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舞台 「信長の野暮」 観劇レビュー 2023/05/13


写真引用元:アナログスイッチ 公式Twitter


写真引用元:アナログスイッチ 公式Twitter


写真引用元:アナログスイッチ 公式Twitter


公演タイトル:「信長の野暮」
劇場:吉祥寺シアター
劇団・企画:アナログスイッチ
作・演出:佐藤慎哉
出演:spi、渡辺伸一朗、大迫綾乃、奥谷知弘、井尻晏菜、忠津勇樹、澤邊寧央、雨宮沙月、秋本雄基、久保貫太郎、井内ミワク、佐藤新太、藤木陽一、吉田紗也美
公演期間:5/11〜5/21(東京)、5/26〜5/28(大阪)
上演時間:約2時間10分(途中休憩なし)
作品キーワード:SF、シチュエーションコメディ、異世界転生、時代劇、青春
個人満足度:★★★★★☆☆☆☆☆


佐藤慎哉さんが主宰する劇団「アナログスイッチ」の公演を初観劇。
「アナログスイッチ」は、2012年に旗揚げしていて、劇団の公式HPに記載されている通り、「ゆるくて笑えてほっこりする」ワンシチュエーションコメディ劇団を掲げている。
今回の上演は19回目の劇団としての公演ということで、主役にミュージカル俳優のspiさんを迎えて、当劇団の代表作をバージョンアップして上演した。

物語は、戦国時代の本能寺の変の最中に織田信長(spi)が令和の現代にタイムスリップしてしまうところから始まる。
織田信長がタイムスリップしてたどり着いたのは、一人で芸人を目指しているが、ずっと家でゲームをしていた田中正樹(渡辺伸一朗)の住むアパート。
田中はNintendo Switchで戦国合戦ゲーム(おそらく信長の野望?)をやっている最中に、いきなり織田信長が現れたものだから大騒ぎ。織田信長自身も、ここが令和の日本であるということが分からず、初めは田中のことを明智光秀の家臣だと思って斬りかかってくる。
しかし、タイムスリップしたのは織田信長だけではなく、田中の隣の部屋に住む太田裕也(奥谷知弘)の周囲の人間関係にも影響してくる。
太田は不倫をしていたことがバレたところだったのだが、このタイムスリップ騒動が影響して、事態は更に複雑化していく。
また、このアパートを管理している武田家にもこのタイムスリップ騒動は波及していて、田中、太田、武田家を巻き込んでシチュエーションコメディが展開されていくというもの。

ジャンルとしては、昨今アニメを中心として流行っている異世界転生ものであり、織田信長が現代に転生してからのくだりは、彼の住む時代とのギャップを上手くコメディに消化していて沢山笑えた。
また、舞台セットが田中の部屋、太田の部屋、そしてその上段の武田家の住まいの3つのエリアに分かれており、場所と登場人物が固定であるというワンシチュエーションコメディの要素を活かして、その3つのエリアで繰り広げられる出来事を舞台でしか描けないような形で表現するところに演劇の特性が活かされていて面白いと感じられた(詳しく書くとネタバレになるので詳細はネタバレ欄へ)。

前半は、劇団「ヨーロッパ企画」のとある作品のように展開していくSFコメディなのだが、後半は徐々にヒューマンドラマへと移り変わっていく。
織田信長が転生してきたことによって変わりゆく状況に、現代を生きる田中たちも変わり始めていくところに私が好きだと思える台詞やシーンがあった。
ラストはどうまとまるのかとヒヤヒヤしながら見ていたが、事態がどんどん大型化していって雪崩のように笑えるシーンが頻発して大満足だった。

キャスト陣も、アナログスイッチの劇団員を中心とした小劇場出身の面子と、2.5次元界隈を中心に活躍する美男美女な役者が混在していて、平均年齢は若くて勢いがあって元気が貰えた。
特に、織田信長役を演じるspiさんの存在感と、私たちがイメージするような魔王的なオーラは全くなくて、ただただ見ているだけで笑えてしまう愛されキャラな一面がとても好きだった。
田中役を演じた渡辺伸一朗さんの、あの平凡な現代人ぽさが凄く合っていて惹かれた。太田役を演じた奥谷知弘さんと山口天衣役を演じた井尻晏菜さんの二人のやり取りも好きだった。

劇団「アナログスイッチ」ファンや、spiさんのファンであればもちろん、そうではなくても終始大爆笑できるストーリー展開と、異世界転生ものなどのアニメが好きな方にもハマりやすい作品だと思うので、若年層を中心に多くの方におすすめしたい作品だった。

写真引用元:イケメン図鑑 公式Twitter


【鑑賞動機】

「アナログスイッチ」は、いつも年に1回くらい公演を打っていて気になっていた劇団だった。特に劇団を主宰し、脚本・演出を務める佐藤慎哉さんは、以前鴻上尚史さんが主宰する劇団「虚構の劇団」にも所属していた。今回は、彼らの代表作を豪華キャストで上演するとのことで、力を入れて創作されると感じたので観劇することにした。
主演のspiさんは以前からお名前を聞いたことはあったが、観劇するのは今回が初めて。ただ、久保貫太郎さん、劇団「第27班」に所属していた佐藤新太さん、藤木陽一さん、吉田紗也美さんは以前演技を拝見していて好きな俳優さんたちなので、彼らの出演も観劇の決めての一つ。


【ストーリー・内容】(※ネタバレあり)

台本を購入していないため、ストーリーに関しては私が観劇して得た記憶なので、抜けや間違い等沢山あると思うがご容赦頂きたい。

1582年、本能寺の変が起こり周囲からは勝鬨の声が聞こえる。客席から織田信長(spi)が登場して、明智光秀を探すが令和の現代にタイムスリップしてしまい、ステージ手前にかかっていた白い幕が降ろされて、気がついたらアパートの一室にたどり着いていた。

信長は、田中正樹(渡辺伸一朗)の住むアパートにタイムスリップした。田中はNintendo Switchで「信長の野望」をプレイしていた最中で、いきなり自分の部屋に信長がやってきたことに驚く。信長は、一体どこに来たかもよく分からず、田中を明智光秀の家臣だと勘違いして斬りかかってくる。それによって、田中の部屋と隣の部屋を遮る壁に刀で穴を開けてしまう。
田中は、信長が慌てて襲いかかってくるので、アパートのオーナーに電話をかけるも、最初は出てはくれず、何回か電話をしてやって出てはくれたものの、相手にはしてくれなかった。
信長は、自分が今いる場所が自分の知らない国なのではないかと気が付く。海外かどこかなのではないかと。しかし田中は、ここは日本の京都であり、元号は令和であると言う。そこにきて初めて、信長は今が天正という年号ではないことを知り、未来に来てしまったと悟る。
田中はなんとかしようと自分の部屋を出るが、部屋の外で長谷川晴海(大迫綾乃)という泣いている女性を見つけて、自分の部屋へ連れて帰る。彼女は、どうやら隣に住む男性に不倫されて大泣きしているようであった。

一方、田中の住むアパートの隣に住む住人である太田裕也(奥谷知弘)は、アルバイト先の女性である山口天衣(井尻晏菜)と不倫しており、二人で奥谷の自宅にいた。そこへ、太田と同棲している恋人(それとも奥さん?)の長谷川が帰ってくる。二人はやばいやばいと言いながらも、太田が山口と一緒に部屋にいることが長谷川にバレてしまい、太田が不倫していたことが発覚してしまう。
長谷川は激怒するが、その時太田はいきなりまるで魂が抜けたかのようになって、いきなり明智光秀を名乗るようになる。山口も長谷川も驚き混乱する。長谷川は、太田がふざけているのかと思い怒りはさらにヒートアップする。明智光秀になった太田は、今の状況が飲み込めず、ただ信長を討ちたいなどと言っていて、皆を困らせる。壁には隣人(田中の部屋)から穴を開けられる。そして、太田も傘を振り回して天井に穴を開けてしまう。
長谷川は不倫された上に、明智光秀になったと意味不明な太田を見て大泣きして部屋を後にする。そして玄関でずっとうずくまって泣いていたところへ、田中に話しかけられる。

一方、田中の部屋と太田の部屋の上階には、アパートのオーナーである武田家の住まいがあった。
武田家の長男の武田信介(澤邊寧央)は、頭は良くて大学院まで出ているが就活が上手く行かなくてずっと引きこもりをしていた。両親にも呆れられていた。ずっと引きこもりをやっていた信介は、一人で1年以上かけてタイムマシンを作っていた。それが完成して、いよいよ実験的に動かそうとしていた。
そして丁度今日は、武田家の長女の武田さやか(雨宮沙月)がお付き合いをしている職場で出会った彼氏を両親に紹介する日だった。さやかは、彼氏の藤沢徹(秋本雄基)を自宅へ連れてくる。両親の武田勝(久保貫太郎)と武田直子(井内ミワナ)が迎え入れる。藤沢は武田家の両親の前で馴れ初めや、出身大学の話をするが、その態度がぶっ飛んでいたり、大学名も聞いたことがなかったりと、色々と両親に不信感を募らせる内容ばかりで、正直父親の勝は、さやかを藤沢と結婚させることに同意出来なかった。
すると、突然さやかは赤影馬の芯という男を名乗り始めて、まるで武士のような振る舞いを始める。周囲は混乱する。父親の勝は、さやかが連れてきた男性が変な男性であること、そしてさやかが狂ってしまったことにご立腹。そこに、電話がかかってくる。勝はすぐに切ってしまうが、何度もかかってくる。電話を取ると、それは住人の田中からで部屋に信長がいると訳わからない電話内容で切る。すると今度は、地面から傘が突き出してくる。勝は混乱する。
藤沢とさやかは、兄貴に挨拶しに行こうと、信介の元へ行く。信介はタイムマシンを動かしたら大変なことになったという。さやかが武士のようになってしまったのは、信介のせいだった。信介は、1年以上かけて作ったタイムマシンを修理しないとさやかを元に戻せないと、急いで修理を始める。

しばらく時間が経って、場所は田中の部屋。田中はNintendo Switchで「信長の野望」をやっているが、信長は何か勉強をしている。信長は、現代にタイムスリップしてしまって、ずっと田中の家にいさせてもらうのはまずいから働かないとと、バイトの面接を色々受けているがなかなか合格出来なかった。そんな悩みを打ち明ける信長だったが、田中にはまずはその喋り方を直した方が良いと言うが、口癖なのでなかなか武将訛りが直らない。しかもなぜか信長は政治経済の勉強をしている。田中が問い詰めると、信長は総理大臣になって天下を取りたいからだと言う。田中は、令和の時代に天下を取るなんて無理だと言う。
そこへ、田中の部屋に蘭丸(佐藤新太)、坊丸(藤木陽一)、力丸(吉田紗也美)がやってくる。彼らは織田信長の家臣の魂だけがタイムスリップしてしまって現代人に乗り移ってしまった。蘭丸たちは信長に忠実で、ずっと信長の命令を従おうとする。
田中は、ここは自分の部屋だから出ていってくれと皆に命じる。しかし、信長が動かない限り皆動かない。蘭丸たちも信長に見習って勉強を始める。

その頃、太田の部屋では橋本勇次(忠津勇樹)という男が、ウォーターサーバーを設置していた。その部屋には山口がいて、山口と橋本は付き合っていた。しかし、山口は普通に会社勤めをする橋本よりもお笑い芸人を目指す橋本の方が好きだったと言う。橋本は帰る。
太田がやってくる。山口は、太田に取り憑いた明智光秀を成仏させようとお祓いをしようとする。しかし、徐々に山口は明智光秀が乗り移っている太田が好きになっていく。
山口と太田は、二人でずっとイチャイチャしていた。お互いにケーキを食べさせ合っていた。その光景を壁に空いた穴から田中の部屋で見ていた長谷川はゲロ吐きそうになっていた。

一方、信介はタイムマシンを直していたが一向に直らず、藤沢から急かされていた。そんな中、さらに武田直子には濃姫が乗り移ってしまう。武田勝は仰天してさらに混乱している。
その頃、信長はやっとバイトに受かったようだった。いちごをケーキの上に乗せるバイト、パティシエのようなバイトである。信長はバイトしながらゲームに明け暮れる毎日を過ごす。一方で田中は、コンビは組んでいないけれどもう一度芸人を目指そうと台本を書き始めていた。
田中は、あれだけ天下取りたいと言っていた信長が、最近ではバイトとゲームに明け暮れている毎日を見て苛立った。そして田中は信長に問い詰める。信長を見ていると昔の自分を見ているようで嫌だと。前はあれだけ天下を取りたいと言っていたのに、今はこんな体たらくでと叱る。

さやかは、太田の自宅に向かう。そこで太田に出会う。さやかは、前の職場が桔梗の模様で青かったと言う。太田も自分もかつての職場は青く桔梗の模様の会社だったといい、お互いが戦国時代からタイムスリップしてきたことを確認しあう。さやかは、元の世界へ戻れる方法があるからと、太田を武田家の住まいに連れていく。
その一部始終を壁に空いた穴から見ていた田中は、太田が今度は3人目の女性と不倫を始めたと、いよいよ太田をヤバい奴扱いする。
さやかは、明智光秀が乗り移っている太田を連れてくると、武田家で一列になってタイムマシンを発動すれば元に戻れるのではと言う。タイムマシンの存在を両親にバラしたくない信介だったが、直子が濃姫になってしまったからには致し方ないと武田家と太田を一列で並ばせて、タイムマシンを発動させる。しかし、結局元には戻らなかった。勝は、なんだこの茶番はと怒る。

一方で、田中の部屋と太田の部屋の壁が壊れて大騒ぎに、信長は太田が明智光秀だとわかって、田中、太田、武田家の3つを巻き込んで大混乱になる。そして信長と直子は夫婦同士再会して抱きしめ合う。勝は混乱している。勝は怒りでタイムマシンを投げつけ、フランシスコ・ザビエルになってしまう。

暗転

橋本が、タイムマシンを丁寧に修理している。物理的な移動は不可能だが、魂を元の世界に戻すことは出来るだろうと。そして、全員で一列になってタイムマシンを発動する。信長以外は全員元の世界に戻った。信長だけは、令和の日本にいるままだった。橋本は、物理的な移動は不可能だと言ったはずだと言う。
太田と長谷川は再び一緒に暮らすことになる。太田が不倫をしていたという事実は変わらないので、そこは太田は反省している。
田中は橋本とコンビを組んで、台本を書いてお笑い芸人を目指した。ネタは戦国時代のもの。信長も令和の時代に田中と一緒に暮らした。ここで上演は終了する。

前半は劇団「ヨーロッパ企画」の『サマータイムマシン・ブルース』風で、過去の人物や魂が現代にやってきてしまって、混乱を描くSFコメディな展開はまさに『サマータイムマシン・ブルース』のようだったし、終盤のパラレルワールドを危惧する展開なんてもう王道パターンだった。過去を変えてしまったら、今の自分たちはどうなっちゃうのかなという不安感、ハラハラ感はこういった類の作品に共通して登場するのだなと再認識した。
私が個人的にこの脚本を好きになれたのは、もちろん信長がタイムスリップしてきてという設定の面白さもそうなのだが、なんと言っても後半部分で結構響くセリフが沢山あって良いなと思うシーンが多かったから。例えば、信長は最初は天下取りたいと大きな野望を持っていたが、いつのまにかバイトとゲームに飲まれてしまった。しかし、そんな信長の存在に触発されて田中はもう一度芸人を頑張ってみようと努力を始めたところ。あのシーンが本当に好きだった。異世界転生ものを上手くヒューマンドラマに落としていて好きだった。
あとは、橋本が山口に会社勤めより芸人目指す橋本の方が好きだと言われて、結果芸人を目指すことになったのも面白かった。脚本を書いた佐藤慎哉さんがお笑い好きなのだと思うが、芸人を中心としたヒューマンドラマとして帰着していくあたりが良かった。少し前に観劇した大人計画のウーマンリブ『もうがまんできない』に通じるところもあって良かった。なんかお笑いコンビものには心動かされてしまう自分がいる。

写真引用元:イケメン図鑑 公式Twitter


【世界観・演出】(※ネタバレあり)

吉祥寺シアターの大きなステージを、しかも高さも丸々使って仕込んだ舞台装置と、小劇場演劇らしい程よい荒さが残る世界観(褒めてます)が好きだった。
舞台装置、舞台照明、舞台音響、その他演出について見ていく。

まずは、舞台装置から。
舞台装置は、2段構造になっていて、下側には田中の部屋と太田の部屋がある。
下手側には田中の部屋があって、かなり散らかっている印象を受ける。一番下手手前側にはテレビが客席側に背を向けて置かれている。田中がNintendo Switchをやるためのテレビである。そのテレビの向こうには下手側へハケるハケ口があって、田中の住まいの台所だかに繋がっている。田中の部屋の奥側には玄関があって、そこを抜けるとアパートの通路が下手から上手に向かって伸びていて、奥側には壁がないおかげでそこまで客席からしっかり見える構造になっている。
ステージ中央には例の壁が置かれていて、序盤で信長によって穴が開けられ、そこから長谷川はずっと太田の部屋を覗き込む。そしてその壁は最終的には取り外せる仕組みになっていて、終盤には取れて、田中の部屋と太田の部屋同士が丸見えになる。
上手側の太田の部屋は、田中の部屋と比べるともう少し綺麗になっている。太田の部屋の中央にはテーブルが置かれている。そして上手側にはベッドが置かれている。ブルーの布団がかけられている。ベッドの向こうには上手側へ捌けられる通路があって、おそらくその奥にはトイレがあるとされている。山口がトイレに向かうときにそこから捌けた。また、中盤からはその奥にウォーターサーバーが置かれる。
次に上段について記載していくと、上段は全て武田家の住まいになっていて、一番下手側は信介の部屋になっている。信介がそこでタイムマシンを修理している。その部屋は四方に壁があって、そこを出ると上手側は武田家のキッチンになっている。ダイニングテーブルと椅子が4つある。卓上電話なども置かれている。
舞台装置は、全体的に黄色い装飾になっていて、洗濯物が干されているような装飾が描かれていたりと、生活感溢れるようなカジュアルな舞台装置だった。ただ、屋根には瓦がついていたりと和風な印象も窺えた。
客入れ中は、ステージ手前に白い幕が降ろされているので、舞台装置が全く見えない作りになっている。しかし、序盤で信長が令和にタイムスリップした段階で一気に幕が降りるので、そこで装置はお披露目され、その圧倒的な大きさに観客は凌駕されることだろう。

次に舞台照明について。
ワンシチュエーションコメディなので、基本的には場転や暗転が少なくて、照明が切り替わるシーンは少ないが、要所要所で照明演出が発揮されていた。
まず、序盤の信長が客席から登場して白い幕にピンク色に照明が当てられるのが凄く良かった。本能寺の変を色々イマジネーションさせられた。
あとは、田中の部屋、太田の部屋、武田家の部屋と分かれているが、田中と信長が会話しているときには田中の部屋にスポットが当てられて、太田や山口が会話している時は太田の部屋にスポットが当てられるなど、上手く場面が進む場所に合わせてスポットを当てていく演出がハマっていた。ただ、そこをシームレスにつなぐのはどうしても難しいから、シーンとしてぶつ切りになってしまって歯切れが悪く感じられてしまう箇所もあって勿体なかった。ただ、今作を上演するのであればこの方法を取るしかないかなと思う。また、スポットが当たっていない場所に視線を向けて、役者がゆるく演技しているのを観るのも楽しかった。

次に舞台音響について。
音楽は、数少ない暗転、場転に明るい感じの音楽が流れるくらい。そこまで目立った音楽はなかった。効果音に関しても、電話の音だったり、テレビの音だったり、お祓いの音だったり、あまり目立つものはなかった。
せっかくミュージカル俳優のspiさんを起用しているので、彼の歌パートを設けても良いのではと思ったが、信長がいきなり歌い出すのは変だし、この脚本だと無理があるかなと思った。違う脚本で、歌パートを作って勝負するのもこの作風だったらアリではないかと思った。

その他演出について。
一番面白いと思ったのは、田中の部屋、太田の部屋、武田家の住まいの位置関係を活かして、壁を刀で突き刺したり、傘で天井に穴を開けたりとハプニングを発生させて、時間軸をわかりやすくしていた点。特に序盤は、同じ時間軸を田中の部屋、太田の部屋、武田家の住まいで3回別々の場所の出来事を描くが、そこにそういった互いに干渉してくるシーンを入れることで、情景がわかりやすくなるし笑えるという相乗効果があってうまいと思った。
あとは、戦国時代の歴史的な知識を知っていなくても楽しめるが、歴史に詳しければ気づくような伏線も沢山あるのが面白かった。こちらに関しては考察パートでしっかりと触れることにする。

写真引用元:イケメン図鑑 公式Twitter


【キャスト・キャラクター】(※ネタバレあり)

2.5次元俳優と小劇場の俳優が混在したキャスティングで、かなり年齢層も若めでとにかく元気を貰える演技が多かった印象だった。
特に印象に残った役者について、ここでは記載する。

まずは、主人公の織田信長役を演じたspiさん。spiさんは『シュレック・ザ・ミュージカル』のシュレック役など、ミュージカル俳優として大活躍されているのを知っていたが、私が演技を拝見するのは初めて。
客席から最初登場した時、ちょうど自分の客席の近くを通ったので、その迫力を十分に感じながら世界観に没入できた。織田信長といえば織田信長なのだが、その勇ましさ、迫力が戦国時代の武将らしいのかもしれない。しかし、そこから色々と令和の世界でヘマをするから見ていて滑稽だし好きになれるキャラクターだった。
織田信長といったら、第六天魔王のイメージで畏怖の念を抱くような存在に一般的には感じる。それを完全に取り払って、どこにでもいそうなおっちょこちょいの大男としてキャラクター作りしている点が本当に良かった。たしかにあの感じだと、バイトしてゲームに明け暮れるダメ人間にはなりそうである。
あとは、何度言っても武士訛りが抜けないくだりは面白かった。どこまでが台本の台詞なのだろうというくらい自然な会話で、しかもしっかり武士訛りを取り入れていて、あそこまで自然に武将訛りを話せるってすごいなと思った。
今度はspiさんの歌を聞きたいなと思う。

次に、田中正樹役を演じた渡辺伸一朗さん。
田中のあのいかにも家に引きこもってずっとゲームやってそうなキャラ作りが良かった。メガネかけて髭生やして、部屋が散らかっていて、いかにもって感じだった。
しかし、そこから信長に刺激を受けてお笑いの台本を書き始めるあたりが好きだった。声がハキハキしているから聞き取りやすかったし、台詞に説得力があったから響いたのかもしれない。凄く演技がうまかった。

太田裕也役を演じた奥谷知弘さんと山口天衣役を演じた井尻晏菜さんの美男美女でずっとイチャイチャしている感じが、こちらもドキドキさせられた。
お二人とも2.5次元出身の方なので、他の小劇場出身の役者たちとはちょっと違うオーラがあって、だからこそ彼らにどうしても目がいってしまう。山口役の井尻さんの太田に対するスキンシップやらが多くて、これは演じていて楽しいだろうなとも思っている自分がいた。
また、山口がムッと怒るシーンがあるけれど、長谷川みたいに熱量込めて激怒する感じのキャラでないところがまた良かった。
太田役を演じる奥谷さんも、明智光秀になって武士のような感じになるシーンがあるが、なんか成りきれてない感じがまた笑いを誘っていて良かった。

個人的に好きだったのが、武田勝役を演じていた久保貫太郎さん。
あの昭和な感じの男性のキャラが良かった。娘が連れてきた男性に対する評価が厳しかったり、タイムマシンを落としてフランシスコ・ザビエルになってしまうギャップも面白かった。
また、武田直子役を演じていた井内ミワクさんとのやりとりも面白かった。直子も濃姫になって羽目を外していくので、それをツッコだりしていてとても見応えがあった。

あとは、蘭丸、坊丸、力丸の三人衆を演じた佐藤新太さん、藤木陽一さん、吉田紗也美さんの3人も良かった。3人とも他の舞台で何度か演技を観ていて結構印象に残っていたので、今回こんな形で登場してくれて個人的には嬉しかった。
蘭丸は三人衆の中でもリーダーって感じがして、その態度の大きさがよくて、坊丸はヤクザ的なチャラい感じが藤木さんが演じる役として似合っていた。吉田さんはただただ可愛らしかった。

写真引用元:イケメン図鑑 公式Twitter


【舞台の考察】(※ネタバレあり)

織田信長が令和の現代にタイムスリップする話と聞いて、最初は異世界転生ものアニメっぽくて多くの観客に親しまれそうな作品だと思う反面、脚本の深さだったりオチがどうなるのかと色々ヒヤヒヤしながら観劇していたが、最後はお笑いコンビの心温まるストーリーにもなっていて脚本的にも楽しめた。
ここでは、私がわかる範囲で今作で描かれる小ネタを解説出来ればと思う。

まず、戦国時代から令和の現代へタイムスリップしたのは、武田信介の開発したタイムマシンによって、織田信長の体本体と、信長を討とうとしていた明智光秀の魂、そして織田信長の妻である濃姫、信長の家臣である蘭丸、坊丸、力丸、明智光秀の家臣である赤影馬の芯である。終盤ではフランシスコ・ザビエルもタイムスリップしていた。
明智光秀の魂は、太田裕也の体にタイムスリップしてしまい、おそらく太田裕也の魂は戦国時代の明智光秀の体に乗り移ってしまったと考えられる。同様に、濃姫の魂は武田直子の体に、信長の家臣である蘭丸、坊丸、力丸は田中たちが住むアパートの近所に住む住人に、赤影馬の芯は武田さやかの体にタイムスリップした。
武田さやかと太田裕也が出会うとき、彼らは前桔梗の紋様の会社に勤めていたと意気投合した。桔梗は明智家の家紋を指しており、赤影馬の芯は明智光秀の家臣だったので、桔梗の紋様の会社に勤めていたと言った。それで太田裕也と武田さやかは、お互いが何者であるか悟ったということである。
それ以外でも、戦国時代の雑学があれば楽しめるネタもいくつか見られた。例えば、天ぷらの話になった時、信長は自分の家臣が天ぷらを食って死んだやつがいると話していた。これは、徳川家康のことを指していると思われる。

オチとして最後よく分からなかったのは、橋本が何者であるかということ。ストーリーの中では優秀な探偵のような扱いがされていたが、なぜ彼がタイムマシンを修理できるのか、なぜ織田信長以外の人物の魂を戦国時代へ戻せたのかの回収がよく分からなかったのが残念だった。そこがしっかりしていれば私は脚本としてもっと楽しめたかもしれない。
橋本は元々お笑い芸人を目指していて、当初はウォーターサーバーを売る会社勤めの人間だったが、山口にお笑い芸人を目指す橋本の方が好きだと言われて、芸人を目指すことになる。コンビを組んでいなかったので、田中と意気投合してコンビを組んで終わる。タイムマシンにお笑いのネタのようなものが仕込まれていたが、正直ここがどう作品で回収されたのか初見の私は分からなかった。
どこかで、未来人がタイムマシンをどうのというくだりがあったように思えたが、2回観劇出来ればその真意まで把握できたかもしれないが、一度だけでは分からなかった。

あとは、結果的に織田信長が令和の日本に残されたまま物語は終了するが、それによって歴史の過去が塗り替えられることはない。なぜなら、歴史上では本能寺の変で織田信長は死んだことになっているから、その後織田信長の体がどこに消えようが、歴史上では死んだことになっているからである。
また明智光秀たちの魂も、戦国時代に最後送り返されたが、戻ってきた太田たちは記憶がなくなっていたので、きっとタイムスリップしている最中の記憶はかき消されてしまうからパラレルワールドの出現にはならなかったのだろうと思う。このあたりの話のくだりが上手く出来ているのも、ヨーロッパ企画の『サマータイムマシン・ブルース』に似ている。

脚本の緻密さはともかく、ユーモアあるストーリー展開と観客に元気を与えてくれる前向きにさせてくれるヒューマンドラマに、きっと多くの観客は楽しめること間違いなしだと思う。
また、戦国時代好きであれば小ネタも楽しめると思うので、ますますこの作品が多くの観客に届くことを一観劇者として期待したい。

写真引用元:イケメン図鑑 公式Twitter


↓佐藤新太さん過去出演作品


↓佐藤新太さん、藤木陽一さん過去出演作品


↓藤木陽一さん過去出演作品


↓吉田紗也美さん過去出演作品


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