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現代の「錬金術」:放射性廃棄物の核変換

日本は(現在のところ)高レベル放射性廃棄物(HLW: High-Level Radioactive Waste)を地層処分する方針だ。しかし、処分地選定は足踏み状態にある。

処分場の建設が技術的には可能であるにも関わらず、前進できていない理由は、地層処分への信頼不足や選定プロセスの問題からきている。この現状は、地層処分を含むHLWの処分問題が科学技術のみでは解決できないことを物語っている。

さて、これまでの原子力発電の利用によりHLWはすでに存在している。よって、この問題は原子力発電の推進・反対に関わらず向き合わねばならないものになっている。

地層処分以外の可能性の一つとして、核変換というものがある。これは、原子核反応を用いて、HLWをより放射能が弱い核種や、より短寿命な核種に変える技術のことを指す。

しかしながら、核変換はまだまだ基礎研究の段階に留まっている。HLWの中でも核変換の対象となる237Npや243Amなどのマイナーアクチニド(MA)や107Pdや135Csといった長寿命核分裂生成物(LLFP)の基礎データが未だに不十分であるのが現状だ。

核変換の研究には、粒子加速器が必要となる。例えば、日本原子力研究開発機構や理化学研究所の巨大実験施設における研究プロジェクトも進められている。

研究の過程では、どこまでが科学的に分かっているのか、もしくは、何が科学的に分かっていないのか、を明示することが重要になってくるだろう。

加えて、産業としてどの程度実現しそうなのか、本当にHLWの処分に用いることができるのか、実現までにどのくらいの時間がかかりそうか、といった情報公開・発信のやり方も難しい課題になってきている。

核変換は社会とも関わりが深い難しい研究テーマだ。今後も動向に注目していきたい。

最後に、核変換に関する仁科芳雄博士(1890~1951)の言葉を紹介したい。

目に見えない微量でも学術的あるいは実用的に色々の応用がありますから、あるいは将来、ある意味では錬金術の夢を異なる方面で実現するようになるかも知れません。それは今後この技術がどこまで進むかということで定まる問題なのです。

仁科芳雄 『元素は変えられる: 中学生からの 原子核、放射線、加速器の物理入門』

核変換が現代の「錬金術」になる日は来るのだろうか。

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