SMよ、人生をひっくり返してくれ①「人に怒れない病」を克服したい

こんなに迷うことが、今まであっただろうか。
でも、いつかは実行しなくてはならない。そうじゃないと、きっといつまでも弱虫のままだ。人生で残してある大きな宿題のうちの一つ。あなたにはありますか、そういうの？　

私のはね・・・笑わないでほしいんですけど・・・

SMデビューすることなんです。

いや、女王様とかヒエラルキーのすごい上みたいんじゃなくていい。でも、Sだ。サディスティックだ。丸の内じゃなく東京でもなく、今住んでるのは愛媛だけど。もっといえば、スナックでさえあるかわからないくらいの島だけど。

最初に断っておくが、これはエロとか艶やかなものでは決してない。もっと切実なんです。SMに挑むにあたっては明確な目的があって、それは「他人に怒りをぶつける」という練習をするためだ。

私は「人に怒れない病」を患っている。
怒りたくても怒れないのじゃなく、その怒りが、すべて自分に向いてしまうのだ。何があっても「お前がダメだからこのような事態を引き起こしたのだ」と、心の中で自分を罵倒してしまう。子供時代に大人の暴力を受けすぎた影響もあるのだろう。虐待の後遺症ってやつもあると思う。

長いことＭ人生を送ってきたせいで、大人になった今でも、仕事相手などから理不尽な怒られ方をしたときに反撃できない。「そこまで言わなくてもよくない！？」と怒りを持つことができない。むしろ「そのことで刺されたりしても文句言えないよね。私そういう階級の人間ですし、たはは」ぐらいに思ってしまう。で、グサグサに傷ついて何日かお腹を下すまで、引きずってしまうのだ。

たぶん、攻撃性みたいなものが自分に向いてしまっているのだろう。これは外に向けて、ある程度発散させなきゃいけないタイプのやつだという気がしてきた。これを放っておいてはいけない。

このままでは、死んでしまう！
魂が！　生き物の気高さみたいなものが！！
ひぃーん、もっと強くなりたい！！！

残りの人生、生き物として堂々と生きていくために、私は誰かに怒る練習をしないといけない。でも誰に？
身近な人には怖い。「俺には全部ぶつけていいよ」と言ってくれる人もいた。だが、感情的かつヒステリックな言葉をぶつけて、もし幻滅されてしまったらどうしようと震える。あとね、私に暴力をふるった大人と同じ行動をしてしまいそうなのも嫌だ。そして、まったく知らない他人を罵倒するのは、もっと怖いし申し訳ない。

ＷＩＮーＷＩＮ　という言葉がある。怒りをぶつける相手にもメリットがあれば、こちらも安心して怒ることができる。では、「喜んで怒られてくれる人」とはどんな人だろうか？

あ、いるじゃないか。
それこそが、本当のマゾ――Ｍの人だ。
他人の攻撃性を受け入れてくれる人。

どうしてこういう結論にたどり着いたのか、今の私にはわからない。心理学とかアンガーマネジメントの本も読んだし、ノートに怒りを書きなぐるなんてもう何年もやってる。カウンセリングとか、もっと他の方法もあるだろう。

でも、なぜだかこれが一番いいように思ってしまったのだ。

しかし、Ｍの人と出会うにはどうしたらよいだろう。
女王様と奴隷が集うＳＭクラブは、きっと場違いだ。あそこは女王様に責められすぎて、乳首が５ｃｍにも伸びちゃったＭ紳士が行くような場所だ。実際に会ったことがある。
もっと言えば、ずいぶん前に女王様の排泄物を飲食するようなフェティッシュ本で仕事をしていたときもある（ＤＶＤ付で3000円する高価なムックだった）。女王様はわがままに見えるが、とてもサービス精神が旺盛で思いやりがあることをこのとき知った。だって、奴隷に”大”の方を食べさせるために、食事にもとても気を配っていらっしゃるそうなのだ。ここには詳しく書けないけど、理想の”大”の状態を保つために。
で、その努力を知っている奴隷は「これは一滴たりとも食べこぼすわけにはいかない」と、身体に悪いのを承知で完食する。実際、インタビューさせてもらったカリスマ奴隷さんの顔色はちょっと青かった。

女王様と奴隷、その主従関係の絆はとても強い。よく調べれば、もっとエンタメ寄りのライトな店もあるかもしれないが、私にとってＳＭクラブとはそんなイメージだった。

私はそんな絆を求めてないから、SM嬢には向かない。もっとドライなのがいい。一期一会のその場限りの関係。でも個人間のマッチングアプリは、初心者にはギャンブル性が高すぎる。

じゃあ、どうしたら――？？

こんなとき、めちゃくちゃ頼りになる知り合いがいる。まさにこの業界の女王様・Ｔさんだ。あの人なら、きっと迷える子羊に道を示してくれるだろう。

私はＴさんにＬＩＮＥを送った。

（続く）