“一生懸命、のんびりしよう”~『コミュ力は「副詞」で決まる』より
きのうは2ヶ月に1度の読書会に参加しました。参加者各々が、おすすめの1冊を持ち込んで紹介しあうスタイルで、毎回凄まじい量の学びがあります。
前回の持ち込み本はこちら(↓)。
今回の持ち込み本
先日、たまたま見たNHKの番組内コーナー「中江有里のブックレビュー」の中で紹介されていた一冊です。この回(↓)
女優で読書家、執筆家でもある中江有里さん、じつは同世代の素敵な女性として、尊敬しているんですよね。
どれも素直に読んでみたいと思えた本でしたが、自分的に一番ホットだったのがこちらでした。
コミュ力は「副詞」で決まる
著者:石黒 圭
2023年4月19日発売 /光文社新書
中江さんいわく、地味な「副詞」にスポットをあてたユニークな解説本とのこと。ちょうど連続noteを続けているなかで、表現の幅の狭さや一定のクセが気になっていたので、ヒントになるかも?と手に取りました。
どんな本?
コミュニケーション向上の鍵となる「副詞」について、その学術的な分類やそれぞれの機能をまるっと教えてくれるとともに、「副詞」の使い方の勘所を、社会・文化的背景も交えて詳しく解説してくれている本です。
タイトルからすでに、「副詞」の正体がバラされていますね。
「コミュ力」とは、会話力だけではなく、いまやテキストコミュニケーション偏重なところもあり、「文章力が決まる」と読み替えてOKだと思います。
とはいえ、そもそも「副詞」とは、どんなものなのでしょうか。中高の国文法で学んだはずだけど、かなりぼんやりとしていました…。
冒頭のほうで「副詞」の特徴は以下のように示されています。
③が「よくわからない」って……ちょっとちょっと、ってなりますが、実際のところ著者のような研究者をもってしても、「副詞に共通する意味を設定することは困難です」とのこと。それゆえに、副詞は別名「品詞のゴミ箱」と揶揄されているそうなのです。
しかし、それでは「副詞」が泣いてしまいますよね。 ゴミだって分別できる!とばかりに、国語学研究者たちはさまざまな分類を試みてきたそうです。
前半は、そのような学術的な「副詞」の分類が、いろいろと紹介されていましたが……正直ここを理解するのは難しいです。実際、分類が困難に思われてしまうのも副詞の宿命だとおっしゃいます。
でも、学術的な説明と分類の試みがあるからこそ、事例を交えた副詞の紹介が説得力をもって伝わりました。
歌詞における副詞ランキング
そして、今までに見たことない分析へと続きます。
日本語のなかでどんな「副詞」がどれくらい使われているのかを、頻出副詞ランキングで調べるという試みです。話し言葉と書き言葉にはそれぞれよく使われる副詞が微妙に異なるという結果が得られるのですが、さらに面白いのが、歌詞も分析しているとうい点です。
分析結果から、小田和正は副詞の名手である!と導かれていて、彼の名曲『たしかなこと』(2005)の歌詞を眺めることになります。
歌詞の副詞ランキング上位の「もう」「また」「きっと」「まだ」「ずっと」「そう」「ただ」……はもとより「たとえ」「いつか」「いちばん」など小田和正さんの書く詞は、印象的な名副詞のオンパレードなのです。
副詞は「気持ちを繊細に伝える働きを持つ品詞」であり、「日本の大衆文化を支える品詞」だと分かりました。
こうなると、だいぶ、敷居が下がってきませんか?
覚えておきたい大人の副詞
徹底的に副詞を研究してみた結果として、著者が伝えてくれた中で特に役立ちそうだと思ったのが、「大人の和語副詞」です。
センスが感じられる副詞は、漢字で書かれたときの読み方が難しい「和語副詞」に多いという発見があったそうなのです。それらが30コ挙げられている中で、わたしが読めなかった(自信なかった)のをバラしてしまうと……
「恰も(あたかも)」「強ち(あながち)」「頗る(すこぶる)」「具に(つぶさに)」「偏に(ひとえに)」「固より(もとより)」「宛ら(さながら)」など。
漢字で書く必要はないのです。表現として、これらがサラリと出てきたら、大人だな、と感じる副詞ばかりです。「大人の和語副詞」をおさえることは、副詞の使い手レベルアップへの早道かもしれません。
ほかにも「「一」のつく副詞の活用」や、「否定の予告副詞」の選び方など、実用的ですぐに実践できそうなものの紹介もありがたかったです。
さらに、大人の言葉遣いを目指すなら覚えておくべき「読み手に配慮を示す心遣いの副詞20」も、しっかりメモしましたよ。
一生懸命 のんびりしよう。
第7章「副詞と印象」では、それこそ印象的な副詞の使われ方の事例が数多く掲載されていて、驚くほど勉強になりました。
なかでも印象的だったのが「 一生懸命 のんびりしよう。」です。
誰の言葉か、ご存知ですか?
そう、のび太君です。
2020年5月5日の「STAY HOMEプロジェクト」より「のび太になろう。」という文章からの引用で紹介されていました。
もちろん「 いっしょうけんめい のんびりしよう」は、原作漫画のセリフで、誰もがのび太の気持ちを瞬時に推察できる名セリフですよね。
これは「逆説の副詞」の代表例です。一見相性が悪そうな「一生懸命」と「のんびりする」の違和感が、たしかに印象的です。それを再び、プロジェクトのコピーに持ってきたセンスは秀逸です。
副詞をつかう難度としては高そうですが、使い方次第でとてつもなく響くのが副詞なんだと、よく分かりました。
事例に学ぶ適切な副詞
その他にも、副詞添削のような形で、この副詞はこう直せばもっと伝わるといったような用例・事例がたくさん掲載されています。ここでは紹介できない分、ぜひ確かめてみてほしいです。
いま自分の気持ちを表現するのに、あるいは伝えたい状況や訴えたい効果を示すために、より適切な副詞はなにか?
学校の勉強では、文法的に間違っていなければ、通り過ぎてしまってきた道のように思います。
一方で、副詞は「その選択に成功していれば共感を得られるが、失敗するとそっぽを向かれてしまう」とも。たしかに、微妙にズレている言葉遣いや文章に、違和感を感じてしまうことってあります。たとえば。
「ご近所で不審者・不審車両を見かけたら、容赦なく110番通報を!」
「容赦なく」→「躊躇なく」が正解。違和感は副詞の仕業だったのですね。
よくも悪くも素が出る「副詞」
著者は、副詞は「素」の部分が出てしまうところだと強調します。
だから、話し手のよい面が出れば魅力となる一方で、悪い面が出てしまうと、「副詞」のせいで取り返しのつかないことにもなりかねません。
そのあたりは、「ハラスメントにつながる副詞」「政府のスタンスの副詞」「政治家のポーズの副詞」あたりで、ハッとさせられます。
けっきょくは「素」が出てしまうというと元も子もないかもしれません……人間力か、と。
が!少なくとも、使い方に気を配ることはできます。ひと呼吸置く、客観視してみる、など対策はとれます。「副詞」使いから、自らの考えや伝えたいことを推敲してみるというのは、新しい視点です。
これだけ「副詞」に向き合ったのは初めてのことで、いかに「副詞」を雑に扱っていたかを痛感されられた、学びの本でした。
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そんな「副詞」の魅力が凝縮された一冊を、読書会でみなさんにきちんと伝えられたか、というとまだまだです。副詞がもっとうまく使えれば…!
こうして反省することも含め、毎回さまざまなジャンルの、みんなの推し本が集まる読書会は、学びにあふれる場です。
主宰者鈴木さんのnoteはこちら(↓)。
最期まで読んでいただけただけでも嬉しいです。スキをいただいたり、サポートいただけたら、すこしでもお役に立てたり、いいこと書けたんだな、と思って、もっと書くモチベーションにつながります。 いつかお仕事であなた様や社会にご恩返しできるように、日々精進いたします。