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4年も経てば、道は3つになってるわけで


「明日の朝ごはん、7時半集合でいい?」

「今日、ホテルのWi-Fiの調子悪くないか」

「明日のテストってさ、範囲ここだっけ」

4年前のグループLINEの会話を遡る。この3人のLINEが、また動き出すことになるなんてね。


🚶‍♂️


ぼくが新入社員の頃。

入社したばかりのぼくたちは、最初の1ヶ月は研修尽くしだった。都内の研修施設で、同期が200人集まってみっちり講義を受ける。

自宅から通えない新入社員は、施設近くのホテルに泊まる。ぼくはホテルの宿泊中、部屋が近い2人の同期と仲良くなった。

ひとりはR君。背が高くて、いつも柔らかい物腰で落ち着いているメガネ男子。頭が良くて、頼りになる存在。

もうひとりはS君。小柄であまり多くは語らない。けれど、たまに核心をついた一言をボソッと放り込み、それが笑いを生む。シュールの使い手。

3人で、ホテルの朝食時間を合わせて一緒に食べた。研修が終わった後も、3人で松屋の牛丼をかき込んだり、研修施設の周りを散策したりした。

関西勢の同期がワイワイと男女入り混じりながら賑やかに過ごしていたけど、ぼくたちはいつも、のっそりと男3人でいた。

話題も絶妙な温度だった。

「ホテル生活、長いと飽きるね。なんか楽しむ方法ないかな」

「俺、入浴剤毎日変えてから日々にハリが生まれた。100均で買える」

「天才だね。シュワシュワして、中からフィギュア出てくる入浴剤みんなで買いにかない?」

フレッシュな新人が集まってこれである。みんなベラベラと話すようなタイプじゃない。だから大盛り上がりすることはあまりなかったけど、3人でいるといつも居心地が良かった。

夕飯を食べ終わると「じゃあ、また明日ね」ってすんなりとそれぞれのホテルの部屋に戻っていく。付かず離れずの、絶妙な距離感。

それでも1ヶ月間、毎日ごはんを一緒に食べ続けた。気づけば、なんだか家族に近い安心感が生まれていた。


そうして、同期みんなで過ごした研修は終わってしまった。それぞれ配属された部署へ、旅立って行かなきゃならない。

ぼくとR君とS君は、全員バラバラの配属地だった。しかも、飛行機を使うレベルの距離。研修のとき、毎日のように動いていた3人のLINEも、配属後はパッタリと音を鳴らさなくなった。

そうして、新入社員の頃のことなんて、学生時代みたいに遠く遠く小さくなっていった。

あれから4年。ホコリをかぶっていたグループLINEが、もぞもぞと動き出した。

「再集結だね」

なんと、今年の異動でトリオ全員が北海道に配属された。全員部署は違うし、働いているビルは違うのに、会える距離。割と奇跡。人生ゲームだったら同じマスに全員止まってるから、枠から車がはみ出してしまう。

そうして、3人は居酒屋で再会を果たした。

それぞれの近況を伝え合う。4年分溜まっているから、もうどこまで話を遡ればいいのか分からない。もはや近況じゃない。遠況。

みんな違う部署を経ているから、当然経験していることも全く違う。スタートは同じだったのに、それぞれ異なる道のりを歩んできたことに気付かされる。見えない間に、ぼくたちの歩幅や歩き方はゆるやかに変わっている。

それでも、3人を取り囲む雰囲気は変わらない。4年ぶりに会ったにもかかわらず、大はしゃぎはしない。

あのときの松屋と同じテンションで「カレーならね、このお店がオススメ。」「へー今度行こうかなー。」とぼちぼち相槌をうち合う。歩く道は変わっていても、歩く人は変わっていないらしい。

そうして深くも浅くもない、無難なトークを終始続けた。無理をしない、感情をすり減らさない、ぼくたちの人肌の温度で。

「またね」

4年ぶりの再会は、あっさりと幕を下ろした。研修時代にホテルの部屋にそれぞれ戻っていくような足取りで。


駅からの帰り道、1人でゆらゆらと頭を動かす。

2人とも違う部署で頑張ってるんだな。それぞれのストーリーを自分なりに歩んでるんだ。なんだか少し寂しい。けれど、胸の底にはなぜか心地よさもある。

新入社員の頃は、とにかくみんなと同じが良かった。能力がないって思われたくない。自分だけが違う道を進むのが怖い。

まるで、大きな船にしがみつくようにして過ごしていた。大多数の正解から外れないことが、最優先事項。

けれど、今は違う。同期が色んな部署や世界で活躍しているのを見て、良くも悪くも気にならなくなった。

4年も経てば同じ船に乗ってるのなんて無理だ。それぞれが小さな小船を出し、色んな航路を辿りながら、船体のカラーを変えていく。

そんなカラフルな船をたまに見ながら、「その色も素敵だね」って思えるようになった。むしろ、遠くから見てるから自分の船と比較しにくくなったのかな。都合の良い距離なのかもしれない。


4年前の自分へ伝えたい。不安で、必死で、ドギマギしていたぼくへ。

君たち仲良し3人組は、4年後に再会してるよ。それぞれ気ままに自分のストーリーを歩んでいる。当然、時の流れで変わってしまうこともある。

だけどね、たまに一緒の展望台で同じ景色を見れる。それが心地よい。山登りの途中で、これまで辿った道を振り返るような、ちょっとしたワクワク。

その合流を楽しみにして、今進んでいる道のりを、噛み締めて歩いて欲しいな。


なーんてね。

てか、君は4年後もあんまり変わってないよ。安心しな。

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