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研究に必要なメンタル

研究 というワードを聞いたとき、皆さんはどんなイメージを持つだろうか。

真面目な人? 最先端なことをやっている人? 閉鎖的で偏ったことをやっている人? 臨床業務(患者対応)が苦手な人?

様々な意見があるかと思う。

本記事を書くにあたり、先に とても当たり前なことだけれど、とても大事にしている想いを書き記しておく。


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それでも "ヒト" を救いたい

私は医療者であり、研究者である訳だが、仕事をする上で何が一番ストレスかと言うと、《目の前の患者を救えないこと》である。どのような工程であれ、医療者として患者さんに関わる以上、《全ての人を救いたい》と考え現場に立っている。


だが、残念ながら《救えない命がある》ということを受け入れながら日々過ごしているのだ。


では、ずっとその感情を殺しながら自分は生きていくのか。
自分にはそれはできない。


だから、研究をするのだ。


目の前の患者さん そして、これから生まれてくる子供たちの将来のために。


本記事ではそんな 研究に必要なメンタル について、研究者としてはひよっこの私ではあるが、経験談を基に書いてみたいと思う。多くの人の研究への意識の変化、そして、これから医療系大学院進学を考える人の少しでも参考になれば幸いである。


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この世界は研究者のおかげで成り立っている

大きくなったら研究者(博士)になりたい! そう子どもが言うような日を なかなか想像できないのは大変残念なのだが、是非皆さんには、驚くほどにこの世界は研究者のおかげで成り立っているということを知ってほしく筆をとっている。

簡単にではあるが、皆様が実感しやすいCOVID-19の例を挙げてみよう。


現在、世界を騒がせているCOVID-19。来年の東京オリンピック開催可否は《ワクチン開発にかかってる》と言っても過言ではないくらい、大きな期待を背負って世界中の薬学博士は研究に取り組んでいる。


先日、アメリカの研究チームによりワクチンの前向きな発信がなされた際、NYダウが強烈に反発したことを見る限り、世界中がワクチン開発に注目していることは間違いないだろう(と、言うかもはや当たり前だ)。


逆に言うと、ワクチンが開発されないと、この世界的なパンデミックを前に、我々は通常の生活に戻ることすらできないのだから。


では、逆に、皆さんは一般的に一から薬が開発されるのにどれくらいの時間がかかるか知っているだろうか。


基礎研究から始まり、非臨床試験、臨床試験、承認申請…
ざっと、最短でも10年程度はかかると言われているのだ。多くの候補物質は、途中段階で開発断念され、日の目を見ることができるのはほんの一握りだ。


そう考えると… そう。 来年、東京オリンピック無理じゃん。 
となる訳だが、実際にはそうではない。


上記は一から創薬する話だが、既存薬から別の薬効を見つけ出す《ドラッグ・リポジショニング》と呼ばれる手法を選択をすることで、新薬開発期間を劇的に短くできる可能性があるからだ。


あまりピンとこない方が多いかもしれないが、血管拡張作用がある狭心症薬が、ドラッグ・リポジショニングされることで、男性のED治療薬として実用化されているのはこの世界では有名な話だ(狭心症の臨床試験時に、多くの被験者に勃起障害の改善を認めたためドラッグ・リポジショニングされたそう)。


この考えを転用することで、世界中の研究者は1年後の実用化を目指して奮闘しているのである。この世界的パンデミックを抑えるワクチン開発に取り組んでいる研究者の皆様に降りかかっているであろう、計り知れないストレスを心から心配し、それでも尚立ち向かう全ての研究者に、ただただ敬意を表する。


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研究者に失敗はつきもの

前述のように、世に研究成果を広めるためには、素晴らしい研究を他者にも正確に素晴らしいと判断して頂けるようなアウトプットの方法を学ばなくてはならない。


それを学ぶところこそが、大学院である。
(先に断っておくが、専門により考え方が異なる可能性があるため、あくまで私が修了した医療系大学院での話として理解して頂きたい。)


研究は、ノウハウを学び(input)、実験結果を発表し(outoput)、そして振り返る(feedback)というループで成り立ってる。

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このプロセスで大事なことは、ループのスピードを速くすること。
そして、何を学んだかを常にフィードバックし、失敗を失敗で終わらせないことである。



私もそうであったし、先の創薬でも触れたが、研究に失敗はつきものである。というか、研究成果は、多くの失敗の上に成り立つのだ


この成功への道は、とてつもなく長く、時に我々研究者を苦しめる。私自身、何度も挫折し、一時は精神的に追いやられた時期もあったが、そんなとき研究者の皆さんには、是非原点回帰して欲しい。


私も年末年始、土日休日関係なく研究に打ち込んでいたが、辛い時の心の支えは、いつだって患者 そして、その家族だった。


悔しい想いをして打ちひしがれたときは、いつも面会受付近くの待機ソファに腰を下ろし、ボーっとしていた。


そこには、年末年始でも退院することができず、面会に来てくれた家族との僅かな時間を楽しそうに過ごす患者。
そして、帰ってしまう家族を見送る寂しそうな表情を浮かべた患者。


そこは、様々な感情が入り乱れる空間だった。


こんなにも普通の日常を恋しく想い合う家族を前に、私はいつも、自分の気持ちをもう一度鼓舞し、研究室へと戻っていたのだ。


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大事に育てるべきは己を信じる力

ここまで、研究は誰のためにするのか、そもそも研究とは何なのか 私なりに簡単に話をさせて頂いた。


私の仕事は研究者ではなく現場の医療者であるため、研究によって病院から給与をもらっているわけではない。


それでも、研究は様々なことを私に与えてくれたと考えているため、是非これから研究を始めたいと思っている方に向けて、大事にして欲しいことに触れて本記事を結びたい。


研究をしていると以下のような声をよく聞く。

・自己研鑽に充てる時間が多くなる
・誰もが成功する訳ではない


まず、自己研鑽に充てる時間が多くなる ことに関して。
確かにそうだろう。大学院進学や研究は容易なことではないし、結果が出るまでは、自分のやってきたことを疑ってしまうくらい辛い。


でも、ここで頑張れない人は将来絶対に困ることになると個人的には考えている。AIが発展している今、医師が読影(画像診断)するよりもAI単独で読影した方が正診率が高いことが報告されるような時代だ。


今後AIが広まり、政府がGOサインを出したとしたら、ロボットが患者接遇を担当し、検査は赤外線センサ等で自動位置合わせを行って、遠隔で一人の検査技師が複数の検査室を操作

診断や診察は、AIの自動判別機能を使用しながらオンライン診療…となれば、ルーチン業務しかできない医療者の需要は限りなく低くなると考えられる。


AIが発展し、様々なことが楽になる!ではなくて、その先に何があるのか、自分たちの存在意義を高めるためにも、私たちは考えなくてはならないフェーズに入っている。



続いて、誰もが成功する訳ではないということに関して。
頑張っても評価されるか分からないし、成功する保証だってないと考える方がいるかもしれないが、私から確かに言えることは、そもそも人と同じことをしている人間にチャンスは訪れないという事だ。


自らが開拓する力を育て、力を発揮できる環境を整え、そしてタイミングに合わせ最大限の力が発揮できるよう、小手先ではなく、地道に努力を行ったものだけが日の目を見ることができる。


ただ、前述の通り、この道のりが苦難の連続であることは確かだ。

私も2年前、病院の政治に巻き込まれ、心身共に限界突破した結果、極度のストレス障害で3日間歩けなくなった。


医療者である私たちがつぶれてしまっては、元も子もない。そのため、各自が自分がとれるリスクの限界を理解し、その限界まで全力で取り組むことが大事であると私は考えている(その時の私にはそれがセーブできなかったのだが、この経験は患者側の気持ちを知る意味でとても貴重な経験となった)。


また、一生懸命やったけど、どうしても結果が出なくてつらい…という時は、自分が何のために、誰のために頑張ろうとしているのかをもう一度考えてみて欲しい。そうすれば、きっと前に進む気力が沸いてくるはずだ。


ちなみに私は、前述の限界突破して潰れかけた時、自分の臨床研究に参加してくれていた患者の一言に本当に救われた。
ある患者が、こう言ってくれたのだ。


"自分が先生たちの貴重な研究データになれるなんて光栄だよ。もしかしたら、世界中で苦しんでいる人達にとって、自分が希望の光になれるかもしれないんだろ?" と。


こんなにも有難く、温かい気持ち、絶対無駄にする訳にはいかない。
そう強く感じたことを今でも鮮明に覚えている。私はこの言葉に救われ、本内容を国際学会で2度発表(ヨーロッパ、アジア)し、論文もしっかりとヨーロッパの権威ある国際誌に報告させていただくことで、私は患者さんへ せめてもの感謝の気持ちを示させていただくことができた。


この経験は、どんなに辛い時でも、未だに自分を突き動かす原動力となっている私の大切なエピソードとなっているのだ。



話が長く、遠回りしてしまったが、話を戻そう。

もし、頑張っているのに研究結果が出なくてつらい、投げ出してしまいたいと思ったときには、一度冷静になって、 自分自身の能力開発や環境を整える努力が十分にできているのか、向き合ってみて欲しい。


多くの場合、あなたの努力は自分の限界努力レベルにまでは達していなかった…という結論に辿り着くはずだ。


もし仮に、十分な努力がなされていたのにも関わらず、壁にぶつかったのであれば、 それはあなたが気付いていないだけで


もう既に、あなたは成功という名のレール上を走っているはずだ。


焦らず、小石をゆっくりとどかし、もうひと踏ん張りしてみて欲しい。
傷みを知ることは、自分をさらに強くする、とても大切な経験なのだから。



自分を信じることができないようなヒトを、患者は絶対に信じない。

だからこそ、まずは、自分を信じる心を鍛え、そして素敵な研究者(医療者)への新たな一歩を踏み出してもらえたら幸いだ。

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