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フルリモート演劇 「不本意アンロック/水色アルタイル」 鑑賞レビュー 2021/02/28

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【写真引用元】
HKT48公式Twitter
https://twitter.com/hkt48_official_

公演タイトル:「不本意アンロック」
劇団:劇団ごりらぐみ
劇場:フルリモート
脚本:豊永阿紀
演出:下野由貴
出演:秋吉優花、今村麻莉愛、神志那結衣、堺萌香、松岡はな、松井健太
公演期間:2/20〜2/28
上演時間:約90分
作品キーワード:オンライン演劇、近未来SF、伏線回収
個人評価:★★★☆☆☆☆☆☆☆

公演タイトル:「水色アルタイル」
劇団:劇団ミュン密
劇場:フルリモート
脚本:石安伊
演出:田島芽瑠
出演:上野遥、運上弘菜、松岡菜摘、石橋颯、村上和叶、上谷圭吾
公演期間:2/20〜2/28
上演時間:約90分
作品キーワード:オンライン演劇、青春群像、アイドル、高校生活
個人評価:★★★☆☆☆☆☆☆☆


劇団ノーミーツ監修の元、HKT48のメンバーがオンライン演劇の役者、演出、脚本から企画・プロデュース、裏方まで全て自分たちで作り上げる企画「HKT48、劇団はじめます。(略して劇はじ)」ということで、HKT48のメンバーがごりらぐみ、劇団ミュン密という2つの劇団を旗揚げしてそれぞれオンライン演劇作品に挑んだ。
結論を言ってしまうと、10代後半の女の子たちがこれだけのオンライン演劇を企画・プロデュースするっていうのは驚いた。勿論プロの演劇と比較すると脚本的には凄く浅かったり、色々不十分ではあるのだが、初の試みとしてはよく出来ていると思う。彼女たちもHKTなんて所詮アイドルでしょ?と思われたくないという強い気持ちを持って昨年11月から活動してきた訳で、色々と苦悩もあっただろう。ただそれが最後に実を結んでいる感じがする。
「不本意アンロック」の方は劇団ノーミーツの過去作品「むこうのくに」に近いテイストになっており、未来に開発される「NMT」というソーシャルネットワークが良い形で開発されるように、未来人が現在の私たちに過去を変えるよう助言するストーリー。
「水色アルタイル」は、コロナによって高校最後の1年間もオンラインになってしまった女子高生たちがアイドルを目指す青春革命劇。
どちらも異なるテイストで、UIデザインや映像など不器用ながらも試行錯誤が様々にされていて凄くフレッシュさを感じた。今後もっと成長してもっと素晴らしい作品を創る足がかりとなってほしいと思った企画だった。

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【鑑賞動機】

HKT48がオンライン演劇を始めると聞いて、最初どんなものなのだろうと訝しんでいたが、劇団ノーミーツが監修という点と、当公演の感想ツイートから絶賛の声も多かったので両方鑑賞することになった。


【ストーリー・内容】(※ネタバレあり)

ごりらぐみの「不本意アンロック」と、劇団ミュン密の「水色アルタイル」の2つがあるので、それぞれ分けてストーリーを触れていく。

「不本意アンロック」
半年前に事情があって仕事を辞め、家でほそぼそと暮らしていた後藤佳(堺萌香)は、ある日ネットからエニシ(松岡はな)という未来人と出会い、未来を変えるために過去にいる佳に手伝って欲しいと依頼される。そしてエニシから「しろやぎひつじ くろやぎひつじ」という暗号を受け取る。佳は郵便受けに、同じアパートの住人の栗内朔(松井健太)宛に、同窓会の通知が間違って佳の元に届いていることを確認すると、その通知を栗内の元へ届けてあげた。
すると再びエニシがネット上に出現し、同窓会の通知を栗内の元へ届けたことを感謝される。どうやらそれによって、栗内は同窓会に出席して仲違いしていた友人と仲直りをするのだとか。

今度は「星、花、夢」という暗号をエニシから受け取る佳、なんだろうと訝しみながらkimitubeという動画サイトを使って人気のない占い師kimituberの朱流セイル(秋吉優花)の元へ、セイルに占ってもらった佳は、今後の運勢は良い方向に向くと言われ、その鍵となるのは以前から繋がりのある人だと言われる。
するとまたしてもエニシが現れて感謝され、この後セイルは人気占い師のkimituberの鍵屋姫と出会い、コラボすることによって売れるのだとか。

エニシは佳に過去を変えてもらいたい理由を語る。エニシは未来に開発される「NMT」のチームの一員であり、「NMT」とは未来のソーシャルネットワークでユーザーが誹謗中傷をしたらAIが処罰するような徹底管理されたSNSのようなものだった。その管理体制の厳しさ故、ユーザーはみな当たり障りのないような薄いことしか発言することが出来なくなってしまった。
「NMT」をそのようなサービスにしたくないという思いから、過去を変えるためにエニシは佳の元にやってきたのだと。

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今度は「殻のなかにあるもの」という暗号を言い渡される。この暗号と先ほどのセイラにも言われた「以前から繋がりのある人」が気になり心当たりある人物として思いついたのは、半年前まで職場が一緒だった同期の安辺樹(今村麻莉愛)だった。
以前の職場で、仕事の出来た佳と仕事の出来ない樹は比較され、上司の田口によく叱られていた樹を佳はよくかばっていた。しかし佳は、仕事の出来ない樹をかばうことによって自分自身の株をあげようとしていたのではと思い、自分の存在が樹を苦しめるのではないかと考えた佳は、思いつめて退職することになった。

一方、樹自身も自分のせいで佳は退職したんじゃないかと思っており、自分が佳のことをよく思っていないなんてことはなかった。しかし、樹がSNSで繋がっていた暮井周(神志那結衣)は、佳は樹のことをよく思っていなかったから縁を切るのが正解だと言う。
樹からの電話に出ていなかった佳は、樹に電話をかけて半年前のことを打ち明ける。すると樹自身も佳のことを悪く思っていないと伝え、仲直りすることになる。佳は樹のSNSをみて気になっていた「濃密生卵」というアカウントについて尋ねる。その人に会いたいと。
樹は「濃密生卵」の正体である周を呼び出す。しかし、周は佳と樹が仲直りしていたことが気に入らなかったらしく怒って出ていってしまう。

佳と樹は、なぜ周が自分たちの仲直りがそんなに気に食わなかったのか考えたが分からず、占い師のセイルに占ってもらうことにした。
セイルは鍵屋姫とコラボするようになって人気度が急上昇し、身につけている物も豪華になっていた。セイルに占ってもらうと、どうやら周は以前仲違いした人がいるらしく、でもそれは周の勘違いであると言う。そして周が仲違いした人物は、佳の近くに住む人物で最近会っているということを告げられる。
佳はその人物が栗内朔であることを察し、周と朔を直接会わせることにする。
直接会って会話した周と朔は、周が自分の勘違いであったことを知り仲直りする。

ここでまたエニシが登場する。実はこの朔が、未来のソーシャルネットワーク「NMT」を開発する人物であり、彼の周囲の人間関係が解消されたことによって、非常に明るいSNSとして開発されるのだそう、めでたしめでたし。

職場の人間関係、SNSによる誹謗中傷といった社会問題を扱いながら、未来からやってきた人からの暗号を受け取って過去を変えるといったSF要素、そして佳と樹の友情といったバラエティ豊富なジャンルを詰め込んだ作品となっていた。
脚本としては展開が早くてどんどんストーリーが進むので結構のめり込める内容になっていたと思う。
ただ欲を言えば、かなりご都合主義な脚本構成で、展開が読めてしまう(例えば周の仲違いした人が朔だったり)ので、もう少し脚本としては厚みがあって欲しかったが、劇はじの初めての脚本としては丁度良いかも。

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「水色アルタイル」
令和3年4月、とある女子高校の3年生のクラス、黒田先生(上谷圭吾)はそろそろ受験生なのだし、今後の進路をしっかり考えるよう言う。クラスの針間るな(石橋颯)はHKT48のメンバーを目指して絶賛ダンスの猛練習をしていた。一方、るなと仲良しの三嶋リリカ(村上和叶)は、難関大学を目指そうと勉强を頑張っていた。
同じクラスの小野舞夏(上野遥)は、ダンスが好きで続けていたが、それをSNSを使って発信するほどまでは力を入れていなかった。
同じクラスメイトの荒松希望(松岡菜摘)と夏木明(運上弘菜)は、希望はSNSを使って自分を売り出す活動をし、明は影ながら彼女を支えていた。

しかし、るながHKT48のオーディションの書類選考を通過して2時審査のレッスンをしている最中に、今年のHKTのオーディションがコロナにより中止になったと伝えられる。泣きじゃくりながら絶望するるなはそれ以来元気がなくなってしまった。
令和3年5月、今年の文化祭はオンラインで開催することになったと伝える黒田先生。オンラインでも文化祭でステージに立って生配信される企画があることを告げられる。
リリカはるなに、文化祭でダンスを披露しようと声をかけ、るなの元気を取り戻すことに成功する。

そこからるなのダンスユニットのメンバー集めが始まる。舞夏、希望、明に声をかけるも最初は皆乗り気ではなかった。しかし、るなの猛烈な押しに負けた3人は一緒にダンスを踊ってくれるようになりメンバーが集まる。
ユニットの名前は、その時るなが食べていた金平糖から「シュガースター」と名付ける。

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ダンスメンバーが揃ったものの、なぜかリリカが乗り気でないように見えた他のメンバーは、るながリリカにその理由を尋ねると、リリカが難関大学を目指している理由は親に強く言われているためであると分かる。るながリリカが本当はどうしたいか聞いても答えてくれなかった。その後、リリカが勉强をあまりしていないことを親に叱られている光景を耳にする。
るながリリカが乗り気でない理由が、親に厳しく難関大に行くように言われていることだと皆に伝えると、舞夏がリリカに声を掛けてみるということになる。

リリカと舞夏が2人で話す。舞夏ももともと親が厳しく、非常に窮屈な環境で過ごしていた過去があった。しかし、人生生きたいように生きたほうが自分が幸せになれることを伝える。その反動の結果、髪の色もピンクにしたのだと。その言葉に勇気づけられたリリカは、自分はダンスをしながら歌いたいんだと思い、本腰を入れて「シュガースター」の一員となる。

「シュガースター」が披露する楽曲が吹奏楽部と被ったので変更して欲しいと黒田先生から依頼される。るなは、この曲で必死でやってきたのに本番直前になって変更はおかしいと抗議するが、黒田先生は教頭が部活動でやっている吹奏楽部を優先すると言うので、どうしても変えて欲しいのだと渋々ながら告げる。
残り3日しかない中で、「シュガースター」のメンバーは一から楽曲を考え、踊りを考えて本番に望んだ。
そして最後に曲のタイトルを何にするかメンバー全員で考えた。あるメンバーが「水色」と叫ぶ。そして、空には満天の星空でアルタイルが光り輝く。タイトルが「水色アルタイル」に決まる。

文化祭当日、学校の体育館で「水色アルタイル」を披露する「シュガースター」。パフォーマンスは大成功に終わって終了。

そして、私が鑑賞した千秋楽は特別版として卒業式が導入されていた。卒業証書を胸に、黒田先生が熱い言葉をかけて涙のお別れをして終わる。

個人的には、青春真っ盛りなテーマで「それでも笑えれば」のように感情を揺さぶられると期待していたが、ちょっと90分ということもあり一つ一つのシーンがあっさりしていて感動できなかった。るながメンバーを必死で集めるシーンや、リリカが自分のやりたいことに打ち込めるようになるシーンとか、急遽楽曲を自分たちで創作するあたりとかがもう少し丁寧に描かれていると、最後の「水色アルタイル」のパフォーマンスで盛り上がったと思う。
千秋楽で卒業式のシーンを導入は素晴らしいと思った。千秋楽なのでキャストたちも出し切った感あると思うので、そこからの卒業式はリアル涙が拝見出来て凄く良かった。

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【世界観・演出】(※ネタバレあり)

過去の劇団ノーミーツ作品で登場したような演出が多く、演出そのものは特に新規性などはなかったが、デザインの手作り感だったり、そこに込められた創意工夫が努力の結晶のように輝いていたので、そちらについて2作品に分けて触れていく。

「不本意アンロック」
まずログインした時に、鍵穴に鍵を入れる映像が入ってからオンライン演劇の世界観に入れるという工夫が良かった。凄く手作りを感じてメンバーたちの試行錯誤と努力の結晶が光っているように見えた。ただ、私は途中でネットの接続が悪くなって入り直した際に、また同じ鍵穴に鍵を入れる映像が流れてから本編に合流したそのタイムラグに若干苛立ちを感じてしまった。スキップできる機能とかあっても良かったのかも。
オープニング映像は結構クオリティが高かった。白いベースにカラフルな立方体が沢山散りばめられるお洒落なオープンニング映像は素晴らしかった。
「NMT」の概要説明のシーンの映像もクオリティが高く、劇団ノーミーツ色はあったが個人的には近未来感があって好きだった。
Twitter画面が画面上に表示されて、チャットのやり取りが画面に出てくる演出は好きだった。
樹と佳が出会って友達になるシーンが映像で流れるあたりはとても素敵。凄く作品全体が映えた。

また、テクニカルな部分以外の箇所では、占い師の朱流セイルが鍵屋姫と出会う前と後で風貌が全然違う所が面白かった。鍵屋姫に出会ってからは物凄く豪華になっていて、そういった細かいギャップも好きだった。
それと、佳のお母さんが訛りの強い方言というのもウケる。あれはどこの方言だろうか。なんか作風と全然マッチしてないようでマッチしている感じが良い。たしか「それでも笑えれば」でも、主人公のお母さんが訛り強かった気がする。劇団ノーミーツはそういう田舎のお母さん好きなのかな。

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「水色アルタイル」
こちらは「不本意アンロック」と異なって、映像技術を巧みに使って仕掛けるような作品ではなかったので、演出部分でいうと特筆したいことはあまりない。
ただ印象に残ったのは、スクショタイムみたいなものがあったこと。(これ劇団ノーミーツ作品では初めてかもしれない)「シュガースター」のメンバーが5人で手でスターをつくるシーンがあるが、あれは完全にスクショ用のシーンだと思った。非常に面白い試みだと思った。
また、黒田先生の教室の時間にみんながふざけているシーンが印象的、あそこはいくらでも遊べるシーンだから。旗揚げ公演の「門外不出モラトリアム」を思い出した。
それと気になったのが、「水色アルタイル」のタイトルを決める時にメンバー全員が星空を観に行って画面上から全員映らなくなるシーンがあったのだが、その時にメンバーの家に置いてあった小物を使って「あ」「り」「が」「と」「う」になっていたのが面白かった。
また、3日間でメンバーたちが楽曲を作り上げる工程の音楽と映像が凄く青春を感じた。

そしてなんと言っても、「水色アルタイル」のパフォーマンスのシーン。ここ金かけてるなと思った。シャボン玉が飛んでいたり、沢山青い風船が用意されていたり。歌詞までテロップで表示されていて見応えがあった。この楽曲もHKTのメンバーたちが考えたのだから驚き。

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【キャスト・キャラクター】(※ネタバレあり)

全体的にフレッシュさ、初々しさに満ち溢れた演技だった。役者をやるっていうのも、HKTのメンバーは初めてだったんじゃないかと思う。演技面で総合的に良かったのは「水色アルタイル」だったかなと思っている。全体的にキャラクター性もしっかりしていて、演技を観ているだけで心も動かされた。「不本意アンロック」「水色アルタイル」に分けて、特に演技の素晴らしかった役者を見ていく。

「不本意アンロック」
まずは、主人公の後藤佳役を務めた堺萌香さん。本当に主人公という感じでクセもなくピュアな女の子という印象。アイドルという感じがあまりしなくて女優さんに普通に見えた。
特に印象に残っているのは、佳と樹が外を歩きながらお互い友達になって一緒に頑張ろうと励まし合うシーン。あそこのシーンの佳役が最高。青空の下の漫勉の笑みが非常に映えるし、風によって髪がたなびくあたりとかも凄く好き。オンライン演劇という枠組みではなく、ドラマとか映画で演技を拝見したいと思った。
今後のご活躍を期待している。

続いて、占い師の朱流セイル役を演じた秋吉優花さん。占い師役の役作りが非常に良かった。アフタートークでもセイルのデスボが日に日に洗練されているという意見があったが、凄く占い師らしさみたいな怪しさが上手く出せていると感じた。目つきとか水晶を操る辺りが好き。

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「水色アルタイル」
まずは、針間るな役を務めた石橋颯さん。ザ・アイドルといった印象。これは素なのか演技なのか、いや素だな笑といった感じ。でも非常にはまり役で、特に一緒に文化祭でダンスパフォーマンスをしようとクラスメイトに声をかけるシーンとか、凄く感情が入っていて好きだった。「えーやろうよー」「なんでー」みたいなのが、素だと思うけどリアルで良かった。

次に、三嶋リリカ役を演じていた村上和叶さん。メンバーの中では一番まともで真面目な役。特に難関大学進学したくないのにそうさせられてネガティブになっている感じの出し方が好き。非常に落ち着きがあって安定感があった印象。

そして個人的に凄く好きだったのが、小野舞夏役を演じた上野遥さん。ピンク色に髪の毛を染めて、ちょっとチャラいやつかと思いきや意外とシャイな性格が凄く好き。
ダンスをやっているけど、あまりSNSとか発信せずひっそりとやっている感じとか、ああいう控えめな感じが好きだった。
そしてなんといっても、リリカに対して自分もそうだったんだよねと自分を打ち明けてくれるシーンはとても良かった。ああやって慰められたら元気もらえそう。凄く良かった。

そして最後に黒田先生を演じた上谷圭吾さん。いや、もう今まで拝見した上谷さんの演技の中で今回ベストだったと思う。あのふざけた感じの教師ってめちゃくちゃ似合っている。
髪型もふざけていて好きだったし、「ヤッター」って事ある毎に叫ぶあたりも好きだった。あの全力で「ヤッター」て言うあれは上谷さんじゃないと出来ないと思う。本当に上谷さんの演技は生で一度観てみたい。

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【舞台の考察】(※ネタバレあり)

HKT48のメンバーが一から企画・プロデュースをして裏方も全てメンバーたちで実施してオンライン演劇を作り上げる。そんな企画「HKT48、劇団はじめます。」略して「劇はじ」は昨年2020年11月からスタートした。そこから本日2021年2月28日の千秋楽を迎えるまで、約4ヶ月ほどかけてメンバーたちは2つの作品を作り上げてきた。

これまでにアイドルが役者をやるといったことは珍しくなかったと思うが、アイドルが舞台の脚本や演出を行ったり、裏方スタッフや宣伝美術まで手掛けることってあっただろうか。私はそんな企画は聞いたことはなかった。
この「劇はじ」だけでなく、アイドルや役者といったアーティストたちが裏方に回って監督や演出、メイクや照明、音響を手掛ける例が増えている。例えば、avex所属の劇団4ドル50セントの劇団員は、自分たち劇団の持ち曲をMVとして制作する際、演出や脚本、撮影やメイクや衣装など裏方スタッフまで劇団員たちで作っている。

ではなぜ、このようなアーティストたちが表舞台だけでなく裏方もやるような流れが出現したのだろうか。
まず理由として挙げられるのはコロナ禍の影響がある。コロナ禍によって、もちろん演者たちも打撃を食らってはいたのだが、エンタメをプロデュースする裏方だって仕事がなくなるので同様に厳しい状況に陥る。アーティストだったらオンラインを使ってファンとコミュニケーションが取れるような活動は出来ると思うが、スタッフに至っては何も手の施しようもなく職を失ってしまう。これによってエンタメ事業のスタッフが不足したことによって、アーティストが自分たちで企画・プロデュースできるような育成が始まったというのが考えられる。

もう一つは、そもそも一人のアーティストに対して多くのスタッフが付くという構造が終焉を迎えているというのもある。
例えば音楽業界を例に取ってみると、昨年ブレイクしたYOASOBIはネットで話題になって人気を博したアーティストだが、特にCDを出した訳でもなければイベントを開催した訳でもない。ただネットでバズったから売れた訳である。その時YOASOBIに付いていたスタッフはたかだか3〜4人だったと言われいる。一昔前であると考えられない、昔はCDが売れないとヒットしたアーティストという位置づけがなされないので、CDを売り出すためにマーケティングチームが何十人と1アーティストに必要だった。

このような状況を考えると、これからのエンターテインメントにとって、沢山のスタッフの存在は必要なくなると思う。アーティスト自身がSNSを上手く有効活用できれば、それだけでアーティスト自身のプロモーションが上手く出来てしまうし、そのためのスタッフを雇うというのは事務所にとって大きなコストになってしまう。
そういった意味で、これからアーティストを目指す人材は裏方までしっかり回せることが必要なのだろう。そんな意図があって今回の「劇はじ」も企画されていると思っている。今回のような機会を上手くいかして、アイドルのメンバーたちはアーティストとして大きく羽ばたいて欲しい。

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