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その小さな声であの物語を思い出す。

空気の中に溶けてしまいそう。

声を聴いた時そう思ってしまった。

二人で来店されたお客様。

ご注文をうかがいに行った時、彼女の声があまりにも小さすぎて一瞬驚いてしまった。

カウンター内に居る私の所まで声は聞こえてこない。けれどカフェで過ごされるお二人の雰囲気は柔らかく優しい空気が流れていて微笑ましいなと思っていたら、

ふとある物語を思い出した。

それは小川洋子さんの「琥珀のまたたき」。

主人公のアンバー氏の声はとても小さくてほとんどささやくような声しか出ない。

子供の頃に言われたママからの禁止事項を大人になった今でも守り続けているからだそうだ。

そんな説明からこの物語は始まるのですが、私はこのアンバー氏をお客様を見ていて思い出した。


ある日、ママが子供達に新しい名前をつけた。
姉にはオパール、弟には瑪瑙(メノウ)、アンバー氏 は琥珀という名を得た。

ママは外には魔犬がいるからと
外に出ることを禁じ子供達を家の中に閉じ込めた。

それは幼い末娘失って立ち直る事ができなかった母親の残された三人の子供を守る方法だった。


傍から見たら軟禁なのだけれど、
彼らの日常は温かく静かにそっと続いていく。

子供達の純粋さが母親の歪んだ愛を全力で受け止めているのが伝わってくるので、これを悲しい物語だとは思えない。


母親の時間は末娘が亡くなった時から止まってしまったのだろう。

身体のサイズの合わない洋服を子供達に着せているのも、ずっとそのままでいてほしいかのよう…。

しかし時間は止まらない。


子供達は成長していくし、
少しずつこの生活が崩れる時がくるのです。


子供達の名を奪い、新しい名前を与えた母親。

外の世界と遮断させ、
家族で守られた世界で生きる。

一見奇妙と感じられる事も、
彼らにとってはそれが真実でそれは誰にも否定することは出来ないのではないか。

母親や子供達にも、琥珀を見つけた外の世界の女性にも、各々に真実がある。

一方から見れば病んだ母親に軟禁されあた不幸な子供達なのだけれど、そこには確かに愛が存在した。


時々自分が正しいと、声高々に自分の真実を押し付けようとする人がいるけれど、私はそんな人が現れたら心の中でさようならをする。

一人ずつに真実があり、自分の世界を持っているはずなのに、なぜ他人がそれを否定することが出来るのか。

この物語はそんな小さな声に耳を傾け、
誰も否定せず、人の心の危うささえもそっと掬ってくれるような温もり感じた。

同じものを見ていても、人を通すと答えは異なってくるもの。
それをお互いに認め合えたら世界は優しくなるのにな…

例えば
カフェに来てくれたあの二人のように。

小さな声に耳を傾け、
笑顔で答える温かい世界。

私のカフェの日常の一部、
そこで思い出した小川洋子さんの物語。

読み返してまたその世界に浸ろう。


ヘッダーの写真は、みんなのフォトギャラリーのもときさんの写真を使わせて頂きました( ´ー`)ありがとございます 。

















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