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「村上隆 もののけ 京都」 ー 京都市京セラ美術館

 10日ほど前、2月に京都へ旅行した目的の一つが 京都市京セラ美術館 で開催されている 村上隆展 を観ることでした。前日、京都に到着し夕食のために あるお店に入ってそんな話しをしていると「入場するのが大変らしいですよ…」という情報提供が…。限定の記念カードを求めて長い行列ができていたとちょっとは聞いていたのですが、京都の人たちの間でも話題になっていたのですね。

 そんなこともあって、美術館に入るのに時間がかかるようだったら次の用事もあるから あきらめよう ぐらいの感じで行ってみました。


 ところが当日は平日で、それも雨が降っていたためか、美術館の前に行列はありませんでした。チケット売り場も空いているし、コインロッカーもすぐに利用できました。すごい行列ができていたのは展覧会が始まったばかりということもあったのでしょうが、やっぱり限定カードを配布していたのが要因として大きかったようです。カード配布は終了していましたので、それほど心配することもなかった…ということでした。



 入場口は地下1階で、そこから階段で1階の広い講堂のような 中央ホール に上ります。私は視界の広がるこの瞬間が好きなのですが、階段の途中で いつもとは違う雰囲気に気がつきました。向こう側は白い壁のはずなのに…


 それがすぐに村上隆の作品であることがわかりました。
 壁に桜が描かれています。手前にあるのは像》(右側)とうん像》(左側)です。東京・六本木ヒルズの森美術館で開催された STARS展(2020年7月~2021年1月)で観た村上隆の作品を思い出しました。


 順番が前後するのですが、帰りに撮った2階からの写真です。ここからだと後ろの絵が桜の木であることがよりわかりやすくなっています。
 でも…
 当初予定されていた開催期間は6月まで。それが9月1日まで期間が延びました。夏の暑い時期に桜の木の絵をどうするのだろうと心配してしまいました。


 新館の展覧会場「東山キューブ」の催し物を紹介するディスプレーに《金色の空の夏のお花畑》を使ったポスターが飾られていました。仁王門(あるいは山門)は形としては無いのですが、阿像と吽像の間を通って扉の向こうの新館へと向かいます。


 途中で日本庭園がガラス越しに見えます。そこには《お花の親子》が置かれこちらを見ています。この時はまだ、地面を保護する鉄板が敷かれ、重機が何台かありました。設置途中のようです。


 展覧会は6部構成になっていました。
  1.もののけ洛中洛外図
  2.四神と六角螺旋堂
  3.DOB往還記
  4.風神雷神ワンダーランド
  5.もののけ遊戯譚
  6.五山くんと古都歳時記


入ってすぐ近くにあったのが…


 会場に入ってすぐにあったのが《「村上隆 もののけ 京都」展をみるにあたっての注意書きです。》 です。
 そこには「オープニングのその日から徐々に五月雨式に 展示している作品とは別班で製作し完成したら取り替えていく、という、特殊な展覧会形式」と書かれています。
 美術館側から「村上隆の過去・現在・未来、それらと京都に絡めての展覧会」を要望されつつ、過去の作品を海外の美術展から借りてくるのは大変だから新作を描いてくれという「トホホな要望に応えて」160点以上の新作を作ったとつぶやかれていました。
 入り口手前に掲げられていた「ご挨拶」の中に作品数は約170点と書かれていましたので、ほとんどが新しく作られたことがわかります。

 そして、期間中でもさらに新しい作品が登場するということ。日本庭園にあった《お花の親子》もその一つのようですが、これからもあるかもしれません。  

 この村上隆さんのつぶやきは《言い訳ペインティング》などとしていくつかの作品の横に展示してありました。字が細かいので私は読むのに時間がかかってしまったのですが、解説文として読んでいくと おもしろいと思います。



1.もののけ洛中洛外図

《洛中洛外図 岩佐又兵衛 rip》 幅13メートルの大きな作品です。17世紀、江戸時代初期の絵師 岩佐又兵衛による《洛中洛外図(舟木本)》をスキャンして AIで線画にし、さらに人の手で描き直すという手法を取ったそうです。
 洛中洛外図は左側(西方向)が洛中(京都の市街)、右側(東方向)が洛外(京都の郊外)になります。左端にある徳川家康が建てた二条城と右端にある豊臣秀吉が建てた方広寺大仏殿(現在の京都国立博物館の近く)を対比させ、その間に人々の生活が表現されています。

 その中には作者独自の お花 のキャラクターも添えられていました。


 洛内洛外図の向かいには光琳シリーズ。尾形光琳が描いたのは 団扇うちわ の上ですが、ここでは円形にして絵画を描いています。手前が《琳派のお花と抽象的図像》、次が《京都 光琳 もののけフラワー》です。


2.四神と六角螺旋堂

 京都市京セラ美術館は壁面が 東西南北 と一致しているということで、それぞれの方向に四神を描いていました。
 ここは暗幕の中にあって、目が慣れるまでよくわからなかったのですが、写真の左が朱雀すざく 京都》(南方向)、右が白虎びゃっこ 京都》(西方向)です。写真の反対側には青龍せいりゅう 京都》(東方向)、玄武げんぶ 京都》(北方向)もあり、全部で四神になります。
 そして写真の中央が部屋の中心にある六角ろっかく螺旋堂らせんどうで、さらにそこにかかっているのが《龍頭 Gold》でした。

 この六角螺旋堂。写真でははっきりと写っているのですが、暗いなかでの黒の作品なので実際にはよくわかりませんでした。私は床にある立ち入り禁止の白線がぼんやりと見えたので、たぶん作品なんだろうと回避しましたが、白線に気がつかなければ、ぶつかっていたかもしれません。気をつけないと…


3.DOB往還記

 暗い部屋から出てくると、村上隆が初期に生み出したキャラクターDOB君を中心としたコーナーでした。写真は《レインボー》(左)と《And Then 2024》(右)で、新しい作品でした。


《四季 FUJIYAMA》はかわいい富士山にさまざまなキャラクターが描かれています。
 他にも代表的なキャラクター《カイカイ》《キキ》がフィギュアになっていました。こちらは 2022年の作品でした。


4.風神雷神ワンダーランド

 江戸時代初頭の絵師 俵屋たわらや宗達そうたつの《風神雷神図屏風》が新しく描かれていました。

俵屋宗達とは左右反対の風神雷神図

 壁に向かって右側にあったのが《雷神図》
 荒々しいというのではなく、雷太鼓(雷鼓)を鍵盤楽器でもを弾くかのように鳴らして「可愛く、ゆるい感じ」に描かれています。俵屋宗達の屏風絵にはなかった、飛び交っている雷も見えます。というか、雷というよりは稲妻のような、あるいは うるさい雷鳴なのかもしれません。

 そして向かって左側にあったのが《風神図》でした。
 風袋を広げるのではなく肩に背負い、風を起こすというよりは口でフッとするくらいで、軽く歩いている感じに描かれています。

 でも、俵屋宗達の風神雷神は左が雷神、右が風神だったような…。

 この点について作品の近くには説明が見当たらなかった(あるいは見逃したのかもしれませんが…)のですが、私は、風神が ”飛んでいった先から口笛を吹きながら歩いて帰ってくるところ” ではないだろうかなど、おもしろがって観てしまいました。あくまでも私個人の見方ではありますが …
 風神雷神は俵屋宗達だけでなく、尾形光琳やその他の作者によるものもあります。左右が逆なのは 村上隆 だけでなく他にもありました。(※1)

 (建仁寺所蔵の俵屋宗達の風神雷神図屏風は京都国立博物館のウェブサイトでみることができます)



 展示会ポスターになっていた《金色の空の夏のお花畑》はここにありました。


《見返り、来迎図》 こちらは 2016年の作品でした。


5.もののけ遊戯譚

 村上隆の最新のトレンドをまとめたコーナーです。この作品は《Murakami. Flowers Collectible Trading Card 2023》
 開催初日から先着5万名に配られたのは「COLLECTIBLE TRADING CARD」。ここにあるようなデザインだったのでしょうか。近くに住んでいたら私も並んでいたと思います。


6.五山くんと古都歳時記

《2020 十三代目市川團十郎白猿 襲名十八番》はぎりぎりのところで写真に入りきらなかったので2つに分けて撮りました。
 市川海老蔵改め十三代目市川團十郎白猿の襲名披露興行は2022年11月に東京・歌舞伎座で行われ、昨年2023年12月には京都の南座でも開かれました。
 祝幕いわいまくは特別な時に使われる舞台の引幕で、ここに展示されている作品は襲名披露で使われた祝幕の原画です。
 市川團十郎のドキュメンタリーを撮影していた映画監督の三池みいけ崇史たかしがこの祝幕を構想し、監督と親交のあった村上隆に作成を依頼したということです。
 祝幕は東京・歌舞伎座でお披露目され、京都・南座では舞台にあわせてサイズが調整されました。そして、原画が今回、歌舞伎発祥の地、京都でも公開されたということのようです。

 十八番とは歴代の團十郎が得意とした「歌舞伎十八番」のことで、祝幕は18の場面を網羅し、中央には屋号成田屋の三升紋みますもんが染め抜かれています。東京・歌舞伎座で披露された祝幕のサイズは高さが 7.1メートル、幅が 31.8メートルにもなります。原画のサイズは高さ 102.8センチ、幅 480センチです。ちょっと奥行きの狭い部屋にあって、全体を一度に撮ることができませんでした。


《京都の舞妓さん アニメ風》
 大学時代に京都で日本画の先生に連れられて舞妓さんをスケッチしたことがあるという村上隆は、舞妓さんはいつか挑戦したいテーマだったということです。


《五山送り火》は室町時代の《日月四季山水図屏風》のデザインを借りて作成された作品です。作成に際して五山それぞれの保存会の人たちに話しを聞いて、山々をキャラクターとして表現したということです。

(日月四季山水図については文化遺産オンラインが参考になりそうです)




東山テラスから

 展覧会を見終わってから2階に昇り、東山テラスに出てみました。展覧会会場の東山キューブの上にある屋上スペースです。


 設置途中の《お花の親子》が、ここからも見えました。


 この日は日本庭園で松の剪定作業が行われていました。ここからだとクレーンも見えます。

 展覧会の公式 X(旧ツイッター)ではこんな案内が…

 この note を書いている時に、《お花の親子》の作品が特別協賛のルイ・ヴィトンとのコラボレーションで、ルイ・ヴィトンのバッグが足元に作られていることが X(旧ツイッター)でささやかれていました。3月初旬に完成予定ということですので、もう、そろそろのようです。


(追記)日本庭園の《お花の親子》が完成

 京都市京セラ美術館の日本庭園に作られていた村上隆の巨大インスタレーション《お花の親子》が完成したと、3月8日の展覧会公式X(旧ツイッター)で発表されました。日本庭園の池に浮かぶように設置された お花の親子 の足元にあるのはルイ・ヴィトンのモノグラム・マルチカラーのトランクで、細部にこだわって作成されたモデルということです。
 かつて期間限定で池に 硝子の茶室 が設置されたことがありました。今回も美術館の一部として、日本庭園が作品を表現する場所として使われることになりました。

(追記は3月9日)


(もう一つ追記) 《お花の親子》のお披露目会が行われました

 京都市京セラ美術館の日本庭園に完成した《お花の親子》のお披露目会が今日、3月12日に行われ、あの市川團十郎白猿さんも参加したということです。白猿さんはルイ・ヴィトンのアンバサダーだったんですね。

(この追記は3月12日)



展覧会についての補足事項


・作品リストはありませんでした
  会期途中で作品が入れ替わるからかもしれません。

・図録はまだできていませんでした
  展覧会の風景を図録に加えたいということで、まだできていませんでした。4月下旬に完成予定だそうです。待ちどおしい。

・作品の前にある立ち入り禁止の線を「結界」と呼んでいました
 「結界」という言葉に私は近寄ると「もののけ」にたたられるかも…と少し引いてしまいました。
  DOB君のコーナーではこども連れの親が目を離した隙に、こどもが親しげに作品へ近づいていきます。係りの人が気がついてやってきますが、親も気がついて手前でこどもを結界から引き離しました。危ない、危ない。

  この展覧会では、係りの人が機敏に動いているような感じがしました。ある意味、大変な展覧会のようです。



いまはあまり使われていないリニューアル前の出入口


 1階中央ホールの東山キューブとは反対側に、以前の美術館玄関が残っています。京都市京セラ美術館としてリニューアルする前は、地下1階の出入り口とその前のスロープ(京セラスクエア)はなく、1階で出入りしていたようです。写真は玄関の扉部分を一歩引いて(西側から)撮ったものです。昭和初期の雰囲気が残る場所です。
 この写真を撮っている私の後ろにもう一つ外側の扉が自動扉の形で整備され、さらにその外側に上からシャッターが閉まっていました。シャッターを開ければすぐにでも使えそうです。


 玄関から入ったところの階段です。階段の上、2階の高さの壁にはプロジェクターで開館当初からのトピックスやこれまでの主な展覧会が紹介されていました。
 その先に2階の入り口が見えます。ちょうどその下が1階の入り口で広い中央ホールへの通路になってます(今回の展覧会当初、行列ができた時はこちら側から入ったようです。やっぱり、初日に来ればよかった…)。



沿革

 今回は 京都市美術館開館90周年記念 の展覧会です。
 沿革を簡単にまとめますと…

1933年(昭和8年)に「大礼記念京都美術館」として開館
      京都で挙行された即位の大礼(1928年、昭和3年)を
      記念して寄付によって建設

1946年 戦後、駐留軍が接収
1952年に接収が解除され「京都市美術館」として再開

2017年 京セラと50年間のネーミングライツ契約。
      改修・増築工事のために一時閉館
2020年5月にリニューアルオープン

京都市京セラ美術館のウェブサイトから抜粋)



アクセス


地下鉄+徒歩の場合
京都市営地下鉄東西線の東山駅から歩いて10分程度になります。
京都駅からだと地下鉄烏丸線で烏丸御池駅まで行き、そこで東西線に乗り換えます。

バスの場合
 46系統が便利かもしれません。
京都駅からだと地下鉄烏丸線で四条駅まで行き、百貨店の大丸の近くにある「四条高倉」バス停から 46系に乗ることができます。
降りるバス停は「岡崎公園 美術館・平安神宮前」です。岡崎公園のバス停は3つありますので、間違えやすいかもしれません。”美術館・平安神宮前” がキーワードです。

 5系統を利用する場合は
京阪の三条駅、地下鉄の三条京阪駅で降り「三条京阪前」バス停から乗ることができます。
やはり「岡崎公園 美術館・平安神宮前」バス停で降りるのですが、バスは京都市京セラ美術館とは反対側に停まり、横断歩道まで回り道になりますのでご注意ください。こちらのバス停は目の前に京都国立近代美術館があります。掲げられているポスターでここではないとわかるとは思うのですが、「村上隆 もののけ 京都」展は道路の反対側です。

 46系統、5系統も日中は1時間に4本から6本ぐらい走っています。
京都市バス時刻表アプリ や 京都市のバス接近情報アプリ「ポケロケ」 はスマホでも利用できますので、確認してみてください。



(※1)風神雷神図について

 俵屋宗達の《風神雷神図屏風》は17世紀の作品、18世紀には尾形光琳が描いています。19世紀には酒井抱一ほういつが尾形光琳の風神雷神図の裏に夏秋草図を描き加えました。現在は表裏が別々の作品になっています。酒井抱一は自身も風神雷神図を描いています。
 19世紀にはさらに橋本雅邦がほうが新しい《風神雷神》を描いています。俵屋宗達の風神雷神とは姿態が異なり、風神と雷神の位置が左右逆になっています。


(2024年3月2日、京都市京セラ美術館には 
2月21日に行ってみました)
(追記は3月9日と3月12日)

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