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書評、映画批評

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金、土、日更新予定。主に新刊のスポーツ関連書籍、新作のスポーツドキュメンタリーを取り上げたいと思います。また、「忘れられた傑作たち」として、近年に発刊された傑作も取り上げてます。…
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2024年7月の記事一覧

書評 『審判はつらいよ』、鵜飼克郎著、小学館新書、2024年

本作は、様々なスポーツの「審判」へのインタビュー集である。取り上げられるのは、サッカー、野球、柔道、ボクシンング、飛び込み、ゴルフ、相撲の「審判」である。それぞれの呼び名が違うが、ここでは本書の題に沿って、「審判」と呼ぶ。 実は、日本語では、「審判」とざっくり一絡げにして呼ぶが、イギリス初のスポーツでは、英語で「レフリー」と「ジャッジ」、「アンパイア」というとき、その意味はまるで違う。第1章の西村雄一氏が述べているように、権限が違うので、注意が必要である。 また、相撲の世

書評 『大相撲土俵裏』、貴闘力著、彩図社、2024年

この本の凄いところは、存命の相撲関係者の名前を出して、批判しているところだろう。著者の男気を感じる。 本の冒頭から、「八百長」の話に入り、それが全て実名(四股名)で書かれているのだから、驚いた。私は、書店でその部分を読んで、すぐに本を買った。 残念ながら、私は、最近になるまで「相撲」にそれほど興味がなかった。この文庫本の元となった書籍の存在も知らなかった。そのため、この本の内容がどれほど突っ込んだものなのか、という評価はできない。勝手に想像したのだが、名前を出さなければ、

書評 『行動経済学が勝敗を支配する』、今泉拓著、日本実業出版社、2024年

スポーツ・ファンなら、今すぐ買うべき本だ。 まず、この手の本にありがちな、「まとまりに欠ける」、「終盤にかけてダレていく」ということがない、良書である。丁寧に構成がされていて、教科書を読んでいるようだ(教科書として書かれているかもしれないが。) また、著者はスポーツ分析の実務に携わっていたので、よくあるサッカー、野球という事例だけではなく、ゴルフ、テニス、マラソン等も取り上げている。これらのスポーツの分析は、私もはじめて読んだので大変興味深かった。ちょうど、オリンピックが

批評 『スプリント:人類最速と呼ばれるために』、NETFLIX、2024年

本作は、陸上世界記録を破ろうとする、アスリート達の群像劇である。密着するのは、いづれもが陸上短距離100m走、200m走の選手である。2023年シーズンのダイアモンドリーグからブタペスト世界陸上まで密着したドキュメンタリーである。 主役は、シャキャリ・リチャードソン、ノア・ライルズ、シェリカ・ジャクソンである。いづれもが、パリ五輪に出場予定である。シェリカ・ジャクソンについては、7月10日に行われた大会で、ハムストリングを痛めたようだ。現時点では、出場するかどうかは分かって

批評 『リディームチーム:王座奪還への道』、NETFLIX、2022年

本作は、2008年の北京五輪での金メダル奪還を絶対的使命として課されたNBA選手たちの軌跡を追うドキュメンタリーだ。 2022年の公開当時、「なぜ今なのか。」と思って観たが、観ていただくと分かると思うが、この映画は墜落事故で2020年に亡くなった、コービー・ブライアントに捧げられたものだった。 もう10年以上前の出来事なので、文脈を補足しておいた方がいいと思う。 チームを率いた「コーチK」の下記の本を参考に何点か指摘しておきたい。コーチKの本名は、マイケル・ウィリアム・シ

批評 『BELIEVE 日本バスケを諦めなかった男たち』、Prime Video、2024年

「ワールドカップ2023」でのバスケットボール男子日本代表の激闘を収めたドキュメンタリー映画である。 この映画は、昨晩見つけたのであるが、下の私の書評で書いた内容が映像化されていたので、分かりやすいと思うので、興味がある方は、ぜひ見ていただきたい。 私は、いかなるスポーツにおいても戦術オタクではない。戦術は、選手の能力を最大化するために使うもので、選手ありきで、監督がその選手を活かすために与える「タスク」の方が重要だと考えている。 ただ、2010年代にバスケ界に起こった「

書評『スーパーチームをつくる!』、トム・ホーバス著、中塚和志その他文・構成、日経BP、2024年

本書は、今、最も「ホットな」ヘッドコーチ、トム・ホーバスが語る「チームビルディング」・「組織マネジメント」の本である。トム・ホーバスは、バスケットボール男子日本代表ヘッドコーチである。 (私は、平社員なので、「チームビルディング」や「組織マネジメント」には通じていない。そちらの視点からは、書評は書けないのでご了承ください。) しかし、本書を手に取り、今回のパリ五輪からバスケットボールを観ようという方には、バスケットボールというゲームがこの10年で「革命的」に変わった、とい

批評『フェデラー~最後の12日間』、Prime Video、2024年

本作は、題名通り、ロジャー・フェデラーの引退試合までの12日間が描かれた作品である。 紹介文にもかかれているように、本来公開する予定で撮られていないため、フェデラーに去来する感情が、そのままフィルムに現れていて、好印象を与える素晴らしい作品である。 何と言っても、本作品の見どころは、2000年代のテニス界を盛り上げてくれた、4大巨頭、フェデラー、ナダル、ジョコビッチ、マレーが、引退試合に勢ぞろいするところであろう。これは、フェデラーでなければ実現しなかったであろう。 ま

書評『国際情勢でたどるオリンピック史』村上直久著、平凡社新書、2024年

オリンピック全史をたどる本だ。 元ジャーナリストで、アカデミズムにもいた著者が書いた本であるため、「コンパクト」ながら新書ではなかなかお目にかかれない「深み」のある本である。 オリンピック全史を知りたい方は、まず、これを読むべきであろう。巻末に参考文献があげられているのもいい。 新書という限られた紙幅の中で、的確に「エピソード」が取り上げられているため、この本一つで、「国際関係史入門」に耐えうる「レベル」に達している。 白眉は、「第5章 幻の東京オリンピック」、「第6

批評:『シモーネ・バイルズ 限りなき高み』、NETFLIX、2024年

本作は、100年に1人の稀代のアスリート、シモーネ・バイルズの東京オリンピックでの失敗から、パリ五輪の選手選考会までを描いた、スポーツ・ドキュメンタリーである。 偉大なスポーツ選手をドキュメンタリーで描くのは、彼女・彼が現役の間には困難である。彼女・彼は現役でプレーしているので、できるだけ選手の邪魔にならないように撮るからだ。 本作では、彼女が人生で遭遇した様々な困難が描かれるが、あまりにも多すぎて、いずれにも深くは突っ込んでいない。そのため、作品は表層的な感を否めない。

批評 『クォーターバック: 不屈の求道者』、NETFLIX、2023年

『レシーバー 風を切って走る』を見た後、本作を見直してみた。 圧倒的に、本作の方が面白い。 一般的に、スポーツ選手は批判に晒されてやすい。なぜなら、その全てのプレーが録画され、査定され、批判されるからである。 その中でも、NFLのQBへの、批判はかなり厳しい。比べられるなら、プロ野球のエースぐらいであろう。ただ、エースも全ての試合に登板するわけではなく、多くても5分の1ぐらいであろう。全ての試合に責任を持つものではない。 エースQBは、怪我がなければ全試合に出場し、攻撃

批評:『アメリカズ スウィートハート ダラス・カウボーイズ・チアリーダーズ』、NETFLIX、2024年

世界で最も人気があるプロスポーツチーム、NFL「ダラス・カウボーイズ」の世界で最もプレステージがある「チアリーダーズ・チーム」に1シーズン密着したドキュメンタリーだ(NFLに馴染みのない方には、エピソード6から見るといいと思う。チームが何をやってるか、よく分かる) ダラス・カウボーイズは、「アメリカズ・チーム」と呼ばれ、全米放送となると、3000万人もの視聴者を集める、アメリカのスポーツで最もファンが多いチームである。また、そのチアリーダーズチームも、その魅力の一つとなって

忘れられた傑作たち 『狂気の左サイドバック』、一志治夫、新潮社、1994年

「ドーハの悲劇」から、もう30年経つ。感慨深い。 私はまだ小学生であったが、この試合をテレビで観ていた。 この本は、Jリーグ前夜、「サッカー日本代表」が帯びていた圧倒的な熱量を、感じさせてくれる。 私が読んだスポーツ・ノンフィクションでは、トップ5に入る傑作である。 もし、あなたがサッカーファンであるなら、間違いなく読むべき本である。 当時を知らない方に案内すると、この「狂気の左サイドバック」とは、都並敏史氏である。 改めて、読んでみて感じたのは、「国を代表する」という

忘れられた傑作たち:『古代オリンピック 全裸の祭典 』、トニー・ペロテット (著), 矢羽野薫 (訳)、 河出文庫、2020年

書評コーナーでは、できるだけ新刊を扱いたい。 しかし、スポーツ関連書籍は、時の「人」に語ってもらうという本が多い。また組織論や人生訓やリーダー論として売られるため、寿命が非常に短い。 そこで、今なお、時が経ても読まれるべき本を「忘れられた傑作」として紹介したい。それがこの連載の趣旨である。 いよいよ「パリ五輪」である。 オリンピックのたびに、古代オリンピックとは、どんなものだったか、といつも気になるが、歴史書を読むのはしんどい。ノンフィクションのようなものなら、読んでも