ブレイム・ブレイズ~断罪のホムラ~ 第1話

あらすじ

超文明が滅びて機械が暴走し、衰退した後の世界。スラムに住む少年・ホムラは「正義の味方」になるべく人助けをしながら暮らしていた。
スラムの人間をゴミ扱いする帝国の軍人が古代文明時代のナノマシンを持ち逃げした少女アヤメを探しスラムにやってくる。軍人たちの傍若無人な振舞いで幼馴染や親しい人を失ったホムラの元にアヤメが現れる。正義とは何かを問われ、答えられないホムラは幼馴染の危機を前にアヤメからナノマシンを奪って自らに使う。あと一歩の所で幼馴染を助けられなかったホムラは、死に際に幼馴染から託された約束を果たすために立ち上がった。
最強のナノマシン『ブレイム・ブレイズ』でこの世の理不尽を焼き尽くすために。


第1話


晴天の下にそびえる瓦礫の山から赤い短髪の少年が這い出して来る。笑みを浮かべて掛けていたゴーグルをあげる。

ホムラ「うーん、良い天気だ」

やせた犬が近くを通りホムラを威嚇する。ホムラはメッセンジャーバッグを漁り、ガラクタ類を落としながらキノコを取り出す。

ホムラ「お前も腹減ってんのか。喰え」

犬がきのこに食らいつく。ホムラの腹が鳴り犬が顔をあげるが、ホムラはやせ我慢して笑う。

ホムラ「正義の味方ってのは困ってる奴の味方なんだ、気にせず食え」
ホムラ「発掘したガラクタを売れば朝飯くらいにはなるし……っと、いけねぇ! 授業が始まっちまう!」

ホムラは駆け出す。廃墟を使った店や、廃材で組み立てた露店などを通り抜ける。老若男女いろいろな人間が生活している。一様にみすぼらしい姿だが、活気にあふれている。
住民たちはホムラを見つけると気安い様子で声を掛ける。慕われていることが伝わる態度。

住民①「おはようホムラ!」
住民②「今日も”先生”のトコかい?」
住民③「あいつ見てると元気出るよなぁ」

瓦礫が退かされ広場状になっている場所にて四肢が武骨な機械の義体になっている悪人顔の男が不敵な笑みを浮かべる。その背後には背中から銃器を生やした巨大な猪の死体が置いてある。死体は切られており、一部は肉として調理されている。

ドン「おいホムラ! 待ちやがれ!」
ホムラ「なんだよ、ドンさんか」
ドン「育ち盛りなんだからコレ喰ってからいけ」
ホムラ「に、肉!? モンスターぶっ倒してきたのか!?」
ドン「おう。俺にかかりゃイチコロよ」

義腕を唸らせながら焼けた肉をホムラに渡すドン。

ホムラ「すげぇな、義腕」
ドン「俺に何かあったらやるよ」
ホムラ「ドンさんに何かあったらスラムなんて滅んでるって!」
ドン「そりゃそうか。どっちにしろおまえじゃ持ち上げることすらできねぇかもな」
ホムラ「馬鹿にすんなよ!? 毎日特訓してるんだからな!」
ドン「ははっ、知ってらぁ」「期待してるぜ」

ドンはホムラの背中を乱暴に叩くと老人や子供に肉を配っていく。食べ終えたホムラもそれを手伝う。
配り終えたところで広場の入口が騒がしくなる。悲鳴が上がり、ホムラ達もそちらを見る。アサルトライフルで武装した兵士の一団がジープから降りてきて周囲の人間を突き飛ばしたり威嚇したりする。空いた空間に、明らかにえらそうな態度の男⎯⎯兵士長が降りてくる。

兵士長「臭っせぇなぁ。ただでさえ臭い連中が臭い肉なんぞ喰いやがって」
兵士長「おらっ、邪魔だ!」

乱暴され騒然とする広場。驚き固まるホムラの横、ドンがとびかかる。

ドン「帝国の兵士……俺らをシティから追放したくせに好き勝手やってんじゃねぇぞ!」

ドンが殴りかかるが、義腕は兵士長にあっさり受け止められる。一目でわかる体格差にも関わらず兵士長は余裕の表情。その両腕には唐草模様に見える紋様が浮き上がっている。

ドン「なっ!? ナノマシン適合者か!」

小ばかにした笑みを浮かべた兵士長はドンの腹を撃つ。

兵士長「分かったならさっさと倒れろ、マヌケが」「俺を倒したきゃナノマシン適合者になってこい」
ドン「ぐあぁ!」
兵士①「それが出来なくてシティから追放されてるんすよ!」
兵士②「適正も金もないゴミどもが!」
兵士③「腕にガラクタをつけるのが限界だわな!」

げらげら笑う兵士たちと、ドンの義腕が砕かれたことを見て怯える住人達。ホムラは歯を食いしばるも何もできない。

兵士長「聞けぃマヌケども! このスラムに凶悪な犯罪者が逃げ込んだ!」

手配書を見せつける。幼いながらも凶悪そうな笑みを浮かべた少女が掛かれている。生死問わずデッドオアアライブの文字と、眼が飛び出る程の金額が印字されている。

兵士長「虐殺兵器を持ち逃げしてここに隠れているはずだ! 見つかるまでジャンクの買い取り額は1/10だからな!」
住民③「待ってくれ!」
住民①「今でさえギリギリなんだ、そんなことされたら——」
兵士長「マヌケどもが! お前らの意見なんぞ聞いとらんわ!」「この俺は第17支部長のガドル大佐だぞ!? この俺に意見するなどマヌケにも程がある!」

殴られて吹き飛ばされる住民たち。

「いくぞ! ここは臭すぎるから外にベースキャンプをつくる!」

兵士たちは笑いながら引き上げていく。誰もが固まっているが、ドンの呻き声でホムラが我に返る。

ホムラ「ドンさん! みんな!」

ホムラはけがをした人たちを介抱する。


瓦礫の一角。崩れかけた壁に取り付けられた黒板と、椅子や机代わりの廃材が並ぶ場所。ホムラは正座している。周囲の子供が興味津々で見守る中、黒の長髪に糸目の男性イシジカ――通称先生がホムラを見つめている。

先生「なるほど、それで遅れたわけですか」
ホムラ「困ってる人がいたら放っておけねぇじゃん!」

生徒の一人、やや冷めた目をしたショートボブの少女がホムラを覗き込んで鼻で笑う。

シルク「ホント、正義ばかよねアンタ」
ホムラ「シルクは黙ってろよ」
シルク「先生、コイツまーったく反省してない」

シルクの言葉を受けて先生が手をあげる。思わず目を閉じて身を固くするホムラだが、いつまで経っても殴られる痛みはやってこない。恐る恐る目を開けると、先生はゆっくりと手を頭に伸ばすところだった。

先生「よく頑張りましたね。人を助ける優しさを、私は誇りに思います」
「ですが、遅れた分の復習もしましょう」
ホムラ「ゲッ!? 算術!?」
シルク「手伝ってあげても良いわよ」
ホムラ「そんなことより、ナノマシンってのを教えてくれよ!」
先生「仕方ありませんね」
シルク「先生甘すぎ」
先生「帝国兵がここまで来た以上は、知らないままでは困りますからね」

黒板に簡単な図を書く。三つに分かれたピラミッド型の図形の最下部に「一般人」と書く。境界線上が機械化人。ピラミッド二段目に「ナノマシン」、最上部に「古代文明時代の機械化人・ナノマシン適合者」。

先生「ナノマシンは古代文明の産物ですが、多くは現代の技術でチューニングされています」「そのまま使うにはあまりにも強力すぎる上に、拒絶反応でほとんどが死んでしまうからです」
「その調整済みのナノマシンですら、普通の機械化人を大きく超える力を得られます」

ホムラの脳裏にドンを圧倒した兵士長の姿がよぎる。

先生「帝国の軍人は全員が適合者。とはいえ、特殊能力のないG級ばかりですが」
シルク「適正ゼロだと私たちみたいに捨てられるもんね」
ホムラ「先祖が捨てられたスラム出身のやつは適正ないの?」
シルク「馬鹿ね。捨てるほど人がいるんだから、わざわざ調べにくるわけないでしょ」
先生「F級以上のナノマシンは特殊能力を使えます。体に入れ墨みたいな模様が見えたら、急いで逃げるか隠れなさい」

兵士長の腕に発現していた模様を思い出す。

ホムラ「ナノマシン見つけて売ったら、腹いっぱい食えるかな?」
シルク「馬鹿ね。自分で使った方がずっといいでしょ」

シルクに乗っかって生徒たちがホムラを馬鹿にする。追いかけっこを始めるホムラと子供たち。楽しそうな表情の彼らを見て、先生は複雑そうな顔になる。

先生「帝国の兵士が来ているので、今日は早めに切り上げましょう」
「日が暮れてからは出歩かないように」
一同「はーい」
「ホムラはいつも通り瓦礫山の隙間に?」
ホムラ「隙間じゃなくて秘密基地! 正義の味方には必要なんだよ!」
シルク「はぁ……出た、正義ばか」
ホムラ「なんでシルクにはわからねぇんだよ!」

バッグからボロボロの本を取り出すホムラ。恍惚とした表情で正義の味方について語り始めるが、先生は苦笑、そのほかはまったく聞いていない。

ホムラ「(吹き出しに収まらないくらい喋っている)」
シルク「それじゃ先生、また明日」
先生「はい、また明日」
ホムラ「(まだ喋っている)」

喋り続けているホムラを引きずって帰るシルク。

ホムラ「あ、おれこっち」
シルク「アンタの秘密基地はあっちでしょ?」
ホムラ「修行だよ修行。正義の味方は強くなきゃな」
シルク「この正義ばか! 先生が早く帰れって言ってたでしょ!」

喧嘩する二人。シルクが拳や平手を振るうがホムラは軽業のような動きで避け続ける。

シルク「なんで避けられんのよ!」
ホムラ「鍛えってからな! 正義の味方になるために!」
シルク「現実をみなさいよ!」
ホムラ「うっせぇ!」
シルク「このゴミみたいな世界に正義の味方なんている訳ないでしょ!」
ホムラ「いないから俺が正義の味方になるんだろうが!」
シルク「できると思ってんの!?」
ホムラ「やるんだよ! おまえも、ドンさんも、先生も! 困ってたら助けられる正義の味方になる!」

自分の名前があがり驚いて固まるシルク。頬が赤くなり、ホムラを見つめる。

シルク「アタシも……?」
ホムラ「当たり前だろ」
シルク「それなら許してあげる。まぁ、できるとは思わないけど」
ホムラ「ンだと!?」

唇を尖らせるホムラに、シルクはいたずらっぽい笑みを浮かべる。クラスター水晶のようなものがペンダントトップになった綺麗なネックレスを見せる。

シルク「賭ける? 出来たらコレあげる」
ホムラ「おまっ、それ宝物だって⎯⎯」
シルク「その代わりできなかったらアンタの漫画、もらうから」
ホムラ「待て待て待て!」
シルク「私より弱いうちは無理ね」「捕まえてみなさい」

ホムラとシルクはじゃれあうように追いかけっこをする。ホムラがシルクを追い詰めるが、捕まえた拍子に胸を鷲掴みにしてしまう。
顔を真っ赤にしたシルクはホムラを睨み、平手打ちをして帰ってしまう。残されたホムラは打たれた頬を押さえながら呆ける。


ホムラの秘密基地にて。その辺に生えているキノコを齧りつつ今朝の肉の味を思い出すホムラ。同時に帝国兵士がドンの義腕を圧倒していたことを思い出す。

ホムラ「ナノマシン、か」
ホムラ(俺にも力があれば……)

キノコを咥え、神妙な顔で自らの手のひらを見つめる。バタンと倒れ込んだホムラの視界に瓦礫の隙間から入ってきたシルクが映る。驚くホムラだが、シルクは切羽詰まった表情。

シルク「ホムラ! 来て!」「先生が処刑されちゃう!」

走る二人が広場に向かうと人垣ができていた。かき分けて前に進んで子供たちと合流。兵士が警備する柵があり、中心には顔を殴られて磔にされた先生。ぐったりした様子の先生を見ながらニヤニヤするガドル兵士長と兵士たち。

ガドル「このマヌケは凶悪犯罪者に通じ、平和を守る俺たちの邪魔をした!」
「よって公開処刑だ!」

ガドルの言葉に沸く兵士たち。住民たちは恐怖に顔を引きつらせている。ホムラが飛び込んで助けようとするが、目の前にいた兵士に殴られる。倒れ込んだところに、銃口を突き付けられる。

ガドル「んん~? 何やら騒がしいが、まさか悪人を庇おうなんてマヌケがいるわけないよな?」
兵士①「いたら処刑ですね!」
兵士②「スラムのゴミでもそのくらいは理解できますって!」

ガドルがホムラやシルクを認識するも、ぐったりしていた先生が突如として暴れ始める。十字架を破壊して近くにいた兵士たちに殴りかかる。その隙にシルクが他の子供とともにホムラを取り押さえるが、ほぼ同時に先生もガドルに取り押さえられる。

ガドル「ナノマシン適合者だったか……極度のエネルギー不足だな」

何もしていないのに突如として目から血を流す先生。

ガドル「未来が約束されてるってのに帝国に喧嘩売るとは」「ナノマシンの持ち腐れだ」
先生「悪人に加担する気はありません。能力がない人間をシティの外に放り出し危険な発掘作業を——グガッ」
ガドル「俺たちはシティの平和を守ってるんだよ!」「マヌケな無能は黙ってろ!」
先生「無能ですか……あなたもナノマシンのランクが高いようには見えません」「コネか金で買った地位をひけらかして——」
ガドル「黙れっ!」

先生が殴られる。額に銃口を突き付けられた先生とホムラの目が合う。先生はにっこり笑いながら撃たれて死亡する。ガドルは先生の死体を無造作に投げ捨てる。子供たちに取り押さえられたホムラの眼前に先生の死体が落ちる。子供たちが恐怖に顔を歪ませ、涙を溢しながらも悲鳴をかみ殺す。ホムラも何かを叫ぼうとするが、シルクに口を塞がれて声を上げられない。

ガドル「ふん、帝国軍に盾突くからこうなるんだ。貴様らも覚えておけッ!」「撤収だ」


ホムラの秘密基地。横になったまま動かないホムラ。朝→夜→朝と時間が経過。いつの間にかホムラの側に金髪の少女が座っている。タンクトップとホットパンツに腕まくりした白衣を合わせた少女がホムラをつつく。

ホムラ「うわぁっ!? 誰だお前は!?」
アヤメ「私はアヤメ。初めましてだね、ホムラ」

脳裏に手配書が思い浮かんで飛び退くホムラ。拳を構えるも、すぐに手を下ろす。

ホムラ「……先生が匿ったっていう極悪人かよ」
アヤメ「察しが良いねぇ。花丸、花丸」
ホムラ「何の用だ」
アヤメ「イシジカが死ぬ前に話してた生徒の顔を拝んでおこうと思ってねぇ」

飄々とした態度のアヤメに激高するホムラ。ホムラはアヤメの胸ぐらをつかみ、歯をむき出しに威嚇するが、なおも態度は変わらない。

ホムラ「お前さえ来なきゃ先生は——」
アヤメ「見損なうなよ。イシジカは自分の正義のために逝ったんだ」「誰のせいでもない」「私のせいでも、暴れようとした君のせいでもない」

勢いを失ったホムラは手を放して膝をつく。アヤメは寂しそうな表情でホムラの頭を撫でるが、それを払いのける。

ホムラ「お前、悪い奴なんだろ?」
アヤメ「それは立場によるけども」

アヤメが懐からケースを取り出す。中には黒の液体が詰まったシリンジが三本並んでいる。

アヤメ「断罪の焔”ブレイム・ブレイズ”」「帝国が極秘に実験しようとしてた超古代のS級ナノマシンだ」「これを使わせないために逃げてきた」
ホムラ「ナノマシン!?」
アヤメ「って言ってもチューニング前の危ない代物だ」「適合条件も他のナノマシンと違うし」「感情の揺らぎに反応して暴走」「使用者ごとこのスラムくらいの範囲を焼き尽くす」

アヤメの説明を受けたホムラはビビッて引く。

ホムラ「そんな危ないもん使えないだろ!」
アヤメ「超古代製の代物だからねぇ」「一般人を一万か二万人くらい犠牲にして使えるようになるなら安いもんだ」
ホムラ「あ”あ”?」
アヤメ「スラムの人間に打って暴走するまで観察。何十回も繰り返せば適合条件や暴走を抑える方法も見つかるかも知れない」
ホムラ「やっぱ極悪人じゃねぇか!」
アヤメ「それが帝国のやり方さ」「私はそれをさせないために逃げてきたんだ」「イシジカに助けてもらおうと思ってな」

アヤメを睨みつけるホムラ。

ホムラ「先生がお前の仲間だったなんて信じらんねぇ」「先生は悪人なんかじゃない」
アヤメ「やれやれ。意固地な姿勢は減点だね」

アヤメは”ブレイム・ブレイズ”の入ったシリンジを手で弄ぶ。

アヤメ「例えばパン屋からパンを盗む。これは正義?」
ホムラ「悪に決まってんだろうが!」
アヤメ「病気の家族がいて、パンを食べさせなきゃ死ぬとしても?」
ホムラ「じ、事情を話して分けてもらえば……」
アヤメ「パン屋も売り上げが悪ければ廃業。シティから放り出される」
ホムラ「……でも!」
アヤメ「病気の家族が武器の密売人だったら?」「助けたらその武器で多くの人が死ぬ」
ホムラ「……」
アヤメ「さぁ、君の正義は何?」「よく考えて、良い答えを出せたら花丸あげる」

アヤメはホムラの頭を撫でて笑うが、考え込むホムラの腹が鳴る。キノコを採ろうと立ち上がったところで外の様子が騒がしいことに気づく。アヤメとホムラが小さな隙間から外を覗く。

ガドル「はぁっはははははは! 他にも犯罪者の知り合いがいたら連れてこい!」

ガドルがシルクを捕まえた状態で車が引いた台座の上に仁王立ちしている。台座の端にはすでに子供たちや大人の死体が転がっている。

ガドル「反乱の芽はひとつ残らず摘む!」「嫌なら指名手配犯の逮捕に協力するんだな!」
住民①「ひ、ひどすぎる……!」
住民②「シルクちゃん!」

顔を強張らせた住民に銃器を突き付ける兵士たち。

ガドル「何か文句あんのか? テメェらみたいなマヌケども、全員殺してやっても良いんだぜ?」
ドン「クソどもがぁ!」

兵士を殴り飛ばすドン。包帯だらけながら怒りを露わにして暴れまわる。兵士を数人吹き飛ばすが、ガドルが現れて両腕に模様を出す。ドンの拳を正面から受け止め、機械化した足にケリをいれる。足が砕けて部品が散らばり、倒れ込んだドンが兵士たちに袋叩きにされる。

兵士長「俺のナノマシンは体を金属よりも固くする」「貴様のスクラップなんぞ役に立たないぞ、大マヌケが」

 ボコボコにされたドンがシルクを助けようと手を伸ばすが、頭を撃たれて崩れ落ちる。

アヤメ「……これが今の帝国だ。私やイシジカはこれに反抗するため——」
ホムラ「よこせ」
アヤメ「は?」
ホムラ「よこせっ!」

ケースからシリンジを三本とも奪い取り、自らの腕に思い切り突き刺して注入するホムラ。アヤメは驚きに目を見開いて取り返そうと手を伸ばすが、空になったシリンジが地面に転がる。

アヤメ「何してる大馬鹿っ、減点だ!」

ホムラは大汗を掻きながら悶える。アヤメが慌てて助け起こし、様子を確認する。ホムラの体からはじりじりと煙が上がっており、少しずつ焦げている。

アヤメ「拒絶反応……いや、そもそも量が多すぎるんだ! 減点どころかゼロ点だぞ!」「一か八か、ナノマシンを除去してみる! 死ぬほど苦しいが本当に死ぬより——」
ホムラ「うるっせぇ……!」

ホムラは冷や汗を流しながらもアヤメを押しのけて立ち上がる。胸を押さえ荒い呼吸をしながら外に向かう。体を支えるために瓦礫の壁に手をつくが、瓦礫が簡単に砕ける。
自身の力がナノマシンで強くなっていることを認識したホムラは歯を食いしばるように笑い、外に飛び出す。

ホムラ「シルクを放せェ!」

近くにいた兵士を殴って吹き飛ばす。ホムラも焦げ続けて煙をあげているが、殴られた兵士も煙を上げ、じわじわと焦げ始める。

兵士①「グガッ!?」
兵士②「くっ、ガキの生き残りか!」
兵士③「煙が! 燃えちまう!」
ガドル「ガキ一人に何もたついてやがる!」「ブチ殺せ!」
シルク「馬鹿、なんで出てきたのよ!」
ホムラ「待ってろ。今助ける!」

兵士たちによる銃撃が始まる。攻撃を躱しながら兵士を倒していくホムラ。少しずつ近づいてきたホムラにガドルが苦虫を噛み潰したような顔になる。苛立ち紛れにシルクへと銃口が向けられる。
ガドルが撃とうとしていることに気づいたホムラが全力で走り、手を伸ばす。シルクもホムラに手を伸ばす。

ホムラ「シルクーっ!」

手が届く寸前、シルクが撃たれる。硝煙をあげる銃口を吹きながらガドルは見下したような笑みを浮かべる。

ガドル「帝国に盾突くマヌケにはふさわしい最期だ」
ホムラ「シルク! シルクっ!」

シルクを助け起こすも、胸部からは大量出血している。口からも血が出ておりどう見ても致命傷。

シルク「ホムラ……」「ネックレス、あげる」
ホムラ「こんな時に何を!? 待ってろ、すぐ助けて——」
シルク「前……払、い……」

手に持っていたネックレスをホムラの胸ポケットに入れ、シルクの腕がだらりとぶら下がる。ガドルや兵士、全ての銃口がホムラに向けられる中、ホムラが涙を流して絶叫する。ぶすぶすと噴き上げていた煙が大きくなり、爆発的に広がる。全身が炎に包まれ、ホムラとシルクがシルエットになる。

ガドル「チッ! 撃てェッ!」

雨あられと銃弾が降り注ぎ炎の中に吸い込まれていく。全弾撃ち終わり、ガドルが銃口をあげて嘲笑する。が、炎の中から無傷のホムラが現れる。シルクの遺体を抱きしめたホムラ。両腕から頬に掛けて炎のような紋様が刻まれており、左目からは炎が噴き出している。髪も炎のように逆巻き、炎色に染まっている。

ガドル「制御できずに自分を焼くなんてマヌケな奴だ!」「その腕はもう使いものにならんぞ!」
ホムラ「シルク……ごめんな」

シルクの遺体を丁寧に横たええるホムラ。左腕は炭化しており兵士長に指摘される側から割れて落ち、ぼろぼろに砕ける。

ガドル「痛みすら感じないか! 大マヌケが!」
ホムラ「――違う」
ガドル「放っておいても死ぬだろうが、優しい俺がトドメを刺してやろう」

ガドルがマガジンを交換して銃口をホムラに向け、銃撃する。ホムラの体から炎が噴き出し銃弾を蒸発させる。割れた傷口から噴き出した炎が鞭のようにドンの死体へと伸びる。

ガドル「な、何だっ!?」
ホムラ「細い腕じゃお前らを殺せないからな……ドンさん、約束通り貰ってくぞ」
アヤメ(暴走を抑えて適合したのか……三人分のブレイム・ブレイズに!)
ホムラ「なぁ、教えてくれよ」

ドンの義腕が炎に持ち上げられ、ホムラの腕に接続され、部品の隙間から炎を漏れ出す。ホムラは幽鬼のように立ち上がる。その顔からは表情が抜け落ちている。

ホムラ「先生が、ドンさんが何をした? 皆が何をしたってんだよ」
ガドル「うっ、撃ち殺せェー!」
ホムラ「なんでシルクが死ななきゃならなかったんだ?」

火柱があがって兵士たちの装備を焼いていく。銃が溶け服が燃えるが、兵士にはダメージはない。兵士の一人を殴りつけるホムラ。頭蓋が陥没して瓦礫に叩きつけられ、血の筋を残しながら崩れる。

兵士②「ひぃっ!」
兵士③「バケモンだ! 逃げろ!」

アヤメ(あらゆる力を焼き、反撃も防御も許さない絶対的な力)
(これが断罪の焔……!)

体を炎に包まれたままの兵士達が悲鳴をあげ、股間を隠しながら逃げていく。まだ無事な兵士たちから反撃の銃弾が飛んでくるが、着弾前に炎で蒸発する。次々とホムラに武器と服を燃やされていく。炎はスラムにも飛び散り、あちこちに引火し始める。

ガドル「ふん! 妙な技を使うが誰ひとり死んでないぞ、マヌケが」
ホムラ「返せよ」
ガドル「マヌケは所詮マヌケ」「この俺が特別に殺し方ってのを教えてやろう」
ホムラ「皆を返せ」

巻きあがる炎の中で振り返るシルエット。瞳だけが炎の中でさらに明るく燃えている。

ホムラ「できないなら——死んで償え」
ガドル「これがマヌケの殺し方だ!」

ガドルが全身に紋様を発現し、全力で殴りかかる。
振りかぶった義腕が唸りをあげて赤く輝く。炎を噴き出した義腕の拳がガドルを吹き飛ばす。さらに炎が飛び散る。

ホムラ「……死ねよ」
兵士長「ぐぎぎぎっ、がぁぁぁ! 体が! 体が焼けるゥ!」

炎に包まれ、兵士長の入れ墨が消えていく。

アヤメ「まさか……ナノマシンを焼いているのか……!?」
アヤメ(帝国が血眼になるわけだ)
アヤメ(ナノマシン適合者の天敵じゃないか)

ナノマシン模様の消えたガドルが尻もちをつき、後ずさる。

ガドル「ま、まぁ待て! 話を聞け!」「俺は金持ちでコネもある!」「特別にお前をシティに——」

言葉の途中でガドルを殴る。ぼこぼこにされ後ろに下がっていくガドルが瓦礫の壁に押し付けられたところで、ホムラは近くの瓦礫から鉄骨を引き抜く。
ホムラがそれをガドルに突き立てる寸前、アヤメが体当たりをして止める。

ホムラ「何しやがる。テメェから殺すぞ」
アヤメ「落ち着いて! あなたの炎がスラムを焼いてる! このままじゃ皆死んじゃう!」
ホムラ「そうかよ……皆死んじまえば良いんだ。こんなゴミみたいな世界、俺が全部燃やしてやる」

会話の隙を見てガドルは逃げ出そうと這っている。ホムラは義腕から炎を噴き出してガドルを狙うが、アヤメが平手打ちされる。

ホムラ「退けよ! あのクソを焼き尽くせねぇだろうが!」
アヤメ「退かないわ! 炎を鎮めなさい!」「炎熱系最強のブレイムブレイズならできるはずよ!」
ホムラ「うるせぇな……テメェから焼き尽くしてやる」

ホムラがアヤメの襟をつかみ上げる。アヤメは苦しそうな表情をするが、視線をホムラから逸らさない。

アヤメ「いい加減にしなさい!」

アヤメが暴れた拍子にホムラの胸ポケットからネックレスが落ちる。泣きそうな表情でそれを見つめたホムラは、歯を食いしばって耐える。アヤメを乱暴に放す。
歯を食いしばり、目を閉じて集中するホムラ。炎がどんどん勢いを弱め、鎮火する。
ホムラが目を開けると、様子を見ていたスラムの住民と目が合う。

住民①「ひっ」
住民②「本当にホムラ……なのか……?」
住民③「よせ、焼き殺されるぞ!」

ホムラはネックレスを拾うとシルクの元へと歩く。

ホムラ「先払いか……救えってのか、この、クソみたいな世界をよ」

尻ポケットからボロボロの本を取り出し、シルクの胸に供える。ホムラが愛読していた正義の味方の本だ。

ホムラ「ちょっと時間かかるかも知れねぇから、それ読んで待っててくれ」
ホムラ「クソどもを——理不尽を焼き尽くして来るよ」


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