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事業計画101②よい事業計画とは?

こんにちは!
株式会社プロフィナンスの木村 義弘です!

20年弱の経験とノウハウをまとめた「魂の事業計画講座」(全体像見出しはこちら)の連載。前回、改めて事業計画の議論の原点に戻って、「事業計画101 ①事業計画とは何か?」というテーマでお送りしました。

今回は「で、結局どんな事業計画がいいの?」という部分に触れていきたいと思います。


本記事でわかること

恒例ですが、まず本記事を通じて読者の方が何を得られるのかご提示したいと思います。

【本記事でわかること】
1. 事業計画はなぜブレるのか?
2. それでも数字で考えることにどんな意味があるのか?
3. "よい"事業計画とはどんなものか?



数字で事業計画を考える意味

「事業計画?作ったよ!」
と自信満々に語る方も、
「ああ……数字の方はまだちょっと手を付けてなくて……」
というケースが意外に多くあります。
数字の計画は、ぶっちゃけ表計算が面倒で、後回しにしがちです。

ありがちな事業検討 vs あるべき事業検討

著者自身、多くの大手企業やスタートアップの事業開発を支援してきましたが、数字の計画を後回しにする方が体感90%です。10%の方は「数字に落とさないと逆に不安だから」とサッサと数字の計画を作っています。

数字の計画を後回しにするとどうなるでしょうか?
大手企業の新規事業の場合、"あるある"のケースが、「やべ、もうすぐ意思決定の会(取締役会など)だけど数字作ってない!」というものです。


ありがちな事業検討プロセス

ただ残り時間がないので、そもそも数字の計画がかなり「ゆるふわ」となってしまいます。ゆるふわくらいならまだいいのですが、実際数字にしてみたら、「あれ、これ儲からなくない?」ということがようやく判明してしまい慌てることになります。そうすると、まさに「鉛筆なめなめ」が始まります。
さて、そんな状態で意思決定の場に臨んだらどうなるでしょうか?
「いや、これは全然詰めきれてないだろ」
とNGを食らって、再検討。これはむしろいいケースです。ちゃんと検討する時間を追加で確保できるわけです。
しかし、企業には人情もあります。あなたの頑張りを見て、
「●●さんがこんなに頑張って検討してきた事業、応援してやろう」
と、古き良き意思決定がなされたりするケースもたまにあります。
こういうときこそ要注意です。数字で詰めきれてないので、ブレるどころか想定外の追加投資などが次々発生します。
承認は得たものの事業化の目処が立たず、追加投資が発生し、都度謝りながら承認を取る…
そして「応援してやろう」と言った人が、ある日こう詰め寄ってきます。
「で、いつ黒字になんねん」(あえて関西弁)
黒字化どころか、事業化の目処もたってないよ……
あるあるです。

そういった背景から、私はこう薦めています。

粗くてもいいから早めに数字で考えてみましょう!



数字で考える威力

カスタマージャーニーも考え、ビジネスモデル・キャンバス、リーン・キャンバスを描いた。バリュープロポジションマップ**も考えた。
新規事業・プロダクトの方向性、コンセプトを大枠検討した段階で、一度カンタンにでも数字で表現してみてください。

それ、いくらで売りますか?お客様はどんな人ですか?

「この商品を●●●円で売ろう」と一旦仮置きでも考えた瞬間、生々しくなります。

想定されるお客様候補に早速聞いてみましょう。
こんな商品あったら嬉しいですか?
●●●円で買いますか?
そのお相手の反応でだいぶ見えてくるものと思います。

なんとか買ってくれるお客様がいそうだ!
次の問いは、どうやって売っていこうか?となります。

まずはお客様に知ってもらわなければ買ってもらえません。知ってもらうにはどうしたらよいか。マーケティングの手法を考えなければなりません。
商品の特性上、店舗が必要な場合もあるかもしれません。店舗は自分で出店するのか、既存の小売店に置いて販売してもらうのか。
また販売単価次第では、営業担当の人がその商品の魅力を説明したり、提案したりする必要があるかもしれません。
このあたり自身として「実際の経験有無」も大きいといえるでしょう。

色々考えていくと……
あれ、営業人員のことを考えると、売れても利益が出なさそうだぞ?

数字で考えるから、このあたりが見えてくるわけです。逆に数字で考えなければ、永遠に見えてきません。

現状の検討している商品では売れても利益が出なさそうだ、となったらまたコンセプトに戻って下さい。
「例えば単価を▲▲▲円にしたらどうか?」
「そのとき商品としての価値は●●を実現できれば十分ではないか?」
「そうすると原価は■■まで抑えられる」
という具合に試行錯誤してください。

そしてまた数字に落とし込んで考えて下さい。


抽象的なコンセプトを考えること、そして具体的な数字で考えること、この往復によって解像度が向上していきます。

大切なことは、
具体と抽象を行ったり来たりすることです。


** このあたりについては、「起業の科学」などよい書籍が多いので解説はそちらに譲らせて下さい。


事業計画は何故ブレるのか?

事業計画はたしかに作った方が良さそうだ。数字で作るのも確かに意味がありそうだ。けど、結局作っても計画通りにいかないじゃない?
というのが、読者の皆様の本音ではないでしょうか。

はるか昔(2006年くらい)、私自身がベンチャーキャピタルで仕事をしていた際、先輩には、「(スタートアップが出す)事業計画は3かけでみた方がいい」、つまり達成するのは計画で出された数字の30%くらいというアドバイスを受けていた。

スタートアップの事業計画、大手企業でも新規事業の事業計画はブレます。
なぜブレるのでしょうか。
*なお、前回記事の通り本論では「狭義の事業計画=収益計画」を対象としています。本記事では、特段の注記がない限りは、事業計画はこの狭義の事業計画を指すものとしています。

既存事業の事業計画の場合

既存事業の場合は、例えば2020年3-4月時点での新型コロナウイルスの流行等のように、大きな外部環境の変化が発生しない限り、作成した計画と大きく誤差はでないものです。
これは、「計画内に内在する不確実性」が相対的に少ないからです。具体的に言うと、事業計画を構成する変数のほとんどが「実施したことがある」、「検証済み」だということです。
従前までの事業を運営した実績とその蓄積によって、数字のブレについて最小化できている、もしくはどこでブレるか元々分かっており、それを織り込んで計画を作っているものです。
結果として、計画と実績の誤差も数%に収まるわけです。


既存事業は不確実性が相対的に少ない


新規事業・スタートアップの事業計画の場合

一方、新規事業やスタートアップの場合、そうはいきません。
そもそも計画を作成しても、そこで設定した変数のほとんどは未検証。基本的に「仮説」といえます。別の言い方をすると「不確実性」です。
仮説で設定した変数同士の掛け算・足し算で計画が作成されているわけです。
そりゃ、ブレます。もう気持ちいいくらいブレブレです。
また計画を作る際は、どんなに冷静に考えていたとしても「希望・願望」が含まれるのが人情というものです。「ベースケース」が「楽観ケース」と自然に設定しているものと思います。*
そうすると、当然、実行したあともブレます。そう、「当然」なのです。


新規事業は仮説が多い=不確実性が高いのでブレやすい

じゃ、やっぱり計画作っても意味ないじゃないか…
その問いには「断じて否!」とお答えします!
この計画を作る過程で、仮説を仮説として認識し、仮説の検証方法を考えて、実行段階で認識した仮説を検証していく。その先に計画の先に描いた大きな目標ーあえて夢といいましょうーを実現する道筋を可視化できるのです。
私のバイブル『なぜ新規事業は成功しないのか』(大江建氏著)にこう記されています。

新規事業とは「仮説をマネジメントする」ことである。
(中略)
新規事業を推進することは、まさに「仮説を知識化していくプロセス」なのである。

大江建著『なぜ新規事業は成功しないのか』

まさしく、新規事業を進める上で仮説を検証して、不確実性に向き合っていくことが必要なのです。

*楽観ケースで考えることが悪いわけではありません。あまりに保守的に考えすぎて、こじんまりした計画を立てたところで誰がそこに夢を見るでしょうか。右肩上がりの計画上等!要は「実現する手立て」を考え、挑戦し続けることが大切なのですから。



"よい"事業計画とは

事業計画の役割も、事業計画の意義もわかった。
数字で作る意義もわかった。
けどブレるよね…

では、どんな事業計画が「よい」といえるのでしょうか?

事業計画を語るからには、「その良さ」、つまり、どういう要件、どういう状態のものを「良しとするか」を考えなければなりません。
しかし、困ったことに世の中に出回っている「事業計画の作り方」本にはこの致命的に大切なことが記述されていません。
もしくは、間違って記載されています。

「達成できる計画が良い計画だ」
そういう言説もありますが、私はこの言には断固として否!と言いたいと思います。
「計画とは達成するもの」という呪いがそもそも日本企業の成長ポテンシャルを阻害しているとすら考えています。そう、これは「呪い」です。

この結果、何が起きているか?
説明相手となるステークホルダー毎に達成できそうな計画を開示し、社内ではストレッチをさせた計画で目標設定をする。工数は膨れ上がります。まさしくブルシットジョブ。
しかし、よくあることでしょう?
私は、これは欺瞞だと考えています。
仮説検証のための道標が計画だったはず。なんとなく「達成できそうな計画」を達成して、「計画を達成して素晴らしい!」ともてはやすステークホルダー。そしてそう言われて喜ぶプレイヤーサイド。
本当にその「達成できそうな計画」を「達成できた」ことをもてはやされて、喜んでいていいんでしょうか?

良い計画とは何か?先に結論を記しましょう。

良い計画とは、
不確実性を前提とし、
検証と学習のサイクルを備えたもの

著者

ここから導かれる「よい事業計画の要素」とは、

  • 不確実性・仮説を認識していること / 特定していること

  • その仮説をどう検証するか見えていること

  • 仮説の検証した後のアクション、計画の見直しをすること(見直しがしやすいこと)

この結論に至るまで、様々な分野で語られる「計画」について調べました。

行き着いたのは「コンピューターサイエンス」です。

当社CPOの森勝さんに「これ面白いっすよ」とお勧めされた、YouTubeチャンネルがあります。

その中で、「見積もり」(本論では特に工数の話)が語られていました。

これをきっかけに、コンピューターサイエンスでどのように語られているか学ぶ中で『アジャイルな見積りと計画づくり』(Mike Cohn氏著)という書に行き着きました。

本書では、よい計画についてこう語られています。

よい計画とは、ステークホルダーが信頼できる計画だ。
信頼できるとは、その計画を基にして意思決定できるという意味である。なにをもって信頼できる計画とするかは状況によって異なる。

『アジャイルな見積りと計画づくり』

その信頼できる計画とは何か、というと「不確実性」を前提にし、その不確実性に対して検証ができたタイミングで見直すものと語ってくれています。

あなたの計画が不正確だったにもかかわらず、それでもなお役に立ったと言えるのは、プロジェクトの進行中にも計画を定期的に更新していた場合だ。定期的に計画を更新していたなら、最後の最後になってはじめてプロジェクトが1ヶ月遅れることを知ることになる不幸な人はいないはずだからだ。

同上

アジャイルな計画づくりでは、プランニングに費やす労力や投資と、プロジェクト最中に得られる知識とを天秤にかける。プロジェクトの途中で新しい知識を得たら、それをもとに計画見直すのだ。「変更されてもかまわない」というだけでなく、むしろ「積極的に変更したい」と思うのがアジャイル計画である。… 変更が起きるということは、なにか学習したり過ちに気づいたりすることを意味するからだ。

同上

これは特にアジャイル開発の計画に関する示唆ではありますが、事業計画も同じことが言えると思うに至りました。
事業開始当初は、不確実性・仮説のカタマリであり、仮説しかない!といっても過言ではありません。
しかし実行していき、計画に内在する仮説を検証する中で、計画を見直し続けることが大切です。

繰り返しになりますが、計画において不確実性を前提とし、仮説を検証しながら計画を見直し、計画を使い倒した上で、最終的に目標を達成することが大切です。

補足:「計画は達成するべき」という誤用

当然のように「計画は達成するべき」という言い方をしますが、よく考えて下さい。
計画は「遂行する」ものです。達成するべきは「目標」です。
事業計画といいますが、将来の売上高や利益を提示していることが多いですが、これは「目標」であって「計画」ではありません。

計画とは、到達点である目標を設定し、その目標に至る過程・座標を定めることです。
ということを考えると「計画を達成」という表現自体、ちょっと変なんですよね。


今回の記事では、「よい事業計画とは」にまで踏み込んで記しました。
世の中にたくさん事業計画本や記事がありますが、「何がよいのか?」については語られていません。

今回ご紹介したような「よい事業計画」を目指すとき、表計算ソフトで作っていると作り直すのも大変ですし、計算エラーも起きがちですよね……
我々が開発・提供しているプロダクトVividir(ビビディア)は、「よい事業計画を作ろう」と考える皆様の味方です!
事業計画を作成するのもカンタンです!
さらに実績を取り込み、仮説検証をシームレスに実行できます!
さらに!作るのもカンタン、ということは見直すのもカンタンです!
まさしく「学習を織り込んだ、よい計画」を作っていくことができます!

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2回にわたって、「そもそも事業計画とは?」について、主に意義の側面から語りました。
何気なく使っている「計画」、「事業計画」という言葉ですが、当たり前の言葉になり過ぎてなんとなく取り組んでる、ということになりがちです。
起業するなり、新しい事業に取り組む限りは通る道であり、結構な時間を使うものだからこそ、ぜひその本質的な部分に踏み込んでご理解深めていただければ、もっと前向きに取り組んでいただけるのではないかと思います。

では、次回!

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