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フィンランドの教師=国民のろうそく

フィンランドといえば教育水準の高さというイメージを持つ人も多いだろう。よく引き合いに出されるPISAでは常に上位にランクインしている。
なぜ高い教育水準を維持できているか?その要因のひとつが、教師の質の高さにあるのは間違いない。

フィンランドで実際に子育てを経験した著者2人によるこちらの本の記載からも、フィンランドで教師を目指すのは非常に大変であることがわかる。

修士号が基本条件で、大学の教員養成コースは日本と違い、現在でも競争率十倍の人気学部である(日本のように都道府県別の教員採用試験はない)。このコースか、または現代では二分野にわたる修士号をもって教師適格とされる。ー靴家さちこ、セルボ貴子『住んでみてわかった本当のフィンランド』株式会社グラフ社,2009年,p111

前提としてフィンランドは学費がかからず、修士課程まで進んだとしても学生への負担が少ないことがあるが、それはつまり「子どもたちを導く教師という職業に就く人には修士号を取得するほどの専門知識を持つまでに国が投資をするべし」という姿勢の現れであるように感じる。

ではなぜフィンランドでこんなにも教師になることへのハードルが高いかというと、そこには「教師」という職業に対する国民の考え方が反映されている。

この本は著者の堀内都喜子さんが自身のフィンランドへの留学を通じて得た、体験記という色合いが強い一冊。楽しみながらフィンランドのお国事情を知ることができるのでおすすめ。

さてこの『フィンランド豊かさのメソッド』にはフィンランドでは教師は伝統的に人気の高い職業であると記されている。その根底には

給料は仕事の大変さ、責任の重さに比べれば、けっして高いとはいえない。しかし、フィンランドに「教師は国民のろうそく、暗闇に明かりを照らし人々を導いていく」という言葉があるように、国民から尊敬されてきた職業なのだ。ー堀内都喜子『フィンランド豊かさのメソッド』集英社,2008年

という考え方があるのだそう。日本も多くの教師の方々が志を持ってその職業を選ぶことは変わりないと感じるが、その業務量の多さや求められる役割の広さから疲弊してしまうことが多いのではないか。

NHKによると文部科学省が2年前に行った実態調査で時間外勤務、いわゆる残業が「過労死ライン」とされる、月80時間を超える恐れのある教員は、小学校で3割、中学校で6割

以前紹介した記事にもあるように、フィンランドのみならず北欧の学校には部活がないので顧問という名の残業をする必要もない。自身にも子どもがいる教師も多いので、14〜16時には自宅に帰って家族と過ごすという。

この2冊の本を読むと、教育ということの意味を考えてしまう。教育とは教える対象だけではなく、教える側に対しても投資をして育てていかなければならないということ。投資をするということはお金だけではなく時間もあろう。

暗闇を照らすはずのろうそくの火が、日本では風前の灯になっているのかもしれない。

※どちらの本も初版が10年前なので、現在はフィンランドの教員の制度も多少変わっているところがあるかもしれません


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