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現代の「錬金術」:言葉に付け加わる新たな意味

時の流れと共に、言葉に新たな意味が付け加わることは稀ではない。今回取り上げる「錬金術」もその一つだ。

「錬金術」は元々、中世ヨーロッパなどで行われていた試みのことを指していた。この試みは研究というよりは、儀式の要素が強かったとも聞く。ちなみに、あのアイザック・ニュートンも熱狂していたことが伝えられている。

結局、彼らの「卑金属から貴金属を生み出す」という野望は叶わなかった。それはひとえに彼らが化学反応しか扱えなかったことによる。

原子核反応でしか元素は変化しない

化学反応では元素は変わらない。

例えば、鉄(Fe:原子番号26)から金(Au:原子番号79)をつくりたかったら、元素自体(原子番号)を変えねばならない。

ここでいう原子番号とは原子核に含まれる陽子の数に相当する。つまり、原子核中の陽子の数を変化させなければ、元素が変わることはないのだ。

陽子の数を変えることができるのは、化学反応ではなく、原子核反応だ。例えば、太陽では以下のような原子核反応が起こっている。

$$
4{}^{1}\mathrm{H}\to{}^{4}\mathrm{He}+2e^{+}+2\nu_{e}+Q
$$

上の反応式は、水素(H)からヘリウム(He)を生み出す原子核反応(核融合反応)を表している。ここでのQ(~27 MeV)は放出されるエネルギーである。このエネルギースケールは化学反応のおよそ1000万倍に相当する。膨大なエネルギーが太陽で生み出されているのだ。だからこそ、1億5千万kmほど離れた地球に住む僕たちも太陽の“熱さ”を感じることができるのだ。

さて、この原子核反応の式を見ると、矢印の左側(反応前)と矢印の右側(反応後)では登場する元素が異なることが分かる。

「錬金術」に付け加わった新たな意味

ニュートンらが苦心していた時代の「錬金術」は「卑金属から貴金属を生み出す」という意味を持っていた。その頃はまだ、原子核反応は認識されていなかった。

20世紀初頭に、原子核が発見され、その後、人工的に原子核反応を起こせるようになった。つまり、人工的に「元素を変える」(元素変換などとも言う)ことが可能になったのだ。

原子核反応は「ある元素を別の元素に変化させる」という意味で「現代の「錬金術」」と呼べると僕は考えている。

それは、原子核反応が認識されて以降に「錬金術」に新たな意味が付け加わった、とも解釈できる。

実際に、原子核・原子レベルでは、原子核反応を利用して別の元素から金(Au)をつくることが既に可能となっている。

例えば、以下の論文の中ではイリジウム(Ir)から金(Au)を生み出す原子核反応についても書かれている。

こちらの論文では、タングステン(W)から金(Au)を生み出す原子核反応について書かれている。

ただし、原子核・原子レベルの話なので、売り物になるような量の金(Au)はつくれない。

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