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桃園の誓い

先日から投稿してきた人形劇について、
新たに第2シリーズを以下、記載したいと思います。


本作は、

オープニング
   ↓
メインキャラ4人のコーナー
   ↓
エンディング

という形で、1つの回を構成していく前提で考えています。


今回は、メインキャラ4人のコーナーの4つ目、
「ブルーハワイ兄貴の『ソフト俺デマンド』」をお送りします。


<人形劇 登場人物>


・もんじゃ姫

 →本作の主人公。
  頭の上にもんじゃ焼きが乗った、ぼんやりしてて空想好きな女の子。


・さばみそ博士

 →頭の上にさばの味噌煮が乗った、
  語りたがりで、ついウィットに富んだことを言おうとする男の子。


・ハバネロ姉さん

 →メインキャラで唯一の突っ込み役。唐辛子の髪飾りを着けていて、
  ピリッとした性格で、行動的な姉御肌。


・ブルーハワイ兄貴

 →頭の上にブルーハワイのかき氷が乗った、
  きれいなお姉さんが大好きな、能天気で自由な大柄の兄ちゃん。



※このコーナーのみ、兄貴以外の登場人物の、
 性別が反転したパラレルワールドの夢、という設定でお送りします。





~ブルーハワイ兄貴の「ソフト俺デマンド」~



地下の撮影スタジオへと下りてくる、ブルーハワイ監督。



監督「おい~っす」

3人「お疲れ様でーす」



監督の下、共に映像制作を行うスタッフは3人。



照れ屋さんで、ちょっとドン臭い、もん太くん、
ウィットに富んだことを突然言い出す、さば美ちゃん、
気が強くて生意気な、サバ夫くんである。





監督「じゃ、居酒屋行こうか」

3人「居酒屋っ!?」



これから撮影なのに、
一体監督は何を言い出すのか、といった顔を見せる3人。



ハバ夫「飲みにでも行くの?」

監督「何言ってんだ、撮影だよ」

もん太「居酒屋で、…撮影?」



ふと、セクシーな店員さんが出てくるお店で、
お酒が進むうちに、あんなことや、こんなことが…、
といった展開を想像し、思わず赤面してしまうもん太くん。



監督「モンチッチくんは、また、何エッチなこと考えてんだよ」

もん太「エッ…、そ、そんなこと考えてませんっ」

ハバ夫「居酒屋の店員モノは、もう世にたくさん出回ってるからな」

さば美「さすが、ハバ夫さんたら、市場動向にお詳しいのねっ」

ハバ夫「もん太の考えることなんて、所詮そんなもんよ」

もん太「…所詮、とか言うなーーっっ!!」



頭のもんじゃ焼から、怒りの湯気を噴射しているもん太くん。



監督「とりあえず、そんな2番煎じみたいなことはする気無いから」

姉さん「じゃ、何を撮る訳?」

監督「それは、…行ってからの、お楽しみ」

もん太「お楽しみ…?」



当初の予想より、もっとド変態なことが行われるのだろうか。



想像が出来ないものを、無理やり想像しようとしたら、
ちょっと興奮し過ぎたのか、「エヘヘヘ…」と言いながら、
鼻血を出し始めるもん太くん。



さば美「あら、もん太さん、お鼻から…」

もん太「(手に着いた血を見て)…な、何じゃこりゃーっっ」

ハバ夫「松田優作かよ」

さば美「やだー、もう。

    もん太さんたら、エッチ、スケッチ、モンチッチ!」

監督「あんまりティッシュ使い過ぎんなよー」



慌てて、ティッシュを丸めて鼻に詰めだすもん太くんをよそに、
撮影場所への移動準備を始める一同。










20代もラストを迎える今年。



年度初め、係長職に昇進した松本は、
ある日の夜、同い年の友人の三輪、川島と一杯やっていた。



三輪「しかしよォ、俺らももう30だぜぇ~?」

川島「あっという間にオッサンですよ」



すっかりストレス太りした三段腹を、ポンポンと叩いている川島。



三輪「サラリーマンって、ほんとクソだよなぁ~」

川島「会社組織なんて、発酵したクソ壺みたいなもんですよ」

松本「お前ら、随分な荒れ様だな」

三輪「だってよォ~!」



飲み干したビールジョッキを、机にガンと置く三輪。



三輪「会社来て、何やってるか分からないようなヤツらが、

   裏で上司のケツ舐めて、ぬけぬけと出世してくとかよォ~、

   そんな下らねぇ茶番に、…付き合ってられっかってんでぃ!」



怒りのあまり、語尾が江戸っ子風になる三輪。



川島「結局、陰でどれだけ上とイチャイチャできるかが全てですよ」

三輪「出世したいが為に、休日も上司のゴルフに付き合わされたりとか、

   効率化するでもなく、上司が帰るまでダラダラ残業してたりとか、

   それで何が、ワークライフバランスだって、松本ォ!

      お前も、そう思うだろォ~!?」

松本「ま、まぁ…そうだな」



ヒートアップする三輪に、つい何も言葉を差し挟めなかった松本。



なまじ、20代で出世ルートに乗ってしまった松本は、
平社員で腐っている友人達と話していても、
徐々に、空気感が合わなくなってしまっているのを感じていた。










翌日。



午前中の仕事を終え、「あー、昼何にしよう」と伸びをする松本。



「ひとっ走り行くわよ!」



近くの店の、色んな弁当を思い浮かべていた松本に、
ノータイムで指示を出したのは、若干30代前半にして、
昨年課長職に抜擢された、直属の女上司、沼田である。



松本「え、今日もですか?」

沼田「当たり前じゃない。

    こういう涼しい季節こそ、絶好のランニング日和なのよ!」



そう言うと、バッグを持って、オフィスを颯爽と出ていく。



松本「昼休み位、ゆっくりメシ食わしてよ…」



そうボヤきながら、やむなく着替えを持って席を立つ松本。





ランニング用のウェアに着替え、
少し歩いた所にある公園に着くと、もうすっかり紅葉の季節だ。



松本「20代も、あっという間に終わるなぁ…」



色付く木々に、快速急行のような時間の流れを感じていると、
着替えを終えた沼田が、「お待たせー」とトイレから出て来た。



以前、たまたま六本木の街をぶらぶらしていた時に、
こういうセクシーなお姉さんが歩いてたなーというのを思い出す位、
肌の露出が多い、黒のトレーニングウェア姿で手を振る沼田。



30過ぎても、肌をこれだけ堂々と出せる体作りへの努力と、
部下の自分にだけ、このウェア姿を見せてくれる沼田の、
そういうちょっと破廉恥な所が、松本は満更でもなかった。



沼田「走る前に、準備運動してねー」

松本「あ、はい」



とりあえず、アキレス腱を伸ばしたりとか、
それらしい準備運動はしてみる松本だったが、
何とも、目のやり場に困ってしまう。



沼田「それじゃ行くわよー、ちゃんと着いてきなさーい!」

松本「はいっ…」



オフィス周辺の街中を、30分近く走った2人。



途中、他のランナーともすれ違ったので、
よくランニングに使われるコースなのかもしれない。



日頃の運動不足のせいか、
終始ゼェゼェ言いながら走っていた松本だったが、
先頭を走る沼田の、鍛えられた美しい背中を眺めながら、
何とか、最初の公園まで戻ってくることが出来た。



男子マラソンなどの競技も、先頭にきれいな女性を走らせておけば、
選手達も鼓舞されて、全体的なタイムも伸びるんじゃないかと、
そんな下らないことを考えていた松本に、
「じゃ、また午後にね」と言い残し、沼田はトイレへと着替えに向かった。









その週末。



土曜の早朝から、ゴルフに付き合わされた松本。



眠い目を擦りながら車を出し、沼田の家の前まで迎えに行くと、
車に乗り込んできた沼田のゴルフウェア姿の、
そのあまりの眩しさに、一瞬で目が覚めた。



10代や、20歳前後の台頭が著しい女子ゴルフ界だが、
フレッシュな彼女達には、おそらくこの色気は出せないだろう。



しかし、取引先との接待ゴルフの練習だというものの、
そこそこ打てる沼田が、クラブの持ち方もおぼつかない松本と、
一緒に行って練習になるのかという疑問は拭えない。



おかげで、日曜は全身筋肉痛のまま、丸一日寝て過ごした松本。









翌週のある日。



時刻は22時を回っていたが、
まだデスクに残っている沼田と松本。



課長の沼田、係長の松本の下には、
派遣社員と、定年再雇用の嘱託社員しかおらず、
定時になると、2人以外はいそいそと退社していく。



部下の仕事のチェックや後始末などで、
結局、毎日残業する羽目になる松本だったが、
嘱託社員はもちろんのこと、派遣社員も皆、
松本より10も20も上の人達ばかり。



あまりきついことも言いにくく、面倒な仕事は全部、
最終的に、自分へと回ってくる仕組みになっている。



しかし、かといって松本も、急いで仕事を終えて、
もっと早い時間に帰ろうとするでもなかった。



19時半も過ぎると、他部署の人間も概ね帰り出す。



その辺から、オフィスは沼田と松本の2人きりになることが多く、
その時間帯になると、松本は変なテンションになってきて、
仕事も多く、疲れてて眠いにも関わらず、なぜだか帰りたくなかった。



沼田「松本くんさー」

松本「はい」

沼田「来週、取引先へのプレゼンで出張だから、

   急で悪いけど、一緒に来てくれる?」

松本「あ、分かりました」

沼田「それで、折り入ってお願いなんだけどさ」

松本「はい」

沼田「プレゼン資料の作成も、今週中に出来る?」

松本「…頑張ります」



話を聞く限り、ほとんど丸投げに近いが、
断り下手な松本は、頑張りますの一言しか言えなかった。



取引先へ提示する内容の、具体的な裏付けとして、
膨大な量のデータの集計作業と分析作業が必要となり、
それをプレゼン資料へ落とし込み、レイアウトを調整の上、
何度にも渡る、沼田からのダメ出しと修正により、
業務は残業時間だけでは済まず、自宅にも持ち帰る羽目に。



「何、この冗談みたいな資料」

「日本語で書いてくれる?」

「いい加減、真面目に仕事しようか」

「今まで、社会に出て何してきたの?」

「こんなゴミみたいなスライド、全部捨てて作り直して」



たくさんの、ありがたい叱咤激励の末、
ようやく、ひとまずは完成の目を見たプレゼン資料。





取引先へのプレゼンでは、
さも資料は自分が作り上げたかのように、
沼田が高々とプレゼン内容を読み上げていたが、
結果的に、何とか一定の理解は得ることができた。



出張先のホテルは、露天風呂付の客室が用意された。



沼田「今日は、ご苦労様。

   下の階の大浴場で、ひとっ風呂浴びてきたら?」

松本「あ、はい…。ありがとうございます」



客室の露天風呂は、沼田が独り占めするつもりのようだ。



とはいえ、一つの大仕事が終わり、
束の間の休息を取れる喜びの方が勝った松本。



ほぼ思考停止状態で、オジサン達に交じって湯船に浸かり、
脱衣所で体を拭きながら、置いてあった巨大扇風機に、
「アァァァァァ~~~~~」と言って、風で声を揺らしてみるという、
夏休みの小学生レベルのことをやって、他の客から好奇の目で見られた。



客室に戻る途中、風呂上がりの沼田が飲む用に、
酒類でも買っていこうかと、売店に入る松本。



ビールか、チューハイか。まずは、"とりあえずビール"か。



いや、もしかしたらビンの牛乳か、あるいはコーヒー牛乳か。



暑いからアイス食べたい、とか言い出すかもしれない。



念のため、つまみも用意しておいた方が良いのか?





色々考えた結果、パンパンになったビニール袋を、
2つ持って客室へと戻った松本。



よほど露天風呂を満喫しているのか、
まだ沼田は戻ってきていないようだ。



急いで、飲み物とおつまみを、客室の冷蔵庫に入れ、
座布団の上に正座して待った。





数分後。



沼田「あら、もう上がってたの」



客室露天から出てきた沼田は、
全身からほんのり湯気を立たせながら、
あろうことか、バスタオル一枚で松本の前に現れた。



松本「か、課長…っ」



女上司のバスタオル姿にどぎまぎする松本をよそに、
「あー、喉乾いた」と言って、冷蔵庫からビールを取り出す沼田。



松本の隣でプシュッと開けると、ゴクッゴクッと勢いよく喉を潤す。



沼田「くぅ~っ、大仕事の後のビール、最高!」

松本「…今日は、お疲れ様でした」



ほとんど資料を作ったのは自分だろ、という気持ちを押し殺し、
労いの言葉をかける松本の顔を、じっと見つめる沼田。



一瞬、至近距離で目が合ったが、思わず目を逸らした松本。



間近で正面から見ると、改めて沼田はきれいな女性だった。



沼田「まぁ、松本くんもさ。

   こうやって場数踏んで、取引先にも顔を売っていかないとね」

松本「はい…」

沼田「しかしさー。

   最近、社内でひどい噂を聞くのよ」

松本「噂、ですか…?」



そう聞き返すと、沼田はビール缶を机に置いて、ため息を一つ。



沼田「松本くんが20代で係長に上がれたのは、


   実力ではなく、"上司のケツを舐めるのが上手かったんだろ"って…」

松本「なっ…!?」



以前、友人の川島や三輪との飲み会でも、同じような文言を聞いた。



まさか、自分が周囲から、そんな風に思われているとは知らなかった松本。



沼田「そういうこと言うのってさ、…本当、失礼だと思わない!?」



そういう沼田の言葉には、強い怒りが滲んでいた。



こんな、普段は自分勝手で男勝りな沼田にも、
少なからず松本を評価し、大切に思う気持ちがあるのだろうか。



松本「まぁ、でも、自分なんかは全然、実力はまだまだなので…」

沼田「あんたじゃないわよ」

松本「へっ…?」



再度、ビールをグビッといった沼田。



沼田「あたしだってねぇ。

   女なのに30代で課長に上げられたときは、

   周囲に色々と心無いことを言われたわ。

   だけど、そういう陰でコソコソ言うヤツらを見返したいと思って、

   誰とも群れず、誰にも媚びずに、ここまでやってきたの」

松本「はぁ…」

沼田「だからね、あたしは今まで、

   誰一人にだって、舐められたことはないのよ。

      

   …言っている意味、分かる?」

松本「あぁ、はい…」



正直、沼田の言わんとしていることが、さっぱり分からなかった松本。



沼田「ここまで、一匹狼で突っ走ってきたあたしのことを、

   陰で笑うような連中のことは、今でも許せないと思ってるわ。

   …でも、松本くん。

   あたしは、正直な所ね。



   あんたは、なかなか見所のある男だと思っているのよ」

松本「はぁ…、ありがとうございます」



湯上りでビールを飲むと、一缶でも結構酔いが回るのだろうか。



大分、沼田の顔が上気しているように見えた松本。



沼田「だから、もしあんたがどうしてもね、

   将来、この会社を背負って立つ男になりたいというんだったら…」





そう言って、松本の目の前で、急に四つん這いの体勢になる沼田。





沼田「その願い…、叶えてあげても良いのよ」

松本「か、…課長っ!」





沼田のバスタオルの短さゆえに、
あやうく桃色の果実が見えそうになり、
動揺を隠すことができない松本。



これは、つまり…、要するに…!?



恋愛ゲームの選択肢が、A~Dまで4つとも「舐める」の場合は??



頭の中が、芳醇な桃で一杯になり、錯乱状態の松本。






「失礼しますっ!!」



すると突然、客室の扉が開き、スーツ姿の監督が入ってきた。



監督「課長!!

   ありがたいそのお言葉、しかと受け止め、

   松本に代わり、この私が、



   …勉強させて頂きますっ!!!」



沼田の尻を目がけて、ロケットのように突っ込んで行く監督。



ハバ夫「お前は、鉄でも舐めてろっっ!!!!」



"令和のベーブ・ルース"ハバ夫くんの鉄バットが、監督を場外ホームラン。










早朝。



ベッドから転がり落ちたブルーハワイ兄貴の頭に、
棚から落ちてきたバットが命中。



兄貴「イッ…テテテテ…」



近くの民家から、鶏の鳴き声が聞こえてくる。



あまりに下らない夢から覚めた兄貴は、
眠い目を擦りながら、軽く伸びをした。





兄貴「俺も、出世してぇなぁー」





そんな適当なことを口にしながら、汗ばんだ体を流しに、
シャワールームへと向かう兄貴であった。




~ブルーハワイ兄貴の「ソフト俺デマンド」 終わり~










その100円玉が、誰かの生きがいになります!