くろ

小説を書こうと思います。

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【小説】ストラグル 第19話

褒める? 私が? 何言ってんだ?こいつ いつから犬系になったんだ? そもそもお前、ヤクザじゃん ヤクザの仕事って、褒めたらダメなんじゃないの? 香織は一瞬にしていろんな疑問が浮かんだ だがカンの疲れた笑顔を見ると、その疑問が吹っ飛ぶ 「よくやった!えらい!」 香織は力強く言った ヘルプでついていたナミが香織の声の大きさに少しビビっている 「ありがとうございます。報われました」 カンは笑顔でウィスキーを飲んだ 「で、どんな仕事だったんですか?」 香織はカンにウィスキーを注ぎなが

    • 【小説】ストラグル 第18話

      カンはため息をつきながら車に乗り込んだ ここから車で5分ほどのところにヤク中の女を住まわせているアパートがある 横浜の繁華街の一角に古びた地区があり、そこはホームレスの溜まり場になっている地区だ カンは道沿いに座り込む浮浪者たちを轢かないように気をつけながら車を走らせて、アパートへ着いた 車を降りるともう悪臭がする あの女の部屋からというより、この地区一帯が放っている悪臭だ カンは靴にビニール袋を被せたり、手袋やマスクをした そして女が住む103号室をノックした だが返事はな

      • 【小説】ストラグル 第17話

        今日もカンは香織の出勤時間に合わせて紫音の近くに車を停めた 香織はいつも薄いピンクや水色など、淡い色の着物が多いが、今日は深い紫の着物だった 今日はカンが紫音へ行き、売り上げを回収する日だ 先週カンが紫音へ行った時、カンは深い紫のスーツを着ていたから、それに合わせてくれたんだろうか? もしそうなら嬉しい やっぱり今日、香織を落としたい だが先週は惨敗だった 何を言っても何をやっても落ちなかった こんなに手こずる女は初めてだ カンはため息をつきながら、いつものように煮干しを野良

        • 【小説】ストラグル 第16話

          「香織ちゃん、ちょっと二人で話そう」 香織がカンから離れて矢野の席に着くと背筋を伸ばした矢野がいた 香織は頷きヘルプでついてくれていたキャストを外す 矢野はいつもMでナヨナヨしてるのに今しっかりした表情をしているから少し緊張した 「矢野さん、どうしたんですか?」 「さっきの男性はお客さん?」 矢野はシュッとした塩顔の爽やかな男で若くして大企業の三谷商社の横浜支社の部長をしている 働きすぎていつも目にクマができて、睡眠時間を削ってまで香織の元に通っている 「お客さんっていうか、

        【小説】ストラグル 第19話

          【小説】ストラグル 第15話

          カンは仕事を済ませてスーツを着て身支度をした 紫音にいくためだ 鏡に映る自分を見つめながら細いネクタイをキツく締める 初めて香織と話した時、香織は男性恐怖症で男性と接触すると発疹が出ると言っていたが、カンに触られても発疹が出ないから男性恐怖症が治ったかもしれないと喜んでいた カンは女と体の関係を持つと吐き気がするし、触られただけでも吐き気がするときもあるが、カンも香織と同様に、香織に触れても吐き気がなかった ただ触っただけだし、もっと親密になればどうなるか分からない だが、香

          【小説】ストラグル 第15話

          【小説】ストラグル 第14話

          香織は大きくため息をついた後、韓国人向けのスナックへ向かった バクから教えてもらったそのスナックは、紫音から歩いて15分くらいのところにあるが、存在すら知らなかったし昼間なのに薄暗い通りにあるから誰も寄せ付けない雰囲気がある 在日韓国人が遊ぶところだから、日本人を拒絶しているのかもしれない スナックは古びたビルの3階にある 階段で上がると他の店には韓国語でメニューがぎっしり書かれていたり、日本人歓迎と書いていたり、ガヤガヤした印象だったが、3階だけ店名の洛東とだけ書かれていて

          【小説】ストラグル 第14話

          【小説】ストラグル 13話

          次の日、朝一でグォンから連絡がきた 「田中香織、調べ尽くしましたよ。めちゃくちゃいい子ですから、カンさん、この子で遊ばないでください」 カンはコーヒーを淹れる手を止めた 「いや、そういうつもりで調べさせてるわけじゃない」 ハンは怒りながら言ったが、グォンには響かない 「いつもみたいに遊ばずに、この子に手を出すなら本気でいってください。これ、マジで言ってます」 珍しくグォンが真剣になっていた カンは電話を切り、グォンから送られてきた添付ファイルを開いた 香織は地方出身、身内は父

          【小説】ストラグル 13話

          【小説】ストラグル 第12話

          3店舗を回り終わった後、カンはチョンソン組の事務所へ向かった 昼でも薄暗い町中にひっそりと事務所のビルがある エレベーターで最上階へ行き、突き当たりの部屋に入ると韓国語で電話をしながらパソコンに向かっている女がいる カンの上司であり、チョンソン組の総帥のジウだ 「カンか。どうした?」 ジウは電話を終えてチラッとカンを見たが、またパソコンに目を戻していた ジウはカンを男として見ていない数少ない女だった 父親からチョンソン組を受け継ぎ総帥となったジウは、男勝りな性格で、実際、チョ

          【小説】ストラグル 第12話

          【小説】ストラグル 第11話

          ベッドに腰掛けてタバコをくわえた 手が震えて火がなかなかつかない 「ねえ、次はシユンの家に行ってもいい?」 女がカンシユンの背中に抱きつきながら話しかけてきた 「帰れ」 カンは女の腕を払い除けた 「冗談だから。本気じゃないからね。次はいつ会える?」 カンは黙ったままやっと火のついたタバコの煙を吐いた 吐き気がおさまらない 「ねぇ、次はいつがあいてる?」 「帰れっつってんだろ!うるせぇな!」 思いの外、大きな声が出てしまった 「そもそも一回の約束だろ。もう二度と俺の前に現れるな

          【小説】ストラグル 第11話

          【小説】ストラグル 第十話

          紫音の初日、香織は早めに出勤して準備を進めた 着物は気持ちがシャキッとして気合が入る キャストたちが集まってきたので香織は挨拶を始めた 「今日からよろしくお願いします。まず、このようにみなさんが揃ったら朝礼を開かせてください。私がまだわからないことが多いのもありますが、みんなで情報を共有したいと思っています。あと、私はお酒が弱いので、これを機にアルコールは取らないことにしました。進められたら飲みますが、基本はコーヒーとか紅茶でいこうと思います」 みな少し怪訝な表情をした 店の

          【小説】ストラグル 第十話

          【小説】ストラグル 第九話

          9月の終わり、台風が過ぎ去り秋空になった頃、勇気は北海道へ立った 香織が空港へ見送りに行くと、健人や崎山など10人近くの見た目がゴツい男たちが見送りにきていたが、勇世の姿はなかった 集まったみんなが、最後は2人きりにしてやろうといらぬ気を遣い、勇気と香織は2人きりになった 勇気はベンチを手でトントンと叩いた よく店でやってたなぁと思い、懐かしいような、寂しいような気分になりながら香織は隣に座った 「お父様は来ないの?」 「うん。仲悪いわけじゃないよ。ただ来たくないって言ってた

          【小説】ストラグル 第九話

          【小説】ストラグル 第八話

          数日後、ダークブラウンのスーツを着た男が香織を指名した おそらく50代で、スーツはもちろん、磨き上げられた靴や光輝くデイトナなど、身につけているものが全て一流だからキャバクラには似合わない客だった 表情はにこやかにしてくれているが、眼光に鋭さがあり、香織は久々に緊張した 「私は勇気の父、勇世と申します。先日は息子の危機を助けてくださり、ありがとうございました」 勇世は深々と頭を下げたから、香織は恐縮した 「いえ、私は何もしてないんです。健人さんが助けたんです」 「ええ、健人か

          【小説】ストラグル 第八話

          【小説】ストラグル 第七話

          残暑が厳しい9月に入った まだまだビールがよく出る スイカの入ったフルーツもよくでるから、調理場は大忙しで、桂木も手伝いに入るほどだった ジーンズにTシャツで杖をついた勇気が現れたのはその頃だった 勇気は元々のさわやかな顔に似合ったTシャツとジーンズの格好をしていて、髪も下ろして前より短くなっている とてもヤクザには見えず、女たちが見惚れていた 勇気は香織を指名したからほっとした反面、何か文句を言われるかもしれないと思い身構えた 「元気そうでよかった。お見舞いいけなくてごめん

          【小説】ストラグル 第七話

          【小説】ストラグル 第六話

          香織の誕生日は散々だった 勇気が帰った後、香織は何もできずに他の客を帰らせてしまった だが桂木や優子は香織を責めなかった この店のオーナーである勇気を怒らせたから、香織はクビになるだろうと思われ、逆になぐさめてくれた なんで私は期待に応えられなかったんだろう 勇気は大丈夫なんだろうか 香織は帰りのタクシーの中でもずっと考え続けていた すると香織のスマホが鳴った 見知らぬ番号からだ 『香織さん?健人です』 「あぁ!健人さん!電話ありがとう!勇気さんどうだった?」 『香織さんの言

          【小説】ストラグル 第六話

          【小説】ストラグル 第五話

          2ヶ月目の香織の給料は先月の倍以上になっていた 香織以外の女も給料が上がったようで、みんな手のひら返しで香織を持ち上げた 優子も相変わらず弱々しい印象だが、全体に目が行き届き、手際よく女たちを配置してくれた 香織にもいちお太客がつくようになった 小さな不動産を営んでいる中年の小林という男だ 会社は小さいが社長であるため、みんなから羨ましがられた だが、実際はあまり金を落とさないタイプの男で、いつもの酒をいつもの量だけ嗜んで帰る男だ 今以上に稼ぐには、小林の会社を大きくする必要

          【小説】ストラグル 第五話

          【小説】ストラグル 第四話

          次の日から皿洗いはしなくてよくなったし、香織の指名写真も撮ってくれた 最初は誰かのヘルプでつくことが多かったが、写真のおかげで少しずつ指名が増えるようになり、1ヶ月経つとスタートが指名から入れるようになった 香織は客との会話を弾ませるために、客のしている仕事や趣味について調べまくった 午前中は、もう退学しているが学生証を使って大学の図書館へ行き、戦国時代の武将からブラック企業で精神を病んだ人の裁判などを調べた それを建設業を営むおじいちゃんに話したり、ブラック企業で苦しむ30

          【小説】ストラグル 第四話