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市内RPG 36魔法使いの将棋

ぼくら、レベル10。戦士、勇者、魔法使い、僧侶の高校生パーティーは魔王を求めて、子郡市のエオンショッピングセンターの段ジョン4階を探索している。

薄暗いオレンジのライトに照らされる仲、巨大将棋盤の上で「魔法使いの将棋」の対局が続いている。

采配しているのは、魔法使いヒラだ。最近、じいちゃんに勝ったと自信ありげだったが、最初に歩兵のぼくを敵方に取られてしまった。勇者の駒が1番最初に取られるだなんて、これはだめなんじゃないか。

しかし、その後は、なかなか善戦しているようだ。

敵は巨大王将。王将の声で、巨大な駒が歩き、倒れる。取られた駒は、淡く光って相手の持ち駒になるのだ。

戦士ヤスは飛車から龍王に成った。僧侶カナは角行から龍馬に成った。二人ともなかなかの活躍だ。それに比べ、、、、ひまだなあ。

「王さん、王さん。ぼくを使ってくれませんかーー」
王将に言ってみた。

「うるさい、だまっておれ。お前は、いざというときに使ってやるからな」王将は取り合ってもくれない。

「そこには歩兵を打った方がよさそうですけど、、、」出番がほしくて何度か王将にアドバイスをしてみた。こうなったら、どっちの味方なのかわからない。

しばらくトライしていると、
「おー、それはいい手だな」王将も慣れてきたのか、ぼくの声に耳を傾け始めた。

「おい、お前はどっちの味方だ?」少しずつ劣勢になっていくヒラが慌てて言った。

気付けば、ヒラの王将は、攻められている。いかん、調子に乗ってアドバイスしすぎた、、、。

王将の猛攻。

「4七桂」

「2九王」ヒラの王将が逃げる。

「3八飛」

「1九王」

やばい。追い詰められた。

「わしに勝つには100万年早かったな。そうじゃ、これで、詰みじゃな」

王将はそう言うと、ぼくの駒を持って、ヒラの前にぱちりと打った。

「1八歩。王手」
もう逃げ場はない。しかし、その手は、、、、。

ヒラがにやりと笑った。
「王さん、あんたの負けだ」

「なんだと?」

「あんたは2つも過ちを犯しているのさ」

王将がみるみる青くなっていく。

「気が付いたかい。1つは二歩。もう一つは打ち歩詰め。勇者の歩兵を使おうと気が急いたようだな。どちらも反則負けなんだよ」

歩兵は縦に並べて打ってはならない。持ち駒の歩を打って詰ませてはならない。

「うおおおおおーーーーー」

王将が叫ぶと、将棋盤が大きく揺れて、ぼくらは将棋盤から投げ出された。

気が付くと、ぼくらは、将棋盤の横に倒れていた。

「ひどいなあ。負けたからって将棋盤をひっくり返すのはー」ヒラが言った。

「もう少しでおれが王手するところだったのによ」ヤスが腕をさすりながら言った。

「負けそうだったから、はらはらしたわ」カナも服についたほこりをはらいながら起き上がった。

周りを見ると、敵の駒たちが重なって倒れていた。

「写メ、写メ」カナがケータイで写真を撮って、市役所に送信した。

「経験値3600、9000円。レベルアップ、レベルアップ」

敵がたくさんいたからなー。レベル11だ。


「おい、起きろよ」ヤスが青くなったままの王将を見つけて言った。

「ここに魔王が来たの?」カナが王将に尋ねた。

「少し前のことだ。おもちゃ屋の床の隙間から地下に転がり落ちたわしの前に青い光が現れたのだ。『お前は王か玉か』と尋ねるので、『王だ』とわしは答えた。すると、『玉はないわけだな。来た者を玉にして遊べばよい』と言って光ったのだ。すると、みるみる力が湧いてきて、、、、それからは巨大将棋盤をつくり、駒を増やし、ここに来る者と勝負をして、負けたら玉にしていたのだ。」

王将が指さす方をみると、同じ高校で勇者パーティーになったライト、井上、馬場、るみが玉将に磔にされていた。

先にここにたどり着き、勝負して負けたのだ。気は失っている、、、いや、眠っているようだ。寝息の様子からは無事らしい。

「あいつらも放してくれよな」ぼくは言った。

「仕方ない。将棋の世界では勝者が絶対だ。まさか、反則負けをしてしまうとは、、、情けない。」

そう言うと、巨大だった王将はぶるぶるっと震えると、小さくなった。手のひらサイズの大きさの駒に戻ったのだ。

「これでいたずらはできないわね」カナはそう言ってその駒を拾った。

「こいつらはどうする?」ヤスがライトたちを見ながら言った。

「ほっとけば、気が付くさ」ぼくは言った。

「もうこれで終わりかな」ヒラが心配して言った。


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