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書評

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金,土、日更新予定。主に新刊のスポーツ関連書籍を取り上げたいと思います。週2~3冊
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記事一覧

書評:『野球IQを磨け!勝利に近づく"観察眼"』飯塚智弘、2004年

本書は、いわゆる「野球のセオリー」が分かる本である。たとえどのレベルであろうと、野球選手にはマストな本である。私は少年野球をやっていたので、コーチから色々教わったことを思い出した。 また、野球コーチには、コーチングの仕方が変わる本であろう。 野球を観戦される方にもお薦めである。 「野球あるある」を頭に詰め、野球観戦に行こう。何かつぶやけば、賢人と思われるかも。 ただし、本を読みながら、書かれていることを視覚化できない方には、厳しい読書となる。なぜなら、図やイラストが入って

評論:『レシーバー:風を切って走る』、NETFLIX、2024年

昨日、NFLファンにとって待望の『レシーバー:風を切って走る』が公開された。NFLファンではない方も、NETFLIXに加入されているなら、ぜひ見て頂きたい。その世界に圧倒されることは、間違いない。 NFLの魅力は、その選手一人一人の能力がスーパープレイという形でどのスポーツより最も現れるスポーツであるということである。アスリートのスピード、パワー、スキル全てがスーパープレーにつながるので、初めてNFLを観る方でも、その選手の何がすごいか一発で分かる。 ルールが難しいという

書評:『暗躍の球史 根本陸夫が動いた時代』、高橋安幸著、集英社、2024年

読んでいて、ふと「白洲次郎」を思い出した。白洲次郎は、百姓から時の首相吉田茂、イギリスの貴族、マッカーサーまで、分けへだけなく付き合ったことが知られている。 そのような稀有な「才能」を根本陸夫は、持っていたんだなと思った。 本書の内容ついては、著者が「はじめに」の中で、概要を書いているので、それを読んで、興味がある方は、ぜひ本書を手に取っていただきたい。 私は、根本が活躍した時代に生まれていなかったか物心がついていなかったため、根本の伝説的トレードやドラフトについて、ほと

書評『相撲の力学 〜神技のカラクリ〜』、松田哲博 (著)、BABジャパン、2024年

筆者、乾坤一擲の書である。 相撲を物理学で説明しようという書である。筆者は、琉球大学理学部物理学卒の元力士、本書はその恩師に捧げられたものである。 結論から言おう、その目論見はまだ道半ばである。 出てくる物理学は、ニュートン力学から相対性理論まで、高校までの物理学が分かれば、戸惑うことなく本書は読める。 本書の題名どおり、「ニュートン力学までの解析で終わっておけば良かったのに」と私は思った。 電磁気学、量子力学、相対性理論で解析しているところは、無理に理論を振りかざして

書評コーナー

書評コーナーでは、洋の東西を問わずスポーツに関連する書籍を紹介できればと思う。特に、スポーツに関連する興味深い書籍はあまり邦訳されていない。洋書も紹介できればと思う。

書評:『航空管制 しられざる最前線』、タワーマン著、河出書房新社、2024年

本の内容については、上記Amazonのページが詳細、十分だと考えるので、ここでは触れないが、一点強調したいのは、管制官は、一つのミスで業務上過失致死傷罪に問われかねない仕事をしているということである。 このような重責を背負って、日々仕事に努められている公務員の方々には、素直に敬意を示したい。 以上のことを、前提に私なりにこの本を読んだ。 思ったのが、これはまさしく「コーチング」の仕事ではないであろうかということである。パフォーマンスをするのは、あくまでも「機長」である。つ

書評 『勝者の科学 一流になる人とチームの法則』 マシュー・サイド著、永森鷹司訳、ディスカヴァー・トゥエンティワン、2024年

まず、あやゆる翻訳書については、その原題を調べなければならない(日本で売るために、かなり原題を超訳したものが多いからである。 本書の原題は、”The Greatest: The Quest for Sporting Perfection"、2017年にイギリスで出版されたものである。 本書の邦題は「勝者の科学」である。しかし、その内容はいわゆる「勝者になるためには?」といった本ではない。 「勝者のレシピ」のようなものを求めて本書を手に取ると肩透かしを食らうかもしれない。

書評 『ミケル・アルテタ アーセナルの革新と挑戦』、チャールズ・ワッツ著、結城康平、山中琢磨訳、2024年、平凡社 前編

ミケル・アルテタのアーセナル監督就任から、2022年〜2023年シーズンまでの出来事と舞台裏を描いた本である。 読者を選ぶ本である。 いきなりであるが、アーセナルのファン(グーナー)や他チームのファンでプレミアリーグをフォローしている方以外は、読んでいても楽しい読書ではないだろう(値段も高い)。 この本の原著者は、アーセナルの番記者である。そのためアーセナルの内部で何が起こっていたのかということは、詳細に書かれている。ただ、10年以上、アーセナルをフォローしていないと、

書評『ミケル・アルテタ アーセナルの革新と挑戦』、チャールズ・ワッツ著、結城康平、山中琢磨訳、2024年、平凡社 後編1

原著の題名が、"Revolution:The Rise of Arteta's Asenal”であったことは、前編で紹介した。そして、この題名が本の内容にそぐわないというのが私の主張であった。 書評であるので、本の内容を紹介するべきなので、紹介したいと思うが、少し廻り道をして、アルテタ以前のアーセナルについてを補助線として現在を見た方がよりわかりやすいので、少し付き合っていただきたい。 ここからは、アルテタ監督から離れ、もしアーセナルに「革命」が起こっていたのだとしたら、

書評『ミケル・アルテタ アーセナルの革新と挑戦』、チャールズ・ワッツ著、結城康平、山中琢磨訳、2024年、平凡社 後編2

前回、ヨーロッパのサッカー・クラブにおける「マネージャー」と「ヘッドコーチ」の違いについて、簡単に紹介させていただいた。 もう一度確認すると、「ヘッドコーチ」とは、主に戦術等ピッチ上の事象について責任を持つ仕事である。それに対して、「マネージャー」とはピッチ上の事象はもちろんピッチ外の人事、予算管理まで責任を持つ仕事である。 例えば、有名な話ではサー・アレックス・ファーガソンは、そのキャリア中・後期においては、練習には週1度しか顔を出さなかったという。その代わりに、副官に試