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キャンセルカルチャー:「レイシストと呼ばれたまま死ぬのか?」ギブソンズ・ベーカリーvs.オーバリン大学

オーバリン大学(Oberlin College)は、オハイオ州オーバリンにある全米屈指の名門リベラル・アーツ・カレッジである。1833年の創立以来、初めて女性(1833年)や黒人学生(1835年)に門戸を開いた歴史があり、生徒数およそ3,000人という少数精鋭教育で常に大学ランキングの上位に食い込む有名校だ。日本にある桜美林大学は、創立者の清水安三が出身校であるオーバリン大学の名をとったもので、現在も姉妹校として交流が続いている。

かつて地下鉄道(19世紀に黒人奴隷たちが南部の州から北部の州へ逃亡するのを助けた地下組織)の中継地点として機能したオーバリン大学は、当時から政治運動が盛んだった。その校風は今も引き継がれ、米国中からウォークな学生達が集うキャンパスはまさに進歩派リベラルの最先端を行く——ポリコレ、キャンパス・プロテスト、社会正義トレンドの震源地である。

公式サイトより


ギブソンズ・ベーカリー(Gibson's Bakery)は、1885年にパイ・ショップとして創業して以来、5世代に渡ってギブソン一家が経営してきた老舗である。手作りのペイストリーやキャンディ、コーヒーや軽食はもちろん、ちょっとした食料品や日用雑貨に加え酒類も販売している。小さな学生街のオーバリンで、大学にベーグルやドーナツを日配し、早朝から深夜まで教授や学生をカフェインで元気付け、140年以上も地元民に愛されてきた有名店だ。


しかし、共にオーバリンの歴史を紡いできたオーバリン大学とギブソンズ・ベーカリーは、2016年のとある事件を発端として袂を分ち、法廷で争うことになる。「一族の名誉を毀損する運動に大学側が加担した」というギブソン家の主張は全面的に認められるも、懲罰的損害賠償3300万ドル、補償的損害賠償1100万ドルといった高額な賠償金の支払いをオーバリン大学側は拒否、両者は泥沼の法廷闘争に突入した。

2022年9月、あらゆる法的可能性を失ったオーバリン大学が賠償金の支払いに同意し、ようやく戦いに終焉が見えるかという時、ギブソン一家は店の主達を2名も亡くし、長く遠ざかった客足は戻っておらず経営は青色吐息、家族のように接してきた従業員達をやむなく解雇、営業時間も大幅に短縮、裁判費用は嵩み、いよいよ家を抵当に入れねばこの伝統あるベーカリーを開けていられない——という悲惨な状態であった。そしてオーバリン大学側は未だに被害者のスタンスを崩しておらず、ギブソン一家への謝罪も一切無いままだ。


ギブソンズ・ベーカリーvs.オーバリン大学は、単なる名誉毀損訴訟ではない。巨大な大学ビジネスと学生街の小さな店の争いは、BLM運動などに見られる社会正義の危うさ、極端に左傾化した学生達とその集団による暴力性、言論の自由とはなにか、裕福なリベラル大学と地域社会の格差、キャンセルカルチャーなど、オーバリンという片田舎の街だけでなく現代アメリカ全体が直面する様々な問題を内包している。

キャンセルカルチャー。そう、法廷で真実が明らかになり、ギブソン一家の主張が再三に渡って認められた今も、彼らに対するボイコット運動は続いているのである。

今回は、字幕動画3本でギブソンズ・ベーカリーvs.オーバリン大学の経緯を振り返りながら、一族の名誉を守るために戦い続けたギブソン一家の悲痛な叫びを届けたい。

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