てすり屋のひとりごと 橋本 洋一郎(合同会社 湘南改造家)

湘南地域で住まいを身体に合わせる仕事をしています。 これまで20年、2500件の仕事を…

てすり屋のひとりごと 橋本 洋一郎(合同会社 湘南改造家)

湘南地域で住まいを身体に合わせる仕事をしています。 これまで20年、2500件の仕事を通して学んだこと、感じたことをアウトプットしていきます。 皆様が住みたい場所に住み続けるための、暮らしのヒントを転がすことができたなら幸いです。 mail@shonan-kaizoya.com

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最近の記事

ねこ様と人間教育 〜待つことのトレーニング

ウチの猫が逃げた。 昨年秋、実妹が仕事場の倉庫の隙間に挟まっているところを救出した、キジシロの元子猫である。 そのとき一緒にいた兄弟猫は残念ながら助からず、母親も救出を諦めて立ち去っていたそうで、その絶望はいかばかりだっただろうか。 幸い1匹は助かり、その行き先として、既に猫が4匹いたウチが手を挙げて、里子に来ることになったのである。 だからだろうか、警戒心が強い子で、いまだに自分には懐かず、階段の上のほうにいる時にこちらと出くわすと、つい最近まで右足をバン!と下段に

    • イノベーション殺しの介護保険 〜万能ワークチェアに見るその矛盾(後編)

      、 ここまでユニバーサルデザインの申し子のような、推しの椅子の話を書いてきた。 だが、このVELAのノーマルタイプ(手動昇降型)は、なぜか介護保険の給付対象ではない。 20年前にこの椅子に出会ったとき、10年前に確認したときもそうで、さすがに最近は給付した事例もあるかも、と思って、販売代理店のアビリティーズさんに確認したら、状況は全く変わっていなかった。 ただし、以前からただひとつの例外がある。電動昇降機能付きタイプである。 これは現在までずっと介護保険で使えること

      • アンチユニバーサルな介護保険 〜万能ワークチェアに見るその矛盾(前編)

        お金を取る事には八方手を尽くすが、払いは渋いのが行政の常である。 だが、公が推している理念と、その振る舞いが矛盾している時は、民はきちんとツッコミを入れろと、かつて民主主義の礎となった本を書いた人も書いていた。とNHKの100分で名著という番組で知った。 それは民主主義を健全に保つための、民主主義における民の義務、不断の努力である。ジャン=ジャック・ルソーがそう言っているのである。 なのでここでは、ユニバーサルデザインを推さない介護保険の運用について、ある椅子の話からツッ

        • 横使い上手になろう 〜トイレ手すりの刷り込みとコストの話 (後編)

          前回の続き。前編、先ほどちょっと追記しました。 横手すりをトイレに導入するのもけっこうアリよ、の話。 トイレの縦手すりは、重心移動の役割があるという話も以前書いた。 でも実は、ほどほどの握力があれば縦手すりでなく、横手すりを用いても、同じような前傾動作ができる。 また利用者さんが複数で、体格差のあるときなどは、それぞれが動きやすい、好きなところを握って動作できるというメリットもある。 そして当然、横手すりだから、歩行や転回時の支持基底面を増やすという役割も受け持つ。

        ねこ様と人間教育 〜待つことのトレーニング

        マガジン

        • 湘南改造家とその周辺
          8本
        • 身体に合わせた住環境整備、そのための理論
          19本
        • 身体に合わせた住環境整備、施工のもろもろ
          12本

        記事

          とりあえずのL字?! 〜トイレ手すりの刷り込みとコストの話 (前編)

          洋式トイレのL字手すりについて、である。 自分が講師をしている介護福祉士養成校で使っている教科書にも、トイレには決まってL字手すりがお勧め、とあるので、それを刷り込まれているリハ職、介護職の皆さんは多いと思う。 ケアマネジャーさんからの相見積の依頼でも、何気なくそう指定されてくることが多い。とりあえずビールならぬ、とりあえずのL字である。 また、TOT⚪︎さんなどユニバーサルデザイン関連の研究を怠らないメーカーさんでも、パブリックトイレの仕様として、壁側の手すりはL字が標

          とりあえずのL字?! 〜トイレ手すりの刷り込みとコストの話 (前編)

          工法と見立ての誤り ~やらかしの記録 ③

          鎖大師さまという、弘法大師様にゆかりのお寺がウチの近所にある。 あのお大師様でもミスをする、という諺は、我々やらかしの民を常に勇気づけてくれるので、その横の坂道を通るたびにありがたい気持ちで帰宅している。 最初から言い訳で入った。 今回のやらかしは、「ユニットバスの壁材の見立てを間違えた」である。 ここで、これだけ取付技法について上から語っていながらこの体たらくである。だがお大師様でも筆を誤るのだから、そういうこともあるのである。 最近のユニットバスは壁がだいたい化粧

          便座の上まで、バックオーライ 〜福祉用具の隠し技 ②

          在宅介護における部門別の難易度をつけるなら、寝室からトイレへの非歩行の移動介助は、入浴と並んでA、もしくは特A評価をつけたくなるレベルで難しい。 なぜなら、ベッドから車いす、車いすから便座という、移乗動作が2回も必要になるからだ。さらに、トイレは個室、つまり一人で利用する前提の空間なので、介助者と一緒に入るには絶望的に狭い。 せめてベッド周りでの移乗だけなら、なんとかなるんだが・・・ そんな時の隠し技が、実はある。 シャワーキャリー、介護保険では入浴用いす、特定福祉用

          便座の上まで、バックオーライ 〜福祉用具の隠し技 ②

          デンジャラス・アンダーカット ~ドア下の隙間のはなし

          トイレの便器を和式から洋式に変更する工事が、本日無事に完了した。 そして、そういった工事のときは、床の段差解消をあわせて行うことが多い。 ここの場合、いわゆる汽車便という、一段上がったところに和式便器があるスタイルだったのだが、手前の床は廊下の高さより下げてあったため、トイレ床を各所で上げたり下げたりして、全体を廊下と同じ高さにしている。 ここの場合はドアの下に敷居材もあったため、それも撤去した。 その結果。 画像のように、ドア下に隙間が空くのである。今回は30mmくらい

          デンジャラス・アンダーカット ~ドア下の隙間のはなし

          建築界の草野マサムネ、隈研吾 〜突撃!例の建築家の手すり ①

          自ら血迷ったな、と思わなくもない。だがやるのだこの企画、面白そうだから。 手すりは建築家にとっての名刺がわり、シグネチャーだという話を以前書いた。ならば、それが具体的にどういうことか、という切り口も、建築設計から手すり職人になった自分なら書けるのではないか? そして新コーナーの始まりにはこの方をおいて他にないと思い、今月広島に遠征したついでに見てきたのである。 クマさんについて かねがね、隈研吾という人に興味があった。作られたものはそんなに好きともなんとも言えないことも多

          建築界の草野マサムネ、隈研吾 〜突撃!例の建築家の手すり ①

          床柱作法と手すり 〜木目と縁起のはなし

          我が社が室内につける手すり棒は、触った時の温かみと見た目から、木の集成材の手すり、それもT⚪︎TO製を使うことが多い。 カラーバリエーションが多いわけではないのだが(何年か前に1色減った、1本残った在庫どうしてくれよう)、色味がさまざまな他社の建材と合わせやすい微妙な中間色で、かつ木目がうるさくなく、それでいてちゃんと見える感じが個人的にツボである。 たまにパナさんのも使う。 こちらはカラバリ豊富、ただし細身のφ32mmがなく、φ35のみ。このメーカーの、白に近いホワイト

          たったひとつではない冴えたやりかた 〜車いすトラブルの背景考察 ③

          ①②からの続き。ではどうすりゃいいのさ編。 知識は荷物になりません、あなたのための懐刀!とは今田耕司や板尾創路もよく言っていたものだが、刃物はいきなり振り回せば怪我をする。 ①では車いすユーザー側に足りない介助者負担の理解、②では健常者側に足りない障害者の権利獲得の歴史の知識について述べた。 では、それらはどのように調停されるべきかについて、リーズナブルアコモデーション(合理的配慮と訳される)という概念に照らしながら、聞いたことがあるような仮定の事例別に、その目的を見失

          たったひとつではない冴えたやりかた 〜車いすトラブルの背景考察 ③

          バスの中心で闘いを叫んだのけもの 〜車いすトラブルの背景考察 ②

          ①からの続きである。 車いすユーザー向けの補助線は引けた、では翻ってそれを受け止めている、いわゆる健常者側(あえて「いわゆる」を付ける)には、どんな補助線が必要なのだろうか。 それはひとことで言えば、「闘いの歴史」学習である。自由獲得のための。 ここからの話は自分が介護福祉士養成校の講師をするようになり、教科書や参考文献を眺めるようになって、ようやく腑に落ちてきた話である。 それを知らないのも無理はないとも言えるが、さりとて無知は罪ともいう。というわけで、自分なりにそれ

          バスの中心で闘いを叫んだのけもの 〜車いすトラブルの背景考察 ②

          車いすユーザーは四人神輿の夢を見たか? 〜車いすトラブルの背景考察 ①

          車いすユーザーの、わがままに見える行動が時折ニュースになり、そのコメント欄等はしばしば炎上する。もはや風物詩かと思うくらいである。 自分がリアルタイムで覚えている最も昔のケースは、「五体不満足」著者の乙武さんが2階にあるレストランに入るときに持ち上げが必要になった件だが、それ以降も一向にお互いの理解が進まず、むしろ対立が深くなっているようにも思える。 そして、双方がそこから歩み寄るために、自分が考えているようなことを論点にする人がなぜか少ないようにも見えて、とてももどかし

          車いすユーザーは四人神輿の夢を見たか? 〜車いすトラブルの背景考察 ①

          ゆるい床にはフタをしろ! 〜福祉用具の隠し技 ①

          先日、床がミルフィーユになる話を書いたら意外に閲覧数が多く、皆さんこれに悩んでいるのだなと認識した。 本日はそんな皆さんに宛てた、隠し技をご披露しよう。 と言っても、意識してその使い方をしたのは今回が初めての、新鮮ホヤホヤな奴である。そして介護認定が出ている方、ほぼ限定の対策である。 今回、それに気づいたのは床下収納のおかげであった。 台所などにある、蓋を外すと、下にボックスとカゴが付いていて、いつ漬けたかもしれない梅酒などを保存しておくアレである。 あれはもともとの

          ゆるい床にはフタをしろ! 〜福祉用具の隠し技 ①

          莫微の名前 〜湘南改造家のネーミングヒストリー

          「しょうなんかいぞうやです!」とお電話した先で、介護屋さん…ですか?と尋ね返されることが、たびたびある。 いえ、住宅改造をしているのでそのまんま改造家なんです・・・などと言い訳風味で説明したりするのだが、そこでは長くなるので伝えられない、なんでこんな社名にしたかという理由はふたつある。 ひとつは、漢字で読んで何をやっているかわかりやすい社名にしたかった、ということ。 意味がわかるようでわからないカタカナの社名など、リフォーム詐欺屋と区別がつかないじゃないかという気持ちも

          莫微の名前 〜湘南改造家のネーミングヒストリー

          固定仕掛けのイモネジ 〜やらかしの記録 ②

          「階段の手すりがぐらぐらするんですが」 という、手すり屋にあるまじきご連絡を、担当のケアマネさんからいただいた。これは廃業の危機かもしれぬ。 クレームにはスピード、客商売の鉄則。 とにかく何とかせねばならぬと、ただちに現地に赴く。ただなんとなく心当たりはあった。10年近く前の施工現場だったからだ。 階段の手すりを補強板なしで試行錯誤してつけていたその頃、いちばん困ったのが、階段の傾斜が変わる部分の処理であった。 勾配が変わる以上、手すり角度も変えないと、その横に身体を