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No.31 『キヤノン』 業績好転への二つの提言

「キヤノンの社名の由来を知ってるか?」。証券会社の研究所に入社した一年目、精密機器セクターを担当する先輩アナリストからこう訊かれたことがある。「昔のカメラはレンズの部分が観音開きの箱に入っていたんだ。キヤノンの社名はカンノンから来ているんだよ」。

当時は「なるほど」と感じ入ったものだが、それから精密機器セクターの担当アナリストになって社名の由来をみずから調べたとき、先輩の衒学が必ずしも正解ではなかったことを知った。キヤノンのホームページにもあるように、観音が語源であることに間違いはないが、なぜ観音から社名を取ったかといえば、それはただ創業者が観音様を信奉していたからのようだ。実際、キヤノンは観音開き式のカメラを一度も作ったことがない。

キヤノンの2019年の営業利益は1,880億円(前期比▲45%)と大幅な減益となる見込みだ。年初に公表された会社計画は3,250億円(前期比▲5%)だったが、期中における三度の下方修正を経て、結局は前期から半減に近い水準にとどまる。2007年に記録した最高益が8,000億円に迫る水準であったことを、もはや忘れてしまった人のほうが多いかもしれない。

今期の業績でもう一つ注目すべきは、構造改革費用300億円を計上する見通しであることだ。アナリストとしてキヤノンを担当していたとき、そもそも構造改革費用という言葉を同社から聞いた記憶がない。事業環境の変化を先読みし、リスクが顕在化する前に対策を講じているから。当時はそう考えていた。キヤノンが「グローバル優良企業」と呼ばれる所以もそこにあると信じていたように思う。

なぜ営業利益が大きく沈んだか。今さら説明は不要と思うがデジタルカメラである。特に影響を受けているのがコンパクトデジタルであろう。市場規模は2008年の1億1,000万台をピークに減少を続け、2018年には860万台まで落ち込んだ。収益インパクトの大きい一眼レフも2012年のピークから半減している。2007年のiPhone登場が業界構図を大きく塗り替えたことは言うまでもない。

ここで思うのは、「グローバル優良企業」と呼ばれたキヤノンがなぜ、デジタルカメラ市場の盛衰を見通したうえで、次の成長へシームレスに移行できる新しい事業を準備できなかったのかということだ。優れたリスク対応力との評価は単なる幻想だったのか。事務機が安定した収益源になる中で、カメラとスマホは棲み分けできるとタカを括って変化の予兆を見過ごしたのか。カリスマ経営者と評される御手洗会長は、ただのバーコードハゲ親父なのか。

現時点でキヤノンに提言したいことは二つ。

ひとつはコンパクトデジタルカメラからは完全撤退。一眼レフはひたすら高価格帯を追求してブランドの進化を図る。「今、経営者が最も会いたい人」である山口周氏の言説に倣えば、役に立つものから意味のあるものへシフトさせた方がいい。

もうひとつはキヤノンマーケティングジャパンの完全子会社化。グループ内で唯一のソフトウェア開発機能を持つ(と思われる)同社と一体化してハードウェア至上主義から脱却する。

キヤノンに観音菩薩の慈悲がありますように。

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