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途上国ベンチャーで働いてみた:深圳ファンドレイジングの旅(通算130日目)

2019年11月、突然、中国の深圳(シンセン)に出張に行ってくれ、と頼まれた。

なんでも、社長がバングラでこの事業を立ち上げる時にサポートしてもらったバングラ人の投資家が、バングラ・ダッカ証券取引所と中国・深圳証券取引所のつなぎ役*を担っているらしく、中国からの投資をもっと呼び込むためにバングラ国内のベンチャー企業を引き連れて深圳(シンセン)でピッチイベントを行うというのだ。

*ダッカ証券取引所の株式会社化にあたって深圳証券取引所から資本が入っている。この辺りはバングラデシュと周辺の中国、インドの間における地政学的なかけひきもあるようだ。
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO27114100Z10C18A2FF2000/

中国のお金持ちな投資家にうちの事業をPRしてコネクションを作ってきてくれ、というのが今回の出張の目的らしい。

どうしよう、ピッチなんてやったことない。

というか、苦手意識が強い。

金融時代、外銀出身の先輩なんかが「エレベータピッチができなきゃ一人前じゃない!」みたいなことを仰っていたが、就活していたころから短時間でインパクトを残すハウツー本的なものを横目に見ては苦手意識を持っていた。
とはいえ、深圳(シンセン)には行ったことがないので興味があるし、バングラ国内のベンチャー起業家や中国の投資家と触れ合える機会などそうそうめぐってくるものではない。

改めて、過去に社長がビジコンや講演会でスピーチしている映像を観たり、プレゼン資料を拝借して勉強し、ピッチプレゼンの構成を考えた。
一応、この会社はAIを活用するヘルステックベンチャーである、ということが少なくとも日本の投資家から注目を集める源泉となっているが、現場で健診サービスのユーザーをいかに増やすか腐心している立場としては、どこをどうしたら今後AIを活用したサービスにつながるのかがいまいち理解できずにいて、プレゼンの要旨はなかなかまとまらなかった。

そこで、ピッチイベントの主催者であるバングラ人投資家にアドバイスを求めることにした。
彼から得られたアドバイスは以下3つ。

1.冒頭でボードメンバーを紹介すべし
投資家は、その事業を率いている社長以下メンバーの能力を見る。学歴や経歴でプラスになるものは頭でアピールするのが良い。

2.エコシステムの創出ハブとなることをアピールすべし
ビジネス上のエコシステム、つまりさまざまな業種業態との協業が可能な立ち位置であるプラットフォーム事業の核になれるのだ、ということを主張すること。投資家にとって、その企業の成長が多くの市場を取り込む可能性を秘めていると思えることは投資意欲を後押しする。

3.コア技術が誰にとってどのように役立つのかを示すべし
技術そのものの具体的な説明を聞いても多くの人にはわからない。が、その技術を生かすことで誰がどのような価値を手にするのかを説明することが大切である。

なるほど。。

かくして、アドバイスに従って資料を完成させた私は、どんな世界が待っているんだろうと若干浮足立ちながら深圳(シンセン)へと向かった。
そして、バングラとはまったく異なり、喧騒も物乞いもクラクションの音さえ聞こえない高層ビル群の立ち並ぶ都会深圳(シンセン)で出会った、ベンチャー起業家のバングラ人たちのアグレッシブさと意識の高さに、それまでのバングラのイメージを覆された

「君はどんなビジネスをしているの?」
「対象は予防医療?それとも?」
「ユーザーは何人いるの?」
「お金はどこから得ているの?」

都会の空気にも物怖じせず、アルコールも平然と口にする若手のバングラ人起業家たちから出会いがしら矢継ぎ早に飛んでくる質問に、プレゼン用に用意していた回答も吹っ飛んでしどろもどろになってしまう自分が恥ずかしかった。
なにより、いまこの瞬間なにを目指して事業を進めているのかいま獲得したいターゲットは誰なのかそのためにいま取り組んでいる戦略は何なのか何を目的に資金調達をしに来たのか...
崇高なビジョンを口にしても、今この瞬間のアクションはそのビジョンに向けてどんな意味があるのか、目の前のマイルストーンが見えていなければ、自信をもって答えることができない。
その点、彼らのトークやプレゼンには相手を納得させるだけの切れ味があった。

また、彼らベンチャー起業家のほぼすべてがオンラインでのサービスを展開していた。この時代当たり前なのだが、私たちはAIヘルステックベンチャーと言いながらもほぼすべてのオペレーションがマニュアル運用であり、物理でのサービス提供が主流、スマホを使いこなしオンラインサービスを是とするアッパー層にはうまくリーチできていなかった。
なので、彼らがオンラインサービスによって数万のユーザーを獲得しているという事実は私にとって衝撃であり刺激になった。
やはり、市場は存在したのだと。

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参考までに、彼らのサービスをいくつかここに載せておきたい。

フードデリバリー”Hungry Naki” (Are you hungry?の意)
https://hungrynaki.com/

チャットボットサービス"Alice"
https://myalice.ai/
2021年についに50万USDの資金調達を実現している:https://www.menabytes.com/alice-labs-seed/

アグリテック“i farmer”
https://ifarmer.asia

不動産マッチングサイト"bproperty"
https://www.bproperty.com/

クラウドベース健診サービス"CMED"
https://cmed.com.bd/

病院向けソフトウェアプラットフォーム"mysoft"
https://www.mysoftltd.com/

オンライン決済"Circle"
https://www.circlefintech.com/

とはいえ、実際にはどの起業家たちもそれぞれうまくいかない悩みや思いを抱えつつ、資金調達に奔走していることに変わりはないようだった。
バングラ国内ではほんのほんの一握りの人間にしか叶わない、一流ダッカ大学やバングラデシュ工科大学(BUET)での学び、海外留学などを経て社会を変えるビジネスを興そうと夢見る人たちの熱気に触れることのできた、貴重な体験になった。

(続)

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