ブレイム・ブレイズ~断罪のホムラ~ 第2話


夕暮れ時。スラムの秘密基地からホムラが出てくる。旅装に着替え、ズタ袋を肩に担っている。アヤメが遠くから走ってくる。

アヤメ「どこに行く気だ」「あっ、無視するな」「おい、ちょっと待て」「待ちなさいよッ!」

無視して歩き出すホムラの前に回り込み、両手を広げて行く手を塞ぐ。ホムラは眉間にしわを寄せてアヤメを睨む。

ホムラ「邪魔だ。消えろ」
アヤメ「君の身体には私のブレイム・ブレイズが入っているんだ」「放っておくなんてできるわけないだろう」

アヤメの言葉に、ホムラがズタ袋を放り投げる。獰猛な笑みを浮かべる。

ホムラ「……ガドルの野郎を殺しに行こうと思ったが、予定変更だ」「そもそもお前が来なきゃこんなことにはならなかったもんな」

襟首を義腕でつかんで持ち上げる。炎が吹きあがる。

ホムラ「シルクも、ドンんさんも、先生も……皆が死んだのはお前のせいだ」
アヤメ「……そうね。私のせいだわ。だから?」
ホムラ「開き直ってんじゃねぇ! 皆を返せ!」

睨み合うホムラとアヤメ。アヤメは突然頭突きをして、ホムラの義腕から逃れる。

アヤメ「無理に決まってるでしょ。どこのスラムにも転がってるような話で悲劇ぶらないで」
ホムラ「んだと?」
アヤメ「帝国を潰さなきゃ同じことは何度でも起きるわ……それに」

アヤメはホムラをにらみつけると詰め寄る。

アヤメ「イシジカは自らの意思で立ち向かった」「義腕の男も正しいと信じるもののために戦った」
ホムラ「知ったような口を聞くな!」
アヤメ「君の幼馴染もそうでしょ! いじけてないで亡くなった人達の気持ちを受け取って——」
ホムラ「テメェがシルクを語るんじゃねぇ!」

ホムラを中心に炎が吹き荒れる。火の粉が舞い上がりアヤメは両腕を交差させて庇うが、引き下がらない。

ホムラ「テメェが来なけりゃ皆死なずに済んだんだよ!」
アヤメ「言っておくけど」「こうなることが分かってたとしても、私はここに逃げ込んだわ」
ホムラ「それが遺言で良いんだな?」

ホムラが拳を構えたところで、スラムの奥地から爆発音が響く。


ジープに乗った帝国軍人たちが銃やミサイルを撃ちながら進んでいく。

兵士①「ったく。ガドル様も人づかいが荒いぜ」
兵士②「ガドル様の悪口は言うな。コネだけはすごいから、潰されるぞ」
兵士③「別に良いじゃねぇか。スラムをぶっ壊すだけでボーナスもらえるんだから」

ミサイルが廃ビルに直撃して崩壊。逃げ惑う住民を狙うわけでもなく、適当に撃ち続ける兵士たち。

兵士①「しっかし、スラムを更地にしろたぁ、面倒くせぇ」

バズーカが発射されるが、着弾直前に炎がぶつかり爆発する。煙の中から炎をまとったホムラが現れる。

ホムラ「探す手間が省けた」

炎が吹き荒れる。兵士を吹き飛ばし、武器や車両を焼いていく。追い詰められた兵士のひとりが目に涙を溜めて首を振る。正面には鉄筋を持ったホムラ。

兵士④「た、助け——ガァッ!?」

鉄筋を腹に刺され、兵士は背後の瓦礫に縫い留められる。

ホムラ「ガドルはどこにいる」
兵士④「貴様、こんなことをして——」

ホムラは鉄筋を蹴りつける。悲鳴があがるが無表情のまま、淀んだ瞳を近づける。

ホムラ「答えないなら殺すぞ」
兵士④「ほ、北東だ! 北東にある第17支部にいるッ!」「話した! 話したから命だけは——」

ホムラが拳を振るい、兵士は動かなくなる。追加の兵士が現れ、ホムラは顔をしかめる。

ホムラ「わらわらと鬱陶しいな」「他人様の住む街を荒しやがって……!」

ナノマシン適合者の兵士たちも炎で焼き、義腕で殴りつけていく。顔が陥没し、首が折れ、頭が割られ次々に殺されていく兵士。ホムラは返り血にまみれながら戦う。

ホムラ「一匹残らず根絶やしだ」

兵士⑤「う、動くなぁ! 動いたらこのガキを殺すぞ!」
少年「ほ、ホムラ兄ちゃん……!」

少し離れたところで、震える少年の頭に銃を突きつける兵士。少年は目に涙を溜めて震えている。

兵士⑤「へ、へへ……ナノマシンを解除しろ。さもないとガキの頭を吹き飛ばす!」
少年「兄ちゃん……ごめん……!」
ホムラ「絶対助ける。待ってろ」
兵士⑤「ごちゃごちゃうるせぇんだよ! ガキが死んでもいいのかッ!」

ホムラの身体から吹きあがっていた炎が消える。別の兵士たちがホムラを取り囲み暴行を加える。口から血を流しぼこぼこにされながらも兵士を睨み続けるホムラ。

兵士⑤「はははっ! 帝国に逆らうからこうなるんだ!」
ホムラ「おいっ、抵抗しないから放してやれ!」
兵士⑤「それが人にものを頼む態度か? ああ?」

兵士が少年の頭を銃口で小突く。ホムラは膝をつき、土下座する。

ホムラ「お願いします……解放してやってください」
兵士⑤「はははははっ! お断りだバーカ!」「コイツを殺したら別の人質をつれてきてやる」「それでお前は何もできねぇ」

引き金が引かれる。が、走り込んできたアヤメのタックルによって兵士はバランスを崩して銃撃を外す。

兵士⑤「くっ、クソ女が……!」
アヤメ「逃げなさい! 早く!」

恐怖で動けない少年に対し、兵士が発砲する。アヤメは少年を突き飛ばすことで助け、肩に銃弾が掠める。

アヤメ「逃げなさい!!」

怒鳴られた少年が逃げる。兵士が再び発砲しようとするが、アヤメが飛びつく。兵士はアヤメを引き剥がすために殴るが離れない。

兵士⑤「おい、誰かコイツを——」

援軍を求める兵士だが、すでに他の兵士はホムラに殺されている。自由になったホムラは兵士⑤を殴り飛ばす。瓦礫に叩きつけられたところに火柱が迫り、兵士は死ぬ。ぼろぼろのアヤメに、ホムラは怪訝な表情を見せる。

ホムラ「何で助けようとした」「スラムの人間が死のうが気にしないんじゃないのか?」
アヤメ「そんなこと言ってないでしょ!?」

アヤメは肩をかばいながらも立ち上がり、ホムラに詰め寄る。

アヤメ「私だって死んでほしいなんて思ってない!」「でも帝国の横暴を止めないともっと酷い未来が待ってる!」

アヤメの目には涙が溜まっている。

アヤメ「スラムの人がスラムに居続けるように、私にも他に選べる方法がないのよ……!」「平気な訳ないじゃん!」

瓦礫の山から破片が落ち、スラムの住民たちが顔を見せる。鍋や鉄板で見守り、廃材や鉄パイプを手に持っている。腰が引けていたり脚が震えていたりと、戦えるようには見えない。

住民①「ホムラ、無事か!」
住民②「俺たちにも戦わせてくれ!」
ホムラ「……もう終わったよ」
住民③「また助けられちまったな……」
住民②「俺たちのために戦ってくれたのに、怖がっちまってすまなかった」
住民①「ひでぇケガだ!」
住民②「俺たちの手当をしてくれた姉ちゃんもだ!」
住民③「誰か医療キットもってこい! 包帯もだ!」

慌ただしく動き始めた住民たちが二人を取り囲む。

ホムラ「手当?」
アヤメ「誰かさんが暴れたせいでケガ人多かったから」「……元はと言えば私がブレイムブレイズを持ってきたせいだけど」

元気をなくし視線を下に向けるアヤメを見て、ホムラは渋い顔になる。二人は瓦礫を椅子代わりに座らされ、住民たちによる手当を受ける。アヤメはまともな手当だが、ホムラの治療は助けた子供が担当しており、無駄にぐるぐる巻きにされている。仏頂面でされるがままのホムラ。

住民①「ひでぇケガだな」
アヤメ「このくらい何でもない」
ホムラ「……さっさと治せ。ケガ人を連れて歩く気はない」
アヤメ「ッ! ホムラ! 良いのか!?」

明るい表情になったアヤメに、子供が首をかしげる。

子供「おねーちゃん、何で時々変な口調なの? 普通の方が可愛いよ?」
アヤメ「かっ、科学者は堂々とした話し方をするものなのだ!」

住民が笑う。

アヤメ「ほ、本当だぞ!?」「ホムラだってブレイムブレイズの実験体としてだな……」
アヤメ「……良いところだ。スラムとは思えない」

呟いたアヤメは真剣な表情になり、立ち上がる。

アヤメ「皆、聞いてくれ。このスラムは完全に目をつけられている。破棄して逃げるべきだ」
住民②「逃げるって……どこにだ?」
アヤメ「イシジカがレジスタンスに連絡してくれていた。三日、四日で迎えが来るはずだ」
住民①「レジスタンス……」
住民③「まずいな……食料がほとんど焼けちまった」
ホムラ「取ってくる」

ホムラの視線の先には燃え残った軍用ジープ。

ホムラ「運転できるか?」

自信ありげに微笑むアヤメ。


夜。傾いた廃ビルや瓦礫の山が点在している荒野を、ルーフなしのジープが砂煙をあげながら走っている。運転席にはアヤメが座りハンドルを握っている。ホムラはルーフの骨組みに腰掛けている。ホムラの手には携帯型の通信機が握られている。

アヤメ「モンスターハントか……ずいぶん遠くまで行くのね」枠外:軍用車で半日以上って……
ホムラ「皆が危ないからって、近場のはドンさんが全部倒してくれたんだよ」

義腕に視線を落とす。

アヤメ「本当に良いとこね」「スラムとは思えないくらい」
ホムラ「まぁな」「そろそろモンスターの生息域のはずだ」

通信機を見ながらホムラが呟く。ジープの前面に突如として巨大なトカゲ型モンスターが現れる。

アヤメ「キャァッ!?」

アヤメが急ブレーキとともにハンドルを切る。ジープがひっくり返ってホムラが外に放り出される。何とかジープから抜け出したアヤメと、チロチロと舌を出すトカゲの目が合う。

アヤメ「あ、ははは……見逃してくれたり、は……?」

吼えるモンスター。そのまま突進してきてアヤメを食べようとする。全力で逃げるアヤメの背後で、モンスターの身体に無数の穴が開き、倒れる。

サジム「大丈夫か?」

浅黒い肌に無精ひげの中年男性。手にはライフル系の銃を持っており、銃口からは白煙が挙がっている。

サジム「危ないところだったな。一人か?」
アヤメ「いえ、仲間が一人——」
ホムラ「……無事か?」

#創作大賞2024 #漫画原作部門 #少年漫画 #青年漫画 #少年マンガ #青年マンガ #ファンタジー #ダーク

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?