はらぺこキューピッド(12)
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第12話 渚、帰る。
あっという間に8月に入り、気づけばお盆休み近くなっていた。そんなある日、渚の両親が突然おじいちゃんとおばあちゃんの家にやって来た。
渚はびっくりして、
「2人とも急に来てどうしたの?」
と駆け寄った。
「だって渚はぜんぜん連絡くれないし、いつまでたっても帰ってこないからお母さんたちが来たのよ。」
とお母さんが不服そうに言った。日々の忙しさからか、とても疲れた顔をしている。
「でもお父さんもお母さんも仕事は?お盆はいつも忙しいでしょ。」
「お父さんもお母さんも有休が溜まっててね。3日ぐらいだけど夏休みをとって来たんだよ。」
とお父さんが困ったように言った。母に言われて無理やり有休を取ることになったのかもしない。
突然の両親の訪問に居心地の悪さを感じた渚だが、相変わらず疲れた顔をした2人を見て、美味しいご飯を作ってあげようかなという気持ちになった。
「お父さん、お母さんお腹すいてる?わたしがご飯作ってあげるね。」
渚の言葉に2人は呆気に取られている。
そんな両親をよそに渚はさっさと台所に向かい、おにぎらずを作り始めた。初めて作った時とは全く別人のような手つきで渚はおにぎらずを量産していく。
おばあちゃんもやって来て、何か違う料理を準備している。
「おばあちゃん、何作るの?」
「今日は春巻きを作ろうかなと思ってね。みんなで食べると美味しいよ。渚も手伝ってね。」
「もちろん!」
渚は今ではおじいちゃんやおばあちゃんの料理の手伝いをするのが大好きなのだ。
美味しいものを作って、みんなで美味しい美味しいと言いながら食べる時間がとても嬉しく楽しかったのだ。
「わぁ、きれい!」
黄金色に揚がった大量の春巻きを見て渚は思わず歓声を上げた。
サラダや他のおかずを食卓に運び、最後に春巻きとおにぎらずを持っていく。
「これ、渚が作ったの?」
お母さんの顔が驚きのあまり固まっているようだ。
「おにぎらずは1人で作ったよ。他のもちゃんと手伝ったんだよ!」
胸を張って答える渚。
「いただきます!」
今夜の食卓は五人(+キューピッド)もいるのでとても賑やかだ。
お腹がすいていたのか、お父さんもお母さんもすごい勢いでおにぎらずを口に運んでいる。
「渚!このおにぎらず美味しすぎるわ!」
「春巻きもパリパリしていて何本でも食べれそうだ!」
渚はお父さんとお母さんがこんなに食事の時間に興奮している姿を初めて見た気がする。
「渚は毎日ご飯を作る手伝いをしてくれているから、すごく上手になったんだよね。」
とおばあちゃんがにこにこしながら声をかけてくれる。
「うん!みんなで作って食べたりしてすごく毎日が楽しいよ!」
渚がそう言うと2人はハッとした顔をし、お父さんがゆっくりと口を開いた。
「そうだね。帰ったらお父さんも何か作ってみようかな。渚教えてくれるかい?」
「いいよ!おばあちゃんから教えてもらった餃子のレシピもあるからみんなで作ろう?ね、お母さん。」
「餃子パーティーなんて楽しそうね。」
と言ったお母さんの目がきらりと光っていたのを渚は見逃さなかった。
食後に渚の淹れたコーヒーを堪能した両親はあっという間に眠ってしまった。
渚はお父さんもお母さんも普段寝つきが悪いことを知っていたのでびっくりした。
「いつもなかなか眠れないって言ってるのに、今日はおやすみって言ってから本当に3秒だったな…」
「美味しいご飯でお腹がいっぱいになると、幸せな気持ちですぐ眠れるんだよ。」
とおばあちゃんがクックッと笑いながら言った。
すでに見慣れたおばあちゃんの家の天井を見ながら渚は、そろそろ家に帰ろうかなと考えていた。
翌日、渚はキューピッドに提案してみることにした。
「矢の色も金色に戻ったことだし、もう一度やきいもとじゃがいもに矢を射って確かめてみない?」
「うん!元に戻った僕の矢の威力を試してみよう!」
早速2人はやきいもとじゃがいもの元に走った。
以前オレンジ色の矢を射ったことで時々一緒に眠るくらいに仲良くなったやきいもとじゃがいも。
しかし矢の効果が完璧ではないせいか、やきいもが部屋にいればじゃがいもは入って来るのをやめることも多々あり仲良しな2匹とは言いがたい状態だった。
金色に戻ったキューピッドの矢を射るとこの2匹はどうなるんだろう。渚は既に一度矢を射るのを見ていることもあり、今回は不安よりも期待が上回っていた。
「じゃあ、行くよ。よく見ててね。」
キューピッドはそう言うと2匹めがけて矢を放った。
オレンジ色の矢の時とは比べ物にならないくらいキラキラと光って見える。そしてよく見ると金色の粉がベールのように広がっているではないか。 渚はあまりの矢の美しさに思わず見とれてしまった。
「うわぁ、すごくきれい。」
「えへへ、これが本来のぼくの力だよ。」
キューピッドは照れながら答える。
渚とキューピッドは、やきいもとじゃがいもの様子をじっと見つめた。すると二匹は矢を射られた直後からじゃれあい、遊んでいる。そして常に同じ部屋で過ごすようになった。
「今までは、やきいもが近づくとシャアとか言って威嚇することもあったのに、めちゃくちゃ仲良しになってる…」
「最近ちょっと仲良くなってきたのかと思っていたけど、急にお互いが好きになったみたいだねぇ。」
渚が感心するだけでなく、おじいちゃんとおばあちゃんも驚いていた。
そんな2匹を見て、渚は決意を固めた。
「おじいちゃんおばあちゃん、わたしお父さんたちと一緒に家に帰るね。今まで美味しい料理をたくさん教えてくれてありがとう。」
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