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少年ガウディ |超短編小説

友達は走って遠くへ行ってしまった。

僕は足が悪いので、追いかけることができない。それでも歩いて追いかける。
おいてけぼり。

やっぱりひとりぼっち。


森の中にいた。土の匂い。草の匂い。虫の息の音まで聞こえる。風はちゃんと優しい。友達を追いかけるのやめた。


森の樹木を眺める。じっくりと。もう誰も待ってないから、ずっと見ていても大丈夫。樹木に話かける。


「その枝の先にある葉っぱ、その葉っぱの形は正しい。君は間違ってない。大丈夫。」


毎日が探検で冒険だ。
スケッチブックを持って世界を観察しよう。


樹木にぶら下がる蜂の巣を見つけた。蜂は怖いけど観察だ。蜂に話しかける。


「君たちの作った家は大丈夫。間違ってない。その正六角形は正しい。」


草の中をのろのろ歩くカタツムリを見つけた。ひとりぼっち同士、仲良くなれそうなカタツムリに話しかける。


「素敵な背中だね。君の螺旋は最高だ。間違ってない。正しい。」

自然はいつだって正しい。間違ってない。この世界のループはとても合理的だ。点と点、線と線、直線が曲線を作り出す。まるで糸かけ曼荼羅のようだ。

木々の隙間、その隙間にさす光。
その光をつかみ取った。

少年は観察を続けた
ひとりぼっちだからこそ
世界を見つめる
少年の澄んだ瞳で見る自然は
とても合理的で正しかった


いつしか少年は大人なり、神に手が届きそうな、大きな大きな教会を設計した。
人生には限りがあり、その教会は完成しなかったけど、完成させることに意味なんてなかった。成長することに意味があった。
大丈夫。間違ってない。君は正しい。


(おわり)


私の勝手な想像上のガウディ少年を書いてしまいました。
「ガウディとサグラダファミリア展」へ行ってから、この少年がずっと心の中に居たので、外に出してあげたくなりました。
本物のガウディとは関係がありませんが、浮かれて「少年ガウディ」とタイトルをつけてしまいました。

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