くろ

小説を書こうと思います。

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最近の記事

【小説】幸福 38

「っていう感じで、香奈ちゃんのラジオに出たいんですけど、いいですか?」 大崎は岸に自作の台本を見せていた。 台本といってもルーズリーフ2〜3枚に書いてあるだけのものだった。 「まじで言ってんの?絶対ダメだよ。香奈ちゃんにとったら記念すべきノミニー後の初メディアだよ?なんで直樹ちゃんが出ていくの?しかも告るとか、香奈ちゃんのノミニーに関係ないじゃん」 岸からのお説教は20分近くあった。 だが大崎は諦めきれないようで、腕を組んでいる。 「じゃぁどうすれば俺、香奈ちゃんと付

    • 【小説】幸福 37

      2015年11月24日 日本時間22:15放送 香奈 起立。礼。着席。ロッククラッシーズ、略してロックラをお聴きの皆さん、こんばんは。緊急授業の先生をします元エイントの香奈です。 今日は私の担当の日じゃないんですが、重大発表があるので枠をいただきました。 もうご存じの方もいるかもしれませんが、なんと私達、グラミー賞にノミネートされました! すごいよね!びっくりしたよ! 私達エイントは解散してるのに、最優秀レコード賞にノミネートされました! ただし、注意書きがありまして、解

      • 【小説】幸福 36

        香奈はラジオ収録が終わり、ウィリアムと駐車場に向かっていると、男性2人組が近づいてきた。 たまにある出待ちだろうか? 香奈が営業スマイルをしながらよく見ると、大崎と岸だった。 「今度は俺が出待ちしてみた。ごはん行きませんか?」 大崎は後ろで手を組み、香奈に話しかけた。 「予定がありますんで」 ウィリアムが断ったが香奈が小声で遮った。 「予定ないよね?私は大崎さんとごはん行くよ」 ウィリアムが小さくため息をついた後、うなずいたから香奈は大崎に喜んで近づいた。 「ど

        • 【小説】幸福 35

          大崎とのコラボにむけて準備が始まった。 それぞれ1曲ずつ作っていくことにして、両面シングルで発売する予定だ。 香奈は自分の最後の曲になるかもしれないと思うと、どうしてもバラードになるし、どうしてもあの詩が忘れられず、あの詩にあった曲になってしまう。 詩は後回しにして曲だけ作ることにした。 香奈が仕事を久しぶりにするから、ウィリアムも久しぶりに忙しくなり、まずはコラボにむけて大崎の事務所と契約書のやりとりをしていた。 香奈は契約書の最終確認のために会社へ出向いていた。 久しぶ

        【小説】幸福 38

          【小説】幸福 34

          「直樹ちゃん、聞いてる?」 香奈を掴んでいた自分の右手をじっと見ていた大崎は顔を上げた。 MV撮影をした監督とプロデューサーと岸と大崎の4人だけの打ち上げだった。 打ち上げというより、普通の飲み会のようなもので、おじさん4人で静かに飲んでいる。 「直樹ちゃんは今、恋してるから上の空なんだよ」 少し出来上がった岸が上機嫌に話した。 「いいなぁ、直樹ちゃんはモテて。俺なんて飲み屋の姉ちゃんしか相手してくれないよ。高い金払ってさ」 50代の監督は大崎と若い時に仕事をしたこ

          【小説】幸福 34

          【小説】幸福 33

          11月の寒空の中、香奈は撮影スタジオの前にいた。 ウィリアムから大崎の予定を聞き出し、新曲のMV撮影をしている場所を探してやってきた。 大きな倉庫のような建物が遠くに見える。 立ち入り禁止の看板と腰の高さほどの鉄格子のみで、誰もいないから入っていけそうだが、他の人に大崎とのコラボが広まるのが嫌だったし、また変な噂が立つのも嫌だったから出入り口で待つことにした。 近くに有料駐車場がなかったため、ハザードを出して車内で待機していたが、警察がよく巡回していたから仕方なく車を遠くの

          【小説】幸福 33

          【小説】幸福 32

          「あぁいう子、めっちゃタイプでしょ。弱音を吐かない弱い子。ギャップの激しい子」 岸はタバコに火をつけながら話した。 「そうですね」 大崎は香奈が見えなくなるまでずっと動かなかった。 「どうするの?」 やっと歩き出した大崎に岸は聞いた。 「岸さん、仕事、ガンガン取ってきてくれませんか?」 「直樹ちゃん、恋したら仕事早いからなぁ。仕事は任せとけ。で、どうすんの?」 大崎は笑いながらタクシーを捕まえた。 「どうするもこうするも、俺なんかには無理ですよ。40代半ばの

          【小説】幸福 32

          【小説】幸福 31

          「俺は反対だからな」 ウィリアムは何度も香奈に反対したが、香奈の言う通りにNHKラジオ放送局の前まで連れてきてくれた。 「もうすぐラジオ収録が終わるはずだから、駐車場で待っとこう」 ウィリアムは地下駐車場へ入っていった。 警備員にはもっともらしい事情を話して、香奈本人を見せると、入れてもらえた。 「クスリやるやつは何度もやる。そんなやつと絡まない方がいい。俺は反対だ」 ウィリアムの話を無視して出入り口を注視していると、男性2人組が出てきた。 香奈はすかざず車を降りて

          【小説】幸福 31

          【小説】幸福 30

          香奈は無気力な日々を過ごしていた。 音楽を聴きはするが、創作意欲もなく、ただ聞き流しているだけだった。 ニックとのコラボ曲が解散前の最後のMVとなり、再生回数がそろそろ億へ達しそうだし、田山社長のごり押しでベストアルバムを発売することになったから、それもよく売れるだろう。 当分の間、収入には困らないから仕事をしなくていいのだが、ラジオだけは続けさせてもらった。 香奈は自分がやっている仕事の中でラジオが一番好きだったからだ。 自分の現状を話した後、今はギターの弾き方講座と題し

          【小説】幸福 30

          【小説】幸福 29

          2015年9月15日火曜日 日本時間22:15放送 達也 起立。礼。着席。ロッククラッシーズ、略してロックラをお聴きの皆さん、こんばんは。9月の第三火曜日の先生を務めますエイントの達也です。 あー、やっとこれが言えたわ。 ずっと言いたかったんよ。 つーことで、俺の授業を始めるぜ。 今回、俺が授業をさせてくれって言うたのは理由が3つあります。 まず一つ目。 香奈はトビアスと別れました。 別れたかもっていう噂は出とるみたいやけど、そのとおりです。 別れました。 なんで別れた

          【小説】幸福 29

          【小説】幸福 28

          「リサが妊娠した」 アメリカのツアーが終わり、日本に帰る飛行機の中で突然、達也が香奈とウィリアムに言った。 香奈とウィリアムはそれぞれ寝る準備をしていたが、手を止めて達也を見る。 「それって、兄ちゃんの子供?」 「当たり前やろ!リサが浮気するわけない!」 「そりゃそうだよね。リサさんはまじめだから。え?ってことは兄ちゃんの子供ができたってこと?」 「だからそう言いよるやろ」 「うぉー!おめでとう!やったー!」 静かな機内で香奈は大声で喜んだ。 香奈はウィリアムを

          【小説】幸福 28

          【小説】幸福 27

          2015年8月18日火曜日 日本時間22:15放送 香奈 起立。礼。着席。ロッククラッシーズ、略してロックラをお聴きの皆さん、こんばんは。毎月第三火曜日の先生を務めていますエイントの香奈です。 日本でのツアーが終了いたしました。 あっという間でしたよ。 平日開催もあったのにたくさんの方が来てくださって本当にありがとうございました。 そして海外ツアーのために先生はアメリカに行っています。 この収録はなんとLAにて行われております! ま、部屋で一人でしゃべってるだけなんだけど

          【小説】幸福 27

          【小説】幸福 26

          ウィリアムをホテルで降ろした後の二人だけの車内は息が詰まった。 香奈もトビアスも何も言葉を発さないからだ。 夕日に包まれたLAのハイウェイを走らせるトビアスの横顔もまた夕日に包まれていて、この横顔を永遠に見ていたいと思う。 でもきっと今日で見納めだ。 香奈は胸に焼き付ける。 そして走馬灯のように良い思い出が湧き出てくる。 トビアスの家にはレコードがあった。 トビアスがセットして針を落としてくれた姿。 そしてダンスを踊ろうと言われて、踊れるわけがない香奈に手取り足取り教えてくれ

          【小説】幸福 26

          【小説】幸福 25

          日本のツアーが終わってすぐ、香奈たちとトビアスはアメリカツアーに向けて日本を発った。 トビアスは常に機嫌良く、香奈によく話しかけてくれるし、日本の文化を楽しんでいた。 香奈も嬉しそうなトビアスの横顔を見ていると嬉しくなる。 トビアスが望む女になれば、香奈はトビアスの喜ぶ姿が見れるから、香奈は頑張ってトビアスの喜ぶ女を演じた。 日本での会計は香奈がやったほうが絶対スムーズにできるのにトビアスにさせたし、ステージ上でもトビアスを引き立たせるように動いた。 いつもの香奈たちのステー

          【小説】幸福 25

          【小説】幸福 24

          2015年7月21日火曜日 日本時間22:15放送 香奈 起立。礼。着席。ロッククラッシーズ、略してロックラをお聴きの皆さん、こんばんは。毎週火曜日の先生を務めていますエイントの香奈です。 みんな元気でしたか? 夏休みに入ったよね? 夏休みはぜひ、私たちのライブにやってきてね! チケットはもう完売してますけど、物販してますから。 私のおすすめは保冷剤入りタオルです。 これから夏フェスに行く人にもいいと思うよ! ということで1か月あきましたが、先生たちはツアー真っ最中です

          【小説】幸福 24

          【小説】幸福 23

          『達也、ちょっといいか?』 ツアーの初日、リハーサルが終わった後、トビアスは達也を呼び出した。 達也は取り出したタバコをしまいながらトビアスについていく。 スタッフの専用出入り口を出てすぐのところにベンチがあり、そこに二人が座った。 『君たちの母親が俺のことを嫌ってる。会ってくれない』 そう言いながらトビアスは自分のタバコを取り出し、達也に1本勧めた。 本当に俺の妹は大したやつだ。 あのトビアスを手に入れたんだから。 そのおかげで俺はこうしてトビアスからタバコを吸い合う

          【小説】幸福 23