ケアマネ泣かせの住宅改修 〜「住宅改修が必要な理由書」の話
介護保険給付における住宅改修という項目は、その制度の中でとても微妙な位置にある。介護保険で唯一、その指定事業者でない事業者(すなわち、われわれ建築関係者である)が関わるからだ。
なので、ケアマネの皆様方としては住宅改修に関わるとき、制度としては確実に専門外の部分に触れることになる。正直、厄介だなあと思われる方も多いと思う。だって、自分が逆の立場なら、身構えますもん。建築業界には専門用語もけっこうありますしね。
手すりをどこに付けたらいいかはだいたいわかっても、何をどのように付けられるのかの判断は、本当に難しいです。介護職やリハ職にとって、そこに大きな壁がある。
なので、ほとんどのケースでは、その指定事業者である福祉用具貸与・販売事業者が住宅改修も対応していて、そこにケアマネさんや地域包括の担当から、見積調査を依頼するかたちになる。
うちの仕事の半分も、そういった福祉用具担当の方との連携からご依頼があるケースです。
でも、利用者さんには馴染みの工務店がいたりする。そこで工事を行っても、介護保険給付は受けられるのであります。
でも、介護保険のことをよく知っている建設業者は少ない。そして、その事前申請のための書類をすべて用意できるところは激レアです。
おおよその工事内容が利用者さんと馴染みの工務店の間で決まったあとで、ケアマネさんに「住宅改修が必要な理由書」を書いてもらってください、と依頼があるパターン、ベテランのケアマネさんなら一度は経験しているのではないだろうか。
そしてこの理由書、その要件と作成資格は以下の通り。
大概の保険者は、介護支援専門員等(ケアマネさん)に加えて、作業療法士、福祉住環境コーディネーター検定試験2級以上、等その他これに準ずる資格等を有する者、による作成を可としております。ただし担当のケアマネさんとの十分な連絡調整を行う条件で。
なので、福祉住環境コーディネーター2級持ちの自分は、利用者さんの介護保険情報やサービス利用状況、ADL、病歴、支援に関わる家族の状況等を記した基本情報をケアマネさんよりお預かりした上で、利用者さんやご家族へのヒアリングも加えて、その理由書を書いてケアマネさんのチェックバックを受け、修正してから申請書類に添付し、提出しております。
なので下記の厚労省の説明より、実際にはもっと複雑に書類が流れていたりするのでした。そりゃ取り付けまでの時間もかからいでか、です。
ですが保険者によっては、ここの基本に忠実に介護支援専門員等 のみを有資格者としている場合があり、そこで日々の業務をされているケアマネさん、負担感はいかほどなものかと拝察いたします。
そして、先の馴染みの工務店さんへの依頼ケースも、大体において担当ケアマネさんが書かざるを得なくなっているはずです。
さて、介護保険の住宅改修は、補助金ではない。あくまでも介護給付である。
自動車保険をお使いの皆様ならピンとくると思いますが、たとえば事故を起こしてもいないのに搭乗者保険を請求したら、それは詐欺になりますよね?
大まかに言えばそれと同じ仕組みです。こちらは、介護保険を使うため、住宅改修が必要な理由書を専門家として記入するわけです。
つまり交通事故における、警察署が発行する事故証明書と同じ役割のある書類ということですね。
これ、手すりの一本一本にそれぞれ理由を考えて書くのですよ。
なので、工事のときに「この手すり、やっぱり横向きに出来ないかしら?」と言われて、金額も本数も変わらないから利用者さんへの不利益はないし、オッケー!として設置、工事後の完了申請を出したのちに介護保険課よりお問い合わせがあり、始末書を書いたこと、自分はありました。
ダメなんですよ、理由書の内容と一致しなくなる変更は。法律の仕組みとして。
このケースの正解は、現場から担当ケアマネに連絡、そこから市役所にその場で問い合わせて判断を仰ぐ、になります。場合によっては理由書の差し替えを要求されるので、工事が止まる(泣)。そういう大事な書類なので、見積の段階できっちりご説明して改修内容を確定することが、その後のトラブル防止のためにもとても重要になるのです。
こちらもときどき、ケアマネさんから別件で・・・という感じでそういう悩ましいケースのご相談を、書類のやり取りの訪問時の帰り際などにいただく。
状況によってはこちらでざっくり交通整理をしたりもしますが、聞けばそのケースは、新しく作ったウッドデッキに、手すりを取り付けるのに介護保険が使えますと言われて、お見積を了解したところまで進んでいるとのこと。
だが、理由書作成者は、その手すりはどのような目的の動作を行うものか、を確認します。それが介護保険の目的にそぐう理由があるかどうか、が理由書の記述内容になるので。
ちょっと、その目的って何さ、と思われる方もいるかと思います。
安心してください、書いてありますよ。介護保険法の頭に。
これがすべてです。特に太字のところ、この建前が大事。
そして、保険者(自治体)によっては、その、「自立した日常生活」について、その内容を明文化したり、していなかったりはしますが各自基準を設けていたりします。
そしてその匙加減は、介護保険法に則って設定されている限り、保険者の判断に任されているので、あの市ではできた住宅改修が、こっちの市では通らなかった、ということもままあるのです。
実は、上記のウッドデッキ相談の話、その手すりの理由を聞いたら庭の草抜きのための昇降補助のため、という話でありまして。
その市町村では、「自立した日常生活」の定義に、庭の手入れは含んでいないのですよ。なので、自立した日常生活に必須の、お洗濯の物干しは?と聞いたところ、デッキの上でできるとのこと。
そうなると、この手すりを介護保険上の理由に乗せるのは厳しいと思うので、ケアマネさんから介護保険課担当に確認したうえで、その結果を利用者さんにお伝えするのが良いのでは、とお知らせした次第です。結果的に、電話2本で済む結果となりました。
これ、介護保険の給付が出る前提で契約が終わっていると、利用者さんにとっては想定外の全額自費での工事になっていたはずです。
それをあらかじめ知ったうえでそうするのと、心象は大きく違いますよね。ケアマネさんに対してあの人は使えない、みたいな印象を抱かれる場合もありうる。なので、現場が転がりだす前に介護保険を使いたいという希望を押さえることが、本当に大切なのです。
本日は、介護保険における住宅改修という仕組みを使うことが、たぶん利用者さんが考える以上に、ケアマネさんにとっては負担になっていることがあるよ、それがトラブルになることもあるよ、という内情について書いてみました。
そして、そのトラブルの背景には、介護保険に不慣れな工務店などの事業者の仕事の進め方があるのだけれども、実は逆のパターン、介護保険に詳しいはずのケアマネの、うろ覚えの知識がトラブルを呼ぶケースもあるよ、という話を次回、書きましょうね。
3段階リセットと転居リセットの話に続きます。
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