ブレイム・ブレイズ~断罪のホムラ~ 第3話


砂まみれになり渋い顔のホムラを見て、サジムがにかっと笑う。

サジム「俺はサジム。仲間と商隊を組んで旅をしている」
アヤメ「商隊! 丁度良かった。物資を買いましょう!」
ホムラ「おい、金はどうするんだ」
アヤメ「レジスタンスにツケとこうかね。車もオシャカになったし物資と一緒にスラムまで送ってもらう」

アヤメはひっくり返った車とモンスターの死骸へと視線を向ける。

アヤメ「それを引っ張って徒歩で帰りたいなら別だがね」
ホムラ「……」
サジム「近くに車がある。商隊まで載せていこう」

サジムの車に乗り込む一行。運転席のサジムから瓶入りの水を差し出され、受け取る。

サジム「サービスだ。その代わり、いっぱい買ってくれよな」
アヤメ「ありがと」

それを飲み干した二人はふらつき始める。視界が歪み、目がかすむホムラ。アヤメは意識を失い瓶を落とす。

ホムラ「ク、ソ……」

倒れ込むホムラ。サジムがいやらしい笑みを浮かべている。


夜。廃墟に作られた集落で、焚火が焚かれている。男たちが酒を飲みながら食事をしており、ホムラとアヤメは少し離れたところで磔にされている。男たちは商人やスラムの住民に見えるが、全員が武装している。その中にサジムの姿もある。

ホムラ「くっ、おい。解け。殺すぞ」
男①「解くわけねぇだろバァカ」
アヤメ「無駄だね。こいつらは全員犯罪者。集落ぐるみで旅人を騙して襲う連中だそうだ」
サジム「騙される方が悪いんだよ」

げらげら笑う男たち。ホムラは眉間にしわを寄せて暴れる。炎もぼわっと出るが、金属製の支柱やワイヤーを溶かすことができない。

ホムラ(クソ……力が上手く入らねぇ)
サジム「無駄無駄。お前らに持ったのは大型モンスターにも効く代物だ」「丸一日は抜けねぇだろう」

男たちが油断してホムラたちから視線を切る。アヤメが小声で指示を出す。

アヤメ「炎を一点に集中して」「いくら薬の影響があっても、ブレイムブレイズならこんな金属くらい溶かせるはず」

ホムラは目を閉じて集中する。炎が指先に集まり、ワイヤーを焼き切る。自由になると同時に炎を伸ばしてアヤメも救出する。コキコキと首を鳴らして立ち上がる。薬の影響があるのか、アヤメは頭を抱えて顔をしかめている。

ホムラ「殺す」
サジム「……抜け出せちゃったわけ?」

顔色を青くしたサジムたちが武器を構えるが、炎で武器を無力化されていく。服も燃え、全員がパンツ一丁になる。ホムラに殴りかかられた一人が首を折られて崩れ落ちる。ホムラは残りも殺そうとするが、止められる。

アヤメ「殺しちゃ駄目」
ホムラ「あぁ? このクソどもを助けるってのか?」
アヤメ「そんな訳ないだろう」

アヤメは邪悪な笑みを浮かべる。

アヤメ「物資を車に積み込んでもらおうじゃないか」「我々は食事をしつつ休憩だ」
サジム「なっ!?」
アヤメ「燃やされたいなら反抗してくれても構わないよ?」「積荷に細工をしても消し炭だ」

顔を真っ青にする男たち。アヤメはますます笑みを深めてホムラを指さす。

アヤメ「ホラ、あの凶暴な男を見たまえ。細工をしてなくても、疑われただけでこんがり焼かれるぞ」
一同「ぜったいしません!」
アヤメ「あの車が良さそうだな。燃料満タンにしてもらおうか」

ホムラは呆れた顔でアヤメを眺める。アヤメが振り返り、目が合うと笑顔になる。

アヤメ「積み込みが終わったら出発しようか」


昼間。めちゃくちゃになったアジトを直そうとするパンツ一丁の男たち。煙があがる瓦礫をどかし、使えそうなものを探している。

サジム「酷ぇ目に遭ったぜ」
男①「俺たちよりよっぽど盗賊だろ」
男②「こ、怖かった……」

文句を言いながら瓦礫あさりをする男たちの前に、一台のバイクが止まる。ネイキッド系で左右にバッグをつるしている。乗っているのは軍服の男。年齢はホムラと同じ程度だが、冷酷そうな眼つきで無表情。ノーヘル。

軍人「ここら辺に盗賊たちがつくった村があると聞いたが」

顔を見合わせる商人と村人たちだが、すぐに悪い笑顔になる。

村人①「おお? 仲間になりてぇのか?」
村人②「良いぜ、仲間にしてやるよ」
サジム「その代わり——」
村人多数「バイクと金目のモン寄こせやッ!」

背中やパンツの中に隠し持っていた銃や刀剣類を構えて一斉に襲い掛かる。奇襲が決まったと思い込み、笑顔の村人たちだが、そのまま固まり、動かなくなる。氷山のような巨大な氷が村全体を飲み込み、村人たちは氷漬けになっている。

軍人「ふん」

バイクから画面付きの通信機を取り出し、操作する軍人。

軍人「こちらジークハルト。盗賊村の殲滅任務は完了しました」
通信機からの声「ご苦労だった。残党や物資は——」
ジークハルト「すべて氷漬けです」
通信機からの声「くくくっ。君に頼んだお陰でゴミ掃除は完璧だ」「さすがはコネもツテもなく最年少で少佐になっただけある」

褒められるが、無表情なジークハルト。

通信機からの声「君を見込んで極秘の任務を頼みたい」「任務を達成すれば昇進できるよう口添えしてやろう」

ジークハルトが目を見開く。

通信機からの声「研究中のナノマシンが盗まれた。盗人と使用者を捕縛してほしい」

通信機の画面にホムラとアヤメの画像が映し出される。

通信機からの声「男は殺しても良いが全身を回収してくれ」「女は殺すな」
男「了解しました」
通信機からの声「よろしく頼むよ、ジークハルト少佐」


スラムの外縁に何台ものジープと装甲バスが並んでいる。帝国軍とは違うデザインの服を着た兵士たちが、スラムを背にして銃を持っている。バスにはスラムの住民が次々と乗り込んでいく。バスの上には長髪の先がアンテナ状になっている女性。ナノマシン適合者。

アンテナ女「敵影なーし。この調子なら戦闘無しで撤退できそうですよー、シド代行」

アンテナ女の視線の先にはスラム住民の避難を監督する男。真っ直ぐな黒の長髪をバンダナでまとめた美形の男。ホムラと同じくらいの年齢でかっちりした服装。武装無しで腰にランタンを提げている。

シド「ありがとう、アルテナ。このまま監督と指示を任せる」

シドは敬礼するアルテナから視線を移し、アヤメに向き直る。

アヤメ「さすがはレジスタンス”山猫団”の団長だね」
シド「僕はただの代行だよ」
アヤメ「レジスタンスの実働部隊を仕切る闇影のシドと言えば一級の賞金首じゃないか」「それだけ帝国が脅威に感じてるわけだ」
シド「できることをやっているだけさ」「だが、アヤメさんに褒めて貰えるのは嬉しいね」

肩を竦めるシドに部下たちが笑う。信頼と親しみが感じられる態度。

アルテナ「代行の嘘をかくにーん」
部下①「完璧超人の代行に出来ないことなんてあるんですか?」
部下②「代行ならそのうち空まで飛べそうですよね」
シド「馬鹿いうな。ほら、任務に戻れ」

シドたちが会話する後ろを、ズタ袋を担ったホムラが通過する。会話に参加していたアヤメがそれに気付いて止める。

アヤメ「どこに行くんだね?」
ホムラ「復讐だ。ガドルを殺す」
アヤメ「馬鹿か君は!」「ひとりで軍に乗りこんでもしブレイム・ブレイズが帝国の手に渡ったら終わりだぞ!」
ホムラ「知るか」
アヤメ「復讐のためにもレジスタンスに合流して組織立った動きで相手を追い詰めるんだ!」
シド「悪いが、僕も断わらせてもらう」
アヤメ「シド!?」
シド「話は聞いたが、協調性もなく暴走する人間は仲間を危険に晒す」「ましてや能力頼みの弱者じゃね」
アヤメ「でもブレイムブレイズの適合者だぞ!?」
シド「能力に振り回されるだけの適合者は総じて弱い」「入団テストをするまでもない。どうしても入りたいならば僕に一撃いれてみろ」

シドの厳しい視線を受けてホムラは分かりやすく不機嫌になる。

ホムラ「勝手なこと言ってんじゃねぇ。そもそも入るつもりなんてない」
シド「賢明な判断だ」「ナノマシン除去手術を受けてからひとりで行っていいぞ」
ホムラ「勝手なこと言うなって聞こえなかったか?」「ぶっ飛ばすぞ」
シド「できないことは言うもんじゃない」

ホムラはシドにメンチを切るが、シドは動じない。シドの仲間たちが警戒して武器を構える。

アヤメ「ホムラ! 君ひとりで基地に殴り込んでどうなるっていうんだ!」
ホムラ「ガドルを殺す」
アヤメ「ガドルが死んでも、他の人員が送り込まれるだけだぞ!」「帝国の支配を脱却しなければ、シルクのように殺される者はなくならない」
ホムラ「だったら帝国そのものを焼き尽くす」「ガドルの後でな」

アヤメたちに背を向けるホムラに、突如として髪が伸びる。触手状に伸びる髪はホムラを拘束しようとして弾かれ、ホムラの行く手を塞ぐ。バスの上にいた女性が飛び降りてくる。

アルテナ「ブレイムブレイズは置いてけって代行がいってたじゃーん」
シド「アルテナ」
アルテナ「ヤケクソ起こして自殺にいくだけなら要らないでしょー?」「自殺志願者クン」

ホムラが炎を巻き上げる。なし崩しに戦闘が始まる。

ホムラ「自殺志願者はテメェだろ」「ぶっ飛ばしてやる」
アヤメ「あれはC級ナノマシン”メドゥーサ”だろう!?」「”髪”で”炎”に勝てるわけがない!」
シド「ナノマシンのランクが全てじゃないよ」
アヤメ「ブレイムブレイズは炎熱系最強のS級ナノマシンだぞ!?」
シド「言っただろ。能力に振り回されるだけの奴は総じて弱い」

二人の眼前、ホムラとアルテナが戦闘を始める。炎の拳を振り上げてアルテナに攻撃を仕掛けるが、髪で腕や手首を引っ張り避けるまでもなく攻撃をずらすアルテナ。ホムラは炎の弾丸を発射するも髪で作ったレールによって往なされる。髪のレールも燃えるが自切する。

アルテナ「弱い者いじめはしたくないから降参してくれうと助かるんだけどー?」

遠くからバイクが突っ込んでくる。乗っているのはジークハルト。

ジークハルト「……どういう状況下は分からんが」「全員捕縛する」
アルテナ「帝国軍人!?」
シド「撤退準備! 将官だ!」

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