【メジャ就 3/25】 コラムを読み進める前に

1995年、近鉄バファローズの野茂英雄投手が、MLB(メジャー・リーグ・ベースボール)のロサンゼルス・ドジャースに入団しました。

そして、その年のオールスターゲームの先発に選ばれ、新人賞に輝き、たちまちMLBを代表する投手となりました。

彼の大活躍はMLB関係者の目を日本球界に向けさせると同時に、日本人選手、中でも投手陣にMLBへの確かな可能性を示しました。

その後、たくさんの投手が海を渡り、MLBのマウンドに立っています。

そして、2001年にはオリックスのイチロー選手と阪神の新庄剛志選手が日本人野手として初めてMLBに移籍。

イチローは新人賞のみならず、リーグMVPという最高の名誉まで獲得したのです。

新庄も華麗な守備とチャンスに強いバッティングで、日本のメディアの予想をはるかに上回る活躍を披露。阪神時代をしのぐ人気と注目を集めるようになりました。

すると、それまでサッカー人気に押され気味だった子供たちの間に大きな変化が起きました。野球(ソフトボール)を始める子供がまた増え始めたのです。

このことは日本球界にとって大きなプラスになります。

さらに子供たちが野球というスポーツに関心を持つようになり、その中から才能ある子供たちが発掘される可能性が増したということですから、世界の野球界全体にとってもプラスです。

長期的ビジョンに立てば、イチローや新庄のMLBへの移籍は、日本球界だけでなく国際的にも意義ある挑戦でした。

今や日本の野球少年たちは、日本人でもMLBのトップに立てる可能性を知り、

「イチローのように、メジャーという世界一カッコイイ舞台でプレーをしてみたい」

「メジャーの恵まれた環境の中で実力を試してみたい」

「メジャーという世界一規模の大きなリーグで活躍して、ヒーローになりたい」

等々、大きな夢を描き始めました。

低い目標しか抱けない人は、到達点も低いレベルになってしまいます。反対に、高い目標に向かって努力した人は、高いゴールに届きます。

イチローや新庄、野茂、佐々木のようになることを夢見て野球に励む子供たちの中からは、将来必ず素晴らしいメジャーリーガーが誕生することでしょう。

日本人メジャーリーガーの活躍に影響されたのは、選手や野球少年だけではありません。NLBのテレビ中継を通して、多くの野球ファン、スポーツファンがMLBの面白さに魅了されるようになったのです。

世界最高レベルのプレー。そこに漂う華やかさと緊張感。それを盛り上げる場内の演出と観客の熱気——そうしたMLBの魅力にハマり、新しくファンになった人が大勢います。

野球カード(トレーディング・カード)や首振り人形をはじめMLB関連の商品や雑誌類は急増しました。実際にアメリカまで出かけ、スタジアムで観戦するファンの数も増加しました。

MLBにとって、今や日本はアメリカに次ぐ巨大なマーケットになっています。その市場規模は今後もふくらみ続けることでしょう。

なぜなら、MLBは巨大な組織力と資金力、エンターテイメント・ビジネスとスポーツ・ビジネスのノウハウを活用して、MLBの魅力を、世界中に広める努力をしているからです。
 
メジャーリーガーになれるのは、不可能とは言いませんが、ほんのひと握りの人です。MLBは世界中で選びに選ばれたプレーヤーだけが立つことのできるフィールドです。

しかし、MLBの球団フロント(日本でいう球団本社)で働くチャンスを見つけることは、日本で想像するほど難しいことではありません。

日本人メジャーリーガーの増加にともない、現場でも日本人選手のための通訳やトレーナーのニーズが高まっており、実際に日本人がMLBにチームスタッフとして入団しています。

同様に球団フロントでも、日本のマーケット対策として、新しく日本人スタッフを採用する動きが出てきました。MLBに就職する入り口はアプローチの仕方次第で、意外に広いのです。

日本のプロ野球12球団に対し、MLBには30球団もあります。

そして、各球団の傘下にはルーキー・リーグから3Aまで6つもしくは7つのマイナー・リーグ球団があり、その他に独立リーグ(MLB球団の傘下に属さない球団のリーグ)所属の球団があります。

つまり、プロ野球だけでMLB以外に200以上のプロ球団があるのです。

これに、4大メジャースポーツと呼ばれる、バスケットボールのNBA(ナショナル・バスケットボール・アソシエーション)、アメリカン・フットボールのNFL(ナショナル・フットボール・リ—グ)、アイスホッケーのNHL(ナショナル・ホッケー・リーグ)と、その下部リーグを合計すると400以上もの球団が存在します。

さらにアメリカには、MLS(メジャー・リーグ・サッカー)、アリーナ・サッカー、アリーナ・フットボール、ラクロス……など、多くのプロスポーツがあり、そのすべての球団が独立採算のスポーツ・ビジネスの企業として経営されています。

どの球団も毎年優秀な人材を求めて盛んに社員の新陳代謝を繰り返しており、それだけ多くの日本人に就職のチャンスがあるのです。

また、スポーツ・ビジネスの中でもチーム作りとは異なる、いわゆるビジネス・アドミニストレーションの仕事は、どの競技でもほぼ共通しています。

そのため、アメリカではフロントのビジネス・アドミニストレーションの社員が他の競技へ移籍することは、ごく当たり前です。

現に私がそうですし、最終的にMLBの球団フロントに就職することを目標に、最初は他の競技のリーグで経験を積む人もたくさんいます。

アメリカのスポーツ・ビジネス界には縦(同じ競技内)・横(他の競技)に素晴らしくきめ細かいネットワークがあり、共存共栄の意識も高いため、マイナー・リーグや他の競技のリーグにいても、能力が認められれば、いずれMLB球団との接点が生まれます。

しかも、アメリカでは——スポーツ界に限らず、すべてのビジネス界で——「民族や国籍、年齢、性別、学歴、宗教」等に関係なく、個人の能力次第で仕事を任され、自分の力を試すチャンスがどの国よりもはるかに多くあります。

その点、日本の球団フロントの職員は多くが親会社からの出向や転籍で、よほどの専門職でない限り、直接球団とは契約できない仕組みになっています。

つまり、球団への就職の窓口は思いのほか狭いのです。

また、もともと日本のプロ野球は、歴史的に親会社の広告・営業活動の一環として誕生したという経緯があります。

戦前、野球の人気が高まる中、朝日新聞社と毎日新聞社が高校~大学野球の興行権を押さえ(春・夏の甲子園大会は、それぞれ毎日新聞社と朝日新聞社が主催)、発行部数を伸ばしたのに対抗し、読売新聞社が創設したのが日本のプロ野球です。

そして、そのビジネス的手法を参考にした球団の参加をうながし、リーグが発展したのです。

日本のプロ野球界は、その誕生時から「親会社のため」というコンセプトがあるため、今でも多くの球団において、独立したスポーツ・ビジネスという意識が薄いのです。

それゆえに、能力のある人材を積極的に採用することも少ないのです(こうした日米の差は、このあとも折に触れ詳しく紹介したいと思います)。

大好きな野球界もしくはスポーツ界の現場の熱気に触れながら働きたいのであれば、もちろん簡単な道のりではありませんが、そのチャンスはアメリカの方が日本よりもはるかに大きいといえます。

しかも、アメリカのスポーツ・ビジネス界で身につけた能力は、世界で通用します。

日本でも、これからは多くの競技団体がサッカーのJリーグの成功(まだ、不完全ですが)に刺激され、親会社の資金的助けに頼らないプロの運営が求められるようになるでしょう。

そのときは、アメリカのスポーツ・ビジネス的な——スポーツを一般庶民に向けたエンターテイメントとしてとらえ、ファンや観客さらには地元の地域社会(コミュニティー)にゲームを提供し、それを楽しんでもらい、同時にビジネスとして成長させる——経営・運営が絶対に必要になります。

ところが、いまの日本にはその実際のオペレーションを知っている人材は余りに少ないのです。

今後は、日本でもそうした人材が活躍できるフィールドは確実に広がっていくはずです。

もう一つ、アメリカのスポーツ・ビジネスに挑戦することで、生きたビジネス英語が身につく。このことも、キャリアアップの大きな力になります。その重要性は、今後ますます増していきます。

今やあらゆる商品が国境を超えて、日本へ、そして世界へと流通しています。

「国際競争力」とよく言われますが、世界に通用するモノだけがシェアを拡大することができるのです。

ビジネスの情報、ノウハウも同じです。

そして、スポーツ・ビジネス界においては、やはりアメリカの世界一進んだスポーツ・ビジネスのビジネス・モデルやアイデアが英語の情報で世界中に伝えられます。

もしあなたが将来スポーツの現場で仕事をしたいと願っているのなら、この点からもアメリカのスポーツ・ビジネス界に挑戦する意味は大きいのです。

これを読み始めたあなたは、おそらく野球を始めスポーツが大好きな人だと思います。詳しくは後で紹介しますが、私もそうでした。

いわゆる「野球少年」で、小さい頃から甲子園、そしてプロ野球を夢見て、毎日暗くなるまで野球のボールを追いかけていました。

野球に対する情熱は、高校時代に肩を壊して、大学の野球部入りをあきらめてからも、変わりませんでした。大好きな野球界、あるいはスポーツ界で働きたいと思い続けていました。

私は「念ずれば通ず」という言葉を信念としていますが、実際は単に念じ続けても目標に到達することはできません。

夢を実現するには、正しい方向に向かって実際に行動すること。実行力です。それも、できるだけチャンスの大きなフィールドで、しかもよりレベルの高い世界でスキルを身につけ、伸ばしていくことです。

もちろん人間ですから、実行を重ねる中での失敗は付き物です。それでもへこたれず再度実行を継続する先に、本当の夢の実現があるのだと思います。「継続は力なり」です。

ちなみに、失敗した者にも再度チャンスを与えてくれることも、アメリカのビジネス界の大きな魅力です。

では、どうすればその入り口を見つけられ、どうすればその中でキャリアアップをはかることができるのか?そのことは、後半で私の経験などから詳しく紹介していきます。

その前に、まずはアメリカのスポーツ・ビジネス界の仕組みから説明していきましょう。

※これより下に文章はありません。noteの仕様によるものです。

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