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はらぺこキューピッド(1)

中学2年生の渚は食事が苦手で、家庭でも学校でも楽しい食事の時間を過ごせない。
ある日、渚は道端で倒れていたキューピッドを見つける。
空腹で力を失ったキューピッドの矢は、人を憎ませる毒矢に変わっていた。渚は美味しい食事を提供して矢を元に戻すことを決意し、料理が得意なおじいちゃんの家を訪れる。
おじいちゃんの特製ドライカレーやライスグラタンを通じて、渚は料理の楽しさを学び、家族や友人との絆を深めていく。
渚の奮闘がキューピッドの矢を変え、彼女自身も成長していく物語。

あらすじ


#創作大賞2024 #ファンタジー小説部門

第1話 渚の憂鬱

 「あーあ、今日も給食残しちゃった。」
まるで食べるのを忘れられたかのように、少しずつお皿の端に寄せられた給食を見つめて渚は小さくため息をつく。
 今日は1学期の給食最終日。
鶏肉と卵、さやいんげんの三食丼ぶり。
それに具だくさんのお味噌汁にわらびもち、いつもの牛乳(ご飯の日は嫌なんだけどな)という献立で、特に渚の苦手な食材が入っているわけではなかった。
 それなのに、だ。
学校でも家でもテーブルの上に並べられた料理を見るだけでお腹がいっぱいになってしまい完食することができないのだ。
最後の日くらいがんばって食べようと思っていたのに、やはり食べきることができなった。
 理由はなんとなく分かっている。
渚は食事の時間が楽しくないのだ。
 渚は小さいころからご飯を食べることが苦手で両親からずいぶんと注意されてきた。
しかし食べれきれないのは渚自身どうしようもないので、注意ばかりされる食事の時間がどんどん苦手になっていったのである。
 かく言う両親も食事の時間を楽しみにしている様子でもない。
これ美味しいねという会話もなければ、あれ食べたいねという会話もない。
渚がおしゃべりに夢中になろうものなら、「いいから早く食べなさい」と言われる始末。
 渚の両親はいわゆる共働きで、母の帰りが遅いこともある。
しかし父の帰りはさらに遅いので、家事は必然的に母の仕事となっている。
 仕事で疲れて帰ってきた母が料理をするのが嫌だと呟く姿を何度も見たことがあるし、休日の料理当番を巡って父と母が言い合いをしている姿も珍しくない。
 それに渚は中学2年になるというのに、仲の良い友だちが一人もいない。
クラスでいじめられているわけではないが、休日も一緒に遊ぶような親しい間柄の友だちがいないのだ。
 給食の時間友だちとワイワイ食事をするクラスメイトを見ると羨ましいなとやはり思ってしまうのだ。
 お父さんも、お母さんもごはんの時間が好きじゃないんだろうな。
学校でももっと楽しい気持ちでごはんが食べられたらいいのに。
 6時間目の授業を終えた渚は、ぼんやりとそんなことを思いながら下校していた。


2話目以降のリンク

第2話 人間ではないナニカ

第3話 料理ができない

第4話 いちばん好きなご飯

第5話 渚、旅に出る

第6話 なぎとなぎさ

第7話 おじいちゃんのドライカレー

第8話 熱いアイスクリーム

第9話 熱いアイスクリームには美味しいコーヒーを

第10話 なぎとなぎさのピクニック

第11話 ライスグラタン

第12話 渚、帰る。

最終話 最後の夜


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