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舞台 「フリーダ・カーロ -折れた支柱-」 観劇レビュー 2022/07/02

【写真引用元】
劇団TipTap Twitterアカウント
https://twitter.com/gekidan_TipTap/status/1502479507466321926/photo/1

【写真引用元】
劇団TipTap Twitterアカウント
https://twitter.com/gekidan_TipTap/status/1502479507466321926/photo/2


公演タイトル:「フリーダ・カーロ -折れた支柱-」
劇場:東京芸術劇場 シアターウエスト
劇団・企画:劇団TipTap
作・演出:上田一豪
作曲:小澤時史
出演:彩吹真央、今井清隆、石川禅、遠山裕介、田村良太、綿引さやか、MARIA-E、鎌田誠樹、飯野めぐみ、田中なずな
公演期間:6/30〜7/3(東京)
上演時間:約110分
作品キーワード:ミュージカル、ノンフィクション、ラブストーリー、世界史、舞台美術
個人満足度:★★★★★★☆☆☆☆



上田一豪さんが作演出を務めるミュージカル劇団「TipTap」の公演を観劇。劇団TipTapのミュージカル作品は昨年(2021年)12月に上演された「20年後のあなたに会いたくて」以来2度目の観劇となる。
今作「フリーダ・カーロ -折れた支柱-」は、2019年に当劇団で初演されたオリジナルミュージカルであり大盛況だったため、3年ぶりの2022年に再演されることになった。

物語は、20世紀のメキシコを代表する女流画家フリーダ・カーロの半生をミュージカル仕立てに描いていたもの。
フリーダ・カーロ(彩吹真央)は学生時代に出会った憧れの画家ディエゴ・リベラ(今井清隆)と結婚するも恋多き女性で、アレハンドロ(田村良太)と付き合ったり、アメリカ人と日本人のハーフの彫刻家イサム・ノグチ(遠山裕介)と浮気したり。
そして6歳の頃に右足が不自由になった上に、バスの衝突事故などによってどんどん身体がボロボロになっていき、その苦痛とも闘いながら画家としての人生を真っ当する、痛々しくも情熱的な女性の人生。

メキシコの画家というだけあって、音楽が全般的にラテンポップスといった感じのアップテンポの音楽が多く、そんな激しく熱い音楽がかかる中でミュージカルとして演者たちが巧みに歌を歌いながら演じる姿がなんとも魅力的だった。
東京芸術劇場シアターウエストという大劇場とまではいかないキャパシティで、東宝ミュージカルのような圧倒されるような歌と音楽ではなく、静かなシーンと盛り上がるシーンの緩急のある作風が劇団TipTapならではといったところ。

舞台装置も非常に可愛らしく見応えがあった。
木造で無造作に組まれた高台のような建物が、メキシコの民族を想起させるデザインになっていて素敵だったのと、度々フリーダ・カーロの描いた絵画が登場するのもミュージカル作品としては珍しい芸術性に富んだ舞台作品に仕上がっていて好きだった。

フリーダ・カーロという画家は名前しか聞いたことがなかったけれど、それでも十分楽しめるミュージカル作品。多くの方にオススメしたい。

【写真引用元】
ステージナタリー
https://natalie.mu/stage/gallery/news/483843/1851061


【鑑賞動機】

昨年(2021年)12月に観劇した劇団TipTapのオリジナルミュージカル「20年後のあなたに会いたくて」が、東宝ミュージカルとは一味違うピアノ音楽だけの静かで包み込むような優しさのあるミュージカルで目新しかったので、この劇団の公演は定期的に観に行きたいと思った。
今作は、劇団TipTapの代表作の再演なので、素晴らしいミュージカル作品であること間違いなしだと思い観劇した。
メキシコの画家である「フリーダ・カーロ」を題材とした作品というのも興味を唆られたし、ミュージカル俳優でおなじみの今井清隆さんなどが出演されると聞いて期待値は高まった。


【ストーリー・内容】(※ネタバレあり)

老いたフリーダ・カーロ(彩吹真央)はベッドで永眠していた。そばには、レフ・トロツキー(石川禅)がいて彼女は、まるで2日前に亡くなったとは思えないくらい生き生きとしていると告げる。

そこからフリーダ・カーロの人生の物語が始まる。フリーダ・カーロと彼女をずっと見守る赤いドレスを着た女性(MARIA-E)がいる。
フリーダ・カーロは6歳の時に小児麻痺にかかって右足が不自由になる(が、そこを窓から飛び降りて足が自由に動かなくなるのように劇中ではカーロは語っていた気がする)。
学生時代のフリーダ・カーロにとって憧れの存在だった、メキシコで有名な画家であるディエゴ・リベラ(今井清隆)は雲の上の存在で、一度お目にかかる機会はあったものの声なんてかけられなかった。
フリーダ・カーロは初めて好きになった男性と付き合うことになる。その男性はアレハンドロ・ゴメス・アリス(田村良太)。アレハンドロとカーロは幸せそうなカップルだったが、1925年9月17日に起きたバスの事故によって状況は一変してしまう。
アレハンドロとカーロが乗ったバスが大事故を起こして、カーロは瀕死の重体となってしばらく病院で寝たきりとなる。小児麻痺による右足の障害もこの事故によって悪化してしまう。
この事故のせいで、カーロは自由にアレハンドロと遊ぶことは出来なくなってしまい、カーロはその代わり自画像を描き始めてアレハンドロへ贈る。
しかしアレハンドロはそれでは満足せず、アレハンドロは別の女性と付き合いだして別れることになる。

カーロは退院するも、右足には大きな後遺症が残った状態となる。孤独となったカーロは絵画制作に没頭し腕を上げていく。
フリーダ・カーロはメキシコ共産党へ入党する。そこでカーロは再びディエゴ・リベラと再会することになる。カーロは自身で描いた絵画をディエゴに見せることによって高く評価され、そこからカーロとディエゴは仲良くなっていき、いつしかそれは恋愛関係に発展する。そして1929年8月に2人は結婚する。
その頃、カーロの右足は再び痛みだし手術をうけることになる。その手術には、ディエゴと妹のクリスティナ(綿引さやか)が立ち会っていた。

カーロはディエゴとの愛の証に子供を授かりたいと強く願った。周囲からはあのバスの事故によって身体に大きな損傷がある中での出産は難しいと言われ、ディエゴからも自分には子供が沢山いることから子供づくりに消極的であったが、カーロは聞き入れずディエゴとの子供を授かった。
しかし、カーロはバスの事故によって子宮や骨盤に大きな損傷があったため流産してしまう。

ディエゴとカーロは、一流の画家を目指すためにアメリカに渡っていた。しかし、カーロの母親の死去によってメキシコへ帰国せざるを得なくなっていた。
その後カーロは右足の痛みで数回にも渡る手術のために入退院を繰り返していた。それでもカーロはディエゴとの子供が欲しいと妊娠をしてしまうも、結局出産出来る体でないために中絶をしてさらに身体に負担をかけていた。
ディエゴはカーロの妹のクリスティナと恋仲になってしまい浮気する。カーロはその事実を知ってそのショックからディエゴと別居し始め、メキシコシティのアパートに引っ越す。
クリスティナは必死に弁明しようとしたがカーロは聞き入れてくれなかった。

カーロは夫が妹と浮気した腹いせに、アメリカ人と日本人のハーフである彫刻家のイサム・ノグチ(遠山裕介)と出会い関係を持つ。
さらに、その時ソビエト連邦を統治していたスターリンが死去したことによって、ソ連から国外追放された革命家のレフ・トロツキー(石川禅)をカーロは迎えた。そしてカーロとトロツキーはここでも男女の深い関係を持つことになる。
カーロもトロツキーもこの時にはすでに歳をとっていて且つパートナーがいたので、パートナーには内密の禁断の恋だった。

カーロはパリに渡って美術館へ自分の絵画を出展することが決まる。そこでカーロはピカソやカンディンスキー、ミロといった著名な画家と親交を結んだ。
メキシコに戻ると、カーロはディエゴと離婚し、実家でひっそりと暮らすようになる。
カーロは画家としては成功したものの、彼女の身体はボロボロであり右足は切断。その激痛と闘う毎日でいつも周囲に八つ当たりして機嫌の悪い毎日だった。
そんな中、カーロは「折れた支柱」という絵画を完成させる。まるで自分の身体は折れた支柱のようで、そんな自分の身体について表現した絵画だった。
カーロは初めて自国メキシコで個展を開くことになった。

カーロは実家で晩年を過ごし、亡くなる直前まで「人生万歳」という絵画を描き続けた。カーロは死ぬ時白いドレスに着替えて、雄々しく死んでいった。カーロは47という短い生涯だったが、情熱的で強く逞しく生を全うした。ここで物語は終了。

フリーダ・カーロというメキシコの女流画家がいたことは聞いたことがあったが、こんなにも多くの男性と恋仲になって、尚且ずっと身体が不自由で手術を繰り返していた女性だったとは知らなかった。なんとも情熱的な生き様、人一倍人を好きになり愛してやまない女性であったが、それを身体の不自由さが邪魔してきて痛々しく感じてしまう。
そんな苦しくも痛々しい経験をし続けてきたからこそ、世界的に評価される画家になれたのかなと思う。
ミュージカル仕立てでフリーダ・カーロの人生を描くとなると、どうしても歌と音楽よりもナレーションに意識がいってしまってストーリーを追うことに必死になってしまったので、この類は映画化した方が作品として没入しやすい感じもした。
ただ、そのフリーダ・カーロという女性の生き様をラテンポップでハイテンポに情熱的に歌い上げることによって熱量が伝わってくる部分もあったので、その点に関してはストーリーの理解を助けてくれた気がする。

【写真引用元】
ステージナタリー
https://natalie.mu/stage/gallery/news/483843/1851062


【世界観・演出】(※ネタバレあり)

「20年後のあなたに会いたくて」と比較すると、舞台装置は可愛らしく少し似た印象があって、音楽は全く異なってラテンポップでハイテンポで情熱的なメキシコ音楽という感じだった。
舞台装置、衣装、照明、音響、その他演出の順番で見ていく。

まずは舞台装置から。
下手、そして舞台中央奥、上手には木造で出来たまるでヒッピーのような民族の住処のような剥き出しの高台がセットされていた。まるでジャングルジムのように役者たちはその木造で出来た高台に自由に登ることが出来る。その木造の高台の影になっているあたりに、奏者の小澤時史さん、大里健伍さん、井上貴信さんがいらっしゃった。
また舞台中央には大きなベッドが用意されていて、そこにはフリーダ・カーロ自身が眠っていることが多かった。
全体的に凄くミニチュアのような可愛らしさのある舞台セットで、そのデザインに関しては劇団TipTapらしさを感じられた。劇団TipTapの舞台装置は、舞台装置の飾り物が多くてゴチャゴチャとした感じがある。でもそのゴチャゴチャが、全部可愛らしいので凄く贅沢で豪華な印象を与える。そういった特徴が劇団TipTapの舞台セットの素晴らしさだと思う。
そしてなんといっても今作で一番特徴的な大道具は、フリーダ・カーロの描いた絵画のレプリカ。私が記憶しているだけで4作品は登場している。そしてどの絵画も非常に大きい。私が記憶しているのは、「ヴェルベットのドレスを着た自画像」、「フリーダとディエゴ・リベラ」、「二人のフリーダ」、「人生万歳」の4つ。中でも「人生万歳」は、絵画の中央下に描かれているスイカに「VIVA LA VIDA」と彫られている部分が背後にデカデカと幕として登場していて迫力があった。フリーダ・カーロが47年という生涯を力強く生きた証がそこに体現されているかのような演出だった。

次に衣装。
想像していた通り衣装も非常に豪華であった。その中でも個人的に好みだった衣装をピックアップする。
まずは、フリーダ・カーロ自身の衣装。特に最後のシーンで白いドレスのような衣装が非常に似合っていた。白装束のような死に際を表す白なのだろうけれど、その白は人生を全うしてきたという力強さと迫力を感じる。とてもこれから死んでいく人には見えないくらい立派だった点が素敵だった。
あとは、MARIA-Eさんの黒と赤いドレス衣装が好きだった。本当に彼女のドレスはメキシコ音楽のラテンポップと非常にマッチしている。MARIA-Eさんはおそらく黒人とのハーフだと思われるが。非常に彼女を際立たせている衣装で魅力的に感じた。

次に舞台照明。
舞台照明は、印象に残った演出が2パターン。
一つ目は、歌と音楽とダンスによるシーンで全体的に黄色とオレンジの照明で照らされていた情熱的で盛り上がるシーンの照明。非常に観ていて高揚感を得た。
二つ目は、特に終盤で多かったかもしれないが、カーロがずっとベッドで横になっていて、ディエゴやトロツキーといった年配の男性たちが優しく彼女に話しかけている時のあの静寂のシーンの薄暗いブルーの照明。一つ目であげた照明では緩急のうちの急のシーンに該当すると思うが、こちらは緩急のうちの緩に該当する。音楽や歌がなく静かに台詞だけが発せられるストプレなシーンが多いが、フリーダ・カーロが独唱するシーンもあったと記憶している。なんとも優雅なシーンだっただろうか、素敵だった。あの薄暗い感じの照明がその印象を上手く引き出していた。
あとは、天井から吊り下げられていた小さな豆電球たちもキラキラと可愛らしく美しかった。劇団TipTapの色を感じさせられた。

次に舞台音響・音楽。
緩急のあるミュージカル作品だったので、ラテンポップスのハイテンポでメキシコ感満載の音楽もあれば、静かなバラードもあったといった感じ。
ラテンポップスの音楽は、カーロとその恋仲の男性(例えばアレハンドロやディエゴ、イサム)とダンスをしたりと陽気なシーンに仕立てられていて非常に高揚感を掻き立てられる演出だった。そこに、フリーダ・カーロ役を演じる彩吹真央さんの歌声や、MARIA-Eさんの歌声が相まって非常に心揺さぶられた。全て生演奏で、弦楽器の演奏なども迫力があって非常に情熱的な濃ゆい舞台演出だった。
一方、ピアノによる静かなバラードシーンも非常に美しく心を揺さぶられた。その静寂さはフリーダ・カーロの身体の苦痛や人生の悲愴を物語っているように感じられる。そんな静かな音楽の中響き渡る彩吹真央さんの透き通るような歌声にうっとりされた。

最後にその他の演出で魅力的に感じた点を記載していく。
まず今作はミュージカルであるにも関わらず、歌が終わったあとに拍手が一切起こらなかった。たしか「20年後のあなたに会いたくて」でもそうだったと記憶しているが。観客である私にとっては、歌が終わったタイミングで拍手をしたい気分でいっぱいだったが、そんな時間はなく次のシーンへと進んでいった。この形式は非常に独特で個人的には拍手をして客席からももっと盛り上げたかったなと感じた。この形式はこの形式でありなのかもしれないけれど。
中盤、カーロとディエゴが結婚したシーンで、二人が実際にキスをしているようにみえた。客席が遠かったので定かではないが、実際にキスをしているようにみえた。生の舞台であそこまで愛を演技出来るなんて、彩吹さんにしろ今井さんにしろ素晴らしい。
あとはフリーダ・カーロの生きた時代が20世紀前半なので、太平洋戦争やロシア革命などが登場して、世界史好きにも非常に楽しめる内容になっていたのはオススメポイントかもしれない。もちろんアートが好きで、フリーダ・カーロ自身が好きという方には是非進めたいが、歴史好き(特に現代史好き)にも刺さるミュージカルだったかなと思う。

【写真引用元】
ステージナタリー
https://natalie.mu/stage/gallery/news/483843/1851063


【キャスト・キャラクター】(※ネタバレあり)

歌手やミュージカル俳優ばかりのキャスト陣で、演技も素晴らしかったのだがとにかく歌声に魅了される役者ばかりだった。声が皆素敵だった。
特に印象に残った役者をピックアップして記載していく。

まずはフリーダ・カーロ役を演じた彩吹真央さん。彩吹さんは「20年後のあなたに会いたくて」でも出演されていて演技拝見は2度目になるのだが、その時の医師役はそこまで出番は多くなかったので、主役としてしっかり演技を観たのは今作が初めてである。
なんといっても歌声が透き通るようで素晴らしかった。とくにバラードの静かなシーンでの独唱はとても印象的。あの歌声にはどこか切なさを感じてしまい、それがフリーダ・カーロ自身の生きることへの苦しさなのかなとも思う。
そしてカーロは独白シーンも多く、彼女の生き様をまるで人生史のように読み上げられながらストーリーが進行していくのだが、流産、中絶、手術、切断など痛々しいワードが沢山出てきて、そこからも悲壮感を感じる。
ただ彼女は非常に生に満ち満ちていて、彼女の立ち姿はいつも堂々として勇ましかった。特に印象に残るのは、序盤で彼女が服を脱いで上半身がレスラーのように頑丈な体をしていた姿と、終盤で白いドレスを着させてもらうシーン。そこには迫力があって、ただ立っているだけであるにも関わらず風格があって、これがフリーダ・カーロなのかと感じた。

次にディエゴ・リベラを演じた今井清隆さん。今井さんは東宝ミュージカルにもよく出演されていて有名なミュージカル俳優だが、私が演技を拝見するのは初めて。
非常に貫禄のある男性といった印象で、低く太い今井さんの声がなんとも美しく劇場に響き渡る。
ディエゴという人物自体は、画家としては成功しているかもしれないけれど、非常に女癖の悪いダメな男。今井さんが演じてしまうとそんなダメな男も非常に魅力的に映ってしまう。
今井さん演じるディエゴの包容感と落ち着きは凄く感じられて、たしかに女性は彼の魅力にはまってしまうものなのかもしれない。それだけ今井さん演じるディエゴは魅力的だった。

今作に出演するキャストで一番輝いて見えたのは、もうひとりのフリーダ・カーロを演じる歌手のMARIA-Eさん。
彼女はおそらく日本人と黒人のハーフといったところかもしれないが、本当に今作の出演にハマっている。彼女の容姿から非常にフリーダ・カーロというメキシコの女流画家という設定は似合っているし、衣装も赤と黒によるドレスで非常に格好良かった。
そして何と言っても彼女の歌声。彩吹さんの透き通るような繊細な歌声とは違って、メキシコのラテンポップスに似合うよう力強く逞しい歌声に魅了された。いつも舞台の中央付近に立っていて、その存在感と歌声に圧倒された。素晴らしかった。

レフ・トロツキー役を演じた石川禅さんも非常に素晴らしかった。非常に低くて太い男性ボイスが魅力的だった。個人的には少し今井さんと被る節もあるなと感じたが。
それと、フリーダ・カーロの妹のクリスティナ役を演じた綿引さやかさんも素晴らしかった。クリスティナは、ディエゴと誘惑に負けてやってしまったことに対する罪悪感を負ってしまうシーンが一番印象に残った。

【写真引用元】
ステージナタリー
https://natalie.mu/stage/gallery/news/483843/1851064


【舞台の考察】(※ネタバレあり)

冒頭でも書いたとおり、今作は2019年に初演された劇団TipTapのオリジナルミュージカルの再演である。フリーダ・カーロ役、ディエゴ・リベラ役、レフ・トロツキー役は変わっていない。個人的には今作よりも「20年後のあなたに会いたくて」の方が泣けるドラマだったし、ピアノオンリーなミュージカルというのが新鮮で面白いと感じたが、今作は今作でラテンポップスをベースとしたミュージカルとして、劇団TipTapでしか生み出せない、東宝ミュージカルでは絶対描けないミュージカル作品として仕上がっていて見応えがあった。

ここではフリーダ・カーロという画家についてと、彼女の最期について考察していく。
フリーダ・カーロという画家自身は、小学生の時に読んだ「週刊世界遺産」という雑誌の特集で紹介されていて名前は聞いたことあったが、具体的にどういう人生を歩んだ人物だったのか今作で初めて知った。そしてまさか、こんなにも壮絶な人生を送った女性だったとは思えなかった。
6歳の時に小児麻痺によって右足に障害を持ってしまってから、彼女は五体満足な体ではなくなってしまった。特に恋人のアレハンドロと乗っていたバスの事故による瀕死状態の重体によって、彼女の人生は大きく変わっていく。
身体は生きる上で非常に大事だと改めて認識させられた。身体が健康でなければ、好きな人と自由に性行為することも出来ないし、子供を産むことも出来ない。フリーダ・カーロの場合は、身体が不自由である一方で、感受性は物凄く豊かだったからこそ生きることが人一倍苦しかったのではないかと思う。
子供をつくりたくてもつくれない。好きな男性と一緒にいたくても一緒にいられない。そんな不自由さが彼女を苦しめ、その苦しさを全て絵画に発散させたのではないかと思う。
子供を産むことの出来ない体だと分かっていても、何度も流産したり中絶する経験をしているということは、よっぽどディエゴのことが大好きだったのだと思うし、その愛の証として子供が欲しかったのだろうなと思う。非常に狂気的な愛に満ち溢れていて、痛々しいエピソードである。

フリーダ・カーロは恋多き女性だった。劇中に登場した恋仲になった男性は、アレハンドロ、ディエゴ、イサム、トロツキーと少なくとも4人いる。wikipediaなどのフリーダ・カーロの他の文献を読むと浮気相手はもっといたらしい。
そして恋仲となる男性に共通するのは、画家や彫刻家といった芸術家であったり、革命家といった芯のある男性のように思える。そういった部分に情熱的でロマンチストのフリーダ・カーロは憧れ好きになっていったのかもしれない。
しかし、どんな男性よりもディエゴのことは一番好きだったように今作を観劇していると思える。それは、カーロにとってディエゴはずっと憧れの存在だったからであろう。

フリーダ・カーロは実際のところ、自殺をしたのか、それとも肺炎を併発して亡くなったのか定かではない。しかし事実として残っているのは、たしかに晩年彼女は身体の苦痛に耐えかねて八つ当たりする毎日だったかもしれないけれど、「人生万歳」という遺作を残していることである。
それは彼女自身が彼女らしく人生を真っ当出来たことの証なのではないかと思える。だからこそもう自分の人生としてはやるべきことをやったとして自殺したのかもしれないし、生きることに絶望した訳ではなかったから自殺した訳ではなく何か他のものが死因となったのかもしれない。
少なくとも、完全に絶望して自ら命を絶ったことだけは違うのかなと今作を観劇していると思えてくる。

自分はそんな彼女の生き様を知って、ちょっと自分の生き方とはかけ離れすぎて真似なんて到底出来ないししたいとは思わないが、彼女らしさを貫いて生きてきたということだけは非常に羨ましく感じて、そんな部分にすっかり魅了されながら私は劇場をあとにして余韻に浸ることが出来たので、もう少し自分らしさというものと向き合った生き方をしたいなと感じた。



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