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舞台 「天號星」 観劇レビュー 2023/09/23


写真引用元:劇団☆新感線 公式ブログ


写真引用元:劇団☆新感線 公式ブログ


公演タイトル:「天號星」
劇場:THEATER MILANO-Za
劇団・企画:劇団☆新感線
作:中島かずき
演出:いのうえひでのり
出演:古田新太、早乙女太一、早乙女友貴、久保史緒里、高田聖子、粟根まこと、山本千尋、池田成志、右近健一、河野まさと、逆木圭一郎、村木よし子、インディ高橋、山本カナコ、磯野慎吾、吉田メタル、中谷さとみ、保坂エマ、村木仁、川原正嗣、武田浩二他
期間:9/14〜10/21(東京)、11/1〜11/20(大阪)
上演時間:約3時間(途中休憩20分)
作品キーワード:殺陣、時代劇、殺し屋、歌、ギャグ、笑える、舞台美術
個人満足度:★★★★★★★★☆☆


中島かずきさん作、いのうえひでのりさん演出の「劇団☆新感線」の新作公演を東急歌舞伎町タワー内のTHEATER MILANO-Zaにて観劇。
「劇団☆新感線」の公演は、2019年7月に赤坂ACTシアターで観劇した『けむりの軍団』以来2度目の観劇となる。
今作は、古田新太さん、粟根まことさん、高田聖子さんといった「劇団☆新感線」には欠かせない劇団員に加え、早乙女太一さん、早乙女友貴さん兄弟や、大河ドラマの出演を観ていて時代劇に相応しいと感じた久保史緒里さんや山本千尋さんが出演されているので久しぶりに観劇しようと思った。

物語は、元禄時代の大江戸八百八町が舞台。
そこでは藤壺屋という口入れ屋(江戸時代・明治時代の人材派遣会社のような職業周旋業者)があり、そこの主人をしていた半兵衛(古田新太)という男がいた。
半兵衛は悪党を始末する「引導屋」の元締めとしても知られていたが、実際の所半兵衛は非常に気弱な性格で、女房のお伊勢(村木よし子)が仕切っていた。
ある日、町に殺し屋の宵闇銀次(早乙女太一)が現れる。
銀次はその町の暗殺者集団である白浜屋真砂郎(池田成志)や明神甲斐守忠則(粟根まこと)に依頼されて半兵衛を成敗しようと待ち伏せる。
銀次は半兵衛と出会い刀を交えるも、突然の落雷によって半兵衛と銀次は入れ替わってしまうというもの。

事前情報を一切入れず、且つあまり「劇団☆新感線」の芝居も観ない私なので、時代劇のエンターテイメントというくらいしか前情報がない中での観劇だったが、結論非常に面白く楽しめたという感想。
最近は硬派な演劇作品ばかりを観ているので、エンタメに寄っている舞台を純粋に楽しめるか心配していたが、全くもって杞憂で大満足の3時間だった。

まず、半兵衛と銀次という正反対な二人が入れ替わってしまうという設定が面白い。
それによって、物語の展開も全く変わってしまうし、周囲の登場人物たちもその設定に翻弄されるし、これがチャンバラによって転がされる、チャンバラ中心の物語なのだと納得して楽しめた。
そして今作の一番の醍醐味は、殺陣(映画や演劇におけるチャンバラの演技)もそうなのだが、それ以上にギャグ要素が強かった点で、普段「劇団☆新感線」を見慣れない私からしてみたら意外な要素だった。
半兵衛と銀次が入れ替わってしまうことによって、その設定が物語をよりコミカルにしていて、その笑いの要素も喜劇というよりは漫画でよく登場しそうなギャグの要素が強くて、かなり一般ウケしやすい形で創られている点が親しみやすいポイントだったと思う。

また演出も非常に格好良くて、オープニングの格好良いカラフルな照明とロックミュージックによって一気に引き込まれたし、ケレン味ある殺陣シーンの演出も、格好良い奇抜な照明演出と音響演出によって、時代劇エンタメを観ているという実感を与えてくれて、私たち観客が求めていたことがしっかりと組み込まれていた感じで満足度が高かった。
また、客席の通路を駆け抜けたり会話するシーンもあって、まるで歌舞伎の花道として通路を使う演出も臨場感があって好きだった。

役者陣も皆素晴らしく、特に神降ろしのみさき役を演じた乃木坂46の久保史緒里さんの透明感ある存在感と演技が舞台上全体に彩を与えていて素晴らしかった上に、劇中何度か挿入される劇中歌で披露される歌声が、笑い要素と殺陣のアクション要素以外のうっとりさせるパートを作ってくれて、エンタメとしてのバリエーションを広げていて満足度を高めてくれた。
また、早風のいぶき役を演じた山本千尋さんは、久保さんとは対照的で戦う女性として格好良く感じ、だからこそ対照的な姉妹の存在に惹かれてしまって、非常に映える存在だった。

笑いあり、アクション要素あり、歌あり、そして最後は泣ける要素もあるといった、エンターテイメントとして極上の観劇体験で、舞台をそこまで観たことがない人でも十分楽しめる内容だと思うので、多くの人に観て欲しい作品だった。
観劇が叶わない方は、ライブビューイングもあるみたいなので、そちらもチェックして欲しい。

写真引用元:劇団☆新感線 公式ブログ




【鑑賞動機】

久しぶりに「劇団☆新感線」を観ようと思っていたのと、今回は出演に久保史緒里さんと山本千尋さんが出演されていたのが決めて。
久保史緒里さんは、2021年6月に舞台『夜は短し歩けよ乙女』で黒髪の乙女を好演されていて、また舞台で芝居を観たいと思っていたのと、大河ドラマ『どうする家康』に出演されていて、時代劇が凄くお似合いの俳優だとも思っていたので、その時代劇で舞台で久保さんの演技を観られるのが楽しみだったから。
また山本千尋さんは、大河ドラマ『鎌倉殿の13人』で時代劇が似合っていたと感じたのと、Netflixドラマ『今際の国のアリス season2』で、戦う女性役が似合っていて割と体育系の女性の役が似合う方だったので、殺陣演技を楽しみにしていたから。


【ストーリー・内容】(※ネタバレあり)

ストーリーに関しては、戯曲を購入していないため私が観劇で得た記憶なので、抜けや間違い等沢山あると思うがご容赦頂きたい。

元禄時代の大江戸八百八町、藤壺屋という口入れ屋を営んでいる主人の半兵衛の家来二人が町中を巡回していると、殺し屋の宵闇銀次(早乙女太一)がやってくる。家来たちは応戦するが二人とも銀次に殺されてしまい、後から駆けつけた半兵衛の娘である早風のいぶき(山本千尋)は銀次を逃してしまう。いぶきは、家来が二人も銀次に殺されてしまったことを悔い、仇を討つことを誓う。
口入れ屋を営んでいる藤壺屋の屋敷にて、主人の半兵衛(古田新太)は悪党を始末する「引導屋」を先導する立場であるはずなのだが、半兵衛自身は非常に気弱で頼りない存在。代わりに女房のお伊勢(村木よし子)が「引導屋」を仕切っていた。半兵衛はお伊勢の尻目に敷かれていて、「はい!」と声高らかに返事をして従っているような始末だった。藤壺屋に仕える与助(河野まさと)からも半兵衛は馬鹿にされていた。
そこへ、娘のいぶきが藤壺屋に帰ってくる。いぶきは、殺し屋の宵闇銀次という男が現れて家来が二人殺されたことを報告する。そして彼の命を守りきれなかったことを詫び、必ずや仇を討つと誓う。

一方、同じ大江戸八百八町には、材木問屋の主人で暗殺集団者・黒刃組を率いる白浜屋真砂郎(池田成志)と、材木奉行の明神甲斐守忠則(粟根まこと)がおり、彼らは密かに「引導屋」を始末する諜議を開いていた。そこには、金杉主膳(吉田メタル)や烏珠一心(川原正嗣)もいた。甲斐守は「好き」と連呼しながら、この会議に参加していた人々を褒め称えていた。
そこへ、銀次が潜入してくる。銀次は、自分が殺し屋であることを名乗り、「引導屋」の家来を殺したことを伝える。そこで白浜屋と甲斐守は、銀次に「引導屋」の主人である半兵衛を殺すよう依頼する。銀次はその依頼を引き受けると、甲斐守は「好き」と銀次に言う。

大江戸八百八町では、星占いが流行っていた。神降ろしのみさき(久保史緒里)は町中で歌を披露しながら星占いをする。それによって民衆たちは盛り上がっている。
民衆たちはくじを引きながら、自分たちの運勢を占っていた。そんなみさきの手伝いを塩麻呂(右近健一)とおこう(山本カナコ)は手伝っていた。

半兵衛は夜、外を歩いていた。周囲には渡り占いの弁天(高田聖子)とこくり(中谷さとみ)がいた。
そこへ、殺し屋の宵闇銀次が現れる。銀次は白浜屋たちに頼まれて「引導屋」の主人を殺しに来た。彼らは刀を交えて決闘する。しかし、その時大きな落雷が落ちる。すると、半兵衛と宵闇銀次は中身だけ入れ替わってしまって、半兵衛は外見は半兵衛であるが中身は銀次のような若くしっかりとした青年へ、銀次は外見は銀次であるが中身は気弱で腰抜けの半兵衛となってしまう。

外見はすっかり銀次になってしまった半兵衛の前に、一人の追っ手が現れる。それは、銀次に顔に傷をつけられて殺してやろうとずっと銀次を追いかけてきた人斬り朝吉(早乙女友貴)であった。外見は銀次で中身は半兵衛の男は、そんな朝吉のような存在がいるとは知らず、いきなり襲われて初めてチャンバラをするものなので怯えながら戦っていた。
外見銀次の中身は半兵衛の男は、自分は銀次ではなく半兵衛と入れ替わってしまったのだと言うが、そんなことで騙されるかと朝吉は言うことを信じてくれない。しかし、そばにいた弁天が、空に天號星が輝く時に、人は落雷によって入れ替わるというようなことを言って、朝吉は本当なのかと信じるようになる。外見銀次の中身は半兵衛の男は、弁天に何か知っているのかと問いただしたりお前のせいかと追及するが、弁天もそれ以上のことは知らなそうだった。

外見は半兵衛だが中身は銀次となった男は、入れ替わったことをいいことに「引導屋」を乗っ取って破滅させようと企んだ。外見半兵衛で中身銀次の男は、藤壺屋に戻るも、お伊勢からも与助からも軽く扱われてムッとする始末だった。
しかし、藤壺屋に朝吉がやってくる。朝吉は半兵衛と銀次が入れ替わったと知って、中身が銀次である外見半兵衛の男を打ち取りに来た。外見半兵衛で中身が銀次であることを知らない周囲の人々は、半兵衛が物凄い瞬発力で朝吉と決闘する姿に驚く。結局朝吉は逃げていってしまうが、与助はその偽半兵衛の活躍ぶりをみて頭を下げた。

みさきは、塩麻呂やおこうと話している。そして屋敷の中に戻っていってしまう。樽の中に隠れていた外見銀次の中身は半兵衛の男が現れる。
外見銀次中身は半兵衛の男は、屋敷に戻ったはずのみさきとばったり遭遇してしまう。みさきは彼のことを知らず「誰?」といったリアクションをした上、みさきは自分の父親が半兵衛ではないことを語っていて、外見銀次中身半兵衛の男はショックを受けてしまう。

外見銀次中身半兵衛の男は、夜再び人斬り朝吉に出会ってしまう。そして、朝吉はその男を入れ替わっているということを知った上で、襲いかかってくる。そしてチャンバラし会う。夜空には流れ星が沢山飛び交っていて、そして一気にステージ上が星の光で輝き「天號星」と表示される。

ここで幕間に入る。

大江戸八百八町、いぶきは怪我をしていたが、物干し竿を担いで振り回すほどの元気がある。
そこへ外見半兵衛中身銀次やお伊勢たちがやってくる。そして半兵衛は中身は銀次なので様子がおかしく、お伊勢に斬りかかっていく。藤壺屋は大騒ぎ。どうして半兵衛がお伊勢を襲うのだと。いぶきも怪我をしていて本調子ではなかった。
お伊勢はなんとか一命は取り留めているものの治療に入り、みさきも倒れてしまっていた。

一方、外見銀次中身半兵衛と朝吉は戦っていたが、そこへ再び落雷が落ちる。その周囲には再び弁天とこくりがいた。再び銀次と半兵衛は入れ替わったようで、今まで朝吉と戦っていた銀次は、中身も銀次に切り替わっていた。弁天は、きっとみさきが危ういかもしれないと言う。銀次は、この入れ替わりの理由を教えてくれと弁天に乞うが分からないと言う。

白浜屋、甲斐守、金杉主膳、烏珠一心は会合を開いていた。そこには、先日朝吉を追い払った外見半兵衛中身銀次の姿もあった。彼は、朝吉を追い払った功績で甲斐守に「好き」と言われて気に入られていた。
甲斐守はとある計略を打ち出す。それは、大雨のタイミングで黒川堤を崩壊させて八百八町中を大洪水に陥れる。すると、住民たちは住まいを失ってどこかへ行くので、この地を自由に開拓できるのではないかと考えたのである。早速、大雨が降る前に黒川堤の堤防をなくし、大雨を待つ。
この計略を聞いていた時、外見半兵衛中身は銀次の男は、普通の半兵衛に戻っていた。

外見半兵衛中身も半兵衛の正真正銘の半兵衛は、白浜屋とひたすらくだらないギャグを繰り返している。
半兵衛は、自分が元に戻ったことに気がつき、そばにいた弁天と会話する。
一方屋敷では、お伊勢が看病されていて、藤壺屋の家来たちが心配そうにしていた。

半兵衛は、八百八町の住民たちに、甲斐守たちが黒川堤を崩壊させてこの町を洪水と化そうとしていると忠告する。住民たちは驚いて混乱する。半兵衛は、いぶきたちに甲斐守や白浜屋たちが八百八町を我が物にしようとしていることを伝える。いぶきは、白浜屋や甲斐守たちを成敗しようと動き出す。
みさきは目を覚まし、歌を歌い上げる。ここで再び、半兵衛の中身と銀次の中身が入れ替わる。

八百八町に大雨が降る。白浜屋や甲斐守たちは、この大雨によって黒川堤から河川が氾濫して洪水が起きると想定していた。しかし、半兵衛が事前に教えてくれたおかげで、八百八町の住民が徹夜で黒川堤の堤防を改築したので、洪水は免れたのだった。
烏珠一心、そして白浜屋真砂郎は成敗され、甲斐守と金杉主膳がいるところにいぶきがやってくる。いぶきは二つの蝋燭を用意し、この蝋燭は二人の命の蝋燭だと言う。今からこの蝋燭の灯りを消すと。そしていぶきは、金杉を殺し、そして甲斐守を殺してその二つの蝋燭の灯りを消した。

八百八町で、入れ替わった外見半兵衛中身は銀次と、外見銀次中身半兵衛が出くわす。そこに、回復したお伊勢と与助も現れるが、二人とも外見半兵衛中身は銀次の男に殺されてしまう。
外見銀次中身半兵衛は、お伊勢と与助がやられてしまったことでも怒りが炸裂し、外見半兵衛中身銀次の男とチャンバラで戦うことになる。そこへ、自分が追っていた敵を打ち取られてたまるかと朝吉も乱入してくる。しかし、朝吉は一旦遠ざけられると再び入れ替わった二人で一騎打ちをし、二人は同時に斬りつけられる。
そして、外見半兵衛中身銀次は打ち取られ、外見銀次中身半兵衛の男が勝利する。こうして、入れ替わったままの外見銀次中身半兵衛がこれからの藤壺屋と「引導屋」を取り仕切ることになる。朝吉はしぶしぶと去っていく。
外見銀次中身半兵衛の男に、みさきは彼のことを血は繋がっていなくても父親だと思っているし、いぶきとは姉妹だと思っていると泣き叫ぶ。
八百八町の住民の一人であるせい六(村木仁)は、藤壺屋の主人が殺し屋だと言って仲間たちをかき集めて成敗しようと行動を起こすが、彼らが駆けつけた時にはもう外見銀次中身半兵衛はいなくなっていた。
ここで上演は終了する。

勧善懲悪のど真ん中を走る物語なのに、非常に引き込まれて面白く感じた。以前私は『けむりの軍団』(2019年7月)を拝見したが、ここまで面白かったっけ?と思った。あの時は、初めて「劇団☆新感線」を観劇するというタイミングだったが、そこまで没入出来なくて、だからこそその後あまり「劇団☆新感線」を毎度観劇しようとならなかったのだけれど、数年越しで「劇団☆新感線」の良さに気づけた、そんな観劇体験だった。
私は昭和を生きた人間でないので、お茶の間でテレビ放送されていた時代劇を観て育った訳ではなかった。そのため、今作の下敷きになっているような池波正太郎さんの世界観、つまり「必殺シリーズ」や『鬼平犯科帳』といった作品を嗜んだことはなかったので、存在だけ知っているくらいで、他の時代劇と比べてどう違うかのような深い考察は出来ない。
けれど、時代劇をあまり知らなくても今作を十分楽しめることが出来た。チャンバラが中心のチャンバラで転がす物語とはこういうことだったのかと観劇し終えて改めて理解した。たしかにチャンバラで真逆なキャラクターの二人が入れ替わるってとても面白い発想だと思う。そこを上手く生かしてギャグ要素も詰め込めるし、敵やお客さんまで欺いてストーリーが展開されて目を離せなかった。
また、ラストで入れ替わったまま戻らないで終わるというのも新しかった。そんな真逆な二人が一心同体となって、いわばヘタレだった半兵衛がまるで成長したかのように描かれて、そんな姿に惚れ直すみさきと父と娘の親子関係も描かれていてストーリーとしても大満足だった。よく出来ていると感じた。

写真引用元:劇団☆新感線 公式ブログ


【世界観・演出】(※ネタバレあり)

舞台セット、衣装、殺陣、舞台照明、舞台音響など、書ききれないくらい格好良かったり特筆したい演出が沢山あって、さすが新感線の公演という感じだった。
舞台装置、映像、衣装、舞台照明、舞台音響、その他演出の順番で見ていくことにする。

まずは舞台装置から。
シーンによってステージ上は素舞台に近い状態になったり、パネルが仕込まれて町中や屋敷の中になったりと様々だった。
町中のシーン、例えば一番最初の「引導屋」の家来の権蔵たちが銀次に殺されるシーンや、ラストの銀次と半兵衛が一騎打ちをするシーンは、ステージ上に江戸時代のお屋敷の入り口が立ち並ぶ豪華な舞台セットで、吉本新喜劇のような大衆演劇のようなセットだった。
藤壺屋の屋敷は分かるように暖簾に大きく「口入屋 藤壺屋」と書かれているのが印象的だった。屋敷内も、障子などがセットされていてこれぞ江戸時代の武家屋敷といった感じ。甲斐守の後方の屏風も雰囲気があった。
あとは、屋外のシーンになると舞台セットは全て捌けて、ススキのような背の高い植物が至る所にセットされて、こちらも時代劇ではお決まりの舞台セットが見受けられた。また、八百八町の住民が黒川堤を補修した後の、石垣のようなものがステージ後方設置されていたシーンも印象的だった。こんな感じの舞台セットは、『けむりの軍団』でもあったような気がした。
約3時間の中で、5分くらいで次のシーンに切り替わって舞台装置がセットされるので、裏方の人たちも大変だろうなと思いながら、けれど歌舞伎やこういった時代劇ではお決まりの演出なので、期待通りの世界観を存分に味わったといった感じで面白かった。

次に映像について。
映像は、主にみさきが占うシーンでよく用いられていた印象。みさきが一番最初に登場したシーンは、映像で易占いに登場する円盤が出現し、一番運勢の良い易を占って、それが映像で映し出されたのが印象的だった。
あとは、要所要所に映像が登場して、劇中のエピソードを説明していた。例えば、一番最初に殺された半兵衛の家来である権蔵ともう一人の家来の顔が墨絵で描かれたものが登場したり、甲斐守が黒川堤を決壊させるための策略を練るために、八百八町の地図が登場したり。さほど多くはなかったけれど、映像演出もあって豪華だった。

次に衣装について。
まずは、みさきの青い着物衣装が凄く似合っていた。天から降りてきた占い師といった感じで、他の登場人物と浮いている感じが神聖で良かった。
銀次の赤い衣装も素敵だった。非常に武道が強そうで格好良かった。これなら確かに殺し屋だと思えた。
一方で、人斬り朝吉の黒い衣装も格好良かった。笠を被っている感じも格好良かった。銀次は隠れることもなく堂々としているのに対して、朝吉は忍びといった印象を受けて、そこの対比が良かった。
いぶきの格好良さも、あの衣装があってより際立った。もはやいぶきは女性であれど侍のような立ち位置、黒くそして動きやすそうな格好が印象的だった。

次に舞台照明について。
とにかく舞台照明は格好良い演出オンパレードだった。
まず一番序盤のシーンの開演時の演出がとても格好良くて、ステージ上には誰もいないのだけれど、舞台照明は紫色に煌々とステージ上を照らしていて、音楽はロックミュージックで、まるで音楽ライブでも始まるのかというエンタメ満載の舞台照明で導入の没入感がマックスだった。
あと、特徴的だった照明は、まさに半兵衛と銀次が入れ替わってしまう時の落雷の演出。物凄く光量が一瞬だけ白く中央から光って、そして入れ替わるというダイナミックな演出が格好良かった。確かそのシーンは上手、下手側に稲妻の映像も投影されていた記憶がある。その時の「ピカーン」と光ときの半兵衛と銀次の黒いシルエットも格好良かった。非常に漫画的に感じた。
あと印象に残った照明演出は、ステージ手前に配置されたスポット照明を天井や床面から様々な角度で照らす演出。非常にエンタメ的だけれど、どこか天號星の落雷を表しているかのような感じがして好きだった。
また、登場人物ごとにテーマとなる照明カラーがあるのも好きだった。例えばみさきであれば、基本彼女が歌っているシーンでは、ブルー系統の照明でステージ上が照らされていた。みさきは青白い衣装を着ていたのでとても似合っていたのと、あの透き通る歌声と青というテーマカラーも似合っていた。月の光のようなものとの親和性も高いので、ちょっとかぐや姫のような存在にも感じた。また、いぶきが殺陣のシーンで金杉や甲斐守を討ち取るシーンで、全体的に紫がかった照明で演出されるのも好きだった。たしかにいぶきのテーマカラーは紫だなと思った。紫にはいぶきの格好良さを際立たせる力強さと格好良さがあった。
そして何と言っても格好良かった照明は、幕間直前のシーンの銀次と朝吉がチャンバラし合うシーンで、ステージ後方一面に流れ星が流れる演出があった。あの流れ星が映像ではなく、たしか実際に照明を使って演出していて光量が強くて好きだった。また、そこに続いて「天號星」と光り輝く演出も実際の照明を使っていたと思われて格好良かった。

次に舞台音響について。
割と何かしらの音楽がかかっているシーンの方が多かったと思う。時代劇といった感じのベタな音楽だが、それが良かった。
あとは、なんといってもみさき演じる久保史緒里さんの歌が最高だった。透き通るような歌声を聞いているだけでうっとりしてしまう。ちょっと一部歌詞が分かりにくかった(それはマイクがエコーして聞き取れなかったといった感じ)が勿体なくて、もしかしたら歌詞を映像で流してくれても良いかもしれない。曲調はちょっと演歌っぽいことも作風に合っていた。
あとは殺陣シーンで、ケレン味ある音響効果が殺陣演出を盛り上げていた。チャンバラし合う時の「カキーン」という音だったり、刀を振るたびに音がする演出が良かった。

最後にその他演出について。
まずは今作は、殺陣シーンが非常に多かった。いつも「劇団☆新感線」は殺陣シーンが多い印象だが、前回観劇した『けむりの軍団』はここまで殺陣シーン多かったかなという感じ。チャンバラが物語を進める作品で、チャンバラ中心の芝居なので、それは殺陣シーン多いよなと納得だが、久しぶりに殺陣をステージ上で観たからか、これでもかというくらい戦闘シーンがあって好きだった。
また、役者が客席の通路をまるで花道のように駆け抜ける演出も好きだった。私は1階席の端っこだったのであまり恩恵は受けられなかったが、臨場感はそれでも合ったし、そういう演出は今作の場合ありだよなと思った。しかも客席通路で出演者が演じるシーンが割と多くて、色んな役者が通路で演じたり駆け回ったり、歌ったりしていた。ここまで客席通路のシーンが多い芝居も珍しかった。
その他細かいシーンで印象に残った演出は、時限爆弾のようなものを銀次が抱えて、それを下手側に投げて爆発させるくだりが好きだった。非常にアニメ的なギャグ要素があって面白かった。また、いぶきが甲斐守と金杉を成敗するシーンで、蝋燭の灯りを彼らの命に例えていたが、あの蝋燭の炎がどうやって消されているのかが気になった。ちゃんと金杉が成敗された、甲斐守が成敗された時に消えていたので、誰かがそのギミックを発動して消していたのだろうなと思う。外見銀次中身半兵衛が舞台セットの樽に隠れていた演出も好きだった。

写真引用元:劇団☆新感線 公式ブログ


【キャスト・キャラクター】(※ネタバレあり)

「劇団☆新感線」には欠かせない劇団員、そして早乙女兄弟、そして久保史緒里さんや山本千尋さんといった時代劇に相応しい豪華な実力俳優が集まっていて、キャストだけでも大満足の作品だった。そして、実際作品を観劇して、殺陣のレベルの高さは去ることながら、配役もハマっていて素晴らしかった。
特筆したいキャストについてここでは記載する。

まずは、藤壺屋の主人であり「引導屋」を取り仕切っている半兵衛役を演じた古田新太さん。古田さんは、先日舞台『パラサイト』(2023年7月)でも観劇していて、割と日を空けずに観劇した。ただ「劇団☆新感線」で古田さんを拝見するのは、『けむりの軍団』以来なので4年ぶり。
今作は、途中で銀次演じる早乙女太一さんと途中で入れ替わるので、コメディ的な演技と凛々しい感じの演技の両方を堪能出来て良かった。入れ替わる以前の、非常に気弱で頼りない感じの半兵衛は、いつもお伊勢の尻目に敷かれていて、そこはコメディとして楽しめて良かった。「はい!」という返事が好きだった。
一方で、銀次と入れ替わってしまうと、今度は勢いがあって覇気のある存在になる。早乙女太一さんのあの凛々しさというか、聡明な感じを演じるのってなかなか難しいと思う。そこを違和感なく演じられていて素晴らしかった。

次に、殺し屋宵闇銀次役を演じた早乙女太一さん。早乙女さんも、今年(2023年)の2月に舞台『蜘蛛巣城』で演技を拝見しているので、そこまで日を空けずの観劇。
最初は、殺伐とした殺し屋銀次といった感じで、勢いがあって怖さのあるキャラクターなのだが、落雷によって半兵衛と入れ替わってしまってから、間の抜けた感じの演技をされるのがとてもギャグ要素強めで最高だった。特に面白かったのは、入れ替わってから人斬り朝吉に出くわして戦う羽目になったシーン。中身は半兵衛で、半兵衛は人を殺したことがなかったので刀に怯える始末。そこをギャグ的に描く、そして早乙女さんもそういった腰抜け的な役を演じられていて、そこのギャップがとても面白かった。
早乙女さんは、たしかに凛々しいオーラなのだけれど、腰抜けキャラをやろうと思えばやってしまうキャラクターの柔軟性が本当にすごい。
そして殺陣シーンも見事だった。さすがは、劇団朱雀で培ってきた殺陣スキルが活かされているなといった所だった。ぜひ、劇団朱雀も近いうち観てみたいなと思った。

次に、人斬り朝吉役を演じた早乙女友貴さん。早乙女友貴さんの芝居は初めて拝見する。
早乙女友貴さんは、早乙女太一さんの弟さんということで、友貴さんの初めての芝居を早乙女兄弟という形で拝見できて本当に良かった。
キャラクター的には、太一さん演じる銀次は凄腕でスター性もあるが、朝吉の方はいつも笠を被っていて衣装も黒くてどちらかというと忍びのようなイメージがあった。そんな対照的な二人だが、武術はどちらも引けを取らないという設定が良い。そこもシーンとして、どちらかがどちらかを討ち取るのようなシチュエーションにはせず、ラストまでどちらも生き残って終わる感じがまた良い。
早乙女友貴さんも、劇団朱雀で観てみたいなと思わせる演技と殺陣シーンだったので、またお目にかかりたいと思った。

今作で特に注目したキャストは、神降ろしのみさき役を演じる乃木坂46の久保史緒里さん。久保史緒里さんの演技は、2021年6月に拝見した舞台『夜は短し歩けよ乙女』以来2度目。本当は、2022年9月にPARCO劇場で上演された『桜文』で、久保さんの時代劇ドラマのヒロインを観たかったのだが見逃してしまった。
改めて久保さんが舞台俳優として演技が上手いことを痛感した上で、今作では歌のうまさにも魅了された。今作は前述した通り、大きく3つほど歌のパートがあり、歌は全てソロで久保史緒里さんが歌い上げるといった感じ。透き通るような歌声が響き渡って、演技も出来るしアイドルも出来るし歌手にもなれるし凄いなと久保さんの才能につくづく感服した。
みさきというキャラクター設定としては、占い師という立ち位置で他の登場人物とはちょっと異質な存在、彼女が半兵衛と銀次の入れ替わりと関係があるのかもしれないが、明確には確か言及されなかった。結局みさきは半兵衛の娘ではないのだが、最終的には半兵衛の中身の銀次が八百八町を救い、みさきが彼を父のような存在と崇める。その心情の変化が好きだった。
そしてラスト、外見は銀次の中身が半兵衛の男が去っていく時、リアルに涙しながら叫ぶみさきの姿に本当に心動かされた。ここまでラスト胸動かされるストーリーだとは思わなかったので楽しめた。素敵な俳優さんだった。

もう一人、注目したいのが、こちらは半兵衛の実の娘である早風のいぶき役を演じた山本千尋さん。山本さんは、大河ドラマ『鎌倉殿の13人』やNetflixドラマ『今際の国のアリス season2』で演技を拝見していたのだが、特に『今際の国のアリス season2』では、戦闘シーンでの活躍が目覚ましく、今作は時代劇で且つ殺陣シーンが多い舞台なので、きっと素晴らしいものが見られるに違いないと、山本さんの演技を特に殺陣シーンで期待していた。
山本さん演じるいぶきは終始格好良かった。殺陣シーンとか抜群に映えていた。特に、甲斐守と金杉を討ち取るシーンの殺陣は本当に格好良かった。私個人的な山本さんのこんな芝居が観たいの欲求を満たしてくれた。
あとは、いぶきというキャラクター自体が、非常に正義感が強い存在というのも好感が持てたポイント。序盤で「引導屋」の家来たちが銀次に殺されてしまい、その仇を討とうと動き出す正義感の強さと逞しさが好きだった。

あとは、「劇団☆新感線」の劇団員である粟根まことさんが演じた明神甲斐守忠則も好きだった。粟根さんは、最近だと2021年2月に上演された悪い芝居の『今日もしんでるあいしてる』で演技を拝見している。
「好き」を連呼する、いわば殿様的なほのぼのとしたキャラクターが好きだった。きっと終盤では殺されてしまうキャラクターだろうなと思いながら観ていたが、いざいぶきに殺されるシーンになるともっと観たかったなという気持ちにさせられた。

写真引用元:劇団☆新感線 公式ブログ


【舞台の考察】(※ネタバレあり)

ここでは、久しぶりに「劇団☆新感線」を観劇しての感想をつらつらと書いていこうと思う。

正直ここまで楽しめるとは思っていなかったというくらい、今作に大満足した。決してストーリーは難しくないし、元禄時代が舞台の勧善懲悪な話なのだけれど、殺陣あり、歌あり、ギャグありとエンタメ要素オンパレードで、それらがどれも完成度高く、センスも抜群だったので存分に堪能出来た。
それだけでなく、今回の物語は設定が上手かったと思う。性格が正反対の半兵衛と銀次が入れ替わってしまうという設定を入れることによって、半兵衛演じる古田さんの怖い演技と面白い演技を両方観ることが出来る満足感、そして銀次を演じる早乙女太一さんの殺し屋としての格好良さと、一度も人を殺したことがないというヘタレさの両方を描くことができて、これは凄く面白い脚本になるよなあと感じた。そしてその設定も上手く活かして、脚本をしっかりと面白い方に持っていっていたし、その上で役者も際立たせられて非常にただただ上手い設定だったなと感じた。

以前『けむりの軍団』を観劇した時は、たしかに国と国との合戦の物語だった記憶があって、たしかにスケールは大きかった気がした。しかし、それは「赤坂ACTシアター」という「THEATER MILANO-Za」よりも大きなキャパだから出来たことだったのかもしれない。今作は、事前に「THEATER MILANO-Za」といういつも「劇団☆新感線」がやっている公演よりは小さな劇場でやることが決まっていたから、国と国の合戦というよりは、もっとスケールの小さい殺し屋の話に帰着したのだと公演パンフレットには一部書かれていた。
公演パンフレットには、これ以外にも、どうして今回のような設定の物語を描こうとしたのかや、元禄時代を時代背景に設定した理由、当時の元禄時代の文化や暮らしについても書かれているので、ぜひパンフレットを買ってご覧になってほしい。

今作の物語のベースになっているのは、池波正太郎さんの世界観である「必殺シリーズ」。私は、「必殺シリーズ」に関しては一度も観たことはなく、ただそういったシリーズの時代劇があるというくらいしか知らなかった。だから、「必殺シリーズ」のオマージュが今作には沢山詰め込まれているらしいが、そういったものには全く気が付かなかったし、パンフレットを読んでもイマイチピンとくることはなかった。
しかし、こういった時代劇を観ているとここまで面白く感じられるのは、どこか自分も昔作品を楽しんでいた原点が、こういった時代劇にあったからなのかもしれない。「水戸黄門」や「暴れん坊将軍」などは小さい頃よく観ていたので、内容ははっきりとは覚えていないが、そういった時代劇に親しみがあったから、今作も楽しめたのかななんて思った。

あとは、あまり時代劇ということについて深く考えてこなかったが、たしかに殺し屋のようなスケールの小さい物語があれば、国と国との合戦のようなスケールの大きものもあるしと、時代劇の中でもジャンルがあるよなと感じた。そのジャンルによっても、作品への感じ方って全然違うよなと思った。
また、江戸時代の文化や習わしを知らないとずんなり入ってこない設定も複数存在する。たとえば、口入れ屋という職業が江戸時代にあったことは知らなかったし、彼らが町でどのくらいの権力を握っているのかも知らなかった。また、易占いに代表される占いも登場するが、江戸時代の人々にとって占いがどれだけ重要なものだったのかも色々と知らなかったので勉強になった。

時代劇は、勧善懲悪でストーリーはわかりやすい構造になっているから有難いが、役職だったり時代背景を理解しているとさらに理解も深まると思うので、そういった教養を身につけられて良い観劇体験となった。
また、時代劇にもジャンルがあって、それぞれどういった時代劇に影響を受けているかによっても色が違うので、もっと時代劇の名作とも言われる作品(「清水次郎長」「大岡越前」「水戸黄門」「暴れん坊将軍」「鬼平犯科帳」「忠臣蔵」「赤穂浪士」など)を沢山知って知識をつけたいなとも思った。

写真引用元:劇団☆新感線 公式ブログ


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