世界が“つぶつぶ”でできている証拠

水は水分子の集合体だ。しかし、分子は小さくて、肉眼では到底見えない。「分子なんて本当にあるのか」とも感じてしまう。

それは過去の物理学者たちも同様だった。「分子なんて存在するはずがない」と考えていた物理学者も多かったのだ。しかし、分子の存在を決定づける研究が行われ、それを立証する実験データも積み重なり、現代においては分子の存在は科学的に確認されている。

やはり、身の周りの物質は“つぶつぶ”(分子)でできているのだ。以下では、分子の存在を決定づけた研究を紹介したい。

生きている微粒子!?:ブラウン運動の謎

イギリスの植物学者 ロバート・ブラウン博士(1773~1858)は花粉の研究をしていた。彼は、花粉の破裂片である微粒子をよく観察していたとき、驚くべき現象を発見する。

なんと、その微粒子がちょこまかと動きまわっていたのだ。

「この“生きている”微粒子こそが受粉に重要な役割を持つに違いない」とブラウン博士は感じた。しかし、すぐに新たな謎にぶつかってします。枯れた植物の花粉から出る微粒子もちょこまかと動きまわっていたのだ!

この微粒子は死なないのか?そんな疑問を抱きながらも、ブラウン博士は様々な微粒子を観察した。石炭の粉、ガラスや金属(無機物)の粉...

結果は、すべての微粒子がちょこまかと動きまわっていた!この研究成果は、一つの結果から安易に結論を出さず、様々な可能性を一つひとつ検証し、広く成り立つ現象を見出したブラウン博士の偉業だ。

この謎の運動は彼の名を冠した「ブラウン運動」と呼ばれ、物理学者の興味の的になり、後世に伝えられた。

ブラウン運動の実験結果例。微粒子の運動を3.3秒観察。左は1/8000秒ごと、右は1/30秒ごとの位置を線で結んだもの。田崎晴明「ブラウン運動と非平衡統計力学」より。

決定打はアインシュタインの理論

ブラウン運動の謎は、ブラウン博士が亡くなった半世紀後、20世紀の初頭に解決された。決定打を打ったのは、物理学史上のスーパースター アルバート・アインシュタイン博士(1879~1955)だった。

アインシュタイン博士は、ブラウン運動は微粒子にたくさんの“つぶつぶ”(分子)が絶え間なく衝突しているために起こる、と考えて理論を組み立てた。

上式は「ブラウン運動に関するアインシュタインの関係式」と呼ばれる数式だ。Dは拡散定数、Rは気体定数、Tは温度、πは円周率、aはちょこまか動く微粒子の半径、ηは粘性係数、NAはアボガドロ定数(分子の数)を表す。

アインシュタイン博士は拡散定数Dの測定方法を提案し、それ以外も測れば、アボガドロ定数を求められる!ことを示した。

アボガドロ定数を測る。それは“つぶつぶ”(分子)を数えることに相当する。これができれば、世界が“つぶつぶ”(分子)からできていることを証明できるのだ。測定に名乗りを上げたのは、フランスの物理学者 ジャン・ペラン博士(1870~1942)だった。

ペラン博士は高精度の実験を行い、見事、アボガドロ定数の測定に成功した。こ快挙を機に、物理学者の間でも分子の存在が受入れられるようになっていった。

現在、アボガドロ定数の値は以下のように知られている。mol^{-1}は「1 molあたり」という意味だ。

世界は“つぶつぶ”(分子)でできている。

歴史の中で、たくさんの研究者が様々な研究を行い、確かめてきた科学的事実だ。そして、このことが現在の私たちの「物質観」の重要な土台になっている。

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