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追憶のミーコ その4


寒い日は寝袋に足を突っ込み執筆していた。 その上がミーコの居場所となっていた。

ミーコが私の部屋に出入りするようになったのは、
私がシャカリキになって仕事し、
なのに食えないという時代であった。
ギャラより取材費が上回り、
書けば書くほど貧乏になっていたのだ。
こんな不条理なことはないが、
幼い頃より不条理には慣れていた。
育った家庭がひどかったのだ。
いや、あの頃は思い出したくない。
ともかく作家は私の選んだ道であり、
「貧乏、来てみやがれ」と腹も括っていた。

けれど思っていた以上だった。
いつしか食事が一日二食となり、
一日一食も覚悟した。
納豆さえ贅沢品に思える日々となった。
恥ずかしい話だが、
タンポポをおかずに飯を食ったこともある。

なのでミーコにエサをあげられない。
そしてミーコも私の食事を邪魔しない。
私が食べる姿を、じっと見つめているだけだ。
まあ、タンポポなどを欲しがるはずはないが。
「絶対に、おまえのほうがいいの食ってんだろ」
よくミーコにそう言って笑ったものだった。

するとある日、ミーコが鳥の死骸を咥えてやってきた。
私を哀れに思ったのか、
それとも狩りができることを褒められたかったのか。
たぶん、前者だろう。
だが、私はミーコを叱った。
無益な殺生をするな、と。
ミーコは、しゅんとした様子を見せた。

そして翌日。
外出から帰ると、
ドアの前にネズミの死骸が置かれていた。
そういう問題じゃなくて、と私は苦笑した。

本当に貧しかった。 なのにミーコは通ってくれた。


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