「腸の炎症と癌におけるミトコンドリアへの腸内細菌シグナル伝達」について
ミトコンドリアは、細胞内のエネルギー生産に不可欠なオルガネラです。粘膜細胞のミトコンドリアの機能の変化が、炎症性腸疾患 (IBD) や結腸直腸癌(CRC) などの腸疾患と関連していることを示唆する新たなエビデンスにより、腸の健康におけるミトコンドリアの役割に新たな関心が寄せられています。
細菌、ウイルス、真菌などの何兆もの微生物からなる腸内マイクロバイオームは、腸の恒常性と病気において重要な役割を果たしています。ミトコンドリアが進化的にプロテオバクテリアに由来することは広く受け入れられており、その結果、真核生物のミトコンドリアと原核生物のゲノムの間に共通の特徴が生じています。
これらの類似性により、ミトコンドリアは、細菌と同様のメカニズムを使用して免疫応答を引き起こす中心的な役割を果たすことができます。さらに、細菌は、宿主細胞のミトコンドリアを標的にすることができます。
健康と病気の間の腸内微生物叢と宿主ミトコンドリアとの間のこのようなクロストークは、重要な研究分野として浮上しています。腸内微生物叢とミトコンドリアの間の複雑な分子シグナル伝達を解明する研究が始まっていますが、IBD または CRC の病因における微生物叢と宿主ミトコンドリアの間の機械的連携を特定するには、さらなる研究が必要です。
消化管マイクロバイオームは、腸の生理学的恒常性だけでなく、炎症性腸疾患 (IBD) や結腸直腸癌 (CRC) などの疾患の病態生理学においても重要な役割を果たしています。
新たなエビデンスは、腸内微生物叢が腸管上皮細胞や免疫細胞を含む粘膜細胞のミトコンドリアにシグナルを送ることを示唆しています。
ミトコンドリアへの腸内微生物叢シグナル伝達は、ミトコンドリア代謝を変化させ、免疫細胞を活性化し、インフラマソームシグナル伝達を誘導し、上皮バリア機能を変化させることが示されています。
腸内細菌叢の異常症とミトコンドリア機能障害の両方が、慢性腸炎と結腸直腸癌 (CRC)に関連しています。
真核細胞の発電所として、ミトコンドリアは腸の恒常性に不可欠な役割を果たします。
ミトコンドリアは、自然免疫応答と適応免疫応答を引き起こし、それによって炎症と自己防衛経路を促進します。
ミトコンドリア機能は、炎症時の適切な上皮バリアの保全に不可欠であり、腫瘍形成において中心的な役割を果たします。
腸内微生物叢は、腸粘膜細胞におけるミトコンドリアシグナル伝達の調節に重要な役割を果たしていますが、IBD や CRC などの腸疾患の進行における微生物叢 - ミトコンドリアクロストークの関与は完全には理解されていません。
ミトコンドリアを標的とした治療法は、腸疾患に対する刺激的な新しい戦略を提供します。さらに、腸内マイクロバイオームを変化させることを目的とした治療法は、腸細胞のミトコンドリア反応を促進する可能性があります。
参考文献
Gut bacteria signaling to mitochondria in intestinal inflammation and cancer
Dakota N. Jackson &Arianne L. Theiss
Pages 285-304 | Received 27 Dec 2018, Accepted 01 Mar 2019, Published online: 26 Mar 2019
オルガネラ：
オルガネラ : 細胞内にあって、一定の機能を持つようになった小器官の総称。細胞内小器官、細胞小器官などとも呼ばれ、核、ミトコンドリア、ゴルジ体などが例として上げられる。
ミトコンドリア：
エネルギー産生に関わる真核生物の細胞内小器官の一種のこと。神経や筋肉などのエネルギーを多く消費する細胞だけでなく、皮膚などの組織を構成する細胞の中にも存在している。精子のような微細な構造物の中にもミトコンドリアは存在し、細胞が増殖したり、タンパクを合成したり、運動するためのエネルギーを供給していることで知られる。筋肉や神経、肝臓の細胞の内部には数百から数千のミトコンドリアが存在して、エネルギー産生によって細胞の活発な活動を支えている。
プロテオバクテリア（Proteobacteria）：
真正細菌のうちプロテオバクテリア門に分類されるグラム陰性菌のこと。大腸菌、ヘリコバクターピロリ、窒素固定を行う菌、油を分解する菌など多種多様な菌が含まれる。リポ多糖類からなる膜をもち、べん毛によって動くものが多い。
インフラマソーム（英: inflammasome）：
細胞質に位置する多タンパク質オリゴマー（単量体（モノマー）が低い程度に重合してできた重合体）であり、自然免疫系に関与し、炎症応答の活性化を担う。
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