見出し画像

ユーラシア大陸横断⑦ 【シベリア鉄道 前半戦】

2018年1月8日深夜、ウラジオストクを出発した僕は、ハバロフスクに着く少し前に目を覚ました。

昨日から相席のロシア人のおばさんは、僕より一足早く起きて、謎の独り言を呟き続けている。時々、おばさんの上のベッドで横になっているおじさんが、その独り言に反応するのがまるでコントのようで面白い。

外は銀世界だ。どんよりした雪雲とタイガが延々と続いている。タイガとはロシア語でシベリア地方の針葉樹林のことだ。帰国したあと、友達から「シベリア鉄道は長く感じたでしょ?」とよく聞かれた。少なくともシベリア鉄道1日目は全くそんな気はしなかった。起きてから日が沈むまでずっと外の景色を眺めていた。

一面の雪景色をずっと見ていると、何も考えず無になれる。列車内は、おばさんの独り言を除きとても静かだし、おばさんの独り言も異国のBGMに聞こえる。時々、アムール川など、世界史や地理でなった地名を見るとテンションが上がった。

シベリア鉄道で何より不満だったのは、食事とシャワー。この二つに関して、僕はシベリア鉄道に乗り込む前、完全に甘く見ていた。

まず、食事が毎日同じ問題。基本的に、食料は次の目的地までの分を買い込んでから乗り込む。僕はウラジオストックで、イルクーツクまでの3泊分の食料を買い込んだ。車内は熱湯のサービスがあるだけで凝った調理はもちろんできない。だから、必然的にカップ麺や果物、パン、ビスケットの類が主食になる。僕は1日の食料を、炭酸水1L(水だと思って買ったのだが…笑)、パン5切れほど、カップ麺2つとビスケット1袋、みかん4つ、りんご2つと決めて乗り込んだ。だが、この配分が完全にミスだった。果物は良いとして、1日カップ麺2食×3日は地獄だ。しかも、ロシアのカップ麺はバリエーションが少ないので、3食に1回は同じ味になる。上の写真は、粉末に水を注いだら、膨らんでマッシュドポテトみたいになるヤツだったが、これが一番まともに美味かった。3食に1回出てくるスペシャルメニューを楽しみに待つひもじい3日間だった。

どうしても食料が足りなくなった時は、列車が駅に停車するのを見計らってダッシュでKioskに行き、食料を買う。でも、kioskはスーパーの1.5倍以上の値段なのですこぶるコスパが悪い。僕はカップ麺と炭酸水にうんざりして、Kioskでポテチとコーラを買ってしまったが…値段を聞いて二度と買わないと誓った。

二点目、車内にシャワーがない問題。水が出る場所はトイレの手洗い場だけだ。このことを事前に知っていたが、1月だからそんなに汗もかかないし余裕だろうと侮っていた。だが、人間は普通に生活していても汚くなる生き物だ。まして、ロシアは寒がりの民族が住む国だ。車内はかなり暖かい。基本的にTシャツ1枚でないと汗をかく。Tシャツでもヒーターの近くにいるとじっとりと脂汗が出てくる。2日目の朝には髪がベットリ。体は濡れタオルで拭けば、何とか不快感が治まるが、髪のベットリ感はどうしようもない。

1日目のウキウキ感は何処へやら。2日目から外の景色に飽きだしてきて、3日目にはうんざり。頭のベットリ感が不快で、四六時中、髪の毛を洗う事しか考えなくなる。「あと、60時間でイルクーツク、あと60時間で…」とブツブツ言いながら、髪を洗う自分を想像してニヤニヤしていると、前のおばさんから不思議そうな顔でじーと見つめられた。

シベリア鉄道の車内では、ドストエフスキーの「カラマーゾフの兄弟」を読破してやろうと意気込んでいたが、二日目からは髪の不快感と食のストレスで思うように進まない。ダウンロードしたアマゾンプライムビデオを見るか、寝るか、電波が届いた隙にネットサーフィンするかの3択で時間を潰して、2つの不快感から出来るだけ逃避しながら過ごした。

僕は完全にシベリア鉄道を舐めていた。「グーグルマップで見た距離感」と「現実の距離」は全く違っていたのだ。イルクーツクは遠かった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?