Q.「専門業務を絞るべき」と先輩から教えてもらったので、専門以外は受けないつもりです。
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Q.「専門業務を絞るべき」と先輩から教えてもらったので、専門以外は受けないつもりです。
社会保険労務士で開業を考えています。事前に活躍している先輩方に聞いたところ、専門分野を持って営業したほうがよいといわれました。そこで、就業規則専門の社会保険労務士を目指し、それ以外の仕事は極力受けない方向でいこうと考えています。
最初から仕事を選んでいると、仕事は増えない
専門分野を絞って営業をする。こうしたアドバイスをされる方も多いですし、また実際にこの方法で成功している人もいます。ですから、回答としては「正解」です。しかし、注意する点があります。
まず、業務を絞ること自体は問題ありません。社労士全般の仕事ができます、というよりは「就業規則に強い社労士です」と営業したほうが記憶に残りますので、間違ったセオリーではありません。さらに専門を絞って明確にすることで、紹介も増えやすくなります。ただ、気をつける点は、最初から仕事を選んでいると思われると、かえって紹介では仕事が増えないという点です。
企業を何年も経営している経営者は、創業の苦労を知っています。やり方にもよりますが、創業間もない時期というのは仕事があるだけでありがたく、仕事の大小に関係なく仕事があることそのものに感謝しなければならない時期です。ですから、そういった創業者を見ると仕事を出してくれる人も多いのです。
事実、私は20代前半で開業したため、同じ時期に創業した経験のある経営者からは大変親切にしてもらえました。仕事をいただけることはもちろんのこと、なかには食事をご馳走してくださったり、何かにつけて心配してくださったり、今思い返しても本当に感謝しかありません。
しかし、そういう創業の頃から「この分野以外は受けない」というスタンスでいたらどうでしょうか。おそらく気をつかって仕事を出そうとしていた経営者も、「申し訳ないですが、この分野の仕事しか受けたくないのです」といわれたらその後、協力する気持ちが萎えてしまいます。これは経営戦略がどうというより、人として紹介が増やせるかどうか、という問題です。ですから、専門を絞るというのはかまいませんが、「仕事を最初から選んでいる」と思われないようにしたいものです。
専門を絞るということは、「それ以外やらない」ということではない
そうなれば、「専門を絞っても他の仕事も受ける」というスタンスになります。少なくとも「やりません」と拒絶することなく「私より○○先生にお願いしたほうが確実ですので、ご紹介させてください」と他の方を紹介したほうがよいでしょう。そして、できることなら最初のうちは依頼された仕事はどのようなものでも、受けてください。
なぜ、ほかの仕事も受けたほうがよいのかというと、単純明瞭にいえばさまざまな実務経験を積んだほうが将来的に仕事の幅が広がるからです。そして、仕事を絞ってしまい、それ以外の仕事を受けないとすると、せっかくの売上増加のチャンスをみすみす失うことになるからです。
賛否両論ありますが、私はどんな仕事でも創業期は受けるべきと考えています。創業の頃は仕事を取るだけでも一苦労なわけですから、仕事をえり好みしている状況ではないといえます。ですから、数千円の手続きでも小口の顧問でも大切にしてほしい、というのが私の考えです。
私の場合、結果論ではありますが、当初は5万円を超える仕事はありませんでした。数千円の車庫証明、1万円ほどの内容証明郵便の作成、値引きされた宅建業許可、会社設立手続きなど、冷静に見れば相場よりもかなり安く、「これだけ働いてこの報酬か……」と悩むこともありましたが、仕事があることはとてもありがたかったと感じています。
最近、営業やマーケティングの話がさまざまなところで語られるようになり、士業業界としては決して悪いことではないのですが、こういった基本的な商売人としての姿勢は忘れてほしくありません。
ところで、専門分野を絞ったほうが営業的には成功しやすいのですが、よく心配されることがひとつあります。それは、専門分野に絞った結果、他の仕事がこなくなったらどうしようというものですが、次はこれを解説していきましょう。
段階的に専門を絞ることで、紹介は増えていく
ビジネス戦略的な解説をすると、まずは絞る専門分野を決めます。そして、実際に仕事を受注した後に、専門分野以外の仕事の提案をします。
たとえば、就業規則専門の社会保険労務士が就業規則の仕事を取った後、「弊所では他にも助成金の申請や給与計算、それから人事評価制度のご提案などもできます」といったような提案をするのです。すでに信頼して仕事を任せてくれたお客様に提案するのですから、お客様も警戒することなく聞いてくれます。このように、焦ることなくお客様候補と出会った入り口で複数提案をするのではなく、仕事の終わりという出口で複数業務の提案をします。これを私は「出口戦略」と呼んでいます。
私の場合は、このセオリーどおりに進んできたわけではないですが、創業当初は専門分野を絞らず「行政書士」として営業してきました。そのため、受ける仕事はさまざまで、前述のような行政手続きも民事的な仕事も受けてきました。
そして、ある時を契機にもっと起業家や経営者と仕事がしたいと考え、「会社設立」に特化しました。徐々に会社設立の専門家として認知され、行政書士という資格の名称より「会社をつくる人」として覚えられ、仕事は紹介で増えていきました。最終的に会社設立の本まで書かせていただくようになりましたが(『株式会社はじめての設立&かんたん登記』技術評論社刊)、その間、会社設立以外の仕事をしなかったわけではありません。契約書、相続、内容証明、遺言書などの仕事もお客様に出口戦略で提案し、仕事を受けてきました。徐々に会社設立だけでも事務所が回るようになり、設立の仕事以外は別の先生をご紹介するようになりましたが、今でも他の業務で培った経験は生きています。
専門を絞ることは正解です。しかし、商売人としての姿勢を忘れないことが大事なのです。そして、段階的に本当に専門特化することで紹介は増えます。
ぜひ、さまざまな仕事を受けてみてください。
【POINT】創業期はできるだけ仕事を選ばず、仕事があることに感謝しよう。専門を絞った後は「出口戦略」が有効。徐々に本当の意味で専門特化して、効率を高めていこう。
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