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物理学徒はどのような人材か ~参照基準を参考に~

大学の数は増え、大学生の数も増えている。それに伴い、「量」は増えたが「質」はどうなのか、という議論が続いてる。2008年に文部科学省中央教育審議会が出した答申「学士課程教育の構築に向けて」では、大学における教育内容や学修評価を通した「質」の管理が指摘された。そこでは例えば、授業時間外の学修を含めた単位制の徹底などが議論されている。

2010年には日本学術会議から「大学教育の分野別質保証の在り方について(←pdfファイル)」が発表され、各分野の「参照基準」が策定されることになった。

物理学・天文学分野でも、策定のためのシンポジウムを行い[1,2]、「大学教育の分野別質保証のための教育課程編成上の参照基準 物理学・天文学分野(←pdfファイル)」を2016年10月に発表した。

  • [1] 「物理教育シンポジウム なぜ物理学を学ぶのか:参照基準の策定に向けて」大学の物理教育 Vol.21 No.2 (2015) p52-p72

  • [2] 「物理と社会シンポジウム 異分野から見た物理学への期待:「物理学」分野の参照基準」大学の物理教育 Vol. 21 No.3 (2015) p104-p114

この「参照基準」は

これを読めば、教育(初等中等教育を含む)関係者だけでなく、広く社会全体から、大学での物理学・天文学教育の内容の分かり、物理学科・天文学科では、どのような人材を育成しているのかが見えてくる文章

須藤彰三「物理学・天文学分野の参照基準:概要と策定の意図」
日本物理学会誌 Vol.72 No.7 (2017) p509-p512

であると紹介されている。

参照基準には、物理学・天文学の特性やそれらの学科で学ぶべき素養について書かれている。

その中で、特に僕が注目した箇所は「物理学・天文学を専攻する学生への教養教育の必要性」(参照基準p19-p20)だ。そこには、物理学を学んだ卒業生へのアンケート結果から見えた課題について、以下のようなことが書かれています。

  • ① コミュニケーション能力の不足:文章力・表現力の未熟さが挙げられ、課外活動の重要性も指摘されている。

  • ② 知識・技術の不足:物理以外の教養の不足。「専門科目を重視し、教養科目を軽視する傾向がある」。

  • ③ 行動・思考パターンの問題:「卒業生は、感性的なものへの理解力が不足、世の中とのつながりに関する意識が薄弱、机上でばかり考え議論ばかりで実行力がない(抽象論に終わりやすい)、実用化を目指した思考力不足等を自省している」。

僕も物理学科卒なので、書きながら、虚しさとか悔しさとか、いろんな感情に苛まれるが、それは自身にも当てはまっている箇所が多々ある証拠。

「参照基準」は、現状や課題の共有という面で貴重な文書だと思う。物理系の教員はもちろんだが、物理学を学ぶ大学生や大学院生にも「参照」をお勧めしたい。なお、各分野の参照基準は以下のウェブページから無料でダウンロードすることができる。自分の関わる分野や興味のある分野を「参照」してほしい。

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