で一番大事なことはそこに愛情が存在するかどうかだと教えてくれているように感じる。

こんなハートフルなアニメがミュージカルになるというのは、題材として私は素晴らしいことだと感じた。今は様々なアニメが舞台化される世の中だが、舞台というのはやはり物語に惹かれたい、心動かされたいというポイントが大事である。『SPY×FAMILY』はそんなポイントをしっかりと含んでいるし、今作の演出ではその家族の愛情という部分をしっかりと描いてくれていたので、個人的には非常に満足だった。

写真引用元:ミュージカル「SPY×FAMILY」 公式Twitter

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