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在日コリアンを「近い存在」へ。ありのままの発信でコミュニティの垣根を越える。

/知りたいあの人/
在日コリアン4世の大学生が、自分のルーツを発信する活動を行っている。ルーツを話すことで、差別を受ける可能性もあるなかで、なぜ発信を続けるのだろうか。

金美玲さん(提供:金美玲さん)

学校で言われた何気ない一言

金美玲さん(以下、ミリョンさん)は、都内の大学に通う在日コリアン4世だ。インスタグラムアカウント「とある在日コリアン」や、イベント運営を通して自身のルーツを発信している。幼稚園から、中学まで朝鮮学校(朝鮮半島にルーツがある子どもが通う学校)に通っていた。

ミリョンさんは、これまで在日コリアンへの無関心や無知に接してきた。日本の高校では、周囲から「いつ日本にきたの?」「朝鮮に住んでいたの?」と言われた。当時は、その質問が差別的だとは感じなかったが、それまでは民族系の学校に通っていたので、初めて在日コリアンという存在が知られていないことに気づく。戦前から様々な事情で日本で生活してきた在日コリアンの歴史を踏まえていないと捉えられる可能性がある。

大学の友達には「在日コリアンもずっと日本にいるんだから、日本人のようなもので平等にすれば良いのに」と言われたこともある。この発言は、在日コリアンが自らの文化を大切にしながら、同時に日本社会で差別・抑圧を受けないで暮らしたいと望む背景を知らないで言っている。

カンボジア研修での偶然の出会い

在日コリアンについて、SNS上で発信するようになったのは、大学1年生の終わり、2020年の3月頃からだ。新型コロナウイルスの感染拡大が始まる前、同年春先にベトナムとカンボジアを縦断するキャリア研修に出かけた時のことだ。

キャリア研修に参加した様子(提供:金美玲さん)

研修の一行で、世界遺産・アンコールワットを訪れた後、たまたま韓国料理屋に立ち寄った。そこで、ミリョンさんが同胞だと分かった店主に、おもてなしを受けた。頼んでもいないチゲが出てきたことに、同胞の近しさを感じた。その後、研修で出会った社会人に、帰国後の行動計画としてルーツを発信することを提案された。気負うことなく「とある在日コリアン」というSNSアカウントを2020年3月に開設した。

在日コリアン、日本社会の架け橋を目指して

アカウント開設後は、在日コリアンの歴史や、自分が通った朝鮮学校での思い出を投稿した。ドキュメンタリー上映、コリアンタウン鶴橋(大阪市生野区)での講演会の他、アイヌの方と一緒に講演したこともある。この講演会には、200人近くが参加した。千葉県内の高校でオンライン授業をしたこともある。

2022年7月に大阪市生野区鶴橋で行われた講演会の様子(撮影:三井滉大)

講演では、朝鮮学校出身という自分の生い立ちや、学校での思い出、在日コリアンの歴史を中心に話している。また、自分の経験を軸に、ディスカッションを重視している。歴史の授業にならないようにするためだ。

「日本のことが嫌いそう」と事前アンケートに書かれたこともあるが、ルーツを語ることを「しんどいと感じたことはない」。話すことで得られる周囲の反応を聞くのが楽しい。

ミリョンさんは、初対面でも同胞に下の名前で呼ばれることに、コミュニティの温かさを感じている。ただ、在日コリアンコミュニティの存続は「内輪でやっていてたら、絶対に無理だと思う」とも話す。在日コリアンについて「遠い存在」としてではなく「知る機会」や「接点」を作ることで、自分たちの存在を知ってもらうことを目指す。イベント参加者にリピーターがいるほど、ミリョンさんの講演は人をひきつけている。


執筆者:三井滉大/Kodai Mitsui
編集者:原野百々恵/Momoe Harano、河辺泰知/Taichi Kawabe、清野紗奈/Sana Kiyono

インタビューを受けてくれた人
金美玲(キムミリョン)さん。東京学芸大学教育学部多文化共生教育コース4年。長野県松本市内の朝鮮学校に幼稚園から中学校まで通った。高校は日本の公立学校に通い、現在、東京学芸大学の4年。文化人類学を学ぶゼミに所属。現在、スウェーデンに留学している。


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