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No German cake, No Life

さまよう蟹(94年生まれ 西原町出身)

 私が幼い頃から実家では、誕生日は晩ごはんのメニューもケーキの種類もわがまま放題選べる特別な日だった。晩ごはんはだいたいハヤシライスをチョイスするが、気分によってはオムライスだったり。しかし、ケーキだけは絶対に固定メニューにしていた。「ケーキは何にする?」「ジミーのジャーマンケーキ(即答)(真顔)(早口)」。物心つく頃には、私の心はジャーマンケーキに支配されていた。

 ジャーマンケーキを知らない方のためにこのケーキについて少し紹介する。ジミーのHPによると、下記の通り。

ココナッツとクルミを甘く煮詰めたフィリングをたっぷりのせた
ジミーの定番のジャーマンケーキです。
シャリシャリとした甘いココナッツがクセになります。
やさしい甘さのチョコレートシフォンにはバニラバタークリームがサンドされてます。

【引用】Jimmy's 公式サイト

 ちなみに、ジャーマンだからってドイツとは特にかかわりはないらしい。

 クリームやチョコレートが得意でない私にとって、ケーキ自体はあまりそそられる食べ物ではない。ただ、ジャーマンケーキだけは別で、クリームやチョコレート感が控えめである。また、濃厚でシャリシャリのココナッツフィリングがどことなく南国・沖縄の風土やアメリカ文化を感じられて、別のケーキより特別なものを食べている気分にさせてくれる。小学校低学年までは同じくクリームやチョコレートが入っていないチーズケーキを食べていることもあったが、ジャーマンケーキの味を覚えてからはジャーマンケーキ一筋だ。

 私にとって、ジャーマンケーキはジミーのものが定番である。西原のメイクマンにジミーが入っていて、そこが最寄りのジャーマンケーキ販売店だった。また、母方の実家に行く経路にはジミーがあり、よくそこでジャーマンケーキを調達して向かっていた。私にとってはジミーのものが最も親しみがあって、そして数々の誕生日の思い出と結びついている。

 関東の大学への進学後も、東京で就職した後も、旧盆のころに実家に帰った際は夏生まれの私の誕生日会をしていたので、なんだかんだ年に1回以上はジャーマンケーキを食していた。そうしないと私のジャーマンケーキ欲が収まらなかった。しかし、コロナ禍によって沖縄に帰省できない年が続き、私は大好物を長らく食べられないことに耐えられなくなっていた。ジャーマンケーキは店舗でしか購入したことがなかったが、昨年初めてジミーの通販に手を出した。すると2~3日後には千葉の自宅にチルドのジャーマンケーキのホールが届いた。嬉しかったと同時に、こんなに簡単に手に入るならもっと早く調達しとけばよかったと激しく後悔した。実家では不可能なほど贅沢に大きく切って食べると、沖縄そのものの味がした。

 それから数か月後、私はいつの間にか沖縄にUターン移住していた。あの夜千葉でジャーマンケーキを食べたことによって、ジャーマンケーキの引力に逆らえなくなり、会社も辞めて沖縄に戻ってきていた。「まだ今の会社でやりたいことがあるから」と自分に言い聞かせて長らく関東で生活していたが、ジャーマンケーキひとつで沖縄に戻る決心をしていた。とはいえ、8年ぶりに沖縄に住んではみたものの、本当に戻ってきてよかったのだろうかと自分のキャリアを心配して少々後悔することもあった。そんな気持ちもジャーマンケーキを食べると不思議と落ち着いた。そして気づいた。自分の人生はキャリアのためにあるのでなく、もしかしたらジャーマンケーキのためにあるのかもしれない、と。ジャーマンケーキは私にとって「舌の故郷」で、私と不可分な存在なのかもしれない、と。

 そんなこんなで、今は沖縄でジャーマンケーキを堪能する人生を送っている。ジャーマンケーキの話をあちこちでしていると、知人友人から「あっちのジャーマンケーキを食べてみてほしい」とジャーマンケーキ販売情報を得ることが多くなった。いつもジミーのジャーマンケーキばかり食べているけれど、他店のも食べてみようかな……というわけで突然だが、ジミー含め3店舗のジャーマンケーキを食べ比べしてみたので、ぜひ読んでほしい。

◆ジミー

 安定と安心のジミー。ケーキ以外にもパン・デリカテッセンなどいろいろ売っています。

一番上がジャーマンケーキ。ジミーのケーキはどれも美味しく、つい他の種類も買ってしまう。

ココナッツ度 ★★★★
アメリカン度 ★★★
チョコレート度 ★★

 チョコレートが得意でないので、チョコレート感がないところが魅力的。フィリングのシャリシャリとした食感が、冷たいケーキの温度となんとなくマッチしている。ちょっと常夏気分。

◆アロハ洋菓子店

 首里にある老舗洋菓子店。

もう見た目から濃厚そうである。手作り感にちょっとほっこり。 

ココナッツ度 ★★
アメリカン度 ★★★★★
チョコレート度 ★★★★

 これぞアメリカン! という感じの、濃厚なケーキ。周りのチョコレートクリームや中のスポンジは、ハーシーのチョコレートを髣髴とさせる味わい。輸入品っぽい味わいがいい。

◆ファミリーマート

 なんと沖縄ではファミリーマートでジャーマンケーキが売っている。

右がファミリーマート版。見た目からあっさり感が伝わってくる。

ココナッツ度 ★
アメリカン度 ★
チョコレート度 ★★★

 コク少なめのあっさりとした味わいで、油脂多め。フィリングはちょっとシャリシャリするが、ココナッツ風味は弱め。スポンジのチョコ感のほうが強く、どちらかというとチョコレートケーキ+フィリング、といった印象。泥酔した際にシメとして食べたくなるようなあっさり感がいい。

 その他にも、スーパーなどいたるところにジャーマンケーキは存在している。探してみると意外と置いてあったりするから面白い。もはや冷蔵もされておらず、ケーキから洋菓子の域に進出しているようだ。

 洋菓子店やケーキショップならジャーマンケーキを販売していてもおかしくはないが、とうとうコンビニでも販売されるようになった。(スーパーではもっと前から売ってたのかもしれない。)これはジャーマンケーキ界(?)にとっては大変喜ばしいことで、ジャーマンケーキの新しい未来の到来を感じさせる出来事だと考える。
 いろんな業種のお店がジャーマンケーキ界に進出し、さまざまな味わいのジャーマンケーキを堪能できる……。今はジミーのものが私のベスト・オブ・ジャーマンケーキだが、将来それを超えてくる商品が出てくるかもしれない。ジャーマンケーキの素晴らしい未来を妄想して勝手に嬉しくなる私なのであった。

 ジャーマンケーキによって人生を変えられてしまったが、私はそのことを恨んだり後悔したりしていない。沖縄で困難に直面しても、ジャーマンケーキを一口食べればこれでよかったのだ、と安堵できる。そして、県外では感じない多幸感を得ることができる。あなたもジャーマンケーキを食べて、その強烈な引力を感じてみてほしい。もしかしたら、いつの間にか沖縄に住むことになったりして……?

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