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Part1 2024年度共通テストの概況(続き)Part2 2024年度 大学入試最新動向

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♦登壇者♦
代々木ゼミナール教育情報センター       顧問・主幹研究員 坂口幸世
代々木ゼミナール教育情報センター          主幹研究員 奥村直生
♦司会♦
代々木ゼミナール教育情報センター教育情報推進室    リーダー 木戸 葵

(前回からの続き)

木戸 次に受験率について見てまいりたいと思います。
報道発表によると最も受験者が多い外国語は 450,535 人が受験し、志願者総数 491,914 人に対する受験率は 91.58 %となります。さらに追試験許可数は 1,628 人、再試験対象者が 9 人との発表がありました。そのうち仮に 1,500 人が追試験を受験すると、全体の受験率は 91.89 %になると予想できます。


こちらが今までの受験率の推移を表したものになります。
今年は「?」としてありますが、センター試験と共通テストで受験率に大きな違いがあります

坂口さんにお伺いしたいのですが、受験率にある大きな壁はどういったことが要因として考えられるのでしょうか。

坂口 これは難しいですね・・・。
21 年に受験率が急激に下がっているわけですね。

木戸 そうですね。
90 %くらいまで、つまり 4 %近く下がっています。

坂口 

21 年には 2 つのことがあったわけです。
一つはセンター試験が共通テストに変わったこと、もう一つは新型コロナが猖獗を極めた時期
だった。コロナの感染拡大がどれだけの影響を与えたかはわかりませんが、共通テストに変わったことで言うと、センター試験とかなり出題傾向が変わった部分がありますから、出願してから受けるまでの間に対策がうまく進まないで、不安が大きくなって、途中で退出する、というか、諦める人が多かったのではないかなと思うのです。

そうするとだんだん対策が進んで不安感が薄らぐと、センター試験時代に近いところまで受験率が回復していく・・・。もちろんコロナの影響がなくなったから、とも読めるのですが、20 年以前に戻りつつあるな、とは思います。

ただ、センター試験の末期のところでも受験率が下がりつつありますから、それはいわゆる年内入試の拡大というのがあって、それは今も起こっているし、これからも拡大していきますから、完全にセンター試験時代の受験率までは戻らないと、なるのではないでしょうか。

木戸 年内入試についてはこのあとも触れますが、センター試験、共通テストと受験率が違ってきていることを踏まえてこの後の話しも聴いて頂ければと思います。


木戸 最後に、共通テストのまとめとして、

新課程前ラストイヤー 4 回目の共通テストは手堅い問題作りと
難易度
となりました。
得点調整の実施はない見込みで、数学の平均点は今年も落ち着いて
きました。

新課程入試による変更を前に出題形式に大きな変化はありませんでした。

そして、出題形式・傾向・分量が明確になりつつある

と言えるようです。

さて、そこで奥村さん、この 4 回目の共通テストを総括してどう思われ
ましたか。
 

奥村 

先ほど申し上げました通り、科目によってバラバラ感はあるものの、ここにあるように問題作りはだいぶ方向性が定まってきた、と言えると思います。

もう1点確認しておきたいのは、共通テストになるときに「問題作成の基本的な考え方」ということで、大学入試センターは、「高等学校における主体的・対話的な深い学びの実現に向けた授業改善のメッセージ性も考慮し、授業において生徒が学習する場面や社会生活や日常生活のなかから課題を発見し・・・」ということを書いています。

つまり、共通テストによって学校の授業を改善してほしい、というメッセージを込めているのですよ、と言っているのです。
ですから、いま頑なにこの方向性で問題作りをしているというのは、高校現場に対しては“これを参考にしろよ”と。つまり、たとえば太郎や花子が出てきて会話をしている、そのような場面を高校でもやってください、ということです。

もしかすると、共通テストでは教科書に無いような初見の問題を出してきますが、あのような題材も、教科書から飛び出して、先生は大変ですけれど、題材を探して、それぞれの学校が工夫をして、しかもディスカッションとかグループ討論とかをしてくださいよ、というメッセージなのかと、ハタと気が付きました。

ですから、高校現場でどこまでできるかわかりませんが、そういうことも考慮に入れた高校での授業運営、授業プランがより求められているのかな、と。これをすべて受験生だけに任せられるとなれば、これはかなり大変だと思いますので、大学入試センターを代弁して言うわけではありませんが、一応そういうものがあることはお伝えしておきたいと思います。

坂口 それを高校だけでなくて、中学でもやってほしい、小学校でもやってほしい、そしてPISA※のスコアも上げてほしい、ということなんでしょうね。

いずれにしても、そういうことで作られる共通テストですから、とにかくページ数がすごいんですよね。地歴公民なんかは分厚くて、結びの一番の賞金くらいある(笑)。それだけに、やっぱり読解・速読、これが英語や国語だけでなく、ほとんどすべての科目で必要とされる能力になっている気がしますね。

木戸 今一度、教育で子供たちにどんな力を身につけてほしいのか、それによって大学に進学してからどうしてほしいのかといったところは、しっかり議論した上でのこれからの改革も期待されるところですね。

続いて、パート2「大学入試最新動向」ということで、共通テストにとどまらず、2024 年度話題になった入試トピックスについてお話してまいります。



Part 2  2024年度 大学入試最新動向


木戸 まず今後の入試のスケジュールです。
明日( 1 月 19 日)得点調整の有無についての発表があり、22 日より国公立大学の一般選抜の出願受付が始まります。27 日・28 日には共通テストの追試験が全国3会場で実施され、その後、2 月 25 日から国公立大学の前期日程がはじまり、後期日程は 3 月 12 日からと、例年通りのスケジュールで進んでまいります。



木戸 

続いて、知っておきたいキーワードということで
今回 2 つご紹介したいと思います。

まずは、「データサイエンス教育」
実はAI戦略 2019 ※」というもので、文理を問わず、全ての大学生、高専生が課程にて初級レベルの数理・データサイエンス・AIを習得することをめざす目標が設定されています
それに基づいて、「数理・データサイエンス・AI教育プログラム認定制度」(MDASH)※というものがありまして、認定された大学で特定の授業を受けることでMDASHの認定がなされます。リテラシーレベル、リテラシーレベル・プラスと、レベル分けがされていて、あなたはこういう数理データサイエンスの知識を持っていますよと証明となるようなものが発行されます。
文系・理系を問わず、これからの情報社会を生き抜いていく上での素養として、こうしたデータサイエンスが注目されています。

そうしたことを受けて、2024 年度に新設されます国公立大のデータサイエンスが学べる学部・学科がこちらです。
今年だけでこれだけの数のデータサイエンス系の学部が新設されているのですが、坂口さん、大学によって名称が実に多様かと思いますが、志望校を選ぶ上で注意すべきことはありますか。

坂口 国公立大でデータサイエンス系の学部ができたのは滋賀大が初めてですけれど、2次試験、つまり個別試験で数学を課しているところが国公立では多いですね。
ということは、そういったところは数学の力をある程度持った人に入ってきてもらわないと入学後についていけない人が出てくる。そういうことにならないように個別試験で数学を課していると思います。
一方私立大では、数学は要りませんよ、文系のあなたもどうぞ、みたいなところもあるので、そのあたり、大学によって教育内容がかなり違いますから、そこを教育内容とかカリキュラムの進め方、要求する学力など、違いをよく見定めていくことが必要ではないかと思います。

木戸 このように学部にデータサイエンスという名称が入っているものもあれば、理学部の中にそういった情報系の学科があったり、工学部のなかに情報系の学科があったり、という場合もあります。
そうすると学ぶ内容も変わってくるので、そのあたりは注視していただきたいと思います。

坂口 基本的にはプログラミングと統計学、社会科学の3本柱であることはだいたい共通はしているのですが、どこにウェイトを置くかが違ってくると思います。


木戸 もう一つのキーワードは「女子枠」です。
理系学部の女子割合を是正するため、特に工学部の総合型・学校推薦型選抜において、今年女子枠の設置が相次ぎました
新設した大学を表にまとめてあるのですが、女子枠単独の志願倍率が判明したもののうち志願倍率が 1.0倍までのものを水色、それ以上のものを赤色で示しています。

このなかから東京工業大学の志願状況を取り上げてみたいのですが、
次のスライドをご覧ください。

木戸 表では一般枠と女子枠を並べて示してあります。
ちなみに一般枠と女子枠を併願している方は両枠にそれぞれ含まれていますが、全学合計の志願倍率をご覧いただくと、一般枠で 6.7 倍、女子枠で 5.0倍、そして学校推薦型選抜の生命理工学院を見ていただくと志願倍率は一般枠で 3.8 倍、女子枠で 3.2 倍ということになっていまして、なかなか好調な募集状況だったのではないかと思いますが、奥村さん、なぜここまでしっかり集められたとお考えですか。

奥村 もちろん、東京工業大学が外に対してPRをどんどんしていたこともあるでしょうけれど、これだけのレベルの高い、しかも有名な大学、しかも 10月には「東京科学大学」に看板を変えますが、注目を浴びていたなかでの女子枠ということで集まったのかもしれません。

ただよく見ると、前提としては女子の人は女子枠に応募できますが、一般枠・女子枠どちらでもいいという枠もありますし、女子だけれど一般枠で申し込みをするという人もいます。
ですが女子枠だけで出す人はあまりいないと思いますので、数字を見ると、女子枠の人数が一般枠に含まれていると考えると、上から2番目の物質理工は一般枠の募集人員 20 人に対して、志願者数は 160 人。女子枠の方が 128人。この 128 人はおそらくほとんどが一般枠にも出願しているとなると、男子は非常に少ないということがわかります。ほかをみると、そこそこ集まっているけれど、物質理工だけが突出して目立つ。

その 3 つ下、環境の方も女子が比較的多いですが、環境については、やはり環境ですから、そういったものに対しては女性の方がやはり行きたいと思うモチベーションになるとは思うのですが、物質理工については、求める学生像を発表していまして、基本的には物質を扱う、つまり「材料や応用化学に関係する諸現象について積極的に学習する意欲があり、環境調和型社会の発展に貢献しよう」といったことをしっかり勉強できる人、つまり環境調和、ここにも環境がはいっていますけれど、そういったものに興味のある女性に来てほしいということですから、「環境」が一つ誘因になって多かったのかな、という感じがします。
ですから、そういったところで数字がかなり多くなっていますから全体数も多くなっている。一番下の生命理工は当然女性のかたがもともと多いところですから、こうなるかと思います。

ただ、女子枠全般について申し上げると、前のスライドにもあるように、残念ながら集まっていないところも散見されます。これだけ女子枠が増えると女子の奪い合いになっている様相もありますし、しかも工学部系だけの女子枠ですからさらに難しいかと思います。

坂口 奪い合いというよりは、たとえば名古屋工業大学は一番最初の女子枠で 1994 年つまり 30 年前からやっているわけです。30 年前から細々とやっている。
ところが名古屋大の工学部もはじめた。今回これだけ拡大してくると、名古屋工業大の志願者がすごく増えているんですよね。
ある意味シナジー効果で志願者を集めやすくなるというような面はある

ただ、要するに、女子からすると、女子枠を作ってもらってそれが非常にベネフィットというか、“お得感”があるかどうか・・・。
別にそんなわざわざ作ってもらわなくても普通に入れるよ、っていうところもあるわけで、大学によって、女子枠お得感の違いがはっきりたぶん出てくるんだと思います。
私立はもちろん国公立でも、なかなか募集人員まで合格者を発表できない。国公立でも募集枠まで埋められないところが半分くらいありますから。

奥村 それと、この女子枠というのが永久にあるのかどうか・・・
決してそういうことはないと思うんですね。一時的なものと考えるべきだと思うので、その間に女子の比率を上げられるかがポイントになってくるかと思います。
そしてもう一つ、ちょっと言いにくい話ですけれど、日本の男子はちょっとおとなしいのかもしれませんが、逆差別なんていう話が出てくれば、途端にこの話は方向が変わってくる可能性もありますので、これは一時的なものだな、ということはお含みおき頂いた方がよろしいかと思います。


<次回に続く>

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