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なぜ人は恐怖を求めるのか【ホラーの科学】


皆さんはホラー作品に触れたことがありますか?

よく考えれば、ホラーというのは不思議なコンテンツです。

映画館やホラーゲームで人々は震えたりドキドキしたり叫んだりと、恐怖をあらわにします。

時には、吐き出したり、失神したりも・・

なぜ、偽物とはわかっているものを、こんなにも見事に怖がることができるのでしょうか。

そして、なぜ自分を恐ろしい目に遭わせてくるホラーをわざわざ求めるのか

ホラーのメカニズムについて、解き明かしていきましょう

この記事を読み終えた後、ホラーについて違う見方ができたらなと思います。

そもそもなぜ”フィクション”を怖がることができるのか。

前回の記事で

・人間が恐怖を感じるのは「生き延びるため」「危害から逃れるため」
・恐怖の「怖い感じ」は「闘争/逃避反応」という一連の流れにより起きる。
・私たちは恐怖(情動)を勘違いすることがある。

ということを書きました。

【読んでない方はコチラ】

https://note.com/yorimiti_gaku/n/nc12c8a9a9385#zeeRI

人間は脅威を目の前にした時に恐怖を覚えます

しかし、ホラーについてはどうでしょう?

例えばそれが映画であれば
目の前に写っているのはただの映写機で投影しただけの光です。

ゾンビもサイコな殺人犯も貞子も目の前にいるわけではないのです。

それについては誰もが分かっていることです。
なのに震え上がるほどの恐怖を覚える。

なぜ、このようなことが起きるのか。
そこから、解き明かしていきましょう。

アートボード 1@2x-100


ここについては、「錯覚説」「ごっこ説」など哲学者や心理学者を中心に色々と議論がなされました。

(それらについては参考にしました「恐怖の哲学」を読んでみてください。)

なぜ、我々が実在しない脅威を怖がることができるようになったのか・・


それは

脳が進化したことによって、思考の中だけで恐怖を生み出せるようになったからです。


脅威は実在しないと分かっているのに恐怖を感じるというケースは多く存在します。

例えば、高い塔やビルから下を見下ろすと、落ちないとわかっていても、思わず震えたり、足がすくんだりします。

「落ちるかもしれない(予想)」
「落っこちたらどうなるんだろう(想像)」

私たちは脅威を頭に描くだけで、恐怖を感じることができます。

これは人間の特有な機能と言えますが。

そんな人間も、昔からこうなっていたわけではありません。

これは進化の過程において、得た能力です。

生物は進化するにつれ、脳が発達し部位同士の連携が強まっていきます。

これにより「恐怖を司る部位(扁桃体)」「思考を司る部位(前頭葉)」の連携が強まり、思考するだけで恐怖を入力できるようになった。

だから実在の脅威がなくても恐怖を感じることができるのです。



そして、自分の危険だけではなく”他人の危険”にも恐怖を感じることができます。

同じ感覚を共有する”共感性”があることによって

自分が脅威に晒されるだけでなく、登場人物(他人)が脅威にさらされている、という状況だけでも、恐怖を感じることができます。

アートボード 2@2x-100

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なぜ逃げないのか

すると、続いての問いが浮かび上がってきます。

結局、偽物でも実物でも一概に本物の恐怖を覚えるのなら、なぜ逃げ出さないの?ということ

前回の記事でも説明した通り、恐怖のあとは「逃げろ」という指令が下されます。

動物は基本的に反応と行動を切り離すことができません。

カエルは「ハエがきたら」「食べる」という行動を組み合わせていますが。
行動を切り離すことができないので、お腹いっぱいでも反射的に食べてしまうそうです。

このように「これをしたら」「これをする」と常にくっついているのですが。

人間はここについても、高度な進化を遂げました。

「恐怖」のあと「逃げろ」という指令を出すところまでは同じですが。

そのあとどう逃げるのかということを「恐怖産出システム」とは別の「行動産出システム」が引き継ぐのです。

この「どう逃げるのか」という行動選択の時に「この脅威は偽物だよ?」という信念が介入してきます。

そのため、恐怖は感じるけれど、本格的な逃避行動まではとらないという状況が生まれるわけです。

しかし、全ての行動を抑えることはできません。

そのため、体がびくりと反応したり、目を閉じたり、悲鳴をあげたりするわけですね。

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ホラーをなぜ楽しめるのか。

さて、ここまでいかがだったでしょうか。

ここでメインのテーマになりますが「なぜ私たちはホラーを楽しめるのか?」です。

同時に気になるのは「楽しめない人」もいる、ということ。

ホラーを楽しめる人、楽しめない人。

この違いがどこにあるのかということも解き明かしていきましょう。

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ここまでの説明はこうです。

・私たちがフィクションを怖がることができるのは、脳の発達により、実在しなくても思考を抱くだけで恐怖を生み出せるようになったから。

・恐怖を感じても逃げないのは、「恐怖」と「行動選択」が切り離されていて、「行動選択」の際に「これは実在しない脅威だよ」という信念が介入してくるから。

すこしややこしい説明も入りましたが。
「なぜホラーを楽しめるのか」という問いに答えるのはとても簡単です。

なぜなら、恐怖はそもそも”快楽”だからです。

恐怖はそもそも”快楽”である

恐怖は”不快さ”を伴うとされていますし、”避けるべきもの”とされています。

「自分への脅威」が恐怖の元であるなら、避けるべきなのは当然ですよね。

しかし人は、恐怖を楽しんでいる。


ホラー以外にも人々が恐怖を楽しんでいるケースはあります。

ジェットコースターやバンジーなどの絶叫マシンなど・・


実は、恐怖は”不快感””嫌悪感”を伴うのと同時に快楽ももたらします。

それは恐怖が、快楽にまつわる物質を放出するためです。

恐怖を感じた時、恐怖感と一緒にアドレナリンが放出されます。これは興奮作用を伴う物質なので、覚醒状態になり、高揚感が生まれます。

それとともに、エンドルフィンという神経伝達物質も放出される。
これは「脳内麻薬」とも言われ、鎮静作用と快感をもたらします。

もうこの時点で、恐怖が大きな快感を与えてくれるものであることがわかります。


では、恐怖の「不快感」「不安感」「避けたい感じ」はいったいどこからやってくるのでしょう?

恐怖そのものは「扁桃体」という脳の部位が担っています。

この扁桃体によって、恐怖を楽しめるかどうでないかが決まっているという話があります。

この扁桃体は右側が恐怖を司り、左側が快楽を司っている、とされていて。

脳画像を用いた研究で、不安障害の子供を調べたところ、扁桃体の右側が大きく発達していて左側が小さかった、という結果がでているそうです。

面白い実験結果です。

つまり、恐怖を楽しめない人というのは、扁桃体の発達の偏りが原因となっているということが考えられています。

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まとめ

恐怖は快楽不快感の相反する二つの感覚をもたらす

そう見ると、ホラーというのは、恐怖の快楽の側面だけを感じられるように特化したコンテンツなんでしょうね。

ホラーを楽しめるというのは、とても一般的な心理です

むしろ、ホラーを楽しめない人がいた場合は、不安障害の診断基準として扱われるほど。


とは言いますが・・

怖がりなのは脳の発達の問題でもあり、何も恥ずかしいことではないということも、ホラーが苦手な人々を代表して伝えたいことです。

ここまで読んでいただきありがとうございました。

気になった方は参考にしました「恐怖の哲学」読んでみてください。

よろしければ、他の記事も読んでいただければ嬉しいです。

それでは、またの機会でお会いしましょう。

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