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【短編】線香花火の夜

みんなのギャラリーから生まれた物語。何か感じてもらえれば、、、。

「おい、花火やろうぜ」

今、バイトから帰ったところなのに、隆平がやって来た。

「もう11時だぜ。明日から学校が始まるのに、、、」

サトシはそう言いながらも、黒のクロックスを履いて、外に出た。

隆平は、もう階段を下りていた。

「駐車場の隅でやろうぜ」
隆平は言った。

半分都会で半分田舎のアパートの駐車場。特別大きな声を出さなければ迷惑にもならない。

隆平もサトシも大学4年生だ。就職はまだ決まっていない。就活を始めているが、なかなか厳しい現状だ。

実家を出て一人暮らしをしているが、仕送りとバイト代で生活している。

「あれ、他にはいないの?」
サトシが尋ねた。

「岡本もユイもバイトなんだって」
隆平はぶっきらぼうに答えた。

「そうか、二人か」

「お前がさみしそうだから、誘ってやったんだ」

「、、、、サンキュー」
少しおどけてサトシは言った。

隆平の優しさが身にしみた。

何せ1週間ほど前に彼女と別れたのだ。いや、別れたというよりフラれたのだ。1年という月日は彼女の存在をサトシの中で大きくするのに十分な時間だった。明日も一緒だと思っていたのに。

「さあ、始めようぜ」

隆平が花火の入った袋を無造作に開けた。

この前、みんなで海に行ったときの残りの花火。

あのときは、岡本もユイも一緒だったのに。今日は隆平と二人か、サトシはそう思った。あのときは、彼女も一緒だったのに。

隆平と無人島に流されてしまったのか、そんな感覚。

隆平がいるだけましか。

「あちゃー、線香花火しかない。ほら」

隆平は、サトシに線香花火を渡した。

「もっとあると思ったんだけどな。この前、ほとんど使っちゃったんだな」

隆平はライターを取り出すと、線香花火に火を付けた。

線香花火に燃え移った炎は、すぐに小さな火花をあげ始めた。初めは小さく、そして、だんだん激しくなった。激しくと言っても、その大きさもたいしたことないし、時間も短い。

「あ、落ちた」
サトシは、最後に真っ赤な火の玉になって落ちる線香花火を見て言った。

落ちた火の玉は、さっきまで熱かったのがうそみたいに、冷たい灰のかけらになっていた。

「ほら」
隆平がもう一本差し出した。

サトシは隆平と並んで、線香花火を見つめていた。

線香花火は二人の足下を小さく照らして、落ちていった。落ちると闇に包まれた。

「ほら」
隆平がまた線香花火を差し出す。

線香花火と闇。闇と線香花火。

しばらくしたら隆平が言った。

「最後だぞ」

二人は最後の線香花火に火を付けた。

最後だからって特別なことはない。線香花火は、初め小さく、そして激しく火花を散らした。そして、小さな火の玉をつくり、落ちて、灰になった。

「明日から講義だな」
サトシが言った。

「あー夏休みも終わりかーー」
隆平も少し大きな声で言った。

おひまならこちらも。

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