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Slackチキチキ朝のCtrl+Enterレース【テレワークショートショート】

完全リモートワークの弊社では、始業開始時刻になると全社員一斉にSlackで「おはようございます。只今より業務開始します」とチャットを送る。

嵐の前の静けさ、何も動かないトークルームが、PCの時刻が9:00を刻んだ瞬間、怒涛のように、ナイアガラの滝のごとくメッセージが流れ落ちていく。

大手YouTuberのライブ配信のコメント欄を彷彿とさせるが、それとは大きく異なるのが、全員が全く同じ文言であること。

なぜこのようなことなるのか。

業務開始時刻ちょうどになるまでは、一切メッセージを送信してはいけないことになっている。

フライングは厳禁だ。業務時間外に仕事をしているとみなされるからだ。

在宅勤務というのは、朝オフィスに出勤しない分、こういうところで時間厳守や仕事に対する意識が問われることになる。

そのため各々、「お」と1文字打つと一発で「おはようございます」と定型文が出るようユーザー辞書登録をする。

常勝の猛者たちはどうしているのかというと、G-SHOCKの秒針を見つめてタイミングを計りながら両手の指をCtrlキーとEnterキーに添えてその時を待っている。

さらに、キーボードの押し込みの深さや硬さ、入力の感度を考慮しフレーム(F)単位でメッセージ押下のタイミングを判断する。まさに職人技だ。

ただ、1位になったからといって、特に表彰されたり評価が上がるようなことは決してない。
なのに、なぜ人々は日々最速挨拶に懸けるのか。

それは己のプライドのほかない。

1位じゃないといけない。2位じゃダメなのだ。

今週も、社員たちは朝の挨拶に命を賭ける。



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