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朝永振一郎「滞独日記」から学ぶこと

影響を受けた本は何冊かある。朝永振一郎 著・江沢洋 編『量子力学と私』に収録されている「滞独日記」もその一つだ。「滞独日記」はノーベル賞を受賞した物理学者・朝永振一郎博士のドイツ留学時代の日記だ。どこが好きなのかと言えば、ネガティブ発言のオンパレードなところだ。

例えば、「丁度自分一人とりのこされて人々がみな進んでいくような気持ちがするのである」「どうして自分はこう頭が悪いのだろう、などと中学生のなやみのようなものが湧いてくる」「世の人々のだれを見ても、自分より優れていると思えて、とてもかなわないと感じる」といった具合だ。

かく言う僕もネガティブ人間であるが、「大丈夫か、朝永!?」と心配になる。だけれども、彼の言葉は心に残る。中でも、好きな一節が以下だ。

大学を出て十年に何一つ仕出かすことが出来ない。失敗すらすることが出来ず、いわんや積極的に産み出したものは一つもない

悲痛の叫びではあるが、「失敗すらすることが出来ない」と書いているところが、朝永が単なるネガティブ人間ではないことを伺わせる。

うまくいかない日々に苦しみながらも、自らの奥底で「奮起せねば」という気持ちを醸成していたのではないだろうか。そして結局、彼は後年に量子電磁力学に関する研究成果を発表し、ノーベル物理学賞を受賞する。

「滞独日記」はネガティブ発言のオンパレードなのだが、中には、

もっと強気になれと心の中でつぶやく

などの言葉も混じっている。だから、たまに「ハッ」となる。

朝永博士の「滞独日記」に魅かれる理由は、おそらく、ネガティブなところが単に共感を覚えるからだけではない。彼のネガティブ発言の奥には、どこか希望や情熱のようなものが宿っているような気がするのだ。

どんなにネガティブになっても良い。だけれども、自らの奥底で微かに灯る希望や情熱も忘れてはならないのだ。そう「滞独日記」から感じる。

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