1年で作ったゲームと10年で作ったゲーム2 その後の「変顔マッチ」と「荒野へ」
Board Game Design Advent Calendar 2020の12月3日担当の記事です。
米光一成です。代表作は、テーブルトップゲーム『はぁって言うゲーム』『レディファースト』『はっきよいゲーム』『ピラミッドパワー』、コンピュータゲーム『ぷよぷよ』『BAROQUE』『魔導物語』『キングオブワンズ』等。(詳しくはプロフィールをみてね)
「ゲームマーケットで頒布する」を、ゲームを作った最初の到達点に設定している人は多いと思います。でも、それで終わりではもったいない。その後、どうするのか?
というのが、このテキストのテーマです。
1年前に作った「変顔マッチ」と「荒野へ」
2019年のAdvent Calendarで「1年で作ったゲームと10年で作ったゲームの制作過程の裏側を覗く」という記事を書きました。
2019年末に発表した「荒野へ」と「変顔マッチ」というゲームの制作過程について書いています。
「変顔マッチ」は、思いついて、作って、テストプレイして、少し悩んで、完成まで、およそ1年弱。ぼくにしては製作期間が短いゲームです。
もうひとつの「荒野へ-The Game of Tarot-」は、1999年に着想して、10年どころか20年かかっています。
ともに2019年のゲームマーケット秋に頒布しました。
ぼくは、ゲームを作ってゲームマーケットで頒布して、それで終わりでないと考えています。
というよりも、ゲームマーケット頒布はスタート地点で、そこからどう発展していくか。それがゲームづくりの楽しさのひとつだと考えています。
ちょうど1年たったタイミングなので、その後の「変顔マッチ」と「荒野へ」について書いていきます。
「変顔マッチ」は通販で動かず
「変顔マッチ」は、ゲームマーケットで遊んでもらった人には好評で、持って行ったぶんは完売しました。
が、通信販売ではあまり動かず。
変な顔をみんなでやってワイワイ楽しむゲームなので、面白さを伝えるためにプレイ動画を作ろう! と思ったりもしましたが、動画作成スキルがなさすぎ。(ぜひプレイ動画、あげてください)
ゲームマーケットで感じたこと
「変顔マッチ」を出して、ゲームマーケットで印象に残ったことがあります。何組か家族でプレイしてくれたのですが、それがめちゃくちゃ楽しそう。小さい子供は表情つくる天才。
実は、「記号化された顔を読み取る」ところが「変顔マッチ」の隠れた肝だと考えて作ったのでした。だから、ちょっとありえない顔が描かれています。たとえば鼻が伸びてる「鼻が高い」顔。実際には鼻を伸ばすことは無理です。でも、「鼻が高い」かんじを出すことはできる。
小さい子供に遊んでもらおうと思って作ったけど、でも、10歳以上じゃないとむずかしいかもと考えてインディーズ版は「10歳以上」と表記していました。10歳未満の子供でテストプレイするチャンスがなかったって理由もあります。
けれど、ゲームマーケットで、3歳とか5歳の子供が家族でプレイして、もうめちゃくちゃ盛り上がってるわけです。子供がめちゃくちゃいい表情して、両親が笑いころげている。すごい良い雰囲気。
「変顔マッチ」は「ファミリー向け」「パーティー向け」だなーという思いを強くしました。
もちろんゲーマーにも遊んでもらいたいのですが、アプローチすべきは、「はぁって言うゲーム」よりさらにファミリー層だろうなー、児童館などで遊んでもらって拡がるといいんだがなー、とぼんやり考えていました。
が、そういったところに拡める活動をする時間もつくれないまま、ぴたりと動かなくなった通信販売ページだけ残し、在庫が余ったままの状態。
新しい展開が転がり込む
そんなとき。「Ostle」「ミツカルタ」をゲームデザインした深瀬さんに「ダイソーで、ゲームを出す企画があるんだ」と声をかけてもらいます。
「変顔マッチ」がぴったりではないか!
ファミリー向けで、パーティーゲーム。ダイソーに来てくれるお客さんとピッタリ合う。
ルールもシンプルで、使うものもカードだけ。すぐに遊べる。
100円(税抜き)という大量生産による超安価格も、ゲームの内容とぴったりです。
深瀬さんに「変顔マッチ」っていうのがあるんですよ、とアンサー。どんなゲームか説明して、現物を送ると、深瀬さんも「いいですね!」と乗ってくれて、あれよあれよと進みました。
これは、もう、まったくのラッキーで展開がひらけました。
ひとつ教訓があるとすれば「作品として作っておけば何か展開がある」でしょう。もし「変顔マッチ」がアイデアだけで、作品として作ってなければ、深瀬さんに「変顔マッチってのがあるんですよ」って言わなかったと思います。ていねいに作って、遊んでくれた人が面白いと言ってくれたりして、自信があったから提案できた。
新バージョンの作成
デザイン等の変更がちょっとたいへんだな、と予想していました。
変顔の具合がイラストで表現されているので、「やりやすさ」「やりにくさ」や「楽しさ」を含めて、いろいろなイラストでテストプレイしなくてはいけないからです。
インディーズ版は、それこそ1ドット単位で動かして(illustratorで描いています)、テストプレイ期間は表情筋のハードトレーニングとなりました。何度も表情の絵を描きなおすので、ひとに頼むこともできず、自分で描いたのです。
ダイソー版は、イラストレーターさんに依頼することになるよなと予測し、イラストを描いてもらう人とどう打ち合わせしよう、ううむ。案外、繊細でたいへんな作業になりそうだと、と考えていました。
が、変顔ちゃんのイラストも「あれ、めちゃめちゃかわいいですよ!」と好評。そのままで行くことになりました。
2020年11月、「変顔マッチ」がダイソーで発売になりました。「対象年齢6歳から」という表示になっていますが、2歳児や3歳児でも親子で楽しんでもらっているようです。
インディーズ版の在庫は大量に余ってしまうことになりましたが(どうしよう)、インディーズ版の1年後に、おおぜいの人に楽しんでもらえるゲームとしてよみがえることができてうれしいです。
「レディファースト」は5年後に
ちなみに、2017年にインディーズ版としてだした「レディーファースト」が、5年たった2020年アークライトから『レディファースト』としてよみがえりました。
2人専用のゲームだったのが、4人まで遊べるようになって(しかも3人、4人プレイもおもしろい!)再登場。
ボードゲーム、アナログゲームの世界には、目利きがたくさんいます。
しかも、対面で遊ぶゲームは、楽しく遊んでもらうことで拡散していきます。遊んでもらうことが、直接、宣伝になっている。これは、すごいことだと思います。
だから、新作を作って、ゲームマーケットで売れたー売れなかったーっていうのは、タイミング的にまだはやい。
遊んでもらって、「おもしろい!」「これほしい!」という人が現れるか、それこそが勝負のポイントだと思います。
なので、遊んだ人の感想や、ツイッターでの遊んだよー報告、プレイ動画など、作る者の励みになります。ぜひ、どんどん伝えてほしい。
「荒野へ」は通販が好調
いっぽう「荒野へ-The Game of Tarot」。
こちらも、特別な宣伝や告知はしていません。が、こちらは、通信販売を開始して、じわじわと売れ続けます。
タロットをベースにして遊んだ結果で占えるという仕組みや、Momo Murakamiさんのデザインのカッコよさ、1人でも遊べること、2人の協力対戦プレイのおもしろさなどが、好評でした。
遊んでいただいた人には気に入ってもらえて、熱いメールが届いたりします。
「荒野へ」は、ソロプレイのルール解説動画を作りました。動画スキルがないので、映えない動画ですが、ルールの基本は理解できると思います。
ソロプレイを理解すれば、2人対戦もすぐに遊べると思います。
200個つくった在庫はなくなりました。
インディーズは増産がむずかしい
増産しようと考えているのですが、インディーズのボードゲームは増産がむずかしい。
最初の勢いはなくなっているので、作ったぶんがいきなり在庫として残ることになる可能性も大。
とはいえ、増産個数を減らすのも難しい。50個ぐらいから作れればいいのですが、そうすると単価があがります。
ですが、「欲しい人がいるのに手に入らない」状況をつくるのも、しのびない。
以前、ゲーム紹介動画を作ってる方が、「インディーズは紹介しても手に入らなくなってることが多くて紹介しにくい。問い合わせがこちらに来てしまう」とおっしゃっていて、それ以来、可能な限り、つねに手に入る状況を維持したいと考えています。(なので、近々に増産しようと考えています)
「荒野へ」から「記憶交換の儀式」が生まれる
「荒野へ-The Game of Tarot」を作った経験が2つのゲームを生み出します。
1つは、「これはゲームなのか?展」で発表した「記憶交換ノ儀式」。
ゲームとタロット占いを融合することが、「荒野へ-The Game of Tarot」のテーマのひとつです。作っているうちに「これは儀式だな」と感じていました。
作ってる最中、ゲーム、占い、カード、儀式、手順、法則といったことを調べたり考えざるをえなくなったのです。
「記憶交換ノ儀式」は、最初はエピソードを交換するゲームでした。勝ち負けも明確にあったのですが、どうやら「勝ち負け」の部分が楽しさを阻害していることに気づき、では、どうするか?という点で止まっていたのです。
それを「儀式」と名づけ、儀式として行うことで新しい楽しさを「場として作る」ことができるようになりました。
これは「荒野へ」を作ることで儀式について考えたことが大きく影響を与えています。
「荒野へ」から「ぽくちんとネコ」が生まれる
もうひとつは「ぽくちんとネコ」です。
2020年は「ぽくちんとネコ」というゲームを作りました。「ぽく」「ちん」「にゃー!」と言いながら、1~4人で遊べる手軽なゲームです。
「ぽく」「ちん」「にゃー!」などモチーフに関する言葉を口に出しながら遊ぶという部分では、「のこったのこった!」と言いながらカードを出していく「はっきよいゲーム」の発展型です。
いっぽうでゲームメカニクスの部分では、「荒野へ」の発展型でもあります。
どちらも「手元のチップを使って手札を補充しながら、場をコントロールしつつカードを出していく」というメカニクスになっています。
「荒野へ」で作ったメカニクスを、ポップに遊びやすくしたものが「ぽくちんとネコ」というゲームです(ぜひ、遊び比べてほしい)。
このゲームと一生つきあえるかなー
作ったゲームは、もうずっと付き合うつもりで発表しています。「このゲームと一生つきあえるかなー」っていうことを、ゲーム作品としてリリースするかどうかの基準にしています。
売れたー売れなかったー、話題になったーならなかったーっていうことが、出してすぐに気になっちゃう。そりゃ気になっちゃいます。ぼくもそうです。
でも、もう一生つきあうつもりで作品と関わることができれば、気に病むことはなくなるんじゃないかなーと思っています。(大量に存在する在庫の山が現実空間を圧迫してしまうのが問題ですが!)
がんばって作ったゲームを、ながーく愛して(大原麗子の声で)あげようと思っています。
いま、部屋を空間的に圧迫しているのは、最新作の「ぽくちんとネコ」です。楽しいので、ぜひ通信販売で買ってねー。
サポートいただいたら、記事に還元できることに使います。表現道場マガジンをよろしく! また、記事単体で購入できますが、月額800円「表現道場マガジン」がお得です。