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言葉の宝箱 0417【最初は無謀とも思える発想も、一歩ずつ歩んでいれば、やがて実を結ぶ】

『旅の闇にとける』乃南アサ(文春文庫2015/8/10)


帯には”ノンフィクション、地球を旅する物語”とあるが
素敵なエッセイ集だと思う。

・――嬉しい。乗っただけで。
どんなときでも旅は人のこころを慰め、潤わせ、
ひとときの安らぎを与えてくれる。
だが「列車」そのものが旅の一部として、
どれほど大きな役割を持っているものか、
ほとんど忘れていたことに気がついた。
窓から見える景色には興味を持っても、
乗っている列車に興味を持つことは、
本当のマニアでもない限り、そうはない。
それなのに、ただ新幹線に乗っただけ、座席に腰掛けただけで、
私は早くも「旅」を実感し、そうして癒されつつあった。
木の温もりや布の優しさ、そして、いかにも「手作り」の温かさが、
よくいらっしゃいました。ゆっくりして下さいねと言ってくれているのだ。
まさか新幹線から、そんなことを感じるとは P73

・ごとん、ごとん。やれば出来る。
ちゃんと、こういう列車を走らせることが。ごとん、ごとん。
どうして、やらなかったのか。
どんな「決まり事」に私たちは縛られて生きて来たんだろうか。
同じ機能と耐久性を持っているのなら、遊び心があって、
気持ちが穏やかになって、それだけで癒され、楽しくなる、
そういう乗物の方がいいに決まってるのに。
子どもだけじゃない。大人だってそうなのに(略)
ごとん、ごとん。
私たちは一体、どんな方向に向かって突き進もとしていたんだろうか。
机上の理論と計算と経済効果ばかり尊重され、
その挙句の果てに出くわした「想定外」の出来事に、
こんなにも打ちのめされなければならなかった。
私たちは、何のために想定し、築いてきたのか。
なぜ、こういう温かさや親しみやすさや、憩いや楽しみを
忘れる方向にばかり来てしまったのか(略)
こういうことを忘れずに、ちゃんと形に出来る大人がいるということを、
私はとても誇らしく感じた。
考えて考えて、工夫して工夫して、人を、子どもらを喜ばせる形を
生み出せるなんて、何て素晴らしいんだろう P77

・最初は無謀とも思える発想も、
一歩ずつ歩んでいれば、やがて実を結ぶ P309

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