現代の「錬金術」:宇宙元素合成
人類は金(Au)という物質に魅了されてしまう。「金(Au)を生み出したい」という欲望に搔き立てたれた中世の錬金術師たちは、様々な試みにより化学を発展させた。しかし、化学反応しか扱えなかった彼らの野望は儚くも散ってしまう。
結局、僕たち人類は、地球のどこかに埋まっている金(Au)の鉱石を掘り当て、精錬することを続けるしかなかった。
金(Au)は地球のどこかに埋まっている。しかし、そもそも、その金(Au)はどのように生まれたのだろうか。錬金術師ではない何かが、過去に、金(Au)を生み出したはずだ。
元素を生み出す原子核反応をまとめたB2FH論文
現在の地球には水素(H)からウラン(U)までの90種類ほどの元素が存在している。それらの元素は、宇宙の歴史の中で、原子核反応により生み出されたことが知られている。
上図は、E. M. Burbidge博士、G. R. Burbidge博士、W. A. Fowler博士、F. Hoyle博士による論文に掲載されている図だ。この論文は記念碑的に扱われており、著者らの頭文字をとり「B2FH論文」などと呼ばれている。
B2FH論文では、宇宙の歴史の中で、どこで?どのような?原子核反応が元素をつくってきたのかが論じられている。この成果に関しては著者の一人であるFowler博士がノーベル賞を受けている。
Hoyle博士がノーベル賞を受賞できなかったことに関しては波紋を呼んだ。
宇宙初期のビッグバンや宇宙線によって軽い元素がつくられた。すると、軽い元素たちが集まって、星を形成する。ある程度成長した星の中では、3つのヘリウム(He)原子核がくっつき、炭素(C)原子核ができる。その後は、星の中で、炭素(C)から鉄(Fe)までの元素が徐々にできていく。特別に大きな星の中では、鉄(Fe)よりも重い元素もできる。この過程は「s-process」と呼ばれる(slowな過程という意味)。
B2FH論文は元素誕生秘話を網羅的に議論した、まさにノーベル賞級の研究だ。しかし、それで「宇宙の「錬金術」」の謎が全て解決されたわけではなかった。
謎に包まれる金(Au)やウラン(U)の誕生物語
ここまでの話では解決できない問題がある。例えば、金(Au)が十分にできそうにないこと、それに、ウラン(U)は全然できないことなどだ。
では、金(Au)やウラン(U)はどこで?どのように?できたのだろうか。
B2FH論文では、超新星爆発における急激な中性子捕獲反応(r-process:rapidな過程)によって生まれたと示唆されている。超新星爆発とは、すごく重い星が死を迎えたときに起こる爆発現象のことだ。
実は、この問題は未だに謎が多い。アメリカの雑誌『Discover』が取り上げた物理学の未解決問題にも名を連ねているくらいだ。
未解決な理由には「そもそも超新星爆発自体が謎に包まれた現象であること」「超新星爆発では十分な元素が生み出せそうにないこと【※1】」「超新星爆発や中性子星衝突【※2】のような極限的な状況での原子核反応も謎が多い」などが挙げられる。
【※1】「生み出せそう」という研究もある。まだまだ研究途上。
【※2】 超新星爆発の他に、中性子星という星の衝突も候補として研究が進められている。最近はむしろこちらが有力候補になっている。
つまるところ、金(Au)やウラン(U)の誕生物語は未だに謎に包まれているのだ。そして、宇宙の「錬金術」は現在もなお物理学者が向き合う課題になっている。
原子核物理学者である池田清美先生は、こんなことを語ったそうだ。
宇宙の「錬金術」の全貌が分かったとき、私たちの物質観や宇宙観は、また一歩、大きく前進することだろう。
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