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舞台 「九十九龍城」 観劇レビュー 2022/01/08

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【写真引用元】
ぴあ関西版WEBTwitterアカウント
https://twitter.com/pia_kansai/status/1461621453791514630/photo/1


公演タイトル:「九十九龍城」
劇場:本多劇場
劇団・企画:ヨーロッパ企画
作・演出:上田誠
出演:石田剛太、酒井善史、角田貴志、諏訪雅、土佐和成、中川晴樹、永野宗典、西村直子、藤谷理子、本多力、金丸慎太郎、早織
公演期間:12/18(滋賀)、12/23〜12/26(京都)、1/7〜1/23(東京)、1/26(広島)、1/28〜1/30(福岡)、2/3(愛知)、2/6(富山)、2/11(高知)、2/13(愛媛)、2/19〜2/20(大阪)、2/26(神奈川)
上演時間:約120分
作品キーワード:コメディ、SF、舞台美術
個人満足度:★★★★★★★☆☆☆


京都を拠点に活動を続けるコメディ劇団「ヨーロッパ企画」の新作公演を観劇。
ヨーロッパ企画は、2018年に「サマータイムマシン・ブルース」の再演を観劇して以来3年半ぶり2度目の観劇となる。

今回の舞台作品は、ヨーロッパ企画の主宰であり脚本・演出を務める上田誠さんが公演パンフレットで書いていたように、現状劇団が持っている力を出し切ったらこんな感じであるといった、いわばヨーロッパ企画の王道を行く作品だった印象。

物語は香港の街中にある魔窟「九十九龍城(きゅうじゅうくーろんじょう)」が舞台で、セントラルビル爆破の犯人を探そうとヤン(中川晴樹)とリー(金丸慎太郎)という2人の刑事が、この「九十九龍城」へ捜索にあたるというもの。
この魔窟と呼ばれる「九十九龍城」がとにかく治安の悪いエリアとなっていて、訪れる旅行客は出てくるときには骸骨なっているというくらい、全てのものを「九十九龍城」の住人に持っていかれるヤバい設定になっている。
そのため、2人の刑事も危険すぎてなかなかこの「九十九龍城」に立ち入ることが出来なかった。

そしてこの「九十九龍城」の世界観がまるで「ブレードランナー」のようなディストピア系SFに近く、小汚い雑居ビルがひしめきネオンが光り輝く、まるで軍艦島に人々が住んでいるようなそんな世界だった。

またそこで巻き起こる数々の住人たちのトラブル、諍い、事件が本当に面白くて120分間全く飽きさせない内容となっていて素晴らしかった。

17年ぶりにヨーロッパ企画の新劇団員として、藤谷理子さんが入団されて今作に出演していたが、彼女の存在感と演技力に釘付けになるくらい素晴らしかった。
劇中でも彼女の役はかなり重要であったこともあり、彼女の存在はヨーロッパ企画の作品に良い意味で影響を与えていたと思う。

まさにヨーロッパ企画の舞台作品を観劇したという感覚を味わえるくらい、ディストピア風なSFの世界観と映像、そしてヨーロッパ企画ならではのコメディが展開される素晴らしい作品だった。
多くの人におすすめしたい。

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【写真引用元】
ステージナタリー
https://natalie.mu/stage/gallery/news/458391/1726878


【鑑賞動機】

上田誠さんの演出作品は、3年半前(2018年)の「タイムマシーン・ブルース」の再演と昨年(2021年)6月の「夜は短し歩けよ乙女」の2回を観劇しているが、どちらも舞台作品として素晴らしかったので、また上田さんの舞台作品を観たいと思っていた。
そして今回、ヨーロッパ企画の観劇は久々となる上新作公演ということで観劇することにした。2022年の観劇始めにも上田さんのコメディ作品はもってこいだと思った。


【ストーリー・内容】(※ネタバレあり)

映像で香港の高層ビルの夜景が映し出される。その片隅にある一風変わった建物が「九十九龍城」。セントラルビル爆破の犯人を追うべく、香港市内で怪しい人物が沢山潜んでいるであろう「九十九龍城」に目を付けた2人の刑事ヤン(中川晴樹)とリー(金丸慎太郎)は、双眼鏡で「九十九龍城」を監視し始める。

大きな看板の所に、3つの段が存在し、それぞれに住人がいた。看板の一番下に住む看板民(永野宗典)は、看板の真ん中の段に住むパーカーの看板民(石田剛太)の音楽がうるさくて寝付けず、彼のスマホを奪ってしまった。それによって2人の看板民は争うことになり騒がしくなる。周囲から人も集まってきた。パーカーの看板民は怒りのあまり、一番下に住む看板民を下へ突き落とそうとする。
そこへその騒然となった看板の元へ一人の女性(藤谷理子)がやってきて、「うるさいよ!」と叱りつける。そして、その元凶となっているパーカーの看板民のスマホを取り上げてoffにして持っていってしまう。これで一番下に住む看板民は突き落とされずに住んだかと思ったが、何を考えたのか彼は下へ飛び降りて死んでしまう。
刑事2人はその一部始終を双眼鏡で実況しながら覗き見ていたのだった。

オープニング映像が流れる。まるでRPGゲームのようなネオン輝くSF世界が映し出され、キャストクレジットが流れる。

朝、引き続きヤンとリーは「九十九龍城」の監視を続ける。
看板民の元に大家(早織)がやってきて家賃を払うように促してくる。パーカーの看板民は家賃を払ったが、一番上の段に住む看板民(土佐和成)は一向に起きず家賃を払おうとしない。大家はディスクグラインダーのようなもので看板民が住んでいる段を切断しようとする。慌てたパーカーの看板民は、上に住む看板民の分まで家賃を払う。
大家は去るが、するとパーカーの看板民の方へ建物の窓から臓物が降ってくる。
刑事たちは何だろうと思い、今度は臓物が降ってきた建物の中を覗く。

そこには、豚を捌く夫婦(諏訪雅、西村直子)がいた。そして捌いた豚をどうやら火にかけてチャーシューにしているようであった。話を聞くに、そのチャーシューはリッツやミシュランといった高級レストランに提供するらしく、「食品衛生証明書」などの話をしている。
またこの夫婦は仲が悪いらしく、この暑苦しい環境への不満だったりと口喧嘩が絶えなかった。また妻は赤子をおんぶしながら仕事をしていて、赤子が泣き始めると夫が「豚豚人間」といないいないばあをやってみせるのだった。
そこへサプライヤー(本多力)がやってくる。サプライヤーは陽気なテンションで入ってきて、肉屋夫婦に煙たがれる。そしてサプライヤーは妻を口説こうとしてくるが、妻は一切相手にしなかった。

その時、別の場所では外で太極拳をやっている若い女性(藤谷理子)がいた。そちらに視線を移す刑事たち。彼女は干された洗濯物が邪魔そうであった。
そこへ先ほどの大家が現れる。大家は口うるさくその若い女性のことを色々と叱りつけていたが、そこには心配する気持ちが現れていて愛を感じた。若い女性は郵便夫(永野宗典)から手紙を受け取る。
大家は若い女性にお菓子の差し入れを出す。

刑事2人は、先ほどの肉屋夫婦がいる建物の下の階に双眼鏡を移して覗くと、そこにはギーク(酒井善史)とばあさん(角田貴志)と出稼ぎ男(永野宗典)がおり、ギークが何やら指図を出してばあさんと出稼ぎ男に労働させてモノを作らせていた。話し声を聞くに、彼らは徹夜でずっとその作業をさせられていたらしく、出稼ぎ男が文句を言っている。しかしギークは間に合わないと急かして働かせている。
そこに置かれていたハコを見ると、何やらアップルが齧られたロゴではなく、パイナップルが齧られたロゴが書かれている。これはアイフォンのパチモンだと気がつく刑事たち。ギークたちはパイフォンを製造していた。ばあさんは黙々と作業をこなしていて速い。
そこへ摘発らしき人がやってくる。ギークたちは慌てる。ばあさんは慌てすぎて、今まで作ってきたパイフォンを窓から投げ捨ててしまう。しかしやってきたのは摘発ではなく、彼らの知り合いのブローカー(石田剛太)だった。
ブローカーはやたらと出稼ぎの男に絡んできて彼の頭を執拗に触る。

夜になる。リーは犯人の捜査という名目ではなく興味本位でもっと「九十九龍城」を覗きたいと言い出し、別の建物の屋内を覗く。
そこでは、3人の男(本多力、諏訪雅、永野宗典)が小パブのような場所で楽しんでいた。そこへ踊り子スー(藤谷理子)がやってくる。彼女は巨大なミラーボールを邪魔そうにしながら踊りを踊って披露した。男のうちの一人は服を脱ぎ始めた。
そこへ地下からモグラ(石田剛太)と思しき男が現れる。モグラは客が踊りを楽しんでいるうちに客に対してスリを働く。客は気づいていないようである。客のうちの一人が踊り子に指名されて踊り子と一緒に消える。残された2人の客はようやく私物が無くなっていることに気が付き、お互いを疑い喧嘩を始める。しかし結局盗みの犯人は踊り子に連れて行かれた客だろうと思ったらしく、彼らはその場を後にする。そうではないのに。

刑事たちは、さらにその小パブの上のフロアを覗く。
そこでは、男女4人(角田貴志、酒井善史、早織、西村直子)で麻雀をやっていた。男のうちの一人が急に拳銃を突きつけてくる。もう一人の男も突きつける。しかしその脅しは冗談だった。そんな脅しを女性2人も交えてやり合う。
そこへ出前の男(永野宗典)がやってくる。丁度そのタイミングが、男女4人がふざけあって拳銃をお互い突きつけている最中だったのでビビってしまう。でも冗談だとなだめる。
そこへ2人の男性(本多力、諏訪雅)がやってきて、彼らは男女4人にまぎれていたマフィア(酒井善史)の手下で、出前の男を射殺してしまう、何度も、もう死んでいるのに。
その状況を、踊り子のスーは下のフロアで盗み聞きしていた。その状況をモグラも見ていた。この小パブにいたモグラはマフィアと繋がっており、踊り子のスーが盗み聞きしていたことをマフィアも知ることになる。そして小パブにマフィアたちが乗り込んでくる。踊り子のスーが外へ出ようとしても通さない。
マフィアに拳銃を向けられるも動じない踊り子のスーを見て、彼女は随分と肝が座っていると感心したマフィアは、彼女に絶対に先ほどのことを人に話すなと約束させて逃がす。

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【写真引用元】
ステージナタリー
https://natalie.mu/stage/gallery/news/458391/1726879



朝、刑事のリーは「九十九龍城」へ潜入し、看板の所に住みたいと大家に申し出る。その様子を見た刑事のヤンは、「九十九龍城」へ入り込むでないとリーを遠くから叱りつける。
看板元の3つの段の一番下を借りたリーは、パーカーの看板民の音楽がうるさくて苛立ち、スマホを奪って、パーカーの看板民に下に突き落とされそうになって、この前と同じ状況になる。若い女性が出てきてスマホを奪って音楽を消す。この前と同じ展開に。

ヤンも「九十九龍城」へ向かい、リーに魔窟から出るように叱りつける。しかしリーは言うことを聞かない。「九十九龍城」の住人たちは彼らを怪しがる。
ヤンに向かって臓物が飛んでくる。肉屋夫婦が捌いた豚の臓物である。昨日同様に夫婦は口喧嘩をしており、そこへサプライヤーがやってきて妻を口説く。
太極拳を始める踊り子のスーは、郵便夫から手紙を受け取る。それはずっと探していた兄からの手紙だった。スーは喜ぶ。そこへ大家がやってきて、またやいのやいの言うがやはり愛を感じる。またデザートを差し入れる。
パイフォン製造部屋では、ギークの元でばあさんがせかせかとパイフォンを作っていた。そこへ新人のフリをしてリーが潜入する。ギークに言われてリーもパイフォン製造を始める。遅れてやってきた出稼ぎの男は、トイレに龍がいたと言う。しかし皆寝ぼけていたのだろうと相手にしなかった。
ブローカーがやってくる。リーの頭を執拗に撫でる。リーはいきなり核心を付くかのような質問をギークにしたことで、刑事なのではないかと疑われる。ばあさんはパイフォンを全て窓の外へ捨て去る。リーは捜索に失敗する。

夜、麻雀をやっていた男女4人の所へヤンは紛れ込む。お互い拳銃を突きつけながら脅し脅されを繰り返す。
一方小パブにはリーが客として紛れ込んで、踊り子スーの踊りを楽しんでいた。そこへモグラが現れてリーの財布などを盗んでいく。モグラを取り押さえるリー。しかし、結局セントラルビルの爆破の犯人のことについて手がかりは得られなかった。
リーは看板の所へ戻ると、一番上の段に住む看板民に、「お前は主人公みたいな奴だな」と言われる。

リーはヤンに、お前は何をやっているんだと叱られる。これでは自分たちが刑事だとバレてしまうだろう、危険だろうと、何もかも失敗じゃないかと。リーは若いうちにチャレンジしないとヤンのようにはなれないと言う。ヤンだって若い頃はそうやって無茶をしただろうと。
リーは踊り子のスーに近づき、俺は刑事だとバラすが「知っている」と答えられる。スーが兄を探しているということを聞いていたので、リーは必ず兄を探して救ってみせると約束する。

そこへギークが現れて、刑事さんたちには特別に「九十九龍城」のことを教えてやろうと言う。
彼の話では、この世界というのは宇宙も含めて全てプログラミングされており仮想空間であるということ、そして「九十九龍城」はその仮想空間のバグとなっているエリアで、壁をすり抜けることが出来たり、瞬間移動出来る場所があるという。スーの兄は、そんな壁をすり抜けられる場所を体を壁に擦り付けながらずっと探していた。しかし、ある時壁に入り込んでしまってから行方が分からなくなってしまったのだという。
刑事たちはギークの話についていけてないようだった。

そこへ龍が登場する。龍は「九十九龍城」の住人を食べていく。出稼ぎの男がトイレで見た龍は幻ではなかった。
その時、一番上の段の看板民はライトセーバーのような光り輝く剣を取り出し、龍を退治していく。彼は、自分がこの世界の主人公で他の人々は皆モブだと叫ぶ。
皆で至る所から登場する龍に攻撃を加える。そして、最後は看板民の聖剣による一撃で成敗する。
しかし成敗した矢先に看板民はいきなり意識が抜けたかのように動かなくなってしまう。誰かがゲームで彼をアバターとして扱っていたのだろう。そして課金のし忘れで動かなくなってしまったと皆は推測する。

刑事たちは全くついていけてない。
そこへ男の人の声が聞こえる。スーはそれは兄の声だと叫ぶ。実は兄は、近くの壁にずっと挟まったままでいた。一堂はそれに気が付かなかった。兄(本多力)が壁に挟まった状態の姿が一堂の目の前に現れる。
しかし大家はその事実を知っており、彼と結婚していた。だからスーに対して愛情があった。
しかし、どこからか拳銃の音がして兄は撃ち殺されてしまう。マフィアの仕業だった。マフィアはスーも撃ち殺そうとするが、郵便夫が庇って彼が死亡する。リーも撃ち殺そうとするが、パーカーの看板民が庇って死亡する。
皆マフィアを恨むが、そこへ突如現れたスライムの大群によってマフィアは命を落とす。

スーは、リーを裏切り者扱いする。兄を助けてみせると約束しておいて全然助けられなかったじゃないかと。
そこでリーは目を覚ます。看板の一番下の段で眠っていた。全て夢だったのかと安堵する。「九十九龍城」では、豚を捌く肉屋の夫婦は今日も仕事をしており、パイフォンというパチモンも製造されていた。ここで物語は終了。

ヨーロッパ企画らしい脚本、本当に中だるみを全くさせずに飽きさせない物語で素晴らしかった。
「サマータイムマシン・ブルース」でもそうであったが、全く同じシチュエーションを繰り返すというのがヨーロッパ企画の王道のストーリーの持っていき方なのだろうか。同じシチュエーションを繰り返すからこそ、またあのシーンが来るという観客の期待に効果的に上手く答えている気がして結局展開は読めているのに笑ってしまう。
結局最後は夢落ちかよと思ってしまう所だけれど、ヨーロッパ企画のこの脚本ならそれもアリだとなぜか納得してしまう。話がまとまっていなくても面白かったと満足してしまう、そんな作品に感じた。

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【写真引用元】
ステージナタリー
https://natalie.mu/stage/gallery/news/458391/1726880


【世界観・演出】(※ネタバレあり)

舞台の世界観も本当に素晴らしかった、まさにヨーロッパ企画が舞台にしそうな世界観だった。「ブレードランナー」のようなディストピア風SFの世界にコメディ要素が満ち溢れていて、こんな作品は絶対ヨーロッパ企画でないと創作出来ないだろう。
舞台装置、映像、照明、音響、その他演出について見ていく。

まずは舞台装置から。
軍艦島に「ブレードランナー」のディストピアっぽさを足したような、薄汚くて荒廃していてでも近未来感のある舞台装置だった。
上手側と下手側にそれぞれ2階建ての雑居ビルのような舞台装置が建っており、舞台中央にはネオンぽく輝く縦長の看板と共に上・中・下と3つの段が建物と看板に付随して付けられていた。勿論、大家が家賃取り立てに来る看板である。
下手側の建物は、2階部分が肉屋夫婦のいる空間、1階部分がパイフォン製造室となっていた。また、劇中序盤ではこの2つの部屋は大きな扉で締め切りになっており、そのシーンが初めて登場する時になってその扉が開かれるという仕掛けになっていた。
上手側の建物は、2階部分が麻雀をする空間となっていて、1階部分がモグラが潜む小パブとなっていた。こちらも下手側の建物同様に、初登場するシーンまでは大きな扉で締め切りになっていた。上手側の建物の手前にはベランダが存在し、踊り子のスーが太極拳をするスペースが存在する。
またステージ手前側には、何か別の建物と思われるビルの屋上のようになっていた。基本的にそこに大家さんがやってきて住人に話しかけていた。
さらに、下手側の建物の2階部分の下手側にスーの兄が挟まっていた壁がある。物語終盤まではシートにかけられていた。
舞台装置は全体的に茶色く薄汚れていて、まさに軍艦島の壁面のような色をしていた。荒廃した治安の悪い世界を感じさせる。

次に映像。オープニングとエンディングだけでなく、劇中でも至るところに映像が使われた。
まず開演直後から舞台には巨大なスクリーンが手前に下がっていて、そこに香港の夜景や「九十九龍城」が映像として流れた。
オープニングは、公演のフライヤーにもなっているRPGゲームのような世界観に、キャストのクレジットがネオンのように光り輝くもので、それだけでも何度でも見たくなってしまうほど見応えのある映像だった。
また、なんといっても物語終盤の方で登場する龍が動く映像は迫力があった。役者が映像に合わせて龍を攻撃して龍がダメージを食らう映像も息がぴったりで格好良かった。
さらにプロジェクションマッピング的にスライムが「九十九龍城」に大量に現れた映像も印象に残った。
エンディング映像も好きだった。スクリーンが透明なので、舞台上で役者が演じている光景とエンドクレジットが流れていく感じが映画っぽさがあって好きだった。

次に舞台照明。
舞台照明は、基本的に夜の時の照明か、昼間の照明かの違いだけだった気がする。派手に何色もの色彩を使って舞台をカラフルに仕立てる演出はなかった記憶。
ただ印象に残ったのは、舞台中央にある看板がネオンのように赤く輝いたシーンが一回だけあって、その演出は凄く格好良かった、というかエモかった。序盤からずっとこの看板はネオンのように輝くのだろうなと期待していたので、その期待を裏切らない演出に心から拍手した。

そして舞台音響。
今回の舞台ではバンドのキセルが音楽を担当しており、どうやらヨーロッパ企画の舞台音楽を担当するのは5年ぶり2回目らしい。
キセルはくるりや斉藤和義のサポートメンバーとしても活動している(wikipediaより)らしく、たしかに曲の感じとか似ているなという印象。凄くダサい曲調なのだけれど、この荒廃した世界観にはぴったしでノスタルジーを感じる。
私が特に好きだった楽曲はエンディング曲。あの寂れた感じがエモくて好きだった。Apple Musicで聞けるようになったらダウンロードしたい。
またSE(効果音)も良かった。拳銃の「バーン」という音、ディスクグラインダーの音、龍の鳴き声、スライム、全てがゲーム的で好きだった。

最後にその他演出について。
ヨーロッパ企画の舞台特有であると思うが、小道具を上手く使って笑いに変えている演出が上手いと思っている。例えば、小パブのミラーボールが大きかったりとか、パイフォンのハコとか、ディスクグラインダーで鉄筋を切断しようとする演出とか、そういった小道具を使って視覚的に笑いを誘う演出が凄く上手い劇団だなと思った。
あとはキャラクターが物凄く立っていて面白い。モグラの癖に容量悪いというか色々とやり口が下手だったり、ばあさんがすぐに頑張って作ったパイフォンを捨てちゃったり、看板民・上が自分が主人公とか言っといて課金切れになって止まってしまったり、サプライヤーがテンションの高いラッパーみたいだったりと、キャラクターとして確立した上でしっかりと面白い役に仕上がっているので素晴らしいと感じた。
また舞台装置をまるで遊具のように役者が遊べる余地を沢山作っているというのも印象的。郵便夫が梯子を降りてはけて行ったり、パーカーの看板民と結局飛び降りて死んでしまった看板民が落とされそうになったりなど、装置を上手く使って遊ぶというのも凄くモノを活かして芝居を作っている感じがあって好きだった。

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【写真引用元】
ステージナタリー
https://natalie.mu/stage/gallery/news/458391/1726882


【キャスト・キャラクター】(※ネタバレあり)

どのキャストもキャラクターとして大好きだったし、芝居も上手かった印象だったが、ここでは特に印象に残ったキャストをピックアップして紹介する。

まずは、刑事役を演じたヤン役の中川晴樹さんとリー役の金丸慎太郎さん。とにかくこの刑事の上司と部下のコンビが絶妙に良い。
物語前半は、ずっと音声で彼らの台詞だけが聞こえていて、観客はこの2人の刑事と一緒に「九十九龍城」を覗き見しているというシチュエーションになるのだが、この時の彼らの掛け合いが好き。リーが若気の至りで調子の良いことを言ったりするのを制するヤンさんとか、この人間関係が好きだった。
そこからの勝手に「九十九龍城」へ出かけてしまうリーである。冒険心旺盛なリーと、年老いて少し冷静になっているヤンの絶妙なバランスが本当に好きだった。リーは、「ヤンも若い頃はそういう無茶をして成長したんでしょ、なら自分にもさせてくれ」って言うあたりとか好き。ナメてんのかってヤンの立場になったら言ってしまいそうだが、それでもなんだかんだヤンも「九十九龍城」まで出向いて、そしてうかつにもリーと同じように刑事丸出しで正体バレバレになってしまっている点が似ている者同士として感じて上司・部下愛を感じた。

次に、今作で一番素晴らしかったと思った役者が、踊り子スー役を演じた藤谷理子さん。彼女の演技を拝見するのは、2021年6月観劇の「夜は短し歩けよ乙女」以来2度目。
藤谷さんは17年ぶりのヨーロッパ企画の新劇団員であり、劇団員になって初めての出演公演である。
本当に彼女の演技は、他の出演メンバーにはない魅力を沢山持っていて、というか若い女性の少ない座組なのでそうなりがちではあるが、その魅力を存分に発揮した演技となっていた。
あのパーカーの看板民にキレる感じ、兄のことをずっと探し続けている兄弟愛、マフィアにも動じない肝の座った逞しさ、全てがキャラクターとして魅力的で好きだった。そして、あのちょっと甲高い声色でツンツンした演技をする感じも好きだった。
前説も音声で藤谷さんがなさっていたが、あの導入の感じも好きだった。まだ開演はしていないけれど、ちょっと作品に足を突っ込んだ感じの前説。「魔窟は臭いからマスクは着用で」とか「笑いは魔窟の住人も大歓迎」とか、そういう演出が凄く良かった。
劇団員になってすぐにそういう役をやらせてもらえるって、相当藤谷さんはヨーロッパ企画のメンバーに可愛がってもらってるのだろうなと想像したり。まあ、17年ぶりの新劇団員で女性キャストだから当然かなとも思えるが、とにかく良かった。

大家役を演じた早織さんも非常に好きなキャストさんだった。
「夜は短し歩けよ乙女」でも出演はされていたのだがあまり印象に残っておらず、ただ今回の作品では非常に印象的なシーンが多かった。
あの家賃を請求してくる感じが非常に好き。そして払わないとディスクグラインダーで鉄筋を切断しようとする行為も。
また、踊り子のスーに対して非常に冷たくそっけない態度を取るように見えて、実は彼女のことを心配して面倒を見てくれている辺りも好き。結局大家はスーの義理の姉にあたると分かるのだが。良い存在感だった。

その他は、本多力さんが演じるサプライヤーのキャラクターは個人的に大好きで、登場する度に笑ってしまった。あのノリは凄く好きだった。
それと、パイフォンを製造する部屋で働く角田貴志さん演じるばあさんもとても好きなキャラクターだった。ばあさんなのにめっちゃ精密機械作ってバリバリ働いているという意外性と、摘発かと疑ったらすぐにパイフォンを窓の外へ捨ててしまう行為がツボだった。

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【写真引用元】
ステージナタリー
https://natalie.mu/stage/gallery/news/458391/1726881


【舞台の考察】(※ネタバレあり)

ここでは、私がこの舞台作品を観劇して思ったこと、感じたことをつらつらと記載していこうと思う。

私自身がヨーロッパ企画の舞台作品を沢山観てきた訳ではないけれど、公演パンフレットで上田さんが今回の作品がヨーロッパ企画としての現状持っている力を出し切ったらこうだという作品だと語っていたように、物凄くヨーロッパ企画としての王道を行った感じの作品に感じた。
どういった点で王道を行く作品だと思ったかというと、要素としては5つある。

まず1つ目が映像を駆使した舞台作品であるということ。今作で言えば、オープニングとエンディングでしっかり映像が使われているということと、劇中でも度々映像が登場する。
その映像の使い方が、他の劇団でいったらナイロン100℃とかとは異なって、コメディ的というよりは異世界っぽさを演出するのに使っている印象を受けた。今回の世界観はRPGゲームとかディストピア系SFなので、そういった要素を取り入れた映像を上手く駆使していた点が、ヨーロッパ企画風かなと思った。

2つ目にSF要素が強めの舞台作品という点にヨーロッパ企画らしさを感じた。
「サマータイムマシン・ブルース」もやはりSF要素のある舞台作品だった。タイムトラベルしたりと。今回もある種「ブレードランナー」の世界観のようなディストピアSF要素が詰まっていて、この世界観がもうヨーロッパ企画らしいなと思ってしまった。この軍艦島のような魔窟は本当に見ただけでワクワクするし、こんな摩訶不思議な空間で何が起こるんだろう?と好奇心を駆り立ててくれる感じが、ヨーロッパ企画らしさかなと思った。

3つ目は工学系要素を多く詰め込んだ内容になっている点である。今作でいうと具体的には、この世界は仮想空間でプログラミングされていてという下りである。
凄く情報科学的な要素が盛り込まれていて、そういった知的好奇心を満たしてくれる内容になっているという点もヨーロッパっ企画らしさかなと感じた。

4つ目は、作り込まれた舞台装置である。「サマータイムマシン・ブルース」でも大学のサークル部屋をしっかりと作り込んでいたが、今作の舞台装置としてのダイナミックさやクオリティは非常に高いものであった。
そしてその舞台装置を使って役者たちが遊び回るというのも面白い要素だった。舞台だからこそ出来ることを詰め込んだ感じがしていて素晴らしかった。こういったご時世もあって、ヨーロッパ企画自身も映画やYoutubeチャンネルといった映像作品への参入が近年では目覚ましかったが、そことは一線を画して「舞台ならでは」を詰め込んだ作品として出来上がっている点が凄く良かった。その「舞台ならでは」の要素で外せないのがこの舞台装置だったと思っている。

最後5つ目は、やはりヨーロッパ企画ということなのでコメディ要素である。ヨーロッパ企画のコメディは何コメディと言ったら良いのか分からないが、あの独特の会話と面白さがある。登場人物に皆個性があって、それぞれ何かしらでぶっ飛んでいて、それらが交わることで次々とテンポよく面白いことが起こるみたいな。そんな面白さがある。
それに加えて、小道具や舞台装置を絡めたコメディも特徴的。視覚的にも笑わせてくれる内容でヨーロッパ企画ならではの面白さだと思う。

そういった5つの要素が全部この舞台作品には詰まっていて、それらによってヨーロッパ企画としての王道をいく作品だと感じられたんだと思う。
最近では映像方面での露出も多かった劇団だったので、こうやって演劇としてこの団体の作品が観劇出来たことは嬉しかったし、これからも応援していきたいお気に入りの劇団の1つである。


↓上田誠さん過去演出作品


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